2 / 11
婚約者の気持ち
しおりを挟む
「レスカ。リンド男爵令嬢にしている嫌がらせをやめて欲しい。」
珍しくレスカの教室に姿を見せたマクロンが、開口一番口に出したのはそんな言葉だった。
「嫌がらせですか?」
「そうだ。彼女と私は特別に親しいわけではない。ただの生徒会の仲間だ。」
「私、リンド男爵令嬢がどなたか存じません。入学してから一月以上休んでしまったので、まだ休み時間は補習をしていますから、教室と食堂以外には行っておりませんので。」
入学前に高熱が出てからと言うもの体調が優れないレスカは、入学してから3ヶ月以上たつというのに、学園に来ている日数の方が少ない。
中庭でのあの会話を聞いた後、発熱でしばらく休んでしまい、さらに3人に会うことが怖くなってしまったレスカは極力教室から出ないようにしていたのだ。
言外にマクロンにも会いに行っていないことを言ったがマクロンは気がつかなかったらしい。
「そうか、そんなことをするのは君くらいだと思ったから。」
「…………申し訳ございません。そのように思われる人間で。」
「いや!すまない!失言だった!」
「……いいえ。」
(なぜでここでそんな事言うのでしょう。)
レスカはそっと周りを伺う。
授業が終わったと言っても教室にはまだたくさんの人がいて、興味津々でこちらを伺っている。
今までノートを見せてくれていた令嬢たちは、居心地が悪そうに目を逸らす。
わざわざレスカの教室まで来て言わなくてはならない事なのだろうかとレスカは俯いて下唇を噛んだ。
「すまなかった。君が無関係だと言うならそれでいいんだ。」
言いたいことだけ言って、学校を休んでいたと言うレスカを労ることもなくマクロンは教室を出て行った。
「あ、あの、レスカ様…」
気まずそうな令嬢がノートにチラチラと目をやりながら、言いにくそうに口籠もる。
「ノートありがとうございました。」
にこりと笑って借りていたノートを閉じて手渡すと、令嬢たちはホッとして離れていく。その後ろ姿を見て思わずため息を漏らすと、周りのクラスメートたちもそそくさと帰り支度を始めた。
(仕方がないわ。嫌がらせをするような人間だと言われたのだから)
確かに王宮でお茶会をしたとき、マクロンの周りに群がる令嬢たちと言い合いになったことはある。マクロンに近づかないよう牽制したこともあるが、それらが嫌がらせになるのだろうか。
やっと慣れてきたクラスだったが、またひとりぼっちになりそうだ。ここから挽回するのは大変だろう。
カタカタと揺れる馬車の窓から見える景色をぼんやりと眺めながら、今日のこと、これからのことを取り止めもなく考えていた。
結局、熱が出たレスカはまたしても学園を休むことになってしまった。
あまり頻繁に熱を出すレスカに、思い至ることがあったのか、かかりつけ医に隣国の専門医を受診するよう勧められ、早い方が良いと父親とともに向かったのである。
「…治らない病気なのでしょうか?」
「そうですね。今のところ治療法はありません。ただし無理をしなければ、命に関わる病気ではありません。」
「無理をするとはどんなことでしょう?」
「激しい運動は避け、ストレスがかからないようにすることが一番ですね。お嬢様の胃の不調や偏頭痛は病気のせいというよりストレスです。」
「………」
「大変言いづらいのですが、出産には耐えられるかどうかわかりません。」
隣国の専門医の元を訪れたが、良い結果は聞けなかった。
「お父様…申し訳ございません。」
「謝らなくていい。お前が悪いわけじゃない。」
帰りの馬車の中、押し黙る父親と娘から出たのはそんな言葉だけだった。
あの日と同じように揺れる窓からぼんやりと景色を見ながら、これまでのことを考える。
ーー学園の授業。
ーー思ったようにいかない交友関係。
ーージュリア様、ラインハルト殿下の事。
ーーマクロンの事。
珍しくレスカの教室に姿を見せたマクロンが、開口一番口に出したのはそんな言葉だった。
「嫌がらせですか?」
「そうだ。彼女と私は特別に親しいわけではない。ただの生徒会の仲間だ。」
「私、リンド男爵令嬢がどなたか存じません。入学してから一月以上休んでしまったので、まだ休み時間は補習をしていますから、教室と食堂以外には行っておりませんので。」
入学前に高熱が出てからと言うもの体調が優れないレスカは、入学してから3ヶ月以上たつというのに、学園に来ている日数の方が少ない。
中庭でのあの会話を聞いた後、発熱でしばらく休んでしまい、さらに3人に会うことが怖くなってしまったレスカは極力教室から出ないようにしていたのだ。
言外にマクロンにも会いに行っていないことを言ったがマクロンは気がつかなかったらしい。
「そうか、そんなことをするのは君くらいだと思ったから。」
「…………申し訳ございません。そのように思われる人間で。」
「いや!すまない!失言だった!」
「……いいえ。」
(なぜでここでそんな事言うのでしょう。)
レスカはそっと周りを伺う。
授業が終わったと言っても教室にはまだたくさんの人がいて、興味津々でこちらを伺っている。
今までノートを見せてくれていた令嬢たちは、居心地が悪そうに目を逸らす。
わざわざレスカの教室まで来て言わなくてはならない事なのだろうかとレスカは俯いて下唇を噛んだ。
「すまなかった。君が無関係だと言うならそれでいいんだ。」
言いたいことだけ言って、学校を休んでいたと言うレスカを労ることもなくマクロンは教室を出て行った。
「あ、あの、レスカ様…」
気まずそうな令嬢がノートにチラチラと目をやりながら、言いにくそうに口籠もる。
「ノートありがとうございました。」
にこりと笑って借りていたノートを閉じて手渡すと、令嬢たちはホッとして離れていく。その後ろ姿を見て思わずため息を漏らすと、周りのクラスメートたちもそそくさと帰り支度を始めた。
(仕方がないわ。嫌がらせをするような人間だと言われたのだから)
確かに王宮でお茶会をしたとき、マクロンの周りに群がる令嬢たちと言い合いになったことはある。マクロンに近づかないよう牽制したこともあるが、それらが嫌がらせになるのだろうか。
やっと慣れてきたクラスだったが、またひとりぼっちになりそうだ。ここから挽回するのは大変だろう。
カタカタと揺れる馬車の窓から見える景色をぼんやりと眺めながら、今日のこと、これからのことを取り止めもなく考えていた。
結局、熱が出たレスカはまたしても学園を休むことになってしまった。
あまり頻繁に熱を出すレスカに、思い至ることがあったのか、かかりつけ医に隣国の専門医を受診するよう勧められ、早い方が良いと父親とともに向かったのである。
「…治らない病気なのでしょうか?」
「そうですね。今のところ治療法はありません。ただし無理をしなければ、命に関わる病気ではありません。」
「無理をするとはどんなことでしょう?」
「激しい運動は避け、ストレスがかからないようにすることが一番ですね。お嬢様の胃の不調や偏頭痛は病気のせいというよりストレスです。」
「………」
「大変言いづらいのですが、出産には耐えられるかどうかわかりません。」
隣国の専門医の元を訪れたが、良い結果は聞けなかった。
「お父様…申し訳ございません。」
「謝らなくていい。お前が悪いわけじゃない。」
帰りの馬車の中、押し黙る父親と娘から出たのはそんな言葉だけだった。
あの日と同じように揺れる窓からぼんやりと景色を見ながら、これまでのことを考える。
ーー学園の授業。
ーー思ったようにいかない交友関係。
ーージュリア様、ラインハルト殿下の事。
ーーマクロンの事。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です
朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。
ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。
「私がお助けしましょう!」
レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)
お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?
朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。
何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!
と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど?
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
伯爵令嬢の苦悩
夕鈴
恋愛
伯爵令嬢ライラの婚約者の趣味は婚約破棄だった。
婚約破棄してほしいと願う婚約者を宥めることが面倒になった。10回目の申し出のときに了承することにした。ただ二人の中で婚約破棄の認識の違いがあった・・・。
侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw
さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」
ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。
「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」
いえ! 慕っていません!
このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。
どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。
しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……
*設定は緩いです
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
悪役令嬢は、いつでも婚約破棄を受け付けている。
ao_narou
恋愛
自身の愛する婚約者――ソレイル・ディ・ア・ユースリアと平民の美少女ナナリーの密会を知ってしまった悪役令嬢――エリザベス・ディ・カディアスは、自身の思いに蓋をしてソレイルのため「わたくしはいつでも、あなたからの婚約破棄をお受けいたしますわ」と言葉にする。
その度に困惑を隠せないソレイルはエリザベスの真意に気付くのか……また、ナナリーとの浮気の真相は……。
ちょっとだけ変わった悪役令嬢の恋物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる