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幸せの話
しおりを挟む「マシュー、どうしたの?元気がないわね。」
病院から帰ってくるときから元気のないマシューが気になって、レスカはリビングのソファに座るマシューの隣に座り顔を覗き込む。
「そんなにレスカを母と呼んだのが気に入らないのかい?」
「わあーっ!!わーわーっ!!」
マシューの頭をガシガシと少し乱暴に撫でて、ダルジオは左側の一人用のソファに座った。マシューは真っ赤になって父親の手を乱暴に振り払う。
今まで一度だってレスカのことを母などと言ったことも思ったこともないのに、レスカの婚約者だったという男を牽制するには義理の息子というしかなかった。
それが悔しくて仕方ないのに、わかっていて揶揄うダルジオを睨みつける。
「いいじゃないか。レスカも喜んでいただろう。」
「私、初めて母と呼んで貰えたわ。」
「良かったね、レスカ。」
ニコニコと微笑むダルジオと、手を両頬に当て嬉しそうに笑うレスカに挟まれてマシューはため息を漏らす。母とは思えないが、レスカが喜ぶのは単純に嬉しい。
「レーちゃんは父さんより、僕の方が歳が近いんだからね!」
「だけど、レスカは父さんのお嫁さんだからね。」
「それがずるいんだよ。僕だってレーちゃんをお嫁さんにしたかったのに。」
「マシューだって賛成してくれただろう。レスカをお嫁さんにするって言ったら。」
「僕のお嫁さんだと思ったんだよ。」
拗ねたマシューが可愛くてレスカの胸がホワホワと暖かくなる。
(これが母性本能というものかしら、なんと言ってもマシューが初めて母と呼んでくれたし)などと思っていることをマシューが知ったらガッカリするだろう。
「それよりアレを持っておいで。」
「え?あ、わかった!ちょっと待っててね!」
レスカがホワホワ物思いに浸っている間に、マシューは慌てて部屋に走っていってしまった。
「まったく、最近素直なのかそうじゃ無いのかわからないなぁ。」
苦笑しながらダルジオはレスカの隣に座りなおす。
「反抗期というものでしょうか?」
「反抗期かい?」
「ええ、学園に入学前くらいになるって聞きましたわ。」
「レスカもあったのかい?」
レスカの柔らかな髪を指に絡めながら、ダルジオが面白そうに聞くとレスカはちょっと考えた。
「お父様が、レスカの我儘は参るなぁ、とよくおっしゃってましたから、きっとそれが反抗期だったのですわ!」
「ぶふっ!……それは、それは。レスカの可愛らしい反抗期に対するお父上の顔が目に浮かぶようだよ。」
「まあ!またそうやって揶揄って!!」
「仕方ないじゃないか。わたしもレスカの我儘を聞きたいよ。何かないのかい?」
「私はもう、反抗期は終わりましたわ。」
我儘を言わなくなったのは、学園に入学してから。自分の我儘で彼を失わないために。
「わたしにもレスカの我儘をかなえる権利が欲しいな。」
「いつでも甘やかされているわ。」
「なんならお父上が提案した学園への再入学でも構わないよ。」
「マシューと同級生も楽しそうだけど、別に今更学園に行きたいという気持ちはないわ。せっかく休学扱いにしていてくれたお父様には申し訳ないけど、学園生活も学園の卒業資格も興味がないもの。」
「そうか。」
レスカの肩に手を回すと、コテンとダルジオに身体を寄せてくる。
「あ、」
愛しげにレスカを見つめるダルジオの顔を見て、レスカは小さな声を上げた。
「どうしたの?」
「私、一つ我儘がありますわ。」
そう言ったままレスカはもじもじと、ダルジオの袖を摘んだり離したりしていたが、目線を伏せたまま意を決して、ダルジオの耳元に顔を寄せた。
「お医者様にお墨付きをいただきましたの…。私、赤ちゃんが欲しいですわ。」
「赤ちゃんか。」
「ダメですか?」
「ダメなわけないだろう。レスカのお願いなんだから、3人でも4人でもレスカが欲しいだけ作ろう。」
真っ赤になって恥じらうレスカを抱きしめて、同じようにレスカの耳元に顔を寄せ囁く。羞恥からか潤んだ目元に唇を落とそうとしたところに、ずいっとリボンをかけた箱が突き出された。
「何、二人でイチャついてるんだよ。」
「マシュー。一人でイチャついていたら変人じゃないか。」
「そういうことじゃない!」
むすっとした顔を見せたマシューだが、レスカの横に座ると、輝くような笑顔でリボンをかけた箱をレスカに手渡す。
「はい、レーちゃん。治療の終わったお祝い。」
「お前、抜け駆けだよ。」
「いつだって抜け駆けするのは父さんだろ。」
「はいはい。レスカ、こっちはわたしからだよ。」
ダルジオからもリボンのかかった小さな箱が手渡される。
二人に挟まれ、箱を開けるよう促されたレスカは、丁寧にリボンを解いて箱を開けた。
「わぁ、可愛い!」
ダルジオからはシルバーで作られたブローチだ。精巧に作られた蔦が巻いてありその葉っぱの上に赤い宝石で飾られたてんとう虫がちょこんと乗っている。
マシューからはガラスで出来たてんとう虫のヘアピンだ。
お互いに贈り物を知らなかったのか、てんとう虫かぶりにちょっと気まずい。
「てんとう虫は幸運の印だからね。」
「レーちゃんが教えてくれたんだよね。これからたくさん幸運が来るように、ね。」
「ありがとう二人とも。」
マシューとダルジオが手ずからブローチとヘアピンを付けてくれるのを受けながら、レスカは幸せを噛み締める。
「私どうやって二人に返していいのか分からないくらい幸せだわ。」
潤んだ目で微笑むレスカに真っ赤になりながら、マシューはレスカの左手を握り、自分の頬に当てる。ダルジオはレスカの右手を取ると、その指先にキスをする。
「レーちゃんがいるだけで僕たちは幸せだよ。」
「レスカがわたし達の幸運の印だからね。」
そんなモウブ家の幸せの話。
**************
おしまい
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