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4.学校にて
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「それで——具体的にはどんなことをするんだ?」
登校して朝のHRが始まる前。いつものようにゆかりの机に寄ってきた明貴が、そっとそんなことを問うた。
ゆかりの肩の辺りには昨日と同じくアルが浮遊している。一緒に登校してみてわかったが、やはりアルは自分たち以外には見えていないようだった。時折ゆかりと会話もしていたようなのだが、周囲の人間にはおそらく明貴と会話しているように見えていたに違いない。
そんなわけで昨日から今に掛けてずっとゆかりの横でふわふわと生活してきたアルなのだが、聞いた限りだと、彼はゆかりの力を借りて人間を幸せにする使命があるという。明貴が問うたのは、その具体的な方法であった。
「そうだなぁ……色々とあるけど、一番わかりやすいのは困ってる人を助けてあげることかな。助けられた人が幸福感とまでは行かなくても、ほんのりといい気分になってくれればそれでいいんだ」
「成程」
つまり世間一般でいう『良いこと』をすればいいわけだ。
「何か困っていることはないかい?」
アルの問いに、ゆかりが思い出したように答える。
「……ちゅーとーのふんそーとかを止めてあげるのは?」
「ちょっと待て」
さすがにアルが止めに入った。
「あっちの子たち、すごく困ってた。この前テレビでやってたもん」
「その志も行いもすごく立派だと思うけど! もっと身近! 身近で! せめて県内で!」
「じゃあ、隣町の殺人事件の犯人を捕まえてあげるのは——」
「ちょちょちょ! 血生臭いよ! これそういう話じゃないから! もっとファンシーなの! なんでいきなり死亡フラグっぽいの立てるのさ!」
「でも……!」
「——たしかに。そういう事件には近づくべきじゃないと思う。僕らはまだ子供なんだ」
白熱して身を乗り出しかけたゆかりを明貴がいさめると、続いてアルが申し訳なさそうな声で告げてきた。
「あの……一応言っておくけど、ボクたちの力はすごく小さなものなんだ。できることは限られてる。だからさっきみたいに紛争の終結とか、殺人事件の犯人捜しみたいなことはできない……と思う。たしかに誰かの幸せに繋がるかも知れないけれど、それは人間の仕事だ。ボクたちはボクたちにしかできないことをしよう。ね?」
「そっかー……それもそうだね。ごめんね。わたし、間違えてた」
ゆかりが納得したようなので、アルも明貴もホッと胸をなで下ろした。この少女、力を得た途端に暴走するタイプであることは間違いないだろう。
そこでHRの始まりを告げるチャイムが鳴った。
登校して朝のHRが始まる前。いつものようにゆかりの机に寄ってきた明貴が、そっとそんなことを問うた。
ゆかりの肩の辺りには昨日と同じくアルが浮遊している。一緒に登校してみてわかったが、やはりアルは自分たち以外には見えていないようだった。時折ゆかりと会話もしていたようなのだが、周囲の人間にはおそらく明貴と会話しているように見えていたに違いない。
そんなわけで昨日から今に掛けてずっとゆかりの横でふわふわと生活してきたアルなのだが、聞いた限りだと、彼はゆかりの力を借りて人間を幸せにする使命があるという。明貴が問うたのは、その具体的な方法であった。
「そうだなぁ……色々とあるけど、一番わかりやすいのは困ってる人を助けてあげることかな。助けられた人が幸福感とまでは行かなくても、ほんのりといい気分になってくれればそれでいいんだ」
「成程」
つまり世間一般でいう『良いこと』をすればいいわけだ。
「何か困っていることはないかい?」
アルの問いに、ゆかりが思い出したように答える。
「……ちゅーとーのふんそーとかを止めてあげるのは?」
「ちょっと待て」
さすがにアルが止めに入った。
「あっちの子たち、すごく困ってた。この前テレビでやってたもん」
「その志も行いもすごく立派だと思うけど! もっと身近! 身近で! せめて県内で!」
「じゃあ、隣町の殺人事件の犯人を捕まえてあげるのは——」
「ちょちょちょ! 血生臭いよ! これそういう話じゃないから! もっとファンシーなの! なんでいきなり死亡フラグっぽいの立てるのさ!」
「でも……!」
「——たしかに。そういう事件には近づくべきじゃないと思う。僕らはまだ子供なんだ」
白熱して身を乗り出しかけたゆかりを明貴がいさめると、続いてアルが申し訳なさそうな声で告げてきた。
「あの……一応言っておくけど、ボクたちの力はすごく小さなものなんだ。できることは限られてる。だからさっきみたいに紛争の終結とか、殺人事件の犯人捜しみたいなことはできない……と思う。たしかに誰かの幸せに繋がるかも知れないけれど、それは人間の仕事だ。ボクたちはボクたちにしかできないことをしよう。ね?」
「そっかー……それもそうだね。ごめんね。わたし、間違えてた」
ゆかりが納得したようなので、アルも明貴もホッと胸をなで下ろした。この少女、力を得た途端に暴走するタイプであることは間違いないだろう。
そこでHRの始まりを告げるチャイムが鳴った。
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