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第3話 突然の婚約破棄
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「シェリナ・ティターニア、お前との婚約を破棄させてもらう!」
私が聖女となって一年が過ぎたある日の事、婚約者である王太子エイリークに王宮まで呼び出された私はその場で婚約破棄を突き付けられた。
私が聖女になったその日、国王陛下の強い要望もあって私はエイリーク王子の婚約者となった。
それは私が望んだものではなかったが、次期王妃となるからにはと懸命にこの国の為に身を捧げてきたつもりだ。
それなのにこの仕打ちは一体どういう事だろう。
エイリーク王子は眉を吊り上げて私を断罪する。
「理由は分かっているな? お前は聖女として民衆の平和を守る為に毎日女神様への祈りを捧げ続けるという義務を怠っただろう。今王国内で魔獣の被害が出ているのは全てお前の責任だぞ」
「え? まさかそんな事は……」
私は聖女になってからの一年間、一日たりとも女神様への祈りをサボった日はない。
王国内に魔獣が現れたなどという話も初耳である。
「うっ、うっ……そうなんですのよエイリーク殿下。私が長くお世話になったクロネ教会は魔獣が出没するにつれて礼拝に訪れる者もすっかりいなくなり寂れてしまいましたわ……」
そう言って私に見せつけるようにエイリーク王子の腕にしがみ付きながら嘘泣きをしているのは同じ教会で修行を積んだゾーランド公爵家の令嬢キーラだ。
ああそういう事か、と私は心の中で呟いた。
私が聖女になってからというもの、彼女の嫌がらせは更に陰湿な方向にシフトしていった。
エイリーク王子へしつこく色仕掛けをしていた事も知っている。
そして今回は魔獣騒動をでっち上げてきた。
私を聖女の座から引きずりおろして自分が取って代わるつもりなのが見え見えだ。
しかしエイリーク王子から婚約破棄を突き付けられたところで私が聖女であるという事実は変わらない。
女神様の神託によって選ばれた聖女の任期は三年と決められている。
その間は例え王族といえども勝手に聖女の役目を降ろさせる事は許されない。
任期中に聖女がその任を解かれるのは聖女が死亡した時か聖女が自ら引退を宣言した時だけだ。
その場合は再度女神様の神託により次の聖女となる者が定められる。
キーラが私に執拗な嫌がらせを続けるのは私の心を折って自主的に聖女を止めさせるのが目的に違いないだろう。
しかしこれらの出来事が逆に私の反骨心に火をつけた。
残念ながら私は好きでエイリーク王子の婚約者になった訳じゃないんだよね。
むしろこんな小芝居に騙されるようなアホな王子なんてこちらから願い下げだ。
「はいはい、婚約破棄について承知いたしましたわ」
いかにもどうでも良さそうに答えた私にエイリーク王子は一瞬茫然としたが、すぐに我に返って話を続ける。
「何だその言い草は。大体お前は聖女としての自覚が足りていない。今すぐクロネ教会へ行って状況を確認してこい」
「エイリーク殿下の仰る通りですわ。早く魔獣を何とかしてきて下さらない?」
何とかしてこいとは異な事を言う。
魔獣が出ているという事が嘘ならば騙されているエイリーク王子ならともかく、キーラが私をクロネ教会に行かせる理由がない。
それどころかキーラの嘘が白日の下に晒される事になる。
私は妙な胸騒ぎを感じた。
「……分かりました。それでは失礼しますわ」
そそくさとその場を立ち去る私を、キーラは勝ち誇ったような目で見下していたのが見えた。
◇◇◇◇
私は護衛の兵を引き連れてクロネ教会に足を運んだ。
教会に到着した私は我が目を疑った。
毎日綺麗に手入れされていた庭は荒れ果て、そこら中に雑草が生い茂っていた。
ところどころ壁は崩れ、割れている窓もある。
私は聖女になってからは多忙の日々が続いていたので、ここ一年間クロネ教会に足を運んでいなかった。
その間に一体何があったんだろう。
私は恐る恐る扉を開いて教会の中に入る。
「神父様、ただいま戻りました……あ、あれ?」
教会の中はまるで廃墟のように朽ち果てており、お世話になった神父様やシスターの姿は見えない。
既に遺棄された建物のようだ。
皆はどこへ行ってしまったのだろう。
まさか本当に魔獣に襲われたとでもいうのだろうか。
私は困惑しながら階段を上り、最上階にある結界の間に入った。
その中央には結界石と呼ばれる聖なる力を宿した石が設置されている。
結界石がここにある以上、この辺り一帯には私が日々女神様に捧げている祈りに共鳴した強力な結界が張られて魔獣が近寄る事はありえないはずだ。
「え、何これ……?」
そこにあった石を見て私は絶句した。
女神様のお力が宿っている結界石は絶えず聖なる暖かい光を放っているものだ。
しかしこの石からは何の力も感じない。
それどころかこれは……。
「これってただの漬物石じゃ……」
私は試しにその石に向けて祈りを捧げてみたが何の反応も示さない。
やっぱりただの石だ。
これではどれだけ祈りを捧げてもこの付近一帯には結界が張られない。
魔獣が現れるのは当たり前だ。
誰かが差し替えた?
いや、考えるまでもない。
こんな事をするのは……こんな事ができるのはこの辺り一帯を治めているゾーランド公爵くらいしかいない。
つまり黒幕はその娘であるキーラとしか考えられない。
父親の領主としての権力を悪用して教会の皆を追い出し、内部に設置されていた結界石をどこかに持ち出したのだ。
私を貶める為だけに守るべき領民達に被害が出る事も顧みずにここまでやるのか。
私ははらわたが煮えくり返る思いがした。
とにかく王宮に戻ってこの事を報告しなくては。
エイリーク王子ではダメだ。
国王陛下に直訴するくらいじゃないと間違いなく揉み消される。
「皆さん、原因が分かりました。急いで王宮に戻りましょう……!?」
私が護衛兵に撤収を伝えようとしたその時、周囲の空気が一瞬にして張り詰めた。
この気配は間違いなく魔族の物だ。
聖女である私にはそれが分かる。
結界が消えている以上、ここに魔族が侵入してくるのは不思議な事ではない。
「シェリナ様、ここから動かないで下さい、教会の前に魔族が現れました!」
護衛兵達も魔族の気配に気付き、教会の内部が騒然となった。
しかし結界石がなくてもここには聖女である私がいる。
結界石の力を借りるまでもない。
私は破邪の力を使って直接この教会を包み込むように結界を張った。
「これで諦めて立ち去ってくれればいいけど……」
バリッ。
「シェリナ様、魔族が結界の内部に侵入しました!」
え……馬鹿なの?
魔族が破邪の結界の中に入ったらあっという間に死ぬよ?
私が聖女となって一年が過ぎたある日の事、婚約者である王太子エイリークに王宮まで呼び出された私はその場で婚約破棄を突き付けられた。
私が聖女になったその日、国王陛下の強い要望もあって私はエイリーク王子の婚約者となった。
それは私が望んだものではなかったが、次期王妃となるからにはと懸命にこの国の為に身を捧げてきたつもりだ。
それなのにこの仕打ちは一体どういう事だろう。
エイリーク王子は眉を吊り上げて私を断罪する。
「理由は分かっているな? お前は聖女として民衆の平和を守る為に毎日女神様への祈りを捧げ続けるという義務を怠っただろう。今王国内で魔獣の被害が出ているのは全てお前の責任だぞ」
「え? まさかそんな事は……」
私は聖女になってからの一年間、一日たりとも女神様への祈りをサボった日はない。
王国内に魔獣が現れたなどという話も初耳である。
「うっ、うっ……そうなんですのよエイリーク殿下。私が長くお世話になったクロネ教会は魔獣が出没するにつれて礼拝に訪れる者もすっかりいなくなり寂れてしまいましたわ……」
そう言って私に見せつけるようにエイリーク王子の腕にしがみ付きながら嘘泣きをしているのは同じ教会で修行を積んだゾーランド公爵家の令嬢キーラだ。
ああそういう事か、と私は心の中で呟いた。
私が聖女になってからというもの、彼女の嫌がらせは更に陰湿な方向にシフトしていった。
エイリーク王子へしつこく色仕掛けをしていた事も知っている。
そして今回は魔獣騒動をでっち上げてきた。
私を聖女の座から引きずりおろして自分が取って代わるつもりなのが見え見えだ。
しかしエイリーク王子から婚約破棄を突き付けられたところで私が聖女であるという事実は変わらない。
女神様の神託によって選ばれた聖女の任期は三年と決められている。
その間は例え王族といえども勝手に聖女の役目を降ろさせる事は許されない。
任期中に聖女がその任を解かれるのは聖女が死亡した時か聖女が自ら引退を宣言した時だけだ。
その場合は再度女神様の神託により次の聖女となる者が定められる。
キーラが私に執拗な嫌がらせを続けるのは私の心を折って自主的に聖女を止めさせるのが目的に違いないだろう。
しかしこれらの出来事が逆に私の反骨心に火をつけた。
残念ながら私は好きでエイリーク王子の婚約者になった訳じゃないんだよね。
むしろこんな小芝居に騙されるようなアホな王子なんてこちらから願い下げだ。
「はいはい、婚約破棄について承知いたしましたわ」
いかにもどうでも良さそうに答えた私にエイリーク王子は一瞬茫然としたが、すぐに我に返って話を続ける。
「何だその言い草は。大体お前は聖女としての自覚が足りていない。今すぐクロネ教会へ行って状況を確認してこい」
「エイリーク殿下の仰る通りですわ。早く魔獣を何とかしてきて下さらない?」
何とかしてこいとは異な事を言う。
魔獣が出ているという事が嘘ならば騙されているエイリーク王子ならともかく、キーラが私をクロネ教会に行かせる理由がない。
それどころかキーラの嘘が白日の下に晒される事になる。
私は妙な胸騒ぎを感じた。
「……分かりました。それでは失礼しますわ」
そそくさとその場を立ち去る私を、キーラは勝ち誇ったような目で見下していたのが見えた。
◇◇◇◇
私は護衛の兵を引き連れてクロネ教会に足を運んだ。
教会に到着した私は我が目を疑った。
毎日綺麗に手入れされていた庭は荒れ果て、そこら中に雑草が生い茂っていた。
ところどころ壁は崩れ、割れている窓もある。
私は聖女になってからは多忙の日々が続いていたので、ここ一年間クロネ教会に足を運んでいなかった。
その間に一体何があったんだろう。
私は恐る恐る扉を開いて教会の中に入る。
「神父様、ただいま戻りました……あ、あれ?」
教会の中はまるで廃墟のように朽ち果てており、お世話になった神父様やシスターの姿は見えない。
既に遺棄された建物のようだ。
皆はどこへ行ってしまったのだろう。
まさか本当に魔獣に襲われたとでもいうのだろうか。
私は困惑しながら階段を上り、最上階にある結界の間に入った。
その中央には結界石と呼ばれる聖なる力を宿した石が設置されている。
結界石がここにある以上、この辺り一帯には私が日々女神様に捧げている祈りに共鳴した強力な結界が張られて魔獣が近寄る事はありえないはずだ。
「え、何これ……?」
そこにあった石を見て私は絶句した。
女神様のお力が宿っている結界石は絶えず聖なる暖かい光を放っているものだ。
しかしこの石からは何の力も感じない。
それどころかこれは……。
「これってただの漬物石じゃ……」
私は試しにその石に向けて祈りを捧げてみたが何の反応も示さない。
やっぱりただの石だ。
これではどれだけ祈りを捧げてもこの付近一帯には結界が張られない。
魔獣が現れるのは当たり前だ。
誰かが差し替えた?
いや、考えるまでもない。
こんな事をするのは……こんな事ができるのはこの辺り一帯を治めているゾーランド公爵くらいしかいない。
つまり黒幕はその娘であるキーラとしか考えられない。
父親の領主としての権力を悪用して教会の皆を追い出し、内部に設置されていた結界石をどこかに持ち出したのだ。
私を貶める為だけに守るべき領民達に被害が出る事も顧みずにここまでやるのか。
私ははらわたが煮えくり返る思いがした。
とにかく王宮に戻ってこの事を報告しなくては。
エイリーク王子ではダメだ。
国王陛下に直訴するくらいじゃないと間違いなく揉み消される。
「皆さん、原因が分かりました。急いで王宮に戻りましょう……!?」
私が護衛兵に撤収を伝えようとしたその時、周囲の空気が一瞬にして張り詰めた。
この気配は間違いなく魔族の物だ。
聖女である私にはそれが分かる。
結界が消えている以上、ここに魔族が侵入してくるのは不思議な事ではない。
「シェリナ様、ここから動かないで下さい、教会の前に魔族が現れました!」
護衛兵達も魔族の気配に気付き、教会の内部が騒然となった。
しかし結界石がなくてもここには聖女である私がいる。
結界石の力を借りるまでもない。
私は破邪の力を使って直接この教会を包み込むように結界を張った。
「これで諦めて立ち去ってくれればいいけど……」
バリッ。
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