如何様陰陽師と顔のいい式神

銀タ篇

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勅使がやってきた

06-09:宴は静かに華やかに

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 既に日も落ちかけて清涼殿の釣燈籠にも火が灯る。更に東庭に配した結び灯台にも火が灯されると一気に場が華やいだ。
 陰陽師達による加持祈祷の感謝にと、公卿たちを交えてささやかな宴が始められた。清涼殿の御前には草とんが並べられ、名だたる公卿たちが腰を下ろす。その中には勿論、源頼央と輝く君も含まれる。

 勿論宴の主役は公卿達と安倍晴明公や賀茂光栄公達なのだが、昂明をはじめとする陰陽師の面々も末席でささやかに宴を楽しませて貰っていた。
 誰かがお題を出せば歌を詠み、都度感嘆の声が聞こえてくる。
 昂明が普段耳にするものといえば銀の龍笛くらいなものだったが、宴では公卿たちが思い思いに篳篥や笙など様々なものを披露していた。

「なあ、あれ……」

 銀がそっと耳打ちをする。その視線の先にはあ、内親王と輝く君が座っていた。
 未遂に終わった内親王の拐かしの件は、一旦内密にすることになったらしい。周りに居た者たちも気休め程度だが口止めをされた。

 まだ事件の首謀者も分からないので、あまり話が知れ渡ってしまうと犯人を捕まえるのに差し障りもあるという考えからだ。人違いとはいえ元は東宮を狙った犯行だ。油断は出来ないからだろう。
 それはさておいて……内親王は何故か輝く君の隣をちゃっかりと陣取っている。内親王のはずだが、見た目は完全に若い公卿そのものだ。

(男の姿だから、顔を見せても構わないんだろうか……)

 ついどうでも良いことが気になってしまう。
 傍から見れば内親王に好かれるというのは相当羨ましい事なのではないかと思うのだが。しかし、そんなべったりの内親王に輝く君は些か困惑気味だ。まあ、その気持ちはなんとなく分からないでも無い。

「あんな輝く君の姿を見るの、初めてだな……。放火の一件の時よりも複雑な顔してるぜ」
「しっ」

 思わずぽろりと零した本音を銀に責められる。しかし思ったのだから仕方ない。思っても今口に出すものではないだろうと銀には暫く睨まれていたが、やがて聞こえてきた龍笛の音に二人で動きを止めた。
 内親王の笛かと思いきや、そこに居たのは桜の傍で笛を吹く東宮の姿。いつの間に打ち解けたのかは分からないが、桜は東宮の傍で笛に聞き入っているようだった。

「仲が良いな」
「まあ……銀と同じ顔だし、親しみがあるのかもしれないな」

 昂明の言葉に少しだけ銀の表情が曇る。しまった、余計なことを言ったと昂明は焦る。

「気にするなよ、桜が銀のことを慕ってるのはなにも顔が好きだからってだけじゃないだろ?」
「どうだか」

 銀は保護者くらいの気持ちだろうと思っていたのだが、むすっと言い返した様子を見ると少しは桜のことを意識していたのだろうか。それとも単に、好いてくれていた少女が急に遠くに行ってしまった寂しさから来るものなのだろうか。

「拗ねるな、拗ねるな」
「茶化すな、うるさい」

 つい面白くて揶揄ってしまえば、怒って不貞腐れる。
 しかし、笛を吹き終えた東宮に懸命に桜が話しかけている姿を見て、思わず二人で顔を見合わせると、諍いをやめ二人の会話に耳をそばだてた。
 桜は年頃の少女らしく、次から次へと興味を持ったことを片っ端から東宮に問いかけているようだが、東宮も悪い気はしていないようだ。桜の問いかけに一つ一つ、穏やかな笑顔を見せながら答えている。

「すごかったです! 内親王さまもとっても笛がお上手だったけど、東宮さまも笛もお上手なの?」
「父上のほうがもっと上手い。特に龍笛の音色は都の中で三本の指に入るといわれておるよ」
「東宮さまよりもっとお上手なの!?」
「そうだ。お健やかになられたら、きっと美しい音色を奏でてくれるだろうに」

 そう言った東宮の顔が少しだけ悲し気に変わる。手にした龍笛をじっと見つめ、なにかを考えているようだった。
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