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本編
10、ルークとシオンと弟
しおりを挟む今日は家庭教師が来る日だ。
この家に来てから、大体1週間が過ぎ、その間、ルークとあとセリシア様と一緒に色々学んだ。
まずは文字を教えてもらった。
平民と貴族は扱う文字が違う。
カーディナル王国の文字は、貴族はカバルド文字というのは扱う。平民はそれを簡略化した文字で、それを教えてくれるのかなと思ったけど、カバルド文字を覚えれば平民の文字も簡単に覚えられるという事で今、カバルド文字を勉強中。
セリシア様は教えるのがとても上手だった。わかりやすい本を持って来てくれたり、丁寧で親切で、凄く良い人。
ルークも上手だけど、すぐに疲れたのではないか、無理をしてはダメだと言って休憩を挟もうとする。
これじゃあぜんぜん進まない!って事でセリシア様が家庭教師役(仮)を引き受けてくれた。
文字がなくても困る事は今までなかった。だけど絵本の文字が読めるようになったり、庭にある花の名前を書けるようになったりするのは楽しかった。
ルークの名前を書けた時、ルークが泣き始めたのにはビックリした。嬉し泣きだって。嬉しくても人は泣くのだと初めて知った。セリシア様は呆れた顔をしていたけど…
初孫を喜ぶおじいちゃんみたい、とセリシア様は言っていた。
今日はルークもセリシア様もいない。
初めて家庭教師に会う日なのに一人なのは心細いが、ずーっと頼ってばかりだから一人でも頑張りたい。
客人として充てがわれている部屋で一人待つ。
高そうな家具ばかり。
机とベッドとソファーとその他部屋を飾る絵とか花瓶とか置物とかがあって、でも壊したら怖いから机とソファーぐらいしか使ったことがない。
ベッドもあるけど、そちらの方は一度も使われたことがない。
寝る時はいつも、ルークの寝室になるからだ。
机に向かって今まで習った文字の勉強をしながら待っていると、ノックがした。
そして入って来たのは優しそうなお爺さん。
長く白い髪、白い髭に細長く開いているのか分からない目。
ローブを身にまとい、ゴテゴテした装飾はなく、全体的にすっきりとしていて、彼の人となりがうかがえる。
「初めましてシオン様。私はサミュエル=ダーナーと申します。学園で講師をしていました」
「初めまして、ダーナー先生。私はシオンです。よろしくお願い致します」
教えてもらった通りに挨拶をする。
先生はニッコリ笑ってくれたので、間違えてはいないはずだ。
「文字は書けるようになりましたかな?」
「は、はい…まだ慣れていませんが、大体は」
「それは素晴らしいです。始めてから1週間でそこまで出来る様になるとは…」
嬉しくて顔が赤くなる。
ルークやセルシア様も褒めてくれるけど、違う人に褒められると嬉しくて、少し恥ずかしかった。
「貴方のことは少しお聞きしておりますので、今日は私の自己紹介を致しましょう。私の家は男爵家で、私はそこの三男として生まれました。基本的には家を継ぐのは長男なので、私は一生懸命勉強して学園の講師を任せられるようになりました。学園では歴史を教えていました」
「歴史…」
「はい、歴史は未来に繋がる知識です。シオン様も好きになってくれると嬉しいのですが…」
「はい!頑張ります!」
「ふふ…元気なお返事ですね。シオン様は創世の神話をご存知ですか?」
「神話…ですか?」
「はい。歴史とは少し違いますが、学ぶ上でもとても重要です。ここバルド半島に伝わる世界創造のお話です」
混沌の何もないところに世界を創り出したのは、セウェルスという男神だった。創造神セウェルスは1日目に天を、2日目に海を、3日目に大地を創造した。
さらにセウェルスの左手の小指、中指、薬指から3人の女神が生まれた。
小指からは知恵と母性の女神ソラニスが、薬指からは富と繁栄の女神アバンが、中指からは戦いと幸運の女神イシュトがそれぞれ生まれた。
女神たちはセウェルスと交わり、力を注がれることにより魔法が使えるようになった。だから女神たちの子である人間が魔法を使えると言われている。
さらにセウェルスの吐く息が精霊を生み出し、川を、山を自然を生み出した。
生物も生み出し、この時生まれた人間は魔法が使えないと言われている。
「女神様から生まれた人間じゃないと魔法が使えないのですか?」
「ん~私はそちらの専門ではないので一概には言えませんが、女神の子どもと言われる貴族から魔法が使えない人もいますし、逆に平民から魔法が使える人もいます」
「僕は魔法が使えるでしょうか?」
「それは洗礼を受けてみないとわかりませんね」
「洗礼って何をするのですか?」
来週に教会で洗礼の儀式をする予定だ。
魔力の有無が分かるというので、期待もしているが、痛いことされるんじゃないかと怖くもある。
「教会での洗礼は難しくはありません。ソラニス様に祈りを捧げ、聖水を口に含みながら水晶に手を当てるだけです」
「痛くはないのですか?」
「痛くはないですよ」
「先生も魔法が使えますか?」
「簡単なものなら」
ダーナー先生は、聞いたことのない言葉を喋ると掌から光を出した。
あれ、でもルークは何も喋らなくても魔法を使っていたような…?
「魔法を扱うには魔力を保持していることが大前提ですが、それと同じくらい神聖語が必要です」
「神聖語…?」
「先程私が唱えた呪文です。神聖語を理解し、きちんと扱えて魔力をコントロールして初めて魔法が発動します」
「た、大変なんですね…」
「そうですね。だから国にとって魔導士育成は大事なことなのです」
じゃあいっぱい魔法を使えるルークはやっぱりすごいんだ。
最初にお風呂に入れてくれた時も使ってたし、毎日定期的に治癒魔法をかけて僕の体を癒してくれている。
だから予想以上に早く体力は付いていって、心なしか背も伸びてきているような気がする。
「魔導士は魔力量と知識と技術によって、下位魔導士、中位魔導士、上位魔導士に区別されます。私は下位魔導士なので、あまり魔法については教えられることは多くないと思います。私が貴方に教えることは、世の中の基本的な学問知識と貴族のルール、マナーですね。学問は国語、算術、歴史、外国語となります」
まずは文字を読み書き出来ないと始まらないというとで、今覚えている文字の確認と基礎的な文法を教えてもらった。
3時間くらい経って、お腹がちょっと空き始めた。そうしたらお腹がぐぅ~と鳴って恥ずかしくなって顔が熱くなる。
今日はここまでにしましょうと言われて、何冊かの本と辞書を渡された。
文字に慣れるには実践あるのみ。
本を辞書を使いながらでもいいから読むのが宿題だ。
親指ほどありそうな厚い本を4冊。
読み切れるか不安だけど、頑張らないとと奮起する。
「ではまた来週」
「はい、ありがとうございました」
お見送りをする為に玄関まで一緒に行った。
馬車も用意してあったが先生は断って徒歩で帰るようだ。
しっかりとした足取りと、綺麗な姿勢で先生は帰って行った。
「シオン様、今日は天気がよろしいのでお庭でお茶は如何ですか?」
声を掛けてくれたのは最近、何かと僕の身の回りの世話をしてくれるメイドのミーナさんだ。
薄茶色のふわふわした髪が肩あたりで切り揃えられている。目がパッチリとした可愛らしい女性だ。
年はルークより2、3歳上くらいで僕は密かに姉のように思っている。
「はい、お願いします」
もう定番になっている場所で、お茶をしながら本を読む。
片手には辞書を手にしているので、優雅な感じは皆無だ。
お茶を零して本を濡らさない様に注意しなければいけない。
本の内容は簡単なこの国の歴史だ。
カーディナル王国があるバルド半島は、まるで右手でモノ掴もうとしているかの様に、二股に分かれている。
その形の手首辺りから親指の付け根まで山脈が連なり、分断している。
女神ソラニスが守護していると言われているバルド半島には、先住民のヒト族と獣人族とエルフ族がいたが、山脈の向こうからやって来た帝国軍と長期に渡る戦争と混乱を経て、バルド半島の所謂親指部分の北東部にはエルフの国であるシャーウッド王国が、南西部には獣人族の国であるミズーリ王国が生まれ、それ以外の半島部分はカーディナル王国である。
大体カーディナル王国が誕生して200年くらい経っているらしく、初代国王の自画像だと言う絵を眺めながら、心地良い風を感じていた。
絵の初代国王はとても厳つい男性で、今の王様も怖そうなのかなと考えていると、視線の先に見覚えのある人が映った。
ルークの弟のエドガー様だ。
母親譲りの綺麗な茶色の髪を後ろで束ね、庭に立ってこちらをじっと見つめていた。
いや、見つめるというより睨み付けている。
食堂で顔を合わせた事はあるが、話した事は一度もない。
それはエドガー様の母親もそうなのだけれど、あからさまに負の感情を向けてきたのは彼だけだ。
この家に世話になっている身としては、挨拶するのが礼儀だと思うが、相手がそれを望んでいるとは思えない。
どうするべきか困っていると、エドガー様がこちらに近づいて来た。
怖い顔しながら。
「優雅にお茶をして、貴族になったつもりか?」
テーブルを挟んですぐ目の前にいるエドガー様は、ロバート様譲りの空の様な瞳を吊り上げていた。
僕のことを良く思っていないことは明らかで、どうすればいいかわからず後ろにいるミーナさんに助けを求める様に目を向けるが、ミーナさんも困惑していた。
「奴隷の分際で僕の言葉を無視するな!」
ドン!とテーブルが叩かれ、ティーカップが倒れて中身の紅茶が零れる。
借りた本が汚れてしまうので、すぐに片付けなければいけなかったが、目の前のエドガー様が怖くて動けなかった。
「兄様たちは騙せても僕は騙されないぞ!お前からこの家を守ってみせる!」
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