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天魔波旬拝陸天(魔界の皇太子)
084:黒冥翳魔(二)
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牢屋に行く前に黒曜は煬鳳に体を借りて、凰黎と共に翁汎のあとに続いた。
屋敷の警備は厳重というほどではないが、それなりの実力を持った兵士たちが警備にあたっている。意外なことだが翁汎自身もかつては王城で皇帝に仕えていた武官なのだそうだ。今はどちらかといえば穏やかな風貌も相まって文官そのものなのだが、かつては兵士たちが震えあがるほど厳しく勇猛な将軍として、恐れられていたらしい。
拝陸天の腹心である金貪と銀瞋の二人は、現在は屋敷内にある地下牢に閉じ込めた黒冥翳魔の見張りを任されている。彼らも拝陸天から事前に話を伝えられていたため、煬鳳の体を借りた黒曜と凰黎が地下牢にやってくるとすぐにこれからなにをするかを理解した。
「小鳳坊ちゃま。話は殿下より伺っております。黒冥翳魔と会話をする際は、必ず我々が側にいることをお許しください。仮に外に連れ出すことがあった場合も、我等が同行するよう、仰せつかっております」
金貪と銀瞋の二人は跪拝して煬鳳……の姿をした黒曜に告げた。金貪と銀瞋は髪と目の色が違うだけで姿かたちはそっくり。金貪は黄金の髪を右側のほうだけ伸ばし、緩く頭の下で結わえている。はっきりと物を言うが、怒りっぽくはない。どちらかといえば冷静で落ち着いた印象をうける。
「もしも逃げようとしたらバッサリ一撃でけりをつけてやるから、安心しな」
「こら、銀瞋! 言葉遣いに気を付けろ」
「あー、へいへい。分かってるって。宜しくな、小鳳坊ちゃま」
一方の銀瞋は艶やかな銀髪を左側だけ伸ばし、耳と同じくらいの高さで結わえている。ずけずけとした物言いでキレやすく、宥める役目は金貪が常らしい。そんなところが少し子供っぽく感じるのは、彼が弟だからだろうか。
二人のやりとりを見て、黒曜は己の半身である弟のことを思い出さずにはいられない。彼の双子の弟もまた、顔がそっくりなこと以外、兄とは正反対の存在だったのだから。
『了承した。まずは……牢の外から離したいんだけど、いいかな?』
「畏まりました。こちらです」
『ところで二人ともとてもよく似てるけど、双子?』
「いえ、従兄同士です」
「……」
瓜二つでも、違うこともある。
二人は黒曜と凰黎を奥にある牢まで連れて行く。皇太子の別邸にある牢屋だけあって、牢屋とは思えないほど綺麗だし悪くないつくりをしている。
「随分綺麗なのですね」
「もちろんです、凰殿。我々は大きな罪を犯した者をここに閉じ込めるようなことはしません。あくまで一時的な措置のためにこの牢はあります」
「また、汚い牢では見張りも注意散漫になりがちなので、できるだけ清潔にするよう心掛けているのです」
金貪と銀瞋が交互に説明をしてくれたのだが、『汚い牢では見張りの注意も散漫に』とはなるほどなと得心がいき、思わず黒曜は薄笑いを浮かべてしまった。
「牢に入れられたものたちは、別段酷い生活を受けなければならないわけではないので、当然質素ながら食事もきちんと出ます。滅多に牢に入るものなどおりませんし、たまにいるのは酔っ払いすぎて暴れた者などですね」
『ははは……』
そりゃあ拷問にかける必要もないだろうし、扱いもそこまで悪くは無いかもしれない。
「ふん、来たのか」
黒冥翳魔はふてぶてしく牢屋の中に座っていた。黒曜と凰黎がやってきたのを見ると、頬杖をついたままニヤリと笑う。
『久しぶりだな、兄弟』
「誰が兄弟だ。……お前、煬鳳じゃないな?」
すぐさま黒冥翳魔は黒曜が煬鳳でないことに気づく。
『そうだ。俺は煬鳳の体を間借りしている、翳炎の一部に黒冥翳魔の魂が宿ったもの――つまりお前と同一の存在だ。今は黒曜って呼ばれてる』
「ああ、俺に襲い掛かってきたあの黒い烏か」
『……小さいときはそう見えるかもしれないが、霊力が増えると鳳凰に見える。煬鳳だって黒鳳君って呼ばれてるんだぞ』
烏と言われてカチンときた黒曜は、ふてぶてしく黒冥翳魔に言ってやった。目の前にいるのは自分の本体で、元は一つの人間のはずなのに何故こんなにも一挙一動で腹が立つものなのだろうか。
「今日は貴方とこれからの話をするためにやってきました」
二人の微妙な空気を察して、凰黎が横から口を出す。黒冥翳魔はそんな凰黎を面白くなさそうに眺めている。
「話って、なにが? 俺は何も協力する気はないぜ」
「そうはいきません。貴方は翳冥宮で一体なにが起こったのか、知りたいと思っているのでしょう?」
「そんなの調べたければ俺が自分で勝手に調べればいいだけだ」
「そうでしょうか?」
凰黎の目が光る。まるで黒冥翳魔の言葉から、なにかを見出したような目つきをしていた。
「貴方は自分で調べればいい、と言いましたけど、自分自身で百年以上前のことが分かるものか、と言いましたよね。なのにどうやって真実を見つけるつもりなのでしょう? 貴方の力は確かに以前は強かったかもしれません。ですが今は宿った体の影響もあって存分には力を出すことは難しいはず。……それ以前に、自分を見失い怒りに任せ暴れていたときの、己の身体も顧みずなりふり構わず力を使った貴方と、いくぶんか正気を取り戻した貴方とでは使える力の量にも差があるでしょう」
「見てきたように言うんだな」
「見てきたも何も、何度か顔を合わせているんです。それくらい分かります」
凰黎の言葉を面白くなさそうに黒冥翳魔は聞いている。
「まず――聞いていたでしょうが、煬鳳は皇太子殿下とは叔父甥の関係です。そして殿下は煬鳳のためなら協力は惜しまないとも言っておられます。なにより、翳冥宮の一件にもしも魔界の誰かが関わっているというのなら、全力で真実を突き止めると仰せになりました」
「だからって、それを信じろと言うのか?」
「何故信じられないと思うのですか? 当然ながら殿下は魔界の中でも高い地位に身を置かれています。身分があるものの言葉は大きな力と責任を持っているものです。少なくとも皇太子殿下は軽々しく違えるような約束を口にしたりはしない方だと思いますが」
「……」
黒冥翳魔は凰黎に言い返せる言葉が見つからないのか黙っている。黒曜は凰黎の方をみて『ちょっと良いか』と許可を求めた。
「お願いします」
凰黎が頷くと、黒曜は黒冥翳魔に向き直る。
『俺はあんたの一部だから、当時のことはもちろん分かってるつもりだ。ただ、凰黎には翳冥宮のあの一件のときに何故魔界が絡んでいると気づいたのか、まだ話していない。だから少し話したいんだけど、いいか?』
「俺に聞かなくても好きにすればいいだろう」
ふてぶてしく黒冥翳魔は言い捨てる。
『じゃ、凰黎。この前はこの件を秘密にしていて済まなかった。煬鳳の身元がまだはっきりしていない以上、先入観で両親のことを悪く思うようなことがあったらいけないと思ったんだ』
「貴方の心遣いに感謝します。煬鳳もきっとその話を聞いたら分かってくれると思いますよ」
『だといいな』
黒曜は頷く。
『さて、あの翳冥宮での殺戮の日――』
そこまで行ったとき、黒曜は黒冥翳魔の異変に気づいた。恐らくはその当時のことを思い出したのだろう。血が出るほどこぶしを握り締め、肩を震わせている。呼吸も少し危ういようだったので、これはまずいのではないかと黒曜は焦った。
「少し――中に入っても?」
黒曜が凰黎に声をかけようとした矢先に、凰黎が金貪と銀瞋に問う。
二人は少し躊躇っていたが、互いに顔を見合わせたあと、凰黎に「どうぞ」と頷いた。
凰黎は二人に礼を言って牢の中に入る。彼が一人で牢の中に入ることで人質に取られるのではないかと二人は危惧したようだったが、凰黎は「仮にそのようなことがあっても黒冥翳魔をねじ伏せてみせる」と言い切った。さすがにこれは横で聞いていた黒冥翳魔も不機嫌になっていたが、凰黎は「貴方が私に勝てるとでも?」と全く涼しい顔のままだった。
「やはり……」
強引に黒冥翳魔の動きを抑えた凰黎はそう呟く。
『なにがだ?』
黒曜が聞き返すと、凰黎が真剣な眼差しを向けた。
「黒冥翳魔の体が熱くなっています。……恐らく、彼も霊力を使ったことで翳炎が暴走したのでは……?」
「……たぶんな。……でもそれはこの体が、元々他の人間のものであるせいかもしれない」
「それにしたってこの上がり方はおかしいです。まるで煬鳳と同じように……」
そこまで言った凰黎ははっと口を噤む。
凰黎は黒冥翳魔の背中に手をあて、冷気を彼に注ぎ始めた。
「このままでは辛いでしょう。恐らくまた霊力を使ったらすぐに熱は上がるはず。……これは、いつごろから?」
「はっきり表れたのは彩鉱門の掌門の息子の体を頂いたときからだ。……それまでは死体の体を借りていたから、はっきりとは分からない。ただ、随分脆くて交換が早かった」
そうなると、実は死体に乗り移っていたときは気づかなかっただけで、蘇ったときから黒冥翳魔は霊力を使うと煬鳳と同じように翳炎の力が暴走していた可能性もある。
『それって……まさか』
拝陸天も煬鳳の体の半分は魔界の人間の血を引いているから、元々魔界からやってきたという翳冥宮の人間が使う翳炎と相性が良かった。そのせいで霊力が驚くほど増大してしまったのではないか、と言っていた。
煬鳳も事実そうだろうと考えていたはずだ。
しかし、今の黒冥翳魔の言葉と照らし合わせる限り――彼もまた自らの力が暴走して苦しんでいる。元々の体と同じように霊力を使えない体だから、というのはあるかもしれないが、二人とも似た症状なのは果たして偶然なのだろうか?
「体の熱のことは確かに気になります。しかし今できることは冷気で熱をさげることだけ。このことは一旦横に置いて、黒曜。続きをお願いします」
凰黎に促され、黒曜は先ほどの話がまだ途中だったことを思い出す。
屋敷の警備は厳重というほどではないが、それなりの実力を持った兵士たちが警備にあたっている。意外なことだが翁汎自身もかつては王城で皇帝に仕えていた武官なのだそうだ。今はどちらかといえば穏やかな風貌も相まって文官そのものなのだが、かつては兵士たちが震えあがるほど厳しく勇猛な将軍として、恐れられていたらしい。
拝陸天の腹心である金貪と銀瞋の二人は、現在は屋敷内にある地下牢に閉じ込めた黒冥翳魔の見張りを任されている。彼らも拝陸天から事前に話を伝えられていたため、煬鳳の体を借りた黒曜と凰黎が地下牢にやってくるとすぐにこれからなにをするかを理解した。
「小鳳坊ちゃま。話は殿下より伺っております。黒冥翳魔と会話をする際は、必ず我々が側にいることをお許しください。仮に外に連れ出すことがあった場合も、我等が同行するよう、仰せつかっております」
金貪と銀瞋の二人は跪拝して煬鳳……の姿をした黒曜に告げた。金貪と銀瞋は髪と目の色が違うだけで姿かたちはそっくり。金貪は黄金の髪を右側のほうだけ伸ばし、緩く頭の下で結わえている。はっきりと物を言うが、怒りっぽくはない。どちらかといえば冷静で落ち着いた印象をうける。
「もしも逃げようとしたらバッサリ一撃でけりをつけてやるから、安心しな」
「こら、銀瞋! 言葉遣いに気を付けろ」
「あー、へいへい。分かってるって。宜しくな、小鳳坊ちゃま」
一方の銀瞋は艶やかな銀髪を左側だけ伸ばし、耳と同じくらいの高さで結わえている。ずけずけとした物言いでキレやすく、宥める役目は金貪が常らしい。そんなところが少し子供っぽく感じるのは、彼が弟だからだろうか。
二人のやりとりを見て、黒曜は己の半身である弟のことを思い出さずにはいられない。彼の双子の弟もまた、顔がそっくりなこと以外、兄とは正反対の存在だったのだから。
『了承した。まずは……牢の外から離したいんだけど、いいかな?』
「畏まりました。こちらです」
『ところで二人ともとてもよく似てるけど、双子?』
「いえ、従兄同士です」
「……」
瓜二つでも、違うこともある。
二人は黒曜と凰黎を奥にある牢まで連れて行く。皇太子の別邸にある牢屋だけあって、牢屋とは思えないほど綺麗だし悪くないつくりをしている。
「随分綺麗なのですね」
「もちろんです、凰殿。我々は大きな罪を犯した者をここに閉じ込めるようなことはしません。あくまで一時的な措置のためにこの牢はあります」
「また、汚い牢では見張りも注意散漫になりがちなので、できるだけ清潔にするよう心掛けているのです」
金貪と銀瞋が交互に説明をしてくれたのだが、『汚い牢では見張りの注意も散漫に』とはなるほどなと得心がいき、思わず黒曜は薄笑いを浮かべてしまった。
「牢に入れられたものたちは、別段酷い生活を受けなければならないわけではないので、当然質素ながら食事もきちんと出ます。滅多に牢に入るものなどおりませんし、たまにいるのは酔っ払いすぎて暴れた者などですね」
『ははは……』
そりゃあ拷問にかける必要もないだろうし、扱いもそこまで悪くは無いかもしれない。
「ふん、来たのか」
黒冥翳魔はふてぶてしく牢屋の中に座っていた。黒曜と凰黎がやってきたのを見ると、頬杖をついたままニヤリと笑う。
『久しぶりだな、兄弟』
「誰が兄弟だ。……お前、煬鳳じゃないな?」
すぐさま黒冥翳魔は黒曜が煬鳳でないことに気づく。
『そうだ。俺は煬鳳の体を間借りしている、翳炎の一部に黒冥翳魔の魂が宿ったもの――つまりお前と同一の存在だ。今は黒曜って呼ばれてる』
「ああ、俺に襲い掛かってきたあの黒い烏か」
『……小さいときはそう見えるかもしれないが、霊力が増えると鳳凰に見える。煬鳳だって黒鳳君って呼ばれてるんだぞ』
烏と言われてカチンときた黒曜は、ふてぶてしく黒冥翳魔に言ってやった。目の前にいるのは自分の本体で、元は一つの人間のはずなのに何故こんなにも一挙一動で腹が立つものなのだろうか。
「今日は貴方とこれからの話をするためにやってきました」
二人の微妙な空気を察して、凰黎が横から口を出す。黒冥翳魔はそんな凰黎を面白くなさそうに眺めている。
「話って、なにが? 俺は何も協力する気はないぜ」
「そうはいきません。貴方は翳冥宮で一体なにが起こったのか、知りたいと思っているのでしょう?」
「そんなの調べたければ俺が自分で勝手に調べればいいだけだ」
「そうでしょうか?」
凰黎の目が光る。まるで黒冥翳魔の言葉から、なにかを見出したような目つきをしていた。
「貴方は自分で調べればいい、と言いましたけど、自分自身で百年以上前のことが分かるものか、と言いましたよね。なのにどうやって真実を見つけるつもりなのでしょう? 貴方の力は確かに以前は強かったかもしれません。ですが今は宿った体の影響もあって存分には力を出すことは難しいはず。……それ以前に、自分を見失い怒りに任せ暴れていたときの、己の身体も顧みずなりふり構わず力を使った貴方と、いくぶんか正気を取り戻した貴方とでは使える力の量にも差があるでしょう」
「見てきたように言うんだな」
「見てきたも何も、何度か顔を合わせているんです。それくらい分かります」
凰黎の言葉を面白くなさそうに黒冥翳魔は聞いている。
「まず――聞いていたでしょうが、煬鳳は皇太子殿下とは叔父甥の関係です。そして殿下は煬鳳のためなら協力は惜しまないとも言っておられます。なにより、翳冥宮の一件にもしも魔界の誰かが関わっているというのなら、全力で真実を突き止めると仰せになりました」
「だからって、それを信じろと言うのか?」
「何故信じられないと思うのですか? 当然ながら殿下は魔界の中でも高い地位に身を置かれています。身分があるものの言葉は大きな力と責任を持っているものです。少なくとも皇太子殿下は軽々しく違えるような約束を口にしたりはしない方だと思いますが」
「……」
黒冥翳魔は凰黎に言い返せる言葉が見つからないのか黙っている。黒曜は凰黎の方をみて『ちょっと良いか』と許可を求めた。
「お願いします」
凰黎が頷くと、黒曜は黒冥翳魔に向き直る。
『俺はあんたの一部だから、当時のことはもちろん分かってるつもりだ。ただ、凰黎には翳冥宮のあの一件のときに何故魔界が絡んでいると気づいたのか、まだ話していない。だから少し話したいんだけど、いいか?』
「俺に聞かなくても好きにすればいいだろう」
ふてぶてしく黒冥翳魔は言い捨てる。
『じゃ、凰黎。この前はこの件を秘密にしていて済まなかった。煬鳳の身元がまだはっきりしていない以上、先入観で両親のことを悪く思うようなことがあったらいけないと思ったんだ』
「貴方の心遣いに感謝します。煬鳳もきっとその話を聞いたら分かってくれると思いますよ」
『だといいな』
黒曜は頷く。
『さて、あの翳冥宮での殺戮の日――』
そこまで行ったとき、黒曜は黒冥翳魔の異変に気づいた。恐らくはその当時のことを思い出したのだろう。血が出るほどこぶしを握り締め、肩を震わせている。呼吸も少し危ういようだったので、これはまずいのではないかと黒曜は焦った。
「少し――中に入っても?」
黒曜が凰黎に声をかけようとした矢先に、凰黎が金貪と銀瞋に問う。
二人は少し躊躇っていたが、互いに顔を見合わせたあと、凰黎に「どうぞ」と頷いた。
凰黎は二人に礼を言って牢の中に入る。彼が一人で牢の中に入ることで人質に取られるのではないかと二人は危惧したようだったが、凰黎は「仮にそのようなことがあっても黒冥翳魔をねじ伏せてみせる」と言い切った。さすがにこれは横で聞いていた黒冥翳魔も不機嫌になっていたが、凰黎は「貴方が私に勝てるとでも?」と全く涼しい顔のままだった。
「やはり……」
強引に黒冥翳魔の動きを抑えた凰黎はそう呟く。
『なにがだ?』
黒曜が聞き返すと、凰黎が真剣な眼差しを向けた。
「黒冥翳魔の体が熱くなっています。……恐らく、彼も霊力を使ったことで翳炎が暴走したのでは……?」
「……たぶんな。……でもそれはこの体が、元々他の人間のものであるせいかもしれない」
「それにしたってこの上がり方はおかしいです。まるで煬鳳と同じように……」
そこまで言った凰黎ははっと口を噤む。
凰黎は黒冥翳魔の背中に手をあて、冷気を彼に注ぎ始めた。
「このままでは辛いでしょう。恐らくまた霊力を使ったらすぐに熱は上がるはず。……これは、いつごろから?」
「はっきり表れたのは彩鉱門の掌門の息子の体を頂いたときからだ。……それまでは死体の体を借りていたから、はっきりとは分からない。ただ、随分脆くて交換が早かった」
そうなると、実は死体に乗り移っていたときは気づかなかっただけで、蘇ったときから黒冥翳魔は霊力を使うと煬鳳と同じように翳炎の力が暴走していた可能性もある。
『それって……まさか』
拝陸天も煬鳳の体の半分は魔界の人間の血を引いているから、元々魔界からやってきたという翳冥宮の人間が使う翳炎と相性が良かった。そのせいで霊力が驚くほど増大してしまったのではないか、と言っていた。
煬鳳も事実そうだろうと考えていたはずだ。
しかし、今の黒冥翳魔の言葉と照らし合わせる限り――彼もまた自らの力が暴走して苦しんでいる。元々の体と同じように霊力を使えない体だから、というのはあるかもしれないが、二人とも似た症状なのは果たして偶然なのだろうか?
「体の熱のことは確かに気になります。しかし今できることは冷気で熱をさげることだけ。このことは一旦横に置いて、黒曜。続きをお願いします」
凰黎に促され、黒曜は先ほどの話がまだ途中だったことを思い出す。
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