【完結】鳳凰抱鳳雛 ~鳳凰は鳳雛を抱く~

銀タ篇

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五趣生死情侣们(恋人たち)

138:震天動地(七)

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「……でも、三人だけで? しかも一人は子供なのに? しかも、言い出しっぺの鸞快子らんかいしはなんで行かないんだ?」
「それは……私がお願いしました。……万に一つ煬鳳ヤンフォンになにかあったとき、対処できるのは鸞快子らんかいしだけです。ましてや何者かの介入があったとなればなおのこと」

 それを言われると、煬鳳ヤンフォンはそれ以上なにも言えなくなってしまう。鸞快子らんかいし恒凰宮こうおうきゅうに残し、小黄シャオホワンと共に行かなかったことに文句を言いたかったのだが、凰黎ホワンリィ煬鳳ヤンフォンのことを心配して鸞快子らんかいし恒凰宮こうおうきゅうに残して貰ったのだから。
 責任感の強い凰黎ホワンリィのことだ。普段の彼ならば、煬鳳ヤンフォンのことは自分に任せて小黄シャオホワンについてくれと鸞快子らんかいしに言っていただろう。

「気持ちは分かるが、恒凰宮こうおうきゅう翳冥宮えいめいきゅう宮主ぐうしゅ二人が一緒なのだから、心配は無用だ。翳白暗イーバイアンの体は仙界せんかいの仙果から造られたと言っていた。恐らく人間であった頃よりも自由に力が使えるはずだ。……そして万に一つ、小黄シャオホワンになにかあったとしても、絶対に彼らに危害を加えさせたりはしない」
「そりゃ、もちろんだけど。でも、なんで鸞快子らんかいしはそう言い切れるんだ?」

 鸞快子らんかいしは不敵に微笑むと、煬鳳ヤンフォンの向こう側に向かって指を差す。

「?」

 振り返ると、そこにいる人物。

「あー、ごほん。小鳳シャオフォン?」

 拝陸天バイルーティエンのわざとらしい咳払いが聞こえた。慌てて声の方向へ体を向ければ、座ってこちらの様子を見つめる叔父の姿がある。

陸叔公りくしゅくこう、もしかしてずっとここに居てくれたのか?」
「もちろんだ。昨晩の治療が始まってからいまに至るまで、ホワン殿と共に不眠不休で小鳳シャオフォンの看病をしていたのだぞ」

 得意げに頷く拝陸天バイルーティエンに、煬鳳ヤンフォンは慌てて頭を下げた。一番遠くから煬鳳ヤンフォンのために駆け付けてくれたというのに、礼の一つも言わぬままでは申し訳が立たない。

「気づくのが遅れてごめん、陸叔公りくしゅくこう。それに凰黎ホワンリィも有り難う」

 拝陸天バイルーティエンはニコニコと上機嫌で、そんな煬鳳ヤンフォンの頭を撫でつける。

「案ずることはない。可愛い甥のためなのだから当然のこと。……私は魔界まかいの皇帝ゆえ、あまり表立って原始の谷に行くことはできぬが、原始の谷に向かった彼らにもしも危険が迫ったら、一瞬で彼らの元まで行くことができる」
「そんなことが!?」
「うむ。……彼らが旅立つ前にそのような盟約を交わしておいた。だからそう鸞快子らんかいし殿を責めないでやってくれ。彼は小鳳シャオフォンに必要な人物だ。そして、誰よりもそなたを心配しているホワン殿のことも」
「は、はい。ごめんなさい、陸叔公りくしゅくこう

 自分でも驚くほどしおらしく、煬鳳ヤンフォン拝陸天バイルーティエンに謝った。どれほど沢山の人たちの協力があって、こうしていま自分が存在しているのか。それがとてもよく分かったからだ。

「謝ることはない。しかし、謝るときは私ではなく二人に、な?」

 拝陸天バイルーティエンは片目を瞑って微笑むと、凰黎ホワンリィたちに視線を向けた。

「うん。ごめんな。鸞快子らんかいし、それに凰黎ホワンリィ。二人とも本当に有り難う」
「良いんですよ、煬鳳ヤンフォンが無事なら、それだけで」

 凰黎ホワンリィは涙声でそう言うと、煬鳳ヤンフォンのことをもう一度抱きしめる。

「これから先は、霊力を使っても異常なほど体温が上がることはありません。……ですが約束して下さい」
「なにを?」
「いくら術や霊力が気軽に使えるような状態に戻ったからといって、絶対に無茶はしないこと」
「もちろんだよ」

 すぐさま、煬鳳ヤンフォンは頷く。当然といえば当然のことで、反論する理由もない。

「それから……命は大切にすること。貴方の命は貴方だけの物ですが、無茶をしたら悲しむ人がいます。私だけではなく、貴方の叔父であったり、亡き母君や父君だってそうです。どんなときも、それを忘れないで」
「……分かったよ。約束する。心配性だなあ、凰黎ホワンリィは」

 そう言って煬鳳ヤンフォンは笑ったが、凰黎ホワンリィの表情が不安そうであることに変わりはない。

煬鳳ヤンフォン。一つ伝えなければならないことがある」

 そんな煬鳳ヤンフォンに告げたのは鸞快子らんかいしだ。
 鸞快子らんかいし稀飯きはんの載った盆に目を向けると「冷めないうちに食べなさい」と促した。凰黎ホワンリィはすぐさま稀飯きはんの器を取り上げると、煬鳳ヤンフォンの傍に座る。

「君の溢れる霊力を、首の痣を通さずに黒曜ヘイヨウに移すことには成功したが、黒炎山こくえんざんと連動して起こる体温の上昇については止めることができない。だから、この先もしも黒炎山こくえんざんの活動が活発になるとしたら、霊力の増減に関係なく、きみの体温は上昇する」
「はぁ!?」

 凰黎ホワンリィ稀飯きはんを食べさせて貰っていた煬鳳ヤンフォンは、思わず食べた稀飯きはんを吐き出しそうなほど驚いた。せっかく全てがうまく行った。そう思ったはずなのに、急にはしごを外された気分だったのだ。

「な、なんで!? 霊力は使えるようになったし、異常なほど体の熱があがることも無くなったんだろ!?」
「その通り。君の体の中から湧き上がる強大な霊力については概ね解決したといって差し支えはない。問題は黒炎山こくえんざん由来の熱についてだ。それは煬鳳ヤンフォンの霊力に関係があるのではなく、黒炎山こくえんざんの活動が活発化していることが原因になっている。その炎の根源は、君や翳黒明イーヘイミン翳炎えいえん黒炎山こくえんざんに封じられた黒冥翳魔こくめいえいま翳炎えいえんと根を同じとしているもの。ゆえに、大本の黒炎山こくえんざんの火山が活発化すると、連動して君たち二人の体温も上昇していくというわけだ」
「……」

 一難去ってまた一難とはこのことか。せっかく霊力についての問題が解消されたと思ったはずなのに……。

(どうして新たな問題が増えてるんだ!?)

 まあ、よくよく考えれば黒炎山こくえんざんの地震の件と煬鳳ヤンフォン黒曜ヘイヨウの問題とは多少仕組みが違うと言えば理解できなくもない。
 ただ、心情的には全く理解しがたいものだ。

「なら、今度はどうすりゃいいんだよ!?」

 思わず声に出てしまった。

「それは――簡単なことだ」

 しかし、意外にも鸞快子らんかいしの答えは明快だった。

黒炎山こくえんざんの……火龍を鎮める。それだけで解決するはずだ」

 実に難しいことを簡単に言ってくれる。

「ちょっと! 軽々とそんなこと言われても困る! 眠れる龍とは言うけど、相手は三百年前にこの地を滅ぼしかけた火龍なんだぞ!? ちょっとやそっとの龍ならいざ知らず、三州に跨がるほど巨大な龍を、一体どうやって倒せるっていうんだ!?」
「誰も一人で倒せ、などとは言っていないだろう。睡龍すいりゅうに危機が訪れたときの防衛手段として五行盟ごぎょうめいが発足したのだから、このようなときこそ彼らの力を借りるのが筋というものだ」

 確かに鸞快子らんかいしの言うことは正しい。
 正しいのだが……、煬鳳ヤンフォンとしては一抹の不安が拭えない。

「だって、五行盟ごぎょうめいは俺のことを良く思ってないんだぞ。力なんか貸してくれるのか?」

 鸞快子らんかいしは笑う。

「別に彼らが君を助けるつもりなど無くても構わないことだろう? 睡龍すいりゅうの問題はこの大地全体の問題であるわけだし、放っておいたら困るのはこの地に住まう者全員だ。人々を守ることのできない五行盟ごぎょうめいに存在の価値などないし、事情を知れば彼らとて立ち上がらざるを得ないだろう」
鸞快子らんかいしが言っているのは、つまり煬鳳ヤンフォンの問題に絡めるわけではなく『これまでの異常な現象は睡龍すいりゅうの仕業であり、まさにいま睡龍すいりゅうが目覚めようとしている』ことを押し出して五行盟ごぎょうめいの協力を取り付けるということです」
凰黎ホワンリィの言う通りだ。君たちの体のことを解決するためには睡龍すいりゅうを再び眠りにつかせることは必須だが、だからといって一人で戦う必要はない。うまく立ち回って解決のための協力を引き出すんだ」

 畳みかけるような凰黎ホワンリィと、それに乗っかる鸞快子らんかいし。二人の息はぴったりで、凰黎ホワンリィが幼い頃より蓬静嶺ほうせいりょうで客卿として滞在していただけのことはあると感心してしまう。
 それにしても、それにしてもだ。

「なんかそれ、凄くずるい言い方じゃないか?」

 自分たちの本来の目的を隠したまま、別の理由で協力を仰ぐ。確かに合理的ではあるが、なんだか釈然としない。
 しかし鸞快子らんかいしは「どこが?」とばかりの顔で言葉をつづけた。

「どのみち火龍が目覚めたらこの地は終わりだ。この地だけではなく九州全体にも及ぶだろう。だからこそ国師こくしは危険を冒して睡龍すいりゅうに来ようとしているのだから」
「なるほど……」
「協力し合うのは悪いことではない。目的が同じならなおのこと協力しない手はないだろう?」
「う、うん……」

 鸞快子らんかいしの勢いに半ば飲み込めまれながら煬鳳ヤンフォンは頷く。鸞快子らんかいしの言うことは実にもっともだ。少しばかりずるいとは思ったが、どちらにしても睡龍すいりゅうの地に住まう者にとって、危機的状況であることに変わりはないのだ。

 そして、もしも龍が目覚めたら、少なくとも睡龍すいりゅうと呼ばれる三州だけに飽き足らず九州全体が終わりを迎えることだろう。

(それにしたって……なあ)

 まさか昔の話だと思っていた存在を、あの憧れの瞋九龍チェンジューロンが倒したという火龍に立ち向かわなければならなくなるなど思いもよらなかった。

 己一人ではないとはいえ、荷が重すぎる。
 しかし、ことは己の存在に直結しているだけに、逃げることも許されない。
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