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第19話 魔族の暮らし
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「これはこれはアザトース様。このような寂れた村にお越しいただけるとは。何のおもてなしもできませんで……」
アザトースさんに気付いた村の長老らしき老魔族が農作業の手を止めて私達に近寄り挨拶をする。
「構わん。そのまま仕事を続けるがいい」
「ありがとうございます、アザトース様。我々力を持たない魔族が生きていけるのはあなた様のおかげでございます。……そちらの方は人間のようですが?」
「シェリナは俺が魔界に連れてきた大切な客人だ。彼女に無礼は許さん」
「ははっ、かしこまりました。アザトース様のお言葉に従いまする」
アザトースさんとこの老人は魔族の言葉で会話をしている。
二人がどんな話をしているのかは私は分からなかったが、アザトースさんは親切にも内容を翻訳してくれるので意思の疎通が成り立つ。
何度も言うけど魔界は弱肉強食の世界だ。
力を持たない者はすぐに淘汰されてきたので支配階級以外は文化的なものがあまり発展していないらしい。
日々生きる為の糧を得る為に働くのみ。
イザベリア聖王国でも黎明期の農民はそんな暮らしだったと聞いた事があるけど、魔界はそれに輪をかけて酷い。
どうやら魔族の村で娯楽品を入手する事は絶望的なようだ。
私はがっくりと肩を落として道端にしゃがみ込む。
じー……。
「え?」
私は誰かの視線を感じてふと脇を見ると、魔族の子供達がぼーっと突っ立ってこちらを眺めているのが見えた。
付近には母親らしき者もいない。
ただでさえ魔界は人間界よりも治安が悪いのに、人攫いならぬ魔族攫いにあったらどうするんだ。
私はアザトースさんを通して老魔族を注意する。
「ねえお爺さん、あんなに小さい子を放置してたら駄目ですよ」
「はあ……ですが我々は日々生きる為に働くのが精一杯で子供の世話まで手が回らないのです」
魔族の社会では所謂放置子が普通らしい。
「そんな……さすがにそれは可哀そう」
仕方がない、私が遊んであげるか。
「ねえ僕、お姉さんと遊ぶ?」
「シェリナよ、お前はわざわざこんな所まで子守りに来たのか?」
「アザトースさん、人間界では子供は遊ぶのが仕事だよ。それに私も偶には身体を動かしたかったからね」
「そうか。ならいい」
私が教会で働いていた頃、よく礼拝に訪れたティターニア教信者の子供の世話を任されていたものだ。
言葉が通じなくてもルールさえ伝われば一緒に遊ぶ事ができる。
鬼ごっこ、かくれんぼ、だるまさんがころんだ、ポコペン。
魔族の子供達は今まで経験した事もない人間の遊びに夢中になってくれた。
私は子供が好きだ。
気が付けば私は辺りが暗くなるまで子供達と遊んでいた。
「シェリナ、そろそろ城に帰るぞ」
「あ、もうそんな時間ですか。……ごめんなさい私だけ楽しんじゃって」
「いや、いい。俺もいい気分転換になった」
アザトースさんは特に気を悪くする様子もなく平然と言い放つ。
そして再び私を抱きかかえながら翼をはばたかせて魔王城に向かって飛翔する。
私はアザトースさんの身体にしがみつきながら魔族の子供達の事を考えていた。
捨て子だった自分の境遇と重ねてしまったのかもしれない。
難しい顔をしながら口を閉ざしている私を見て、アザトースさんが首を傾げながら声をかける。
「どうしたシェリナ。何か考え事か?」
「うーん、さっきの子供の事なんですけどね。私の国では親が責任を持って子供を躾け育てるんです。……まあ捨て子だった私が言っても説得力がないかもしれないけど」
「いや、お前は教会の神父に育てられたのだろう? ならば彼がお前の親代わりだったという訳だ」
「そうです、子供は国の宝です。今のままだと魔界はいつまでたっても今以上に発展しませんよ……はっ」
いけない、思わず熱弁してしまった。
魔王に説教をする聖女って何?
しかしアザトースさんはそれを怒るでもなく私の話に耳を傾ける。
「一理あるな。お前の考えで魔界が発展するというならば俺も力を尽くそう。後で考えをまとめて聞かせてくれ」
逆に興味津津の様子だ。
いや、そこまで明確なビジョンが有る訳じゃないんだけど、城に戻ったらちゃんと考えないといけないみたいだ。
「それにしても魔族も子供の頃は角も翼も生えていないんですね。見た目はあまり人間と変わりませんね」
「ああ、角や翼が生えているのは大人の証だ」
「それじゃあアザトースさんも子供の頃は生えてなかったんですか?」
「当たり前だ」
「ふーん、そうなんだ」
私は角も翼も生えていないアザトースさんの姿を想像してみた。
今の彼から角と翼を外して顔を幼くする。
……あれ?
私は簡単に、そしてはっきりとその姿が想像できた。
私が想像の中で描いた角も翼もないアザトースさんの姿……どこかで見た事があるような気がする。
アザトースさんに気付いた村の長老らしき老魔族が農作業の手を止めて私達に近寄り挨拶をする。
「構わん。そのまま仕事を続けるがいい」
「ありがとうございます、アザトース様。我々力を持たない魔族が生きていけるのはあなた様のおかげでございます。……そちらの方は人間のようですが?」
「シェリナは俺が魔界に連れてきた大切な客人だ。彼女に無礼は許さん」
「ははっ、かしこまりました。アザトース様のお言葉に従いまする」
アザトースさんとこの老人は魔族の言葉で会話をしている。
二人がどんな話をしているのかは私は分からなかったが、アザトースさんは親切にも内容を翻訳してくれるので意思の疎通が成り立つ。
何度も言うけど魔界は弱肉強食の世界だ。
力を持たない者はすぐに淘汰されてきたので支配階級以外は文化的なものがあまり発展していないらしい。
日々生きる為の糧を得る為に働くのみ。
イザベリア聖王国でも黎明期の農民はそんな暮らしだったと聞いた事があるけど、魔界はそれに輪をかけて酷い。
どうやら魔族の村で娯楽品を入手する事は絶望的なようだ。
私はがっくりと肩を落として道端にしゃがみ込む。
じー……。
「え?」
私は誰かの視線を感じてふと脇を見ると、魔族の子供達がぼーっと突っ立ってこちらを眺めているのが見えた。
付近には母親らしき者もいない。
ただでさえ魔界は人間界よりも治安が悪いのに、人攫いならぬ魔族攫いにあったらどうするんだ。
私はアザトースさんを通して老魔族を注意する。
「ねえお爺さん、あんなに小さい子を放置してたら駄目ですよ」
「はあ……ですが我々は日々生きる為に働くのが精一杯で子供の世話まで手が回らないのです」
魔族の社会では所謂放置子が普通らしい。
「そんな……さすがにそれは可哀そう」
仕方がない、私が遊んであげるか。
「ねえ僕、お姉さんと遊ぶ?」
「シェリナよ、お前はわざわざこんな所まで子守りに来たのか?」
「アザトースさん、人間界では子供は遊ぶのが仕事だよ。それに私も偶には身体を動かしたかったからね」
「そうか。ならいい」
私が教会で働いていた頃、よく礼拝に訪れたティターニア教信者の子供の世話を任されていたものだ。
言葉が通じなくてもルールさえ伝われば一緒に遊ぶ事ができる。
鬼ごっこ、かくれんぼ、だるまさんがころんだ、ポコペン。
魔族の子供達は今まで経験した事もない人間の遊びに夢中になってくれた。
私は子供が好きだ。
気が付けば私は辺りが暗くなるまで子供達と遊んでいた。
「シェリナ、そろそろ城に帰るぞ」
「あ、もうそんな時間ですか。……ごめんなさい私だけ楽しんじゃって」
「いや、いい。俺もいい気分転換になった」
アザトースさんは特に気を悪くする様子もなく平然と言い放つ。
そして再び私を抱きかかえながら翼をはばたかせて魔王城に向かって飛翔する。
私はアザトースさんの身体にしがみつきながら魔族の子供達の事を考えていた。
捨て子だった自分の境遇と重ねてしまったのかもしれない。
難しい顔をしながら口を閉ざしている私を見て、アザトースさんが首を傾げながら声をかける。
「どうしたシェリナ。何か考え事か?」
「うーん、さっきの子供の事なんですけどね。私の国では親が責任を持って子供を躾け育てるんです。……まあ捨て子だった私が言っても説得力がないかもしれないけど」
「いや、お前は教会の神父に育てられたのだろう? ならば彼がお前の親代わりだったという訳だ」
「そうです、子供は国の宝です。今のままだと魔界はいつまでたっても今以上に発展しませんよ……はっ」
いけない、思わず熱弁してしまった。
魔王に説教をする聖女って何?
しかしアザトースさんはそれを怒るでもなく私の話に耳を傾ける。
「一理あるな。お前の考えで魔界が発展するというならば俺も力を尽くそう。後で考えをまとめて聞かせてくれ」
逆に興味津津の様子だ。
いや、そこまで明確なビジョンが有る訳じゃないんだけど、城に戻ったらちゃんと考えないといけないみたいだ。
「それにしても魔族も子供の頃は角も翼も生えていないんですね。見た目はあまり人間と変わりませんね」
「ああ、角や翼が生えているのは大人の証だ」
「それじゃあアザトースさんも子供の頃は生えてなかったんですか?」
「当たり前だ」
「ふーん、そうなんだ」
私は角も翼も生えていないアザトースさんの姿を想像してみた。
今の彼から角と翼を外して顔を幼くする。
……あれ?
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