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海誓山盟明和暗(不変の誓い)
126:陰謀詭秘(二)
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「ぎゃああああああああ!」
ぬるりと広間の一部が歪み、そこから艶やかな襦裙を纏った女が現れる。女の腕には先程鸞快子の放った矢が刺さっており、見た目の傷以上にそれは彼女に負担を与えているように感じられた。
女は力任せに腕の矢を引き抜く。傷口からは血が溢れるかと思ったが、意外なことに抜いた穴からは何も出ず、ただ穴が空いたままになっていた。
よろけながらなんとか女は踏みとどまり、激しい形相で鸞快子を睨んだ。
「愚京!?」
翳黒明が叫ぶ。煬鳳も黒曜の記憶の中で見た――それは、彼らが幼い頃から身近にいる存在だった母の侍女だ。――もはや母の侍女、という肩書きすら真実とは程遠く、正体の知れぬおぼろげな存在ではある。
「おのれ、貴様! 一度ならず二度までも私の邪魔をする気か!」
愚京は怒気を孕んだ声音と表情で鸞快子を睨んだ。鸞快子はそんな彼女に殺意を向けられくつくつと笑っている。
「そう。私だ。……しかしおかしなことを言うものだ。私が矢を放ったのは愚京という翳冥宮に棲みついていた侍女であって、会ったのはいまが初めてのはずであるのだがな? 一度ならず二度というのは、もしや白宵城への道すがら現れたという閑白のことか?」
「えっ!?」
今度は煬鳳と凰黎が驚いて声をあげる。閑白といえば、凰黎と共に恒凰宮を訪れた帰りに現れた白鷴の仙人だ。彼はたしかにとんでもない強さだった。恐らく彼より上の存在である蓬莱は更にとんでもない存在だろう。
彼らが関係していることは煬鳳も凰黎も薄々気づいていたのだが、まさか閑白が愚京その人であったとは夢にも思わなかったのだ。
「なっ……! くそっ、しまった!」
「わざわざボロを出してくれて本当に助かる。……それでこそ、わざわざ一撃で殺さずにおいた甲斐があるというもの」
「私を愚弄する気か!?」
鸞快子の物言いに愚京――閑白は怒り散らかしている。以前戦ったときも思ったが、彼は格下だと思っている存在にしっぺ返しをされるとすぐキレる性格のようだ。
「愚弄しているわけではない。しかし、その姿でやってきたということは、機会を見計らって我々の前に現れ、翳黒明を傷つけようとしたのだろう?」
閑白は鸞快子の言葉を受けて不敵に笑う。手に持った矢を黒炭に帰し、聞きなれぬ呪文を唱え始めた。閑白の袖から放たれた白い羽は、紙片へと変わり、人の姿を形作る。煬鳳はその紙でできた人形に見覚えがあったが、それが果たして記憶の中にあるものと同じものであるかは確証が持てない。
「まさか」
真っ青な顔で翳黒明が叫ぶ。もうその表情を見たら、なにが起こったか分からぬ煬鳳たちではない。
(翳冥宮で死んだ人たち……)
人形はやがて白い紙ではなく、人の姿を取り始めたのだ。
先ほど煬鳳たちの前に現れた魔界の人々の残影ともまた違う。閑白はここで死んだ者たちの眠りを再び覚まそうとしているのだ。
「あれは……!」
真っ先に反応したのは凰神偉がだ。
「兄上、知っているのですか?」
凰黎の問いに凰神偉は頷く。
「いまは使う者もいない、既にこの世に存在しないはずの太古の術法だ。……この仙人は恐らく、その頃から生きていたということになるだろう」
「待ってくれ、ってことは、やっぱりこいつが鬼燎帝を裏で操っていたってことか!?」
思わず煬鳳は叫ぶ。
失われたはずの邪教の術法――魔界で鬼燎帝を唆していた何者かが逃げるときに残した呪符がそれだ。
「まあ、魔界の人間が絡んでるはずなのに、ここに現れたのが魔界の人間ではなくコイツだって時点で、そうだと決まったようなものか」
驚き半分、残りは予想の範疇。
鬼燎帝を唆した閑白は魔界の人間たちを翳冥宮に送り込ませたが、その前の下地を準備したのは結局のところ閑白だったということだ。
不意に煬鳳は、辺りに陰気が濃くなってきたのを感じ取る。
閑白の力に押されているのか、それとも凰神偉が鎮めていた封印が解けつつあるのか。煬鳳は咄嗟に振り返って叫ぶ。
「鸞快子、小黄を守ってくれ!」
素早く煬鳳の意図を察して鸞快子は小黄を守るように移動する。
小黄の隣には彩藍方もいるはずだが、相手が閑白となると彩藍方だけでは心もとない。彼の鉄鉱力士は非常に強力で頼もしい存在ではあるが、それとて仙人が作り出した『本物』の、模造品に過ぎないのだ。
「黒曜、いけるか?」
『クエェ……』
煬鳳は小黄の元から飛んできた黒曜に向かって問いかける。黒曜は怒りでぶるぶると震えてはいたが、戦う気はあるらしい。
(あいつが暴走しなきゃいいけど……)
そんな黒曜の様子を見ながら翳黒明のことを煬鳳は思う。黒曜と翳黒明の感情の揺れはほぼ近い。黒曜がここまで怒りで動揺しているということは、翳黒明は更に怒りに震えているはずなのだ。
そんな煬鳳の思いを察してか、凰黎は立ち尽くす翳黒明の傍に近寄った。
「翳黒明。私に貴方を止めることはできません。……ですが、怒りで我を忘れてはまた繰り返すことになってしまいます。どうか……」
「分かっている!」
翳黒明の瞳は赤く輝いている。これはかなり危険な兆候だ。
目の前に恨むべき相手がいる。そして過去だけではなくいまもこうして、翳冥宮の人々を苦しめている。
翳黒明が怒るのは無理がないことなのだ。
「凰黎……」
煬鳳は心配そうに凰黎を見た。
「……いまは彼を信じるしかないでしょう。どちらにしても、これは彼が決着を付けなければいけないことですから……」
悲痛な表情で凰黎は首を振る。
「翳黒明。お前ってやつは本当に私の予想と違うことばかりしてくれる!」
こみ上げるような血の臭いが充満しているその中で、閑白は翳黒明と向き合い怒鳴った。
「あのときあの場所で全員の息の根を止めるはずが、お前だけ恒凰宮に行っていて難を逃れてしまった。しかもあろうことかせっかく祭り上げるはずだった翳白暗を殺してしまったんだ」
「……お前が白暗を唆したのか?」
「人聞きが悪い。私は弱っている翳白暗の心にちょっとだけ寄り添ってやっただけさ。何も我慢などすることはない、欲しいものがあるならば、奪えばいい。なにかを傷つけることを恐れてはならない、欲しいものがあるならば全てを壊してでも手に入れろ、ってな。結局、その言葉に傾いたのはあいつの弱さのせいさ」
「お前、このっ……!」
翳黒明は剣を抜き閑白に斬りかかろうとした。しかし、さきほど生み出された翳冥宮の人々がその前に立ちはだかると、剣を振りかぶることができず、後退る。
「宮主に婚約の話を持ち掛けたのも私さ。富豪をその気にさせたのも私。婚約の噂をあちこちに流しまくったのも……」
「髪飾りのことを……あのとき俺に嘘を教えたのもお前だったな!」
「……それは違う」
真顔の閑白は呆れたように吐き捨てる。
突然思いもよらぬところで閑白に否定され、それまで烈火のごとく怒っていた翳黒明から不意に怒気が抜けた。
「なんだと……?」
閑白は面倒臭そうな顔で「何でもかんでも私が嘘を言ったと思われても不本意だ」と続ける。
「全てを私のせいにするんじゃない。いいか、髪飾りのことについて私はいっさいの嘘は言っていない。翳白暗は確かに『想い人のための贈り物』を作っていたんだからな」
不敵に笑う閑白。
閑白の真意が測れぬ翳黒明は呆然とする。煬鳳は翳黒明に贈り物のことを伝えようと口を開きかけたのだが、凰黎が静かにそれを止めた。
「凰黎……」
縋るような気持ちで煬鳳は凰黎を見たが、凰黎は静かに首を振るだけ。いまは言わない方が良い、そういうことだったのだろう。
煬鳳は唇を噛み、翳黒明と閑白のやり取りを見守った。
「だがそんなことはどうでもいい。とにかくだ。お前は終始一貫して私の計画をぶち壊しにしてくれた。かつて怒りに任せて一人で暴れ、せっかくうまいこと担ぎ上げようとしたヤツまで殺しやがった! どこかに消えていったかと思えば、突然正気に戻って……着々と翳冥宮の人間たちに成り代わっていた魔界の奴らを全て消してしまったんだ! せっかく! 私が! お前らがガキの頃からずっと仕込みを続けていたというのに、ぶち壊しだ! なんてことをしてくれたんだ!」
「……言いたいことはそれだけか」
怒りで怒鳴り散らす閑白に翳黒明が冷たく言い放つ。落ち着いた声音ではあったが、剣を持つ手はやはり小刻みに震えている。――あれではまともに剣に力を込めることなどできないのではないか、煬鳳はそんな翳黒明が心配で仕方ない。
入念に計画したはずの翳冥宮の一件があっさりと崩れてしまったことをよほど根に持っていたようだ。
閑白はなおも怒りを翳黒明にぶつける。
「それだけじゃない、魔界でもお前は私の計画を邪魔したな。それはお前だけじゃない、お前ら全員だが……視界に入るだけで邪魔なんだよ!」
そう言うと、閑白はふと怒りの表情を消し去って不敵に笑う。それまで動かなかった翳冥宮の人々が、じわりと煬鳳たちに距離を詰めてきているのだ。
「ど、どうすりゃいいんだ。この人たちともう一度戦うのか……?」
『クエェ……』
黒曜の悲しげな声が響く。
煬鳳は黒曜の記憶を通して彼らになにが起こったのかをある程度は見ている。だからこそ、可能ならばここで死んだ翳冥宮の人たちに刃を向けることはしたくない。
ぬるりと広間の一部が歪み、そこから艶やかな襦裙を纏った女が現れる。女の腕には先程鸞快子の放った矢が刺さっており、見た目の傷以上にそれは彼女に負担を与えているように感じられた。
女は力任せに腕の矢を引き抜く。傷口からは血が溢れるかと思ったが、意外なことに抜いた穴からは何も出ず、ただ穴が空いたままになっていた。
よろけながらなんとか女は踏みとどまり、激しい形相で鸞快子を睨んだ。
「愚京!?」
翳黒明が叫ぶ。煬鳳も黒曜の記憶の中で見た――それは、彼らが幼い頃から身近にいる存在だった母の侍女だ。――もはや母の侍女、という肩書きすら真実とは程遠く、正体の知れぬおぼろげな存在ではある。
「おのれ、貴様! 一度ならず二度までも私の邪魔をする気か!」
愚京は怒気を孕んだ声音と表情で鸞快子を睨んだ。鸞快子はそんな彼女に殺意を向けられくつくつと笑っている。
「そう。私だ。……しかしおかしなことを言うものだ。私が矢を放ったのは愚京という翳冥宮に棲みついていた侍女であって、会ったのはいまが初めてのはずであるのだがな? 一度ならず二度というのは、もしや白宵城への道すがら現れたという閑白のことか?」
「えっ!?」
今度は煬鳳と凰黎が驚いて声をあげる。閑白といえば、凰黎と共に恒凰宮を訪れた帰りに現れた白鷴の仙人だ。彼はたしかにとんでもない強さだった。恐らく彼より上の存在である蓬莱は更にとんでもない存在だろう。
彼らが関係していることは煬鳳も凰黎も薄々気づいていたのだが、まさか閑白が愚京その人であったとは夢にも思わなかったのだ。
「なっ……! くそっ、しまった!」
「わざわざボロを出してくれて本当に助かる。……それでこそ、わざわざ一撃で殺さずにおいた甲斐があるというもの」
「私を愚弄する気か!?」
鸞快子の物言いに愚京――閑白は怒り散らかしている。以前戦ったときも思ったが、彼は格下だと思っている存在にしっぺ返しをされるとすぐキレる性格のようだ。
「愚弄しているわけではない。しかし、その姿でやってきたということは、機会を見計らって我々の前に現れ、翳黒明を傷つけようとしたのだろう?」
閑白は鸞快子の言葉を受けて不敵に笑う。手に持った矢を黒炭に帰し、聞きなれぬ呪文を唱え始めた。閑白の袖から放たれた白い羽は、紙片へと変わり、人の姿を形作る。煬鳳はその紙でできた人形に見覚えがあったが、それが果たして記憶の中にあるものと同じものであるかは確証が持てない。
「まさか」
真っ青な顔で翳黒明が叫ぶ。もうその表情を見たら、なにが起こったか分からぬ煬鳳たちではない。
(翳冥宮で死んだ人たち……)
人形はやがて白い紙ではなく、人の姿を取り始めたのだ。
先ほど煬鳳たちの前に現れた魔界の人々の残影ともまた違う。閑白はここで死んだ者たちの眠りを再び覚まそうとしているのだ。
「あれは……!」
真っ先に反応したのは凰神偉がだ。
「兄上、知っているのですか?」
凰黎の問いに凰神偉は頷く。
「いまは使う者もいない、既にこの世に存在しないはずの太古の術法だ。……この仙人は恐らく、その頃から生きていたということになるだろう」
「待ってくれ、ってことは、やっぱりこいつが鬼燎帝を裏で操っていたってことか!?」
思わず煬鳳は叫ぶ。
失われたはずの邪教の術法――魔界で鬼燎帝を唆していた何者かが逃げるときに残した呪符がそれだ。
「まあ、魔界の人間が絡んでるはずなのに、ここに現れたのが魔界の人間ではなくコイツだって時点で、そうだと決まったようなものか」
驚き半分、残りは予想の範疇。
鬼燎帝を唆した閑白は魔界の人間たちを翳冥宮に送り込ませたが、その前の下地を準備したのは結局のところ閑白だったということだ。
不意に煬鳳は、辺りに陰気が濃くなってきたのを感じ取る。
閑白の力に押されているのか、それとも凰神偉が鎮めていた封印が解けつつあるのか。煬鳳は咄嗟に振り返って叫ぶ。
「鸞快子、小黄を守ってくれ!」
素早く煬鳳の意図を察して鸞快子は小黄を守るように移動する。
小黄の隣には彩藍方もいるはずだが、相手が閑白となると彩藍方だけでは心もとない。彼の鉄鉱力士は非常に強力で頼もしい存在ではあるが、それとて仙人が作り出した『本物』の、模造品に過ぎないのだ。
「黒曜、いけるか?」
『クエェ……』
煬鳳は小黄の元から飛んできた黒曜に向かって問いかける。黒曜は怒りでぶるぶると震えてはいたが、戦う気はあるらしい。
(あいつが暴走しなきゃいいけど……)
そんな黒曜の様子を見ながら翳黒明のことを煬鳳は思う。黒曜と翳黒明の感情の揺れはほぼ近い。黒曜がここまで怒りで動揺しているということは、翳黒明は更に怒りに震えているはずなのだ。
そんな煬鳳の思いを察してか、凰黎は立ち尽くす翳黒明の傍に近寄った。
「翳黒明。私に貴方を止めることはできません。……ですが、怒りで我を忘れてはまた繰り返すことになってしまいます。どうか……」
「分かっている!」
翳黒明の瞳は赤く輝いている。これはかなり危険な兆候だ。
目の前に恨むべき相手がいる。そして過去だけではなくいまもこうして、翳冥宮の人々を苦しめている。
翳黒明が怒るのは無理がないことなのだ。
「凰黎……」
煬鳳は心配そうに凰黎を見た。
「……いまは彼を信じるしかないでしょう。どちらにしても、これは彼が決着を付けなければいけないことですから……」
悲痛な表情で凰黎は首を振る。
「翳黒明。お前ってやつは本当に私の予想と違うことばかりしてくれる!」
こみ上げるような血の臭いが充満しているその中で、閑白は翳黒明と向き合い怒鳴った。
「あのときあの場所で全員の息の根を止めるはずが、お前だけ恒凰宮に行っていて難を逃れてしまった。しかもあろうことかせっかく祭り上げるはずだった翳白暗を殺してしまったんだ」
「……お前が白暗を唆したのか?」
「人聞きが悪い。私は弱っている翳白暗の心にちょっとだけ寄り添ってやっただけさ。何も我慢などすることはない、欲しいものがあるならば、奪えばいい。なにかを傷つけることを恐れてはならない、欲しいものがあるならば全てを壊してでも手に入れろ、ってな。結局、その言葉に傾いたのはあいつの弱さのせいさ」
「お前、このっ……!」
翳黒明は剣を抜き閑白に斬りかかろうとした。しかし、さきほど生み出された翳冥宮の人々がその前に立ちはだかると、剣を振りかぶることができず、後退る。
「宮主に婚約の話を持ち掛けたのも私さ。富豪をその気にさせたのも私。婚約の噂をあちこちに流しまくったのも……」
「髪飾りのことを……あのとき俺に嘘を教えたのもお前だったな!」
「……それは違う」
真顔の閑白は呆れたように吐き捨てる。
突然思いもよらぬところで閑白に否定され、それまで烈火のごとく怒っていた翳黒明から不意に怒気が抜けた。
「なんだと……?」
閑白は面倒臭そうな顔で「何でもかんでも私が嘘を言ったと思われても不本意だ」と続ける。
「全てを私のせいにするんじゃない。いいか、髪飾りのことについて私はいっさいの嘘は言っていない。翳白暗は確かに『想い人のための贈り物』を作っていたんだからな」
不敵に笑う閑白。
閑白の真意が測れぬ翳黒明は呆然とする。煬鳳は翳黒明に贈り物のことを伝えようと口を開きかけたのだが、凰黎が静かにそれを止めた。
「凰黎……」
縋るような気持ちで煬鳳は凰黎を見たが、凰黎は静かに首を振るだけ。いまは言わない方が良い、そういうことだったのだろう。
煬鳳は唇を噛み、翳黒明と閑白のやり取りを見守った。
「だがそんなことはどうでもいい。とにかくだ。お前は終始一貫して私の計画をぶち壊しにしてくれた。かつて怒りに任せて一人で暴れ、せっかくうまいこと担ぎ上げようとしたヤツまで殺しやがった! どこかに消えていったかと思えば、突然正気に戻って……着々と翳冥宮の人間たちに成り代わっていた魔界の奴らを全て消してしまったんだ! せっかく! 私が! お前らがガキの頃からずっと仕込みを続けていたというのに、ぶち壊しだ! なんてことをしてくれたんだ!」
「……言いたいことはそれだけか」
怒りで怒鳴り散らす閑白に翳黒明が冷たく言い放つ。落ち着いた声音ではあったが、剣を持つ手はやはり小刻みに震えている。――あれではまともに剣に力を込めることなどできないのではないか、煬鳳はそんな翳黒明が心配で仕方ない。
入念に計画したはずの翳冥宮の一件があっさりと崩れてしまったことをよほど根に持っていたようだ。
閑白はなおも怒りを翳黒明にぶつける。
「それだけじゃない、魔界でもお前は私の計画を邪魔したな。それはお前だけじゃない、お前ら全員だが……視界に入るだけで邪魔なんだよ!」
そう言うと、閑白はふと怒りの表情を消し去って不敵に笑う。それまで動かなかった翳冥宮の人々が、じわりと煬鳳たちに距離を詰めてきているのだ。
「ど、どうすりゃいいんだ。この人たちともう一度戦うのか……?」
『クエェ……』
黒曜の悲しげな声が響く。
煬鳳は黒曜の記憶を通して彼らになにが起こったのかをある程度は見ている。だからこそ、可能ならばここで死んだ翳冥宮の人たちに刃を向けることはしたくない。
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