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藕断糸連哥和弟(切っても切れぬ兄弟の絆)
062:堅物宮主(三)
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「待った。万晶鉱の宝剣で本当に原始の谷を開くことができるのか?」
凰神偉の言葉からすると、どちらともとれる言い方だった。もし本当に原始の谷を万晶鉱の宝剣で開くことができるのなら、凰神偉は絶対に宝剣を手放すことはできないだろう。
しかし、煬鳳の予想に反し凰神偉は首を振った。
「結論からいえば、未だその境地には到達していない。原始の谷の封印は神の力と魔の力、二つの相反する力によって施されている。解くときも当然、両方が必要なのだ。いくら原始の谷で生まれた万晶鉱といえど、そこを曲げて原始の谷の封印を解くことはできなかった」
「なら、万晶鉱を使っても絶対に封印を解くことは無理なんじゃないか?」
煬鳳の質問にあからさまに嫌な顔をした凰神偉だったが、すぐに表情を取り繕って言葉を続ける。
「――だからいま、対策を考えている」
最後の言葉は「それ以上尋ねるな」という感情が含まれていた。この恒凰宮において煬鳳は凰黎のおまけであって客人でもなんでもない――いわばお邪魔虫。余計な火種を増やすことは得策でない。そう考えた煬鳳は、それ以上尋ねることは止めにして黙ることに決め込んだ。
なにより、先ほどからひしひしと感じる凰神偉からの敵意。初めは煬鳳が黒冥翳魔の翳炎を宿しているからなのだと思っていたが、先ほどからのやり取りをみて確信した。
――弟についた悪い虫を見る目だ……。
ただでさえ堅物で面倒なのに、それにも増して面倒くさい。
「ともかくだ、阿黎。そなたの頼みを聞いてやりたいのはやまやまだが、我々もいま厳しい状況に立たされている。そちらが落ち着けば、考えてやらぬでもない」
貸す気がないわけではないのだが、恒凰宮としては宝剣をいま手放すわけにはいかないようだ。
(まあ、俺たちが万晶鉱を切り札だと思ってるように、あいつにとっても万晶鉱の短剣が切り札なんだろうな……)
少しでも可能性があるなら懸けてみたい。
そう思うのも無理はない。
「凰黎。お前が故郷に帰ってきたの十八年ぶりなんだろ?」
「はい」
煬鳳と凰黎の出会った日のことを思い出す。あのとき彼は家族に会いたいと、たった一人で蓬静嶺を抜け出したのだ。
その家族がいま、凰黎の目の前にいる。
「なら、積もる話もあるんじゃないか? 俺は先に鸞快子のところに戻ってるからさ、兄弟水入らずで少し話でもしたらどうだ?」
凰神偉の表情がぱっと明るくなったような気がした。あからさまに凰黎は眉を顰めたが、煬鳳は凰黎の背を叩き耳元で囁く。
「兄貴の機嫌が良くなったら、気が変わるかもしれないしさ。な?」
煬鳳がそういうと凰黎も渋々頷かざるを得ない。
「分かりました、ここに残ってもう少し兄上と話をしてから、戻ります」
「うん、待ってるからな」
煬鳳はそう言うと、凰神偉に向かって「じゃ、俺はこの辺で」と言って恒凰宮をあとにした。
* * *
恒凰宮に最も近い村は星霓峰の峰腹にある。普段から山には慣れた煬鳳ではあったが、一人であれこれと考えを巡らせながら降りたせいか、思いのほか時間がかかったかもしれない。
(鸞快子はここで待ってるって言ったけど、こんな何もないところでどうやって待っているつもりなんだろう?)
歩きながらそんな考えがよぎったが、辿り着いてみるとすぐにその疑問は解消した。
日差しを遮るように程良く枝葉が広げられた木の下、卓子が一台置かれている。座っているのは、まるで己の庭でもあるかのように落ち着いた佇まいの鸞快子。
それだけなら単に午後の優雅なひとときを過ごしているようにも見えるのだが、実際は少々異なっていて、端的に言えば奇妙だった。
鸞快子の周りは割って入ることもできぬほど、人だかりで埋め尽くされていたのだ。
そんな状態でも彼は全く驚く様子はなく、穏やかな笑みを浮かべて村人たちに受け答えをしている。村人はといえば、みな手に果物や食べ物、様々な物を持っていて一人ずつそれを鸞快子に渡しているようだ。しかも、卓子の上には既に山もりの食べ物や果物が置かれていて、積み切れずにころころと果物が転がり落ちる始末。
「いったい何があったんだ!?」
煬鳳が呆気にとられていると、鸞快子が煬鳳に気づいて手招きをした。
「早かったな。凰黎はどうした?」
「あんまり話がうまく進まなかったんで、俺だけ先に出て凰黎は兄貴と二人だけの時間を作るようにって言ってきたんだ」
「そうか。……とはいえ、いまの状況ではいかに兄が弟を想っていてもなかなか望みを叶えてやるのは難しいことだろうな」
「それって、この前言ってた『存在意義をなんとか』ってやつだろ? ……そうだ! あんたいったい何をしたらこんなことになるんだ!?」
いま、煬鳳たちの周りには人が溢れている。このまま恒凰宮の相談を具体的にするわけにもいかない。
「ああ、大したことではない。長年不作で悩んでいた者に少しばかり解決策を教え、悪い気が溜まっていた家の問題をちょっと解決したり、まあ色々とやったらお礼だと」
いったいどれほどの善行を積んだのかは分からないが、彼の周りに集まっている人たちは口々に感謝の言葉を述べながら彼のことを拝んでいる。
(もう、鸞大善人とか呼ばれる日も近いんじゃないかな……)
彼が立ち去ったあとには感謝の石碑でも立つかもしれない、そんなことを思う煬鳳だった。
さすがにこのままではまともに話もできないということで、鸞快子は皆を帰らせ向かいの椅子に煬鳳を座らせた。改めて二人向き合うと、鸞快子は煬鳳に問いかける。
「で、改めて聞かせてほしい。どうだった?」
「どうって言っても、さっき話した通りだ。凰神偉は万晶鉱の宝剣を鍵にして原始の谷を開こうとしてる。でも神と魔、二つの力がないと駄目だから結局のところ無理だったみたいだ」
「ふむ、だろうな」
「で。どうするのか聞いたら他の手を考えてるって言ってたけど、いまそれができていないってことは難しいんじゃないかな」
「そうだな。君の読みは正しい、煬鳳」
鸞快子は頷いた。
「恐らく凰神偉がやろうとしているのは、魔界の者に協力を仰ぐこと。翳冥宮の宮主の座に魔族の中から誰かを選んでもらうことだろう」
「魔界の者に!?」
「そう。翳冥宮の祖先が魔界の人間の血を引いているのなら、魔族の協力を取り付ければ原始の谷は開くと考えているのだ。正しいが、この案には問題がある」
「どんな?」
「いま、魔界は権力争いの渦中にある。魔界では魔界の皇帝――鬼燎帝と、その息子である皇太子が骨肉の争いを繰り広げていて、他所を助けるほど気楽な状況ではないということだ」
この世界には天界・人界・冥界の三界が存在するが、天界には仙界を含めたいくつかの、そして冥界にも魔界を含めたいくつかの階層が存在している。冥界はその特質上、長きに渡って絶えることのない争いを繰り返してきた。一時の平穏を手に入れてもすぐにひっくり返されてしまう、冥界とはそういう場所なのだ。
「あとはまあ、魔族を呼び寄せるということはそれなりの覚悟が必要だ。必ずしも彼らが人界のために尽力してくれるとは限らない。それこそ、彼らには何の得もないわけだからな。協力関係とは相互に利益があって初めて成せるもの。もう一つ付け加えるなら、本当にそれで原始の谷が開くのか?というところか」
「じゃ、そもそも恒凰宮の存在意義を見出すなんて無理な話だったんじゃないのか?」
「そんな顔をするな。誰も無理とは言っていない」
不貞腐れた煬鳳のことが可笑しかったのか、鸞快子は煬鳳の頬に手を伸ばす。微かに手が触れたところで煬鳳は慌てて鸞快子から距離をとった。
「何するんだ! そういうことして良いのは凰黎だけだからな!」
「ああ、すまない。あまりに可笑しくてつい手が伸びてしまった」
全く済まないと思っていない、楽しそうな声で鸞快子は笑っている。油断も隙も無い……!と憤りながらも煬鳳は先ほどの言葉を忘れてはいない。
「で、無理とは言っていないなら、じゃあどうしたらいいんだ?」
「焦るな。……その昔、翳冥宮の宮主になったという魔族は、魔界の人間の中でも特別な力を持った巫覡であったと言われている。では、彼らの中から翳冥宮の宮主として送ってもらうためにはどうしたらいいか?」
どう思う?と問いかける鸞快子の口元は笑っている。煬鳳はお手上げ、という仕草を添えて「どうしたらいいんだ?」と聞き返す。
「魔界で一番偉い者に頼むことだ」
「でも、それは凰神偉がやってるだろ?」
「それが遅々としてうまくいかないのは何故か? 魔界の皇帝である鬼燎帝と、その息子である拝陸天が権力争いをしているからだ。現在の魔界の皇帝は一代で九十一もの魔界にあった多数の国を纏め上げてしまった剛腕の持ち主。しかしやり方があまりに非道であると、周りからは反感を買っている」
話を聞きながら、なぜこの男はここまで魔界の事情に詳しいのだろうと訝しく思う。もしかすると彼自身も魔界と繋がりのある人間なのかもしれない。
「では対する皇太子の拝陸天はどうか? 彼は人界との和平をうたい、鬼燎帝のやり方に異を唱えている。これが争いの発端だ」
「もしかして!」
煬鳳は体を跳ね上げた。
「その皇太子と一緒に鬼燎帝を倒せば……!?」
「そこまでは言っていない。そもそも意気揚々と他の国の問題に介入などしたらそれこそ大変なことになるぞ」
「うっ……」
「私が言っているのは、話を聞いてくれそうな者にまず当たって今すぐでなくても良いから道を開いてもらうよう働きかけるということだ」
「今すぐじゃなくていいのか?」
凰神偉の言葉からすると、どちらともとれる言い方だった。もし本当に原始の谷を万晶鉱の宝剣で開くことができるのなら、凰神偉は絶対に宝剣を手放すことはできないだろう。
しかし、煬鳳の予想に反し凰神偉は首を振った。
「結論からいえば、未だその境地には到達していない。原始の谷の封印は神の力と魔の力、二つの相反する力によって施されている。解くときも当然、両方が必要なのだ。いくら原始の谷で生まれた万晶鉱といえど、そこを曲げて原始の谷の封印を解くことはできなかった」
「なら、万晶鉱を使っても絶対に封印を解くことは無理なんじゃないか?」
煬鳳の質問にあからさまに嫌な顔をした凰神偉だったが、すぐに表情を取り繕って言葉を続ける。
「――だからいま、対策を考えている」
最後の言葉は「それ以上尋ねるな」という感情が含まれていた。この恒凰宮において煬鳳は凰黎のおまけであって客人でもなんでもない――いわばお邪魔虫。余計な火種を増やすことは得策でない。そう考えた煬鳳は、それ以上尋ねることは止めにして黙ることに決め込んだ。
なにより、先ほどからひしひしと感じる凰神偉からの敵意。初めは煬鳳が黒冥翳魔の翳炎を宿しているからなのだと思っていたが、先ほどからのやり取りをみて確信した。
――弟についた悪い虫を見る目だ……。
ただでさえ堅物で面倒なのに、それにも増して面倒くさい。
「ともかくだ、阿黎。そなたの頼みを聞いてやりたいのはやまやまだが、我々もいま厳しい状況に立たされている。そちらが落ち着けば、考えてやらぬでもない」
貸す気がないわけではないのだが、恒凰宮としては宝剣をいま手放すわけにはいかないようだ。
(まあ、俺たちが万晶鉱を切り札だと思ってるように、あいつにとっても万晶鉱の短剣が切り札なんだろうな……)
少しでも可能性があるなら懸けてみたい。
そう思うのも無理はない。
「凰黎。お前が故郷に帰ってきたの十八年ぶりなんだろ?」
「はい」
煬鳳と凰黎の出会った日のことを思い出す。あのとき彼は家族に会いたいと、たった一人で蓬静嶺を抜け出したのだ。
その家族がいま、凰黎の目の前にいる。
「なら、積もる話もあるんじゃないか? 俺は先に鸞快子のところに戻ってるからさ、兄弟水入らずで少し話でもしたらどうだ?」
凰神偉の表情がぱっと明るくなったような気がした。あからさまに凰黎は眉を顰めたが、煬鳳は凰黎の背を叩き耳元で囁く。
「兄貴の機嫌が良くなったら、気が変わるかもしれないしさ。な?」
煬鳳がそういうと凰黎も渋々頷かざるを得ない。
「分かりました、ここに残ってもう少し兄上と話をしてから、戻ります」
「うん、待ってるからな」
煬鳳はそう言うと、凰神偉に向かって「じゃ、俺はこの辺で」と言って恒凰宮をあとにした。
* * *
恒凰宮に最も近い村は星霓峰の峰腹にある。普段から山には慣れた煬鳳ではあったが、一人であれこれと考えを巡らせながら降りたせいか、思いのほか時間がかかったかもしれない。
(鸞快子はここで待ってるって言ったけど、こんな何もないところでどうやって待っているつもりなんだろう?)
歩きながらそんな考えがよぎったが、辿り着いてみるとすぐにその疑問は解消した。
日差しを遮るように程良く枝葉が広げられた木の下、卓子が一台置かれている。座っているのは、まるで己の庭でもあるかのように落ち着いた佇まいの鸞快子。
それだけなら単に午後の優雅なひとときを過ごしているようにも見えるのだが、実際は少々異なっていて、端的に言えば奇妙だった。
鸞快子の周りは割って入ることもできぬほど、人だかりで埋め尽くされていたのだ。
そんな状態でも彼は全く驚く様子はなく、穏やかな笑みを浮かべて村人たちに受け答えをしている。村人はといえば、みな手に果物や食べ物、様々な物を持っていて一人ずつそれを鸞快子に渡しているようだ。しかも、卓子の上には既に山もりの食べ物や果物が置かれていて、積み切れずにころころと果物が転がり落ちる始末。
「いったい何があったんだ!?」
煬鳳が呆気にとられていると、鸞快子が煬鳳に気づいて手招きをした。
「早かったな。凰黎はどうした?」
「あんまり話がうまく進まなかったんで、俺だけ先に出て凰黎は兄貴と二人だけの時間を作るようにって言ってきたんだ」
「そうか。……とはいえ、いまの状況ではいかに兄が弟を想っていてもなかなか望みを叶えてやるのは難しいことだろうな」
「それって、この前言ってた『存在意義をなんとか』ってやつだろ? ……そうだ! あんたいったい何をしたらこんなことになるんだ!?」
いま、煬鳳たちの周りには人が溢れている。このまま恒凰宮の相談を具体的にするわけにもいかない。
「ああ、大したことではない。長年不作で悩んでいた者に少しばかり解決策を教え、悪い気が溜まっていた家の問題をちょっと解決したり、まあ色々とやったらお礼だと」
いったいどれほどの善行を積んだのかは分からないが、彼の周りに集まっている人たちは口々に感謝の言葉を述べながら彼のことを拝んでいる。
(もう、鸞大善人とか呼ばれる日も近いんじゃないかな……)
彼が立ち去ったあとには感謝の石碑でも立つかもしれない、そんなことを思う煬鳳だった。
さすがにこのままではまともに話もできないということで、鸞快子は皆を帰らせ向かいの椅子に煬鳳を座らせた。改めて二人向き合うと、鸞快子は煬鳳に問いかける。
「で、改めて聞かせてほしい。どうだった?」
「どうって言っても、さっき話した通りだ。凰神偉は万晶鉱の宝剣を鍵にして原始の谷を開こうとしてる。でも神と魔、二つの力がないと駄目だから結局のところ無理だったみたいだ」
「ふむ、だろうな」
「で。どうするのか聞いたら他の手を考えてるって言ってたけど、いまそれができていないってことは難しいんじゃないかな」
「そうだな。君の読みは正しい、煬鳳」
鸞快子は頷いた。
「恐らく凰神偉がやろうとしているのは、魔界の者に協力を仰ぐこと。翳冥宮の宮主の座に魔族の中から誰かを選んでもらうことだろう」
「魔界の者に!?」
「そう。翳冥宮の祖先が魔界の人間の血を引いているのなら、魔族の協力を取り付ければ原始の谷は開くと考えているのだ。正しいが、この案には問題がある」
「どんな?」
「いま、魔界は権力争いの渦中にある。魔界では魔界の皇帝――鬼燎帝と、その息子である皇太子が骨肉の争いを繰り広げていて、他所を助けるほど気楽な状況ではないということだ」
この世界には天界・人界・冥界の三界が存在するが、天界には仙界を含めたいくつかの、そして冥界にも魔界を含めたいくつかの階層が存在している。冥界はその特質上、長きに渡って絶えることのない争いを繰り返してきた。一時の平穏を手に入れてもすぐにひっくり返されてしまう、冥界とはそういう場所なのだ。
「あとはまあ、魔族を呼び寄せるということはそれなりの覚悟が必要だ。必ずしも彼らが人界のために尽力してくれるとは限らない。それこそ、彼らには何の得もないわけだからな。協力関係とは相互に利益があって初めて成せるもの。もう一つ付け加えるなら、本当にそれで原始の谷が開くのか?というところか」
「じゃ、そもそも恒凰宮の存在意義を見出すなんて無理な話だったんじゃないのか?」
「そんな顔をするな。誰も無理とは言っていない」
不貞腐れた煬鳳のことが可笑しかったのか、鸞快子は煬鳳の頬に手を伸ばす。微かに手が触れたところで煬鳳は慌てて鸞快子から距離をとった。
「何するんだ! そういうことして良いのは凰黎だけだからな!」
「ああ、すまない。あまりに可笑しくてつい手が伸びてしまった」
全く済まないと思っていない、楽しそうな声で鸞快子は笑っている。油断も隙も無い……!と憤りながらも煬鳳は先ほどの言葉を忘れてはいない。
「で、無理とは言っていないなら、じゃあどうしたらいいんだ?」
「焦るな。……その昔、翳冥宮の宮主になったという魔族は、魔界の人間の中でも特別な力を持った巫覡であったと言われている。では、彼らの中から翳冥宮の宮主として送ってもらうためにはどうしたらいいか?」
どう思う?と問いかける鸞快子の口元は笑っている。煬鳳はお手上げ、という仕草を添えて「どうしたらいいんだ?」と聞き返す。
「魔界で一番偉い者に頼むことだ」
「でも、それは凰神偉がやってるだろ?」
「それが遅々としてうまくいかないのは何故か? 魔界の皇帝である鬼燎帝と、その息子である拝陸天が権力争いをしているからだ。現在の魔界の皇帝は一代で九十一もの魔界にあった多数の国を纏め上げてしまった剛腕の持ち主。しかしやり方があまりに非道であると、周りからは反感を買っている」
話を聞きながら、なぜこの男はここまで魔界の事情に詳しいのだろうと訝しく思う。もしかすると彼自身も魔界と繋がりのある人間なのかもしれない。
「では対する皇太子の拝陸天はどうか? 彼は人界との和平をうたい、鬼燎帝のやり方に異を唱えている。これが争いの発端だ」
「もしかして!」
煬鳳は体を跳ね上げた。
「その皇太子と一緒に鬼燎帝を倒せば……!?」
「そこまでは言っていない。そもそも意気揚々と他の国の問題に介入などしたらそれこそ大変なことになるぞ」
「うっ……」
「私が言っているのは、話を聞いてくれそうな者にまず当たって今すぐでなくても良いから道を開いてもらうよう働きかけるということだ」
「今すぐじゃなくていいのか?」
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