お嬢様と私

jurias

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本編

9、ルークの幼なじみ、襲来

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朝食が終わった後、今日はバルコニーでゆっくりする事になった。
さっき朝食を食べたので、今はお茶だけ。
ミルクたっぷりの甘い紅茶はすぐにお気に入りになった。

2日連続堪能している庭だが、また上から見ると違う景色を見ているようで面白い。

「ねぇ、ダンジョンって何?」

テーブルを挟んで、向かいの席に座っているルークに聞いた。
さっき朝食の席で、ルークの父親のロバート様と兄のチャールズ様の会話で気になった単語だ。

「『神々の悪戯』や『女神の試練』と呼ばれる魔物が出たり、宝があったりする地下階層です。ダンジョンによって階層数は違いますが、基本的に階数が多いほど難易度が高いと言われています」
「そこに昨日、ルークは行ってきたの?」
「はい、卒業する為に。学園の敷地内に60階層のダンジョンがあります。それをクリアしろと言われたので」
「2週間でやるところを3時間って凄いね!」

本来は20階層までを2週間だったのだが、そこまでちゃんと聞いていなかった。

「1時間で戻るつもりが思いの外時間がかかってしまって…お嬢様をお待たせして申し訳ございませんでした」
「うううん、寂しかったけど、帰って来た時凄く嬉しかったから…」
「私も出迎えられた時、天にも登る気持ちでした」

大袈裟だなぁと呆れ半分、嬉しさ半分。
誤魔化すように紅茶を一口含む。

「魔物とかお宝とか出てきたの?」
「10階ごとに中ボスがいて、それを倒さなければ先に進めません。最下層にはダンジョンのボスがいて、倒すごとに何かしら貰える確率が高いです」

ルークが空中に手をかざすと、魔法陣が現れてすっと大きな剣が出てきた。

ルークは椅子から立ち上がり、剣を拾って僕の近くに来て見せてくれた。

金色の柄に、波打つような刀身。剣先は二股に分かれていて、剣の根本には紫色の宝石が嵌められていた。

余りに実用的では無さそうな…

「アスカロンという剣です。ラスボスを倒した時に貰いました」
「ラスボスは強かった?」
「いえ、そんなには…出てきた瞬間に燃やしてしまいましたから」

だからどんなラスボスだったかよく覚えていません、と言うルークを見て、少しラスボスに同情した。

「この剣はどんな剣なの?」

とても実践向きではない感じだけど。

「土属性の魔石が付いてますから、火や風属性の魔物や魔法に強いのかもしれません。魔剣なので魔力がない人間が使ったらなまくら同然です」

「緋色のダンジョンのお宝だね!」
「‼︎」

声は後ろからした。
びっくりして振り返ると、眼鏡が印象的な女の子がいた。
この国では珍しくない赤い髪を肩下まで伸ばし、眼鏡のレンズでわかりにくいが、くりくりした丸い大きな目が可愛らしい。

「出たな、オタク女」

失礼極まりない表現にハラハラしてしまう。
しかし赤い髪の女の子はそんな事を1ミリも気にせず、剣を舐めるように見ている。

「緋色のダンジョンのお宝は魔剣かぁ。埋め込まれいるのは土の魔石だね。って重っ!何これ振り回せる人いるの⁈…ん~実際に魔力を流してみないと効果がわからないなぁ……使ってみて良い?」
「お前の魔力量では無理だぞ。それに、その魔剣はお嬢様の物だ」

え、何でルークが取って来た物が僕の物になるんだろう…

そしてパチリと女の子と目が合う。
びっくりしたような顔をしている。

今まで気付かれてなかった?

「わぁお!君が長年探していた『お嬢様』だね!あれ?男の子⁇まぁそんなの些細な事だよね。初めまして、私はアグベニュー伯爵家が娘、セリシアと申します。よろしくね。ルークとは幼なじみなの」
「は、初めまして。シオン、と申します…」
「お嬢様、そんな令嬢もどきに挨拶は不要です」

もどきって…
可愛くて堂々としていて、とても貴族らしいと思うけど…

「ねぇねぇシオン君!この魔剣貸して⁈ちょーっと弄って調べてみるだかだから!」
「えと…その…」

まるでキスする時みたいにセリシア様の顔がぐいぐい迫って来て、どうしたらいいかわからず困っていると、体がふわっと持ち上がった。

ルークが、僕を守るように抱き上げて、セルシア様から遠ざける。

「お嬢様を困らせるな!お前はさっさと学園に行け!」
「誰かさんが無理難題を言ってあっさり卒業試験をクリアしてしたから、魔法騎士科と魔法科と騎士科がお休みなんですぅ~」
「たかが卒業試験をやっただけで何故そうなる?」
「それ本気で言ってます⁇今までサボりまくってた問題児が規定値を遥かに超えて歴代最優秀で卒業したんですよ?学園の面子は丸潰れですよ。それに貴方、模擬試合で教師陣をぼこぼこにしたでしょう?」
「…ちゃんと治癒したぞ」
精神メンタルの問題です。可哀想に、今日3人辞表出したんですよ。これからもっと増えるかも…」

なんか大変なことになっているらしい…
ルークを見ると何でもないですよ、とニコニコして頬にキスしてきた。

「貴方って顔の筋肉動いたのね。顔面鉄でできてるのかと思ってたわ」

いつの間にか用意されていた椅子に優雅に座って、これもまたいつ用意したのかお茶を飲むセリシア様の姿は紛れもない貴族令嬢だった。

「う~ん、違法の奴隷商かぁ…」
「地獄に堕とす」
「いや、止めなよ。王都の警備局の人に任せようよ…」

仲…良いな…

まだこの家に来てから余り日にちは経ってないけど、こんなに会話してるルーク、初めてかも。

こんなに体をくっつけて近くにいるのに、遠くにいるようで寂しい。

何だろう、この気持ちは…

そのままいつも通りに抱きかかえられたまま椅子に座った。
正確には椅子ではなく、ルークの上に座っているが。

その姿を見て、セリシア様は爆笑した。
キャラじゃない!二重人格なの⁈とか何とか言って。

「幼い頃から奴隷か…酷い話だね。じゃあ、教会の洗礼も受けてないってこと?」
「洗礼?」
「そう。7歳になるとね、みーんな教会で洗礼を受けるの。ちゃんと一人前の人間になれましたって証としてね。それと魔力の有無の判定儀式もするのよ」
「魔力?」
「全くない人が大半だけどね。貴族はまぁ大概あるんだけど、魔力が多いのは高位貴族かな」
「ルークも、受けたの?」
「えぇ、まぁ、一応」
「こいつはね、判定の儀式受ける前からバンバン魔法使ってたから意味がなかったのよ。それにそんなに熱心な信者でもないし」

僕たちが住んでいる国はカーディナル王国。知恵と魔法の女神ソラニス様を信仰しているソラニス教が国教だ。
ソラニス様は赤い髪をしているので、この国にもセリシア様のような赤い髪が多い、ということだけは僕でも知っている。

「僕に、魔力あるかな?」
「魔法使いたいの?」
「はい」

何度か魔法を使っているルークを見たけど、本当に不思議で、神の奇跡って呼ばれている理由がよくわかる。

「お嬢様なら大丈夫ですよ」
「…ありがとう」

大半の人はないってことだから、期待は出来ない。
でもどうしても憧れてしまう。

「じゃあ教会にお願いしないとね」

諦めが殆どだけど、期待を込めて、洗礼の日を待つことになった。






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