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輝く君、現る

02-06:強気の姫

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「門番から話は聞きました。父は今朝早く出仕しております故、邸には不在ですが私が代わりに話を伺います。旅の陰陽師とやらが一体何の御用でしょうか」

 御簾の向こうから威圧的な声がする。左兵衛佐が居ない時間を狙ったのだから不在なのは承知の上。それにしても通してもらえたのは有り難いが、やはり一の君は気が強い……というのは本当らしい。
 周りには家人や側仕えの侍女達が何人も控えており、皆が昂明達の一挙一動を見守っている。昂明は恭しく御簾越しの一の君に頭を下げると挨拶から始めた。

「突然の来訪、御無礼をお許しください。既にお聞きかと存じますが、今この邸には良くないものが渦巻いております。私はその元凶を取り除くために参った次第で御座います。犬が吠えるのは災いの前兆を感知してのこと、どうかお聞き届け下さいますようお願い申し上げます」
「それを信じる根拠はありますか? 貴方が陰陽師であるという証拠はありますか? それよりまずあなたの後ろに控える従者。顔を隠して怪しいのではありませんか」

 ……案の定、気が強い。そして噂通り頭も切れる。
 昂明は一の君に丁寧に頭を下げた。

「これは失礼致しました。……銀」

 呼びかけに応じ、銀は被っている衣をずらし顔を出す。その美しさに一の君は一瞬立ち上がりかけ、周りからもほうと溜め息が漏れた。

「これなるは名を銀と申しまして、御覧の通り私の式神に御座います。夜を司る式神なれば、日中はこのように日の光から姿を隠さねばならず、御無礼かと存じますが何卒ご容赦頂きたくお願い申し上げます」

 だいぶ盛って話したとは思うが、ある意味間違ってもいない。昂明の話が終わるのを待って銀は静かに一礼すると衣を被りなおした。

「それを信じろと言うのかしら」
「無論で御座います。陰陽師と共に人を守るのが式神の役目。……それにこのように化生の如き美しいものが他におりましょうか」

 白銀の髪を持つ美しい式神を従える旅の陰陽師。既に使用人たちは昂明達のことを信じて疑う余地もない。
 もっとも、疑うも何も正真正銘、昂明は陰陽師ではあるのだが。

「た、確かに……」

 周りからは溜め息にも似たそんな声が漏れ聞こえる。
 銀の顔の良さは輝く君とは異なれど、人並外れた美しさ。いや、人並み以上の美しも相まって只者ならぬ存在感を放っていた。

 ……それこそ『式神』であると信じさせるような。

 勿論昂明が説得材料として準備したものは他にある。あらかじめ輝く君から聞いておいた一の君との思い出話の中でも、二人しか知らぬような特別な出来事を『占い』と称し幾つか出してやった。
 流石にこれには彼女も驚いたらしい。昂明の話を聞きながら時に戸惑い驚き、感嘆するような声を上げた。

「分かりました……貴方の話を信じましょう」

 そんなわけでついに一の君はそう言って、昂明達の話を信じたのだ。

「それで。良くないもの、とは何ですか? 勿体ぶらずに仰いなさい」
「はい。それは……一の君さまのお心で御座います」
「私の、心ですって?」
「そうで御座います。一の君さまは今、大層お怒りを感じておられるのではないでしょうか。それは燃える炎のように激しいもののはず。犬が吠えたのが何よりの証し。……その元凶、姫様に何かお心当たりは御座いませんか」

 昂明の言葉に、はっと息をのむ音がした。
 それまで怒っていた一の君は黙り込み、ぶつぶつと何か呟いている。やがて侍女を呼びつけ、件の扇を昂明達の前に持ってこさせた。

「これは、私の想い人の持ち物です。……いえ、正しくは他に通う姫君の持ち物なのでしょう」

 久しぶりに訪ねてきたと思った輝く君はそっけない態度。しかも他の姫君の元へ通った後なのだと、一の君は扇を見て気づいてしまったのだ。
 悔しくて、妬ましくて、けれどそれを表立って輝く君にぶつけることも出来ず、悩んだ末に一の君は気づかぬふりをしてその場はやり過ごした。それでも我慢できず怒りに任せその扇を抜き取ってしまった――というのが今回の騒動のあらましらしい。

「私としたことが、本当に恥ずべきことをしてしまったものです。輝く君にはなんとお詫びして良いのか……」

 御簾の向こうにいる一の君はすすり泣いているようだった。気が強い女性だとは思ったが、愛した男にすげなくされて、しかも他所の女の元へ通った後だったとなれば悔しかったのだろう。
 そんな一の君を、多少なり昂明は哀れに感じた。

「一つ――――――提案が御座います」
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