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陳蔡之厄黒炎山(黒炎山での災難)
048:狐死首丘(六)
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「煬鳳、煬鳳」
優しい呼び声に、目を開けるとそこは凰黎の胸の中だった。どうやらいつの間にか凰黎の膝の上で眠っていたらしい。
「ん……凰黎……?」
体を起こそうとすれば、すぐ引き戻されて抱きしめられる。先ほど小黄が同じように凰黎の胸にしがみ付いていたことを思い出して、なんだかとても満たされた気持ちになってしまった。
(そんな場合じゃないのに……)
でもやっぱり、嬉しくて仕方ない。思わずどさくさに紛れて煬鳳は凰黎の胸に顔を埋めると、抱きしめ返す。
「あー、ごほん」
どうやら彩藍方が側で見ていたようだ。慌てて煬鳳が凰黎の上から降りて椅子に座りなおすと、彩藍方が淹れ直した茶を持って来たところだった。
「お前……暫く見ないうちにそんな甘えた顔するようになったんだな」
「へへへ……」
呆れたような、困ったような顔の彩藍方に、煬鳳は愛想笑いをすることしかできない。凰黎は特段気にした様子もなく、彩藍方の持って来た茶を飲んでいる。
「先ほど、黒曜の口から大体の事情を聞きました」
「黒曜から!?」
凰黎の言葉に驚いた煬鳳が叫ぶと、するりと黒曜が姿を現して煬鳳の肩に飛び乗った。
「詳しいことはあとで話しますが、おおかた我々がここに来た目的は、黒曜のお陰で達成されたともいえるでしょうね」
「一体何を言ったんだ? お前……」
『クエェ』
当然ながら黒曜は何も語らない。
「本当は詳しい話をしたいのですが、黒冥翳魔が我々を探しているとを考えれば、そろそろ彩鉱門を見つけてもおかしくはないでしょうね」
「どうする気だ?」
「彩鉱門の方は既に襲撃に備えていると言っていましたが……襲撃を待っていては彩鉱門に被害が及ぶでしょう。ここは先んじて打って出るのも悪くないと、私は考えます」
ちらりと凰黎は外に目を向ける。
庭では手を繋ぎ合った小黄と彩藍方の兄弟子とが二人で歩いていた。先ほど黒冥翳魔とやりあったときは凰黎も小黄がいる手前全力で戦うことができなかったが、煬鳳たちが外で戦うあいだ彩鉱門に預けておけば動きやすくなるだろう。
兄弟子は先ほどから右足を僅かに引きずっており、恐らく何か足に障りがあるのだと思われる。煬鳳の友である彩藍方以外の他の門弟たちは黒冥翳魔のことを警戒するために向かったが、恐らく足の悪い彼には不向きだと判断したのだろう。
「勝算はあるのか?」
「倒すことは諦めましょう」
「は?」
一瞬、凰黎が何を言っているのか分からずに煬鳳は聞き返してしまった。しかし凰黎の表情は至って真面目なものだ。
「勝つ必要はありません。なにせ相手は五行使いの中でも指折りの達人が五人集まっても完全に消し去ることができなかった存在ですよ。何の準備もない我々が戦って勝つには分が悪すぎます」
「凰黎と俺でも、勝てないっていうのか?」
「そうではありません。何より貴方の翳炎は、黒冥翳魔の翳炎と相性が悪いでしょう? 万に一つでも貴方ごと乗っ取られてしまったら、私はどうしたら良いんですか」
「うっ!」
痛いところを突かれてしまった。意気込んだものの、煬鳳の翳炎は黒冥翳魔との戦いでは使えないのだ。
「でも、一応俺も考えたんだ! 霊力を使わずにあいつと戦う方法!」
「それは頼もしいです。……ですが、もし黒冥翳魔と戦って勝てたとしても、消耗はするでしょうし手傷を負うことも免れないでしょう? いま、煬鳳は黒冥翳魔との繋がりを怪しまれていて、いつでもつるし上げることができるよう、虎視眈々と貴方の隙を狙っている者たちがいます。そんなときに手傷を負った状態では良いようにされるだけです」
「……」
思い出したくないことばかり指摘されて、耳が痛い。凰黎が懸念していることもまた事実。煬鳳の敵は黒冥翳魔だけではない、一部の五行盟の者たちもまた、煬鳳を貶める機会を狙っている。
「そうだよ、煬鳳!」
言葉に詰まった煬鳳を見かねたのか、慌てて彩藍方が体を乗り出した。
「俺たち彩鉱門の過去の話をしただろう? 彩鉱門は五行盟の一つだったにもかかわらず爪弾きにされて滅ぼされかけたんだ。あいつらは形は五行盟だって言っても自分の利益を優先させる奴らが一定数いる。絶対に弱みを見せたら駄目だ!」
その言葉を聞いて、煬鳳の中に何かが閃く。
(そういえば……)
煬鳳は清林峰が五行盟から離れた経緯のことを思い出したのだ。
清林峰と彩鉱門とでは事情が違うが、切っ掛けはよく似ている。どちらも噂が流れ、片方は襲撃の憂き目に遭い隠れ住むようになったし、片方は疎まれ糾弾されそうになって自ら消えてしまったことにしたのだ。
この二つのことには何か繋がりがあるのだろうか?
いや、しかし二つのことは時期がが離れすぎているだろう。今はそれどころではない。煬鳳は今の考えはいったん忘れることにして、これからのことを再び考えた。
「じゃあさ。迎え撃つとして、倒さないんだとしたらあいつにお帰り頂くってことだよな。凰黎は何か作戦があるのか?」
凰黎は微かに口元に笑みを湛えると、頷いた。
* * *
「そろそろ結界を破ろうかと思っていたところだ。まさかお前たちの方から姿を現すとは思わなかったな」
煬鳳たちが結界から出ると、黒冥翳魔が立っていた。どうやらいつでも乗り込むことはできるが、しばらくの猶予を与えていた、ということらしい。
凰黎は黒冥翳魔の姿を捉えると、すぐに叫んだ。
「どうやら我々のためにわざわざ待ってくださったようですね」
「暇人なんでね。それにどうせ結界から出なければ山から下りることもできないだろうし」
その推測は当たっている。彩鉱門の入り口は火山の中にはいくつかあるが、どれも山の中を移動する者であって、山の外に行くことはできない。その理由は外からの侵入者を防ぐためだ。そして一昼夜で作ることができるわけでもない。先ほどは彩藍方の作った陣のお陰で、別の場所から彩鉱門へと移動することができたのだが、あれは元々彩鉱門への入り口として使用した場所だった。噴火の際に崩れて使えなくなってしまったが、彩藍方が入り口を補完する形で陣を描いたお陰で、一時的に使えるようになっただけなのだ。
「それで、俺が素直にあんたに力を渡すと思うか? あの炎は俺が生まれてすぐに宿ったものだから、既にほとんど一体化してる。もう自分でもどうすることもできないし、何か手段があるくらいなら、逆に俺がその方法を知りたいくらいだ」
「なら仕方ないな。お前の体ごと、俺の物にするしかない」
黒冥翳魔は煬鳳の皮肉にも応じずに、笑う。
「混ざりものは良くないぞ? 何より黒曜はお前の元に戻ることを望んではいない。元は同じ人間でも、ずっと離れて違う環境で過ごしたんだ。もう別人と変わらない」
「ならばなおのこと、他人に配慮などする必要はないな。俺の元に戻ってこい!」
負けじと言い返した煬鳳だったが、やはり黒冥翳魔はその言葉を笑い飛ばし、そして煬鳳に向かって手を差し伸べた。
「冗談じゃない!」
言うや否や煬鳳は全力で上へと向かって走り出す。
「逃がすか!」
翳炎が黒冥翳魔から放たれた。瞬時に凰黎の佩びていた鞘から鋭い燐光が飛び出し、黒冥翳魔の炎を防御する。黒冥翳魔が一瞬動きを止めた隙にすぐさま凰黎も煬鳳のあとに続いた。
――本気で走って逃げるくらいなら、もっと別の方法を考える。これは単に、彩鉱門から黒冥翳魔を引き離すための作戦であって、本気で黒冥翳魔から逃げられるとも思ってはいない。そして、下ではなく何故上に向かっているかといえば、それも先ほど皆で相談した作戦の一つなのだ。
煬鳳は走りながら懐を探り、何枚かの呪符を取り出す。それは彩鉱門にいるあいだに、あらかじめ準備しておいた呪符だ。
必ずしも火口のまで行く必要はない。黒炎山の力を引き出すことができる場所なら、どこでもいいのだ。そのうちの一つ、それが彩鉱門が普段鍛造のために使用している洞窟だ。火山の地熱を利用して、より強くて質のいい剣を作り出すためには黒炎山の消えない炎は最適なのだと彩藍方は言っていた。
その熱を利用する、それが煬鳳たちの作戦だ。
――来た!
背後から凄まじい速度で追いかけてくる気配を感じる。煬鳳は凰黎に目くばせを送った。凰黎は素早く神侯を滑らせて、黒冥翳魔の影を地面に縫い付ける。
「なんだと!?」
黒冥翳魔の動きが突然止まった。
否、止まったのではなく、動けないのだ。凰黎の放った六振りの神侯は、黒冥翳魔の足元で輝きを放つ。
「即席で足止めの陣を作ったのか? こんな子供だましの小細工をして、効果があると思っているのか?」
「でも、足止めくらいにはなるだろう?」
煬鳳の言葉通り、普通の力で凰黎が作った拘束を解くことは難しい。それでも黒冥翳魔が本気を出せばすぐに解ける程度の威力ではあるが、必要な時間はさほど多くはない、蓆十分すぎるくらいだろう。煬鳳は手早く剣訣を按じ、手にした呪符に霊力を込める。霊力によって朱い火の粉が呪符から舞い上がり、煬鳳は素早く呪符を投げつけた。
急激に周囲の地熱が上昇の兆しを見せ始め、黒冥翳魔の足元からは翳炎が吹き上がる。
優しい呼び声に、目を開けるとそこは凰黎の胸の中だった。どうやらいつの間にか凰黎の膝の上で眠っていたらしい。
「ん……凰黎……?」
体を起こそうとすれば、すぐ引き戻されて抱きしめられる。先ほど小黄が同じように凰黎の胸にしがみ付いていたことを思い出して、なんだかとても満たされた気持ちになってしまった。
(そんな場合じゃないのに……)
でもやっぱり、嬉しくて仕方ない。思わずどさくさに紛れて煬鳳は凰黎の胸に顔を埋めると、抱きしめ返す。
「あー、ごほん」
どうやら彩藍方が側で見ていたようだ。慌てて煬鳳が凰黎の上から降りて椅子に座りなおすと、彩藍方が淹れ直した茶を持って来たところだった。
「お前……暫く見ないうちにそんな甘えた顔するようになったんだな」
「へへへ……」
呆れたような、困ったような顔の彩藍方に、煬鳳は愛想笑いをすることしかできない。凰黎は特段気にした様子もなく、彩藍方の持って来た茶を飲んでいる。
「先ほど、黒曜の口から大体の事情を聞きました」
「黒曜から!?」
凰黎の言葉に驚いた煬鳳が叫ぶと、するりと黒曜が姿を現して煬鳳の肩に飛び乗った。
「詳しいことはあとで話しますが、おおかた我々がここに来た目的は、黒曜のお陰で達成されたともいえるでしょうね」
「一体何を言ったんだ? お前……」
『クエェ』
当然ながら黒曜は何も語らない。
「本当は詳しい話をしたいのですが、黒冥翳魔が我々を探しているとを考えれば、そろそろ彩鉱門を見つけてもおかしくはないでしょうね」
「どうする気だ?」
「彩鉱門の方は既に襲撃に備えていると言っていましたが……襲撃を待っていては彩鉱門に被害が及ぶでしょう。ここは先んじて打って出るのも悪くないと、私は考えます」
ちらりと凰黎は外に目を向ける。
庭では手を繋ぎ合った小黄と彩藍方の兄弟子とが二人で歩いていた。先ほど黒冥翳魔とやりあったときは凰黎も小黄がいる手前全力で戦うことができなかったが、煬鳳たちが外で戦うあいだ彩鉱門に預けておけば動きやすくなるだろう。
兄弟子は先ほどから右足を僅かに引きずっており、恐らく何か足に障りがあるのだと思われる。煬鳳の友である彩藍方以外の他の門弟たちは黒冥翳魔のことを警戒するために向かったが、恐らく足の悪い彼には不向きだと判断したのだろう。
「勝算はあるのか?」
「倒すことは諦めましょう」
「は?」
一瞬、凰黎が何を言っているのか分からずに煬鳳は聞き返してしまった。しかし凰黎の表情は至って真面目なものだ。
「勝つ必要はありません。なにせ相手は五行使いの中でも指折りの達人が五人集まっても完全に消し去ることができなかった存在ですよ。何の準備もない我々が戦って勝つには分が悪すぎます」
「凰黎と俺でも、勝てないっていうのか?」
「そうではありません。何より貴方の翳炎は、黒冥翳魔の翳炎と相性が悪いでしょう? 万に一つでも貴方ごと乗っ取られてしまったら、私はどうしたら良いんですか」
「うっ!」
痛いところを突かれてしまった。意気込んだものの、煬鳳の翳炎は黒冥翳魔との戦いでは使えないのだ。
「でも、一応俺も考えたんだ! 霊力を使わずにあいつと戦う方法!」
「それは頼もしいです。……ですが、もし黒冥翳魔と戦って勝てたとしても、消耗はするでしょうし手傷を負うことも免れないでしょう? いま、煬鳳は黒冥翳魔との繋がりを怪しまれていて、いつでもつるし上げることができるよう、虎視眈々と貴方の隙を狙っている者たちがいます。そんなときに手傷を負った状態では良いようにされるだけです」
「……」
思い出したくないことばかり指摘されて、耳が痛い。凰黎が懸念していることもまた事実。煬鳳の敵は黒冥翳魔だけではない、一部の五行盟の者たちもまた、煬鳳を貶める機会を狙っている。
「そうだよ、煬鳳!」
言葉に詰まった煬鳳を見かねたのか、慌てて彩藍方が体を乗り出した。
「俺たち彩鉱門の過去の話をしただろう? 彩鉱門は五行盟の一つだったにもかかわらず爪弾きにされて滅ぼされかけたんだ。あいつらは形は五行盟だって言っても自分の利益を優先させる奴らが一定数いる。絶対に弱みを見せたら駄目だ!」
その言葉を聞いて、煬鳳の中に何かが閃く。
(そういえば……)
煬鳳は清林峰が五行盟から離れた経緯のことを思い出したのだ。
清林峰と彩鉱門とでは事情が違うが、切っ掛けはよく似ている。どちらも噂が流れ、片方は襲撃の憂き目に遭い隠れ住むようになったし、片方は疎まれ糾弾されそうになって自ら消えてしまったことにしたのだ。
この二つのことには何か繋がりがあるのだろうか?
いや、しかし二つのことは時期がが離れすぎているだろう。今はそれどころではない。煬鳳は今の考えはいったん忘れることにして、これからのことを再び考えた。
「じゃあさ。迎え撃つとして、倒さないんだとしたらあいつにお帰り頂くってことだよな。凰黎は何か作戦があるのか?」
凰黎は微かに口元に笑みを湛えると、頷いた。
* * *
「そろそろ結界を破ろうかと思っていたところだ。まさかお前たちの方から姿を現すとは思わなかったな」
煬鳳たちが結界から出ると、黒冥翳魔が立っていた。どうやらいつでも乗り込むことはできるが、しばらくの猶予を与えていた、ということらしい。
凰黎は黒冥翳魔の姿を捉えると、すぐに叫んだ。
「どうやら我々のためにわざわざ待ってくださったようですね」
「暇人なんでね。それにどうせ結界から出なければ山から下りることもできないだろうし」
その推測は当たっている。彩鉱門の入り口は火山の中にはいくつかあるが、どれも山の中を移動する者であって、山の外に行くことはできない。その理由は外からの侵入者を防ぐためだ。そして一昼夜で作ることができるわけでもない。先ほどは彩藍方の作った陣のお陰で、別の場所から彩鉱門へと移動することができたのだが、あれは元々彩鉱門への入り口として使用した場所だった。噴火の際に崩れて使えなくなってしまったが、彩藍方が入り口を補完する形で陣を描いたお陰で、一時的に使えるようになっただけなのだ。
「それで、俺が素直にあんたに力を渡すと思うか? あの炎は俺が生まれてすぐに宿ったものだから、既にほとんど一体化してる。もう自分でもどうすることもできないし、何か手段があるくらいなら、逆に俺がその方法を知りたいくらいだ」
「なら仕方ないな。お前の体ごと、俺の物にするしかない」
黒冥翳魔は煬鳳の皮肉にも応じずに、笑う。
「混ざりものは良くないぞ? 何より黒曜はお前の元に戻ることを望んではいない。元は同じ人間でも、ずっと離れて違う環境で過ごしたんだ。もう別人と変わらない」
「ならばなおのこと、他人に配慮などする必要はないな。俺の元に戻ってこい!」
負けじと言い返した煬鳳だったが、やはり黒冥翳魔はその言葉を笑い飛ばし、そして煬鳳に向かって手を差し伸べた。
「冗談じゃない!」
言うや否や煬鳳は全力で上へと向かって走り出す。
「逃がすか!」
翳炎が黒冥翳魔から放たれた。瞬時に凰黎の佩びていた鞘から鋭い燐光が飛び出し、黒冥翳魔の炎を防御する。黒冥翳魔が一瞬動きを止めた隙にすぐさま凰黎も煬鳳のあとに続いた。
――本気で走って逃げるくらいなら、もっと別の方法を考える。これは単に、彩鉱門から黒冥翳魔を引き離すための作戦であって、本気で黒冥翳魔から逃げられるとも思ってはいない。そして、下ではなく何故上に向かっているかといえば、それも先ほど皆で相談した作戦の一つなのだ。
煬鳳は走りながら懐を探り、何枚かの呪符を取り出す。それは彩鉱門にいるあいだに、あらかじめ準備しておいた呪符だ。
必ずしも火口のまで行く必要はない。黒炎山の力を引き出すことができる場所なら、どこでもいいのだ。そのうちの一つ、それが彩鉱門が普段鍛造のために使用している洞窟だ。火山の地熱を利用して、より強くて質のいい剣を作り出すためには黒炎山の消えない炎は最適なのだと彩藍方は言っていた。
その熱を利用する、それが煬鳳たちの作戦だ。
――来た!
背後から凄まじい速度で追いかけてくる気配を感じる。煬鳳は凰黎に目くばせを送った。凰黎は素早く神侯を滑らせて、黒冥翳魔の影を地面に縫い付ける。
「なんだと!?」
黒冥翳魔の動きが突然止まった。
否、止まったのではなく、動けないのだ。凰黎の放った六振りの神侯は、黒冥翳魔の足元で輝きを放つ。
「即席で足止めの陣を作ったのか? こんな子供だましの小細工をして、効果があると思っているのか?」
「でも、足止めくらいにはなるだろう?」
煬鳳の言葉通り、普通の力で凰黎が作った拘束を解くことは難しい。それでも黒冥翳魔が本気を出せばすぐに解ける程度の威力ではあるが、必要な時間はさほど多くはない、蓆十分すぎるくらいだろう。煬鳳は手早く剣訣を按じ、手にした呪符に霊力を込める。霊力によって朱い火の粉が呪符から舞い上がり、煬鳳は素早く呪符を投げつけた。
急激に周囲の地熱が上昇の兆しを見せ始め、黒冥翳魔の足元からは翳炎が吹き上がる。
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