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本編
4、お嬢様と私の帰宅
しおりを挟む「すぐに湯浴みの支度を整えろ!それと胃に優しいスープを作れ‼︎」
お嬢様が私の腕の中に存在する。
これほどの幸福があるのだろうか。
「ルーク様…その子どもは…?」
筆頭執事であるダレスの戸惑いも、一言で一蹴する。
「お嬢様を見つけた。早く準備しろっ」
「…?…承知致しました」
メイド達に合図をすると、即座に彼女らは動き、私からお嬢様を受け取ろうとする。
私はそれを拒んだ。
「私がお嬢様を洗う。お前らは支度をするだけで良い」
一瞬、驚きの表情を見せたが、さすがは侯爵家に仕えるだけあって、すぐに命じられた通りに行動をおこす。
やっとの思いで出会えたお嬢様と、片時も離れたくない。
誰にも触れさせたくない。
侯爵家の人間が、自ら雑事を行うなど有り得ないことだが、お嬢様を前にして、些細な問題である。
私としては問題にもならない。
お嬢様を抱き抱えたまま、浴室に向かう。
メイド達が魔石を使ってちまちま湯を貯めている。
そんなことではいつまで経ってもお嬢様を洗えないではないか!
「ちっ…いい、私がやる」
メイド達を下がらせ、魔法で湯船にお湯を出現させる。
この世界の人間は魔力量が少ない。
戦闘などの非常時ではないと、魔法を使おうとしない。
ましてや日常生活で魔法を使うということはない。
高位貴族であれば、魔法の代わりに魔石を使うのだ。
私に言わせれば、普段から魔法を使わないから魔力量が上がらないだけで、そもそもこんな魔法は大した魔力量を消費しない。
今のだって、総魔力量の0.1%にも満たないのだから。
周りが少し騒がしくなったが、構わずお嬢様の服を脱がせる。
お嬢様の体を露わにした時、ひゅっと周りにいるメイド達が息を飲む。
皮と骨しかないのではないかと思えるほど痩せ細った体。
肋骨は浮き上がり、体のあちこちに傷痕や痣が散らばっている。
お嬢様は見られたくないのか、必死に体を隠そうとする。
縮こまるお嬢様を半ば無理矢理抱き上げる。
「大丈夫。私が癒します」
すぐに治癒魔法をかけ、1つの傷痕も残さず消す。
あっという間に傷がなくなり、不思議そうに自分の体を確認する。
もっと早く出会えていたならという後悔と、もっと酷くなる前に出会えて良かったという安堵感が混ざり合って心の中に溶けていく。
湯が熱過ぎないか確認したら、お嬢様を抱えたまま一緒に湯船に浸かる。
私は服を着たままで、側からみれば間抜けだろう。
洗剤を使って、髪の毛と体を丁寧に洗い上げでいく。
黒く汚れていた体は、陶磁器のような白さを取り戻す。
髪の毛は元々黒かったようで、月に照らされ光る海のような輝きを放っている。
澄み切った空のような青い瞳がチラチラと伺うように長い髪から覗く。
その度に私は思わず微笑んでしまう。
いつも無表情と家族からよく言われるが、そんなことはない。
表情筋を動かすほどの出来事がなかっただけだ。
お嬢様がいるだけで、私の心は大忙しだ。
様々な感情がどんどん溢れてくる。
この笑顔だって勝手に出てしまっている。
「痒いところはございませんか?」
「う…うん。あ、はい……でも…お湯を汚しちゃって…ご、ごめ…」
ん?
確かに体と髪を洗ったせいで、透明だったお湯が黒くなってしまっている。
折角綺麗に洗ったのに湯が汚いと不快だな。
「失礼します」
さっと魔法で汚いお湯を消して、新しい湯を張る。
「っ…まほー…すごい」
「大したことではございません」
本当に何でもないことでも、お嬢様に褒められると悪い気はしない。
もっともっと色々見せたいが、まずはお嬢様の体調を整えないといけない。
浴室から移動して体を拭いて、また魔法で乾かす。
お嬢様はすごいすごいと顔をキラキラさせて喜んでいた。
堪らず抱きしめてしまったのは致し方ない。
勿論、一歩も歩かせず全て私が抱っこして移動する。
こんな細い足で歩いたら折れてしまいそうで恐ろしい。
こんな弱っているお嬢様を鎖で引っ張っていたあの奴隷商の男は、やはり殺すべきだった。
お嬢様との再会に喜び過ぎて、そこまで気が回らなかったのが口惜しい。
それは後で調べるとして、今度はお嬢様の空腹を満たす為に着替えさせて食堂に移動する。
お嬢様を膝の上に乗せて横抱きにし、野菜が煮込んであるスープを少しずつスプーンで口に運ぶ。
最初は戸惑っていたお嬢様も一口食べた途端に顔を輝かせて、もっと食べたいと燕の雛のように口をパクパクと開く。
悶えるほど可愛い。
こんな可愛い生き物がこの世にいて良いのか。
いや、ダメだ。
危険だから常に張り付いて守らなければ。
「美味しいですか?」
「うん!」
あぁ可愛い。
食事をしたことで顔色が大分良くなってきた。
体は痩せ細り、頬もコケていて、沢山食べさせて太らせなければ…
スープ一皿を食べ尽くしたが、まだ物欲しそうな顔をするお嬢様。
「食事はここまでにしましょう。急に食べ過ぎると胃がびっくりしてしまいますよ」
「びっくり?」
「はい、お腹が痛くなってしまいます。大丈夫ですよ、これから毎日美味しいものが食べられます」
「…ほんと…?」
「勿論です。もうお腹が空いて辛くなることも、痛い思いをすることもありません。私がお守りしますから」
「…ご主人様が?」
「?私はご主人様ではないですよ?」
「でも…僕を買ったから、貴方がご主人様…」
ふむ、どうやらお嬢様は勘違いをしているな。
確かに私は奴隷であったお嬢様を金で買い上げたから、私が主となるのか。
「貴方はもう奴隷ではないですよ。寧ろ貴方が私のご主人様です」
「僕が…ご主人様?」
「はい、私は貴方の騎士です」
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