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第18話 魔界の村で初デート

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 その夜、魔王城では勇者オルトシャン撃破改めクトゥグア撃破の祝勝会が開かれた。
 折角だから勇者オルトシャンにも今日一日城に留まって貰って一緒に食事を楽しんでもらった。

 魔王と勇者が同じ食卓でワインを飲んで談笑するなど前代未聞だろう。

 しかし気になるのは勇者オルトシャンのこの後の事だ。
 私を救出する為に魔界まで足を運んだのに私を連れて帰る事ができない。
 イザベリア聖王国に戻った後に責任を問われたりはしないだろうか。

 私はオルトシャンさんに問いかけると、彼は笑って答えた。

「君を見つけられなかった事にするさ」

「しかしそれではオルトシャンさんの立場が悪くなりませんか?」

「幸い私が持ち込んだ食料が毒に侵されていたからな。腹が減っては戦は出来ぬというし、已む無く捜索を諦めて帰った事にするさ。簡単な話だろう?」

「……うふふ、それじゃあもっと疲れ果てた顔で帰らないといけませんね。そんなに血色がいい顔をしていたら説得力がありませんよ」

「ははは、違いない」

 宴は夜遅くまで続き、いつの間にか酔い潰れた私は翌日のお昼過ぎに自分の部屋で目を覚ました。
 オプティムさんが運んでくれたらしい。
 こんな時間まで惰眠を貪ったのは聖女になってから初めてかも知れない。

 私が眠っている間、勇者オルトシャンは既にイザベリア聖王国への帰路に就いていた。

 そして私は再び退屈な日々が戻ってきた。
 こんな事なら勇者オルトシャンに何か娯楽品でも持ってきてもらうようお願いするべきだったかな。

 そんなある日、アザトースさんが私の部屋にやってきて言った。

「シェリナ、毎日こんな狭い部屋の中にいては息が詰まるだろう。たまには外の空気を吸ってくるがいい。……といっても魔界の瘴気はお前たち人間には気持ちの良いものではないかもしれないがな」

「え? 外に出ても良いんですか?」

「ああ、クトゥグアも討たれた今、外に出ても危険はなかろう」

「危険がない?」

 ひょっとしてアザトースさんが私に外に出るなと言ったのは、聖女である私を危険視したのではなく、逆に私の身を守る為だったって事?

 相変わらずアザトースさんの考えている事はよく分からないけど、外出の許可が出たのなら少しこの辺りを散歩してみようと思う。

 でも私はこの辺りの地理を全く知らない。
 それに私は割と方向音痴だ。
 一人で外出をしたら十中八九迷子になる自信がある。

 誰かについてきてもらいたいけど、いつもお世話になっているオプティムさんにこれ以上負担をかけるのは申し訳ない。

 それならば……。

「アザトースさん、折角だから一緒に散歩でもしませんか? アザトースさんもオルトシャンさんとの戦い以降ずっと自室に籠ってお仕事ばかりじゃないですか。たまには外に出て気分転換するといいと思いますよ」

「む? そうだな、俺も魔王という立場上やるべき仕事が山盛りだからな。いいだろう、俺がこの辺りを案内しよう」

「決まりですね。それじゃあ早速出かけましょう」

 私は久々の外出に心を躍らせながら魔王城の外に出た。

 考えてみれば魔族とはいえ男の人と二人きりでお出かけするなんて初めての経験だ。
 人間界ではこれをデートと呼ぶんだろう。
 でも勝手にそんな事を考えてたら私のわがままに付き合わされているアザトースさんに失礼だよね。

 私は深呼吸をして心を落ち着かせ、それを意識しないように精一杯努力する。

「それでシェリナよ、お前はどこへ行きたい? 何か見たいものでもあるのか?」

「そうですね……それじゃあ」

 私は魔界に連れてこられてからずっと魔王城の中にいた。
 城の外は見る物全てが新鮮だから何を見ても楽しめると思うけど、強いて言うなら他の魔族がどんな暮らしをしているのかを見てみたい。

 私はアザトースさんに魔族の住んでいる町や村を見てみたいと要望する。
 そこへ行けば何か暇潰しができる娯楽品が手に入るかもしれないしね。

「あい分かった。ここから一番近いのは南にあるラムノの村だな。彼らは人間に慣れていない。俺から離れるんじゃないぞ」

「分かりました。それでは案内をお願いします」

「その必要はない」

「え? ちょ……」

 アザトースさんはここに来た時と同じように私を抱きかかえると、その大きな漆黒の翼を羽ばたかせて南へ向かって飛翔する。

 あの時は私も必死だったからあまり気にしてなかったけど、いきなり不意打ちで抱きかかえられるとちょっと恥ずかしいな。

 アザトースさんはそんな私の心の動揺には一切気が付く様子もなく羽ばたいている。

 ラムノの村にはあっという間に到着した。

 そこは人間界で例えると田舎の農村といった感じの小さな村だった。
 村を見回すと魔族達が畑を耕したり、弓矢を手に小さな魔獣の狩りをしているのが見える。

 こうしてみると魔族も人間の暮らしとあまり変わらないな。

 でもさすがに田舎すぎる。
 娯楽品を手に入れる事が目的のひとつだったが、この村にはお店らしきものは一切見当たらない。

 もっと発展した町じゃないとダメか……。

「アザトースさん、この村も素敵な所ですけど、もっとこう……大きなお店がある町とかはありませんか?」

「お店? ああ、確か人間界ではお金というものと品々を交換するという文化があるのだったな」

「あ……そこからかあ……」

 それはつまり魔界にはお店という概念そのものがないという訳だ。

 魔界は弱肉強食の世界だ。
 基本的に欲しいものは自分で生産するか、他人の物を力で奪い取るのが普通だ。
 アザトースさんも魔王となってからは領内の魔族から税と称して様々な物資を徴収しているが、これは人間界でも同じ事だ。
 むしろまだアザトースさんの治世はましな方で、先代魔王クトゥグアの時代はそれこそ力を持たない民衆達は戯れに殺される事も珍しくない地獄のような世界だったらしい。

 でも私はアザトースさんに会うまでは魔界ではそれが普通なんだと思い込んでいた。
 アザトースさんの方が魔族としては異端児なのだ。
 明らかに魔族よりも人間の考え方に近い。

 昔、どこかで人間の影響でも受けたのかな。

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