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千山万水五行盟(旅の始まり)
020:慧可断臂(二)
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凰黎の作った朝餉を食べたあと、煬鳳は凰黎と共に小屋を出立した。
州と州を分断する巨大な大河を船で縦断し、凰黎の金で上等な馬車に乗った煬鳳は、ようやく体の力を抜いて息を吐く。州を分断する大河を渡ったということは、少なくとも徨州の外に出たことになる。
「まさかこんなに遠出するなんて……」
案外出不精で手近な範囲しか出歩いたことが無かったため、船に乗ったのも生まれてこのかた今日が初めてだ。
この大陸は『九州[*1]』という名の通り、九つの地域に分かれており、そのうちの一繋ぎに連なっている三州を人々は『睡龍の地』と呼ぶ。由来は単純で、かつて災いをもたらした強大な龍が倒れ伏し、眠りについた場所からだ。
北の冽州、その下に垂州、最南方に煬鳳たちが暮らす徨州。
他国の国王たちは龍の災いを恐れ、この地に侵攻しようとはしない。いつ恐ろしい龍が目覚めるとも分からぬ不安から、三州の外に住まう人々はこの地を『不可侵の睡龍』と呼び、眠れる龍を刺激することのないよう互いに牽制しながら介入を避けている。
それゆえ――結果としてこの睡龍の地は最も危険な場所でありながら、他国から狙われることのない奇妙な平穏を保っているというわけだ。
……今のところは。
あくまで表面的には。
船を降りたあと馬車を呼び止めた凰黎は随分と手馴れた様子だった。共に暮らすようになってから凰黎が遠くに出かけたことは滅多になかったが、もしかすると以前はこうして遥か向こうまで出向くことも多かったのかもしれない。土地慣れした印象の凰黎の姿から、煬鳳はそう思った。
「なんか、窮屈だな……」
首元を締める感覚に耐え切れず、煬鳳は襟を広げようとする。
これから一体どこに行こうとしているのか、凰黎はまだ説明をしていない。ただ、彼が妙に小綺麗な服を煬鳳に着せようとしていることから、見た目に気を使う場所であることは間違いないだろう。
普段より口数が少ないのは、やはり今朝のことを考えあぐねているからなのか、それともこれから行く先のことを考えて緊張しているのか。
少なからず凰黎が多少なり緊張していることは伝わってくる。
(とはいったって……)
随分と念入りに支度をさせられたものだ。煬鳳は緩やかな袖を目の前に広げながら、改めて自分の姿を確認する。黒くて滑らかな生地で仕立てられた衣は、随所に銀糸の刺繍が散りばめられており、夜空を思わせる美しさだ。控えめな白銀色の襟元も精細な模様がきらきらと輝いていて、首回りを際立たせている。どこをとっても申し分ないほどに上品で、およそ煬鳳には勿体ない代物だ。
さらにいうなら――普段は適当な紐で結わうだけの髪も、綺麗な飾り紐と立派な銀の髪飾りが着いている。
――ちょっと気合い入れ過ぎじゃないか?
そんなことも思ったのだが、凰黎は煬鳳の言葉に耳を貸す様子もなかった。
揺られる馬車の中、凰黎は普段と変わらぬ表情で煬鳳の向かいに座っている。服装も煬鳳とは違っていつもとそう大きく変わっている様子はなく、上品な薄青と深い青で纏められた出で立ちだ。とはいえ煬鳳と違っているのは、凰黎は普段から服装に気を使っていて、その姿のままどんな高貴な場所を訪れても違和感は無いだろうということだった。
煬鳳には分かっている。
なぜ自分だけが着替えさせられたのかといえば……。
――そりゃ、普段の服装じゃみっともない……ってことなんだろうな……。
としか思えなかった。
確かに最近は多少ましになったとはいえ、凰黎が言わなければ大概着の身着のままでだし、自ら小綺麗で洒落た服を着ようなどと思うことはない。凰黎と暮らす前までどうだったかといえば……思い出すのも恥ずかしいが、無駄にトゲトゲしいものや肩幅が大きく見えるような厳つい服。脳裏に浮かんだだけでも死にたくなるような光景ばかりだった。
できることならそんな恥ずかしい格好をしていた自分の記憶も周りの人間の記憶も、全て消してしまいたい。
「煬鳳」
ようやく凰黎が顔をあげた。
「何だ?」
「これから行く場所について、話しておこうと思います」
ついにようやくこのときが来たか。先ほどからいつ聞くべきだろうか、とうずうずしていた。
それでも凰黎が深刻そうな顔をしていたので、凰黎が口を開くまでは、とずっと我慢していたのだ。
「これから私たちが向かうのは垂州にある『五行盟』の本部です」
「五行盟!? なんだそれ!?」
「一度くらいは聞いたことありませんか?」
煬鳳は首を振る。
世俗のことにはとんと疎い。さらにいうならば煬鳳たちのいる徨州は、その他の場所に比べると些か都からは遠い、いわば『田舎』である。
凰黎は苦笑すると「では一から説明しましょうか」と言う。
「まず――五行盟というのは、五行使いの門派で構成された同盟のことです。」
「五行って……昨日言ってたあれか?」
「その通りです。そして五行使いの中でも頂点に君臨する五つの門派――それが五行盟なのです。なぜ私がそこに行くかというと……蓬静嶺は五行盟のひとつである『水』の門派だからですよ」
「……」
知らなかった。
蓬静嶺がそれなりに由緒正しいということは、煬鳳でもさすがに知ってはいたが、今日初めて聞く同盟の、しかも五行のひとつを司る門派のひとつであったとは、全く知らなかったのだ。
そう考えると、蓬静嶺の嶺主がいつも他の中小門派に比べて格式高い雰囲気に見えるのも少しばかり納得がいく。……ような気がする。
「五行盟自体を知らない煬鳳も、大なり小なり門派の名前は知っていると思いますが、その他の門派は火行の瞋砂門、土行の雪岑谷、それに煬鳳も浅からぬ縁がある――木行の霆雷門。これらを合わせたものが五行盟、というわけです」
「げっ、霆雷門が!? っていうか、あそこは五行盟のひとつだったのか!?」
思わず煬鳳は嫌そうな声を出してしまった。
なぜ凰黎がそう言ったかといえば、煬鳳にとっては霆雷門の掌門とはちょっとした因縁があるからだ。あるとき蓬静嶺にいくつかの門派が宴に招かれたことがあった。意外にも煬鳳はその他大勢の小さい門派にも関わらず、蓬静嶺に呼ばれたのだ。
今思えば、あれは嶺主に頼んで凰黎が呼んだのかもしれないと煬鳳は思う。
兎に角そのとき招かれた来客の中に、かの雷閃候もいたというわけだ。
霆雷門の掌門は雷閃候といい、これがまたとんでもなく気性が激しい男だった。今思えば煬鳳にも非があるのだが、初対面の煬鳳に対して「態度が悪い」「礼儀が無い」「生意気」などの罵声を浴びせかけた。
はっきりいって、当時の煬鳳の態度はまさにその通りであったので、今なら頭を下げて詫びに詫びるところだ。
しかし、当時の煬鳳は凰黎いわく「ごろつき」であったり「山賊と変わらない」ような門派の掌門だったため、正面から雷閃候の喧嘩を買ってしまった。しかも、彼に対して術も霊力も一切使わずに叩きのめしてしまった。
雷閃候は気性が激しい上に自尊心も相当高かったため、煬鳳はかなり彼に恨まれる羽目になってしまったのだ。
その恨みがいかほどかといえば、今でも季節の変わる頃に嫌がらせの――およそ調理方法の見つからないような珍しい食べ物であったり、絶対に飾ることのなさそうな雅な書画など、おかしな贈り物を玄烏門宛に贈ってくるほど。
凰黎いわく「これは逆に……一周半ほど回ったある種の好意なのでは……」などと複雑な顔で言ってくる。
そもそもなぜ木行なのに雷なのか。そこにまず突っ込みたいが凰黎いわく木行に雷は含まれるのだそうだ。
「ってことは、あいつも本部に来るのか!? やだな。俺、どんな顔してあいつに会えばいいんだよ」
正直うんざりだ――煬鳳は思わず顔を引きつらせてしまった。対する凰黎は涼しい顔だ。
「大丈夫ですよ。我々は彼に付き合っているほど暇ではありません。もし、しつこいようなら私の方からしっかり言い含めます」
などと、表情一つ変えずに言い切った。
凰黎が断言するときは、絶対にそれを成し遂げるときだ。だから、万が一にも雷閃候が凰黎の制止をきかないようならば……考えるだに恐ろしい。
凰黎は言葉を続ける。
「さて。五行盟たる所以ですが……その昔、この地に災いをもたらしたと言い伝えられている『黒冥翳魔』を討ち取ったのが、蓬静嶺を含めた五つの門派。ふたたび世に大きな災いが起こったときは、もう一度五つの力を合わせて立ち向かえるようにと結成されたのが五行盟の発端というわけです」
「黒冥翳魔って?」
「我々が生まれるよりずっと前。……およそ百数十年ほど前に現れてこの睡龍の地に災いをもたらしたと伝えられる存在です。詳しくは語られていませんが、走火入魔に陥ったとも心魔にとらわれたともいわれ、燃え尽きぬ炎を燃やしながら辺り一帯を燃やし尽くし、顔からは血の涙を流していたとか」
「知らなかった……凰黎は何でも知ってるんだな」
言ってから気づいたが、生まれる前のことなど煬鳳が知るわけもない。勤勉な凰黎ならともかくとして、煬鳳はまともに学問も歴史も教えられたことはなかったし、自ら調べて学ぼうとも思わなかった。
「まあ、五行盟の一つとして、幼い頃より学ばされましたので」
生まれの差というのはこういうところに現れるものだ。つくづく煬鳳は思い知らされる。かたや由緒ある門派の次期嶺主、かたや生まれたときから孤独な身の上。そもそもの土台が違いすぎる……などと思わず煬鳳は思ってしまった。
――――――
[*1]九州……九州地方とは別。
州と州を分断する巨大な大河を船で縦断し、凰黎の金で上等な馬車に乗った煬鳳は、ようやく体の力を抜いて息を吐く。州を分断する大河を渡ったということは、少なくとも徨州の外に出たことになる。
「まさかこんなに遠出するなんて……」
案外出不精で手近な範囲しか出歩いたことが無かったため、船に乗ったのも生まれてこのかた今日が初めてだ。
この大陸は『九州[*1]』という名の通り、九つの地域に分かれており、そのうちの一繋ぎに連なっている三州を人々は『睡龍の地』と呼ぶ。由来は単純で、かつて災いをもたらした強大な龍が倒れ伏し、眠りについた場所からだ。
北の冽州、その下に垂州、最南方に煬鳳たちが暮らす徨州。
他国の国王たちは龍の災いを恐れ、この地に侵攻しようとはしない。いつ恐ろしい龍が目覚めるとも分からぬ不安から、三州の外に住まう人々はこの地を『不可侵の睡龍』と呼び、眠れる龍を刺激することのないよう互いに牽制しながら介入を避けている。
それゆえ――結果としてこの睡龍の地は最も危険な場所でありながら、他国から狙われることのない奇妙な平穏を保っているというわけだ。
……今のところは。
あくまで表面的には。
船を降りたあと馬車を呼び止めた凰黎は随分と手馴れた様子だった。共に暮らすようになってから凰黎が遠くに出かけたことは滅多になかったが、もしかすると以前はこうして遥か向こうまで出向くことも多かったのかもしれない。土地慣れした印象の凰黎の姿から、煬鳳はそう思った。
「なんか、窮屈だな……」
首元を締める感覚に耐え切れず、煬鳳は襟を広げようとする。
これから一体どこに行こうとしているのか、凰黎はまだ説明をしていない。ただ、彼が妙に小綺麗な服を煬鳳に着せようとしていることから、見た目に気を使う場所であることは間違いないだろう。
普段より口数が少ないのは、やはり今朝のことを考えあぐねているからなのか、それともこれから行く先のことを考えて緊張しているのか。
少なからず凰黎が多少なり緊張していることは伝わってくる。
(とはいったって……)
随分と念入りに支度をさせられたものだ。煬鳳は緩やかな袖を目の前に広げながら、改めて自分の姿を確認する。黒くて滑らかな生地で仕立てられた衣は、随所に銀糸の刺繍が散りばめられており、夜空を思わせる美しさだ。控えめな白銀色の襟元も精細な模様がきらきらと輝いていて、首回りを際立たせている。どこをとっても申し分ないほどに上品で、およそ煬鳳には勿体ない代物だ。
さらにいうなら――普段は適当な紐で結わうだけの髪も、綺麗な飾り紐と立派な銀の髪飾りが着いている。
――ちょっと気合い入れ過ぎじゃないか?
そんなことも思ったのだが、凰黎は煬鳳の言葉に耳を貸す様子もなかった。
揺られる馬車の中、凰黎は普段と変わらぬ表情で煬鳳の向かいに座っている。服装も煬鳳とは違っていつもとそう大きく変わっている様子はなく、上品な薄青と深い青で纏められた出で立ちだ。とはいえ煬鳳と違っているのは、凰黎は普段から服装に気を使っていて、その姿のままどんな高貴な場所を訪れても違和感は無いだろうということだった。
煬鳳には分かっている。
なぜ自分だけが着替えさせられたのかといえば……。
――そりゃ、普段の服装じゃみっともない……ってことなんだろうな……。
としか思えなかった。
確かに最近は多少ましになったとはいえ、凰黎が言わなければ大概着の身着のままでだし、自ら小綺麗で洒落た服を着ようなどと思うことはない。凰黎と暮らす前までどうだったかといえば……思い出すのも恥ずかしいが、無駄にトゲトゲしいものや肩幅が大きく見えるような厳つい服。脳裏に浮かんだだけでも死にたくなるような光景ばかりだった。
できることならそんな恥ずかしい格好をしていた自分の記憶も周りの人間の記憶も、全て消してしまいたい。
「煬鳳」
ようやく凰黎が顔をあげた。
「何だ?」
「これから行く場所について、話しておこうと思います」
ついにようやくこのときが来たか。先ほどからいつ聞くべきだろうか、とうずうずしていた。
それでも凰黎が深刻そうな顔をしていたので、凰黎が口を開くまでは、とずっと我慢していたのだ。
「これから私たちが向かうのは垂州にある『五行盟』の本部です」
「五行盟!? なんだそれ!?」
「一度くらいは聞いたことありませんか?」
煬鳳は首を振る。
世俗のことにはとんと疎い。さらにいうならば煬鳳たちのいる徨州は、その他の場所に比べると些か都からは遠い、いわば『田舎』である。
凰黎は苦笑すると「では一から説明しましょうか」と言う。
「まず――五行盟というのは、五行使いの門派で構成された同盟のことです。」
「五行って……昨日言ってたあれか?」
「その通りです。そして五行使いの中でも頂点に君臨する五つの門派――それが五行盟なのです。なぜ私がそこに行くかというと……蓬静嶺は五行盟のひとつである『水』の門派だからですよ」
「……」
知らなかった。
蓬静嶺がそれなりに由緒正しいということは、煬鳳でもさすがに知ってはいたが、今日初めて聞く同盟の、しかも五行のひとつを司る門派のひとつであったとは、全く知らなかったのだ。
そう考えると、蓬静嶺の嶺主がいつも他の中小門派に比べて格式高い雰囲気に見えるのも少しばかり納得がいく。……ような気がする。
「五行盟自体を知らない煬鳳も、大なり小なり門派の名前は知っていると思いますが、その他の門派は火行の瞋砂門、土行の雪岑谷、それに煬鳳も浅からぬ縁がある――木行の霆雷門。これらを合わせたものが五行盟、というわけです」
「げっ、霆雷門が!? っていうか、あそこは五行盟のひとつだったのか!?」
思わず煬鳳は嫌そうな声を出してしまった。
なぜ凰黎がそう言ったかといえば、煬鳳にとっては霆雷門の掌門とはちょっとした因縁があるからだ。あるとき蓬静嶺にいくつかの門派が宴に招かれたことがあった。意外にも煬鳳はその他大勢の小さい門派にも関わらず、蓬静嶺に呼ばれたのだ。
今思えば、あれは嶺主に頼んで凰黎が呼んだのかもしれないと煬鳳は思う。
兎に角そのとき招かれた来客の中に、かの雷閃候もいたというわけだ。
霆雷門の掌門は雷閃候といい、これがまたとんでもなく気性が激しい男だった。今思えば煬鳳にも非があるのだが、初対面の煬鳳に対して「態度が悪い」「礼儀が無い」「生意気」などの罵声を浴びせかけた。
はっきりいって、当時の煬鳳の態度はまさにその通りであったので、今なら頭を下げて詫びに詫びるところだ。
しかし、当時の煬鳳は凰黎いわく「ごろつき」であったり「山賊と変わらない」ような門派の掌門だったため、正面から雷閃候の喧嘩を買ってしまった。しかも、彼に対して術も霊力も一切使わずに叩きのめしてしまった。
雷閃候は気性が激しい上に自尊心も相当高かったため、煬鳳はかなり彼に恨まれる羽目になってしまったのだ。
その恨みがいかほどかといえば、今でも季節の変わる頃に嫌がらせの――およそ調理方法の見つからないような珍しい食べ物であったり、絶対に飾ることのなさそうな雅な書画など、おかしな贈り物を玄烏門宛に贈ってくるほど。
凰黎いわく「これは逆に……一周半ほど回ったある種の好意なのでは……」などと複雑な顔で言ってくる。
そもそもなぜ木行なのに雷なのか。そこにまず突っ込みたいが凰黎いわく木行に雷は含まれるのだそうだ。
「ってことは、あいつも本部に来るのか!? やだな。俺、どんな顔してあいつに会えばいいんだよ」
正直うんざりだ――煬鳳は思わず顔を引きつらせてしまった。対する凰黎は涼しい顔だ。
「大丈夫ですよ。我々は彼に付き合っているほど暇ではありません。もし、しつこいようなら私の方からしっかり言い含めます」
などと、表情一つ変えずに言い切った。
凰黎が断言するときは、絶対にそれを成し遂げるときだ。だから、万が一にも雷閃候が凰黎の制止をきかないようならば……考えるだに恐ろしい。
凰黎は言葉を続ける。
「さて。五行盟たる所以ですが……その昔、この地に災いをもたらしたと言い伝えられている『黒冥翳魔』を討ち取ったのが、蓬静嶺を含めた五つの門派。ふたたび世に大きな災いが起こったときは、もう一度五つの力を合わせて立ち向かえるようにと結成されたのが五行盟の発端というわけです」
「黒冥翳魔って?」
「我々が生まれるよりずっと前。……およそ百数十年ほど前に現れてこの睡龍の地に災いをもたらしたと伝えられる存在です。詳しくは語られていませんが、走火入魔に陥ったとも心魔にとらわれたともいわれ、燃え尽きぬ炎を燃やしながら辺り一帯を燃やし尽くし、顔からは血の涙を流していたとか」
「知らなかった……凰黎は何でも知ってるんだな」
言ってから気づいたが、生まれる前のことなど煬鳳が知るわけもない。勤勉な凰黎ならともかくとして、煬鳳はまともに学問も歴史も教えられたことはなかったし、自ら調べて学ぼうとも思わなかった。
「まあ、五行盟の一つとして、幼い頃より学ばされましたので」
生まれの差というのはこういうところに現れるものだ。つくづく煬鳳は思い知らされる。かたや由緒ある門派の次期嶺主、かたや生まれたときから孤独な身の上。そもそもの土台が違いすぎる……などと思わず煬鳳は思ってしまった。
――――――
[*1]九州……九州地方とは別。
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