如何様陰陽師と顔のいい式神

銀タ篇

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勅使はまたもやってくる

07-01:ものはいいよう

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 それから数日後。
 驚くことに、またもや勅使がやってきた。

 先日の陰陽師達による加持祈祷の際に、昂明達は内親王を助けた。その功績を称え、感謝を込めて帝が直々に礼を言いたいと、そういうことらしい。
 確かにあの事件は、無事に内親王を守れたことで大事にこそならなかったし、犯人を突き止める為その件は未だ公にはされていない。しかし実際のところ、本当に内親王が拐かされてしまっていたらそれこそ一大事だったと思う。ましてや拐かされていたのが本来の予定通り――東宮だったなら尚更だ。

 だから、勅使がやってくるのは当然だろう。
 しかし。

(加持祈祷の時すらハラハラしたのに、また参内するのかよ……)

 これには昂明も銀も青くなる。
 なにせ銀と東宮は瓜二つ。事情を知っている一部の者はともかくとして、周りの者にそれを知られるわけにはいかない。
 まして実の父――帝に会えたとて、息子である素振りなど見せようものなら野望を持つ者に足元を掬われてしまう。

 本人たちの意思とは全く関係無いところで、危険なのだ。
 それでも、悲しいかな。
 勅令を断ることなど、できようはずもない。

    * * *

 結局それで、迎えの牛車に乗り込んでまたもや内裏へと赴く羽目になってしまったのだ。装いと言えば唯一の上等な衣、先日と同じ服装だから失礼にならないかという不安もある。
 勿論、桜は留守番だ。今度こそは間違いなく。
 随身達に案内され承明門をくぐった後昂明と銀は、どぎまぎしながら清涼殿へと向かう。

(この前は他の陰陽師達も居たからまだ気が楽だったが……今度は恐らく、俺と銀の二人だけなんだろうな……)

 呼ばれて来たとはいえ、迂闊なことは絶対に出来ない。流石に気も引き締まろうというものだ。
 前に訪れた時とは打って変わって静かな清涼殿。植えられた竹が風に靡いて、さやさやと音を奏でている。
 昂明達を案内すると随身達は何故だかさっさと姿を消してしまった。戸惑いつつも東孫廂の下で昂明達が控えていると、土を踏みしめ誰かがやってくる音が聞こえてくる。

「二人とも、顔を上げても良いのだぞ。いや寧ろ、顔を上げておくれ」

 その言葉にぎょっとしながら恐る恐る顔を上げれば、背後より壮年の男性がこちらへと歩いてくる。縹色の直衣と指貫姿のその男性は、妙に親し気な微笑みを浮かべ、傍目に見ればただの公卿なのだろうが……。

(銀に似てる……)

 顔を見た瞬間に二人とも察して固まってしまった。
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