和風ホラーとか異世界のSランクの冒険者なら余裕だと思った?

かにくくり

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第20話 謎の部屋

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「うぷっ……どうやら腐敗臭の元はこの中にあるようだ。俺の消臭魔法でも完全に消しきれない凄まじい匂いだ。ディアネイラ、本当にこの扉を開けてもいいんだな?」

「ここまで来て中を確かめずに帰る訳にもいかないでしょう。お願いします」

「仕方がないな。……オプーナ!」

 アビゲルは鼻をつまみながら鋼鉄の扉に手を当て、開錠魔法を詠唱する。

 扉はギギィ……と重々しい音を立てながらゆっくりと開いた。

 ディアネイラを先頭にして冒険者達は部屋の中に踊り込む。

「うっ……」

「臭いの正体はこれか……」

 一同は部屋の中の凄惨な光景に目を背けた。

 部屋の中央に置かれた台の上にはひとつの腐敗した死体が仰向けに横たわっていた。
 その手足は台に固定されており、身体のあちこちが裂かれて内部から大量のウジ虫が湧き出ている。
 その頭部は叩きつぶされ、元々どんな顔をしていたのか判別できない。

 辛うじて性別が男だったと分かる程度だ。

「酷い……ここは拷問部屋かしら?」

 ディアネイラは台の周囲に乱雑に置かれた薬品や刃物等の器具を見て顔をしかめる。

「どこの誰かは知りませんが、せめて彼が天国へ逝けるように祈りましょう」

 ディアネイラが死体の前で手を合わせて祈りの言葉を並べると、腐敗した死体は淡い光に包まれ消滅した。

 神に仕える者のみが使える浄化の力だ。

「これで魔物に操られてゾンビになったり、ゴーストとして現世を彷徨う事もないでしょう」

「ゴーストといえばあの日パーティー会場に現れた子供のゴーストだが……やはり今俺達が置かれているこの状況はあいつがやった事なのか?」

「アビゲル、私はそのゴーストを直接は見てはいませんが、聞いた話ではあなた達がかつての魔王の呪いの話をその子に聞かせた直後に私達はこんなところに飛ばされたんですよね。状況からそのゴーストが魔王によって滅ぼされた村の関係者という事は想像に難くないわ」

「あの原始人のガキども、そんな昔の話をほじくり返して今更俺達に復讐しようって言うのか? けっ、とんだ災難だぜ」

「まあまあ、そんな事を言うものではないわ。子供のやった事じゃないですか」

「いくらなんでも子供の悪戯の範疇を超えているだろう。それにただのゴーストに俺達をこんな廃村に閉じ込めるだけの力があるものか。きっと背後で魔王クラスの存在が暗躍しているんじゃないかと俺は睨んでいるんだが」

「死者の魂がどうなるのかはその世界によって異なります。彼らの世界ではゴーストが力を持つ事があるのかもしれません」

「それはそれで想像したくない話だな……。かつての魔王ですらそこまでの力はなかったはずだ」

「ディアネイラさん、こっちにも階段がありますよ」

 通路の先に更に地下へ降りる階段を見つけた冒険者の一人がディアネイラ達を手招きして呼んだ。

「どうするんだディアネイラ。この施設やばそうだぞ……ここで帰るのも手だと思うが……」

「いえ毒を食らわば皿までといいます。下りてみましょう」

 ディアネイラは先陣を切って階段を下り、更に真っすぐ通路を進む。
 やがて鼻をつくような焦げ臭い匂いが漂ってきた。

「酷い臭い……アビゲル、お願いできるかしら?」

「とっくに消臭魔法を重ね掛けしてるさ。それなのにこんなに臭うなんて普通じゃないぞ。もしかしてこの奥で火事でも起きてるんじゃないか? どうする、ここで引き返すか?」

「いえ、この先に何かがあるはずです。それを確かめもせずに引き返せません」

「けっ、どうなっても知らねえぜ」

 ディアネイラはアビゲルの忠告に耳を貸す事もなく足を進める。
 それは使命感によるものではなく、ただの好奇心によるものだと分かっていたので巻き込まれるアビゲルには溜まったものではない。



 やがて長い回廊の突き当たりに小さな部屋が見えてきた。
 扉は空いている。

 部屋の中を覗くと、彼女達を出迎えるように四つの長細い大きな箱が並んでいるのが見えた。

 それぞれ人がひとり入れそうな大きさだ。

「なあディアネイラ。これって棺桶じゃないのか?」


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