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第十二話(生者視点)

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「宰相、城を移すぞ。」

「ロンバルト陛下、一体どういう事でしょうか?」
 また、何か思いついたというのか。
 単純な王は操りやすいが、時々とんでもないことを言い出すものだ。

「この城はマリアベルの呪いがかかっている。」
「しかし、呪いなどと不確定なことで城を移すとなると、貴族やその他の民から不満が出るかと。」
「こんな城に残っている方が、不満が出るに決まっている!
 大体お前の弟のリアムもマリアベルを恐れて登城しないではないか!」
「陛下、不肖の弟がご迷惑をおかけして申し訳ございません。
 恐れながら、弟のリアムは病気療養中でございます。ご容赦ください。」

 頭を少し下げると、イライラしたようにつま先で床をたたく。
 『マリアベル妃の呪い』はずっと陛下を追い詰めている。ひとつひとつは大したことではない。鏡に影が映った、寒気を感じた、物が動いた、呻き声が聞こえた。子どもの悪戯のようなことばかりだが、長く続くと消耗するのだろう。

「いいか、新しい城の場所はまかせる。貴族院の承諾が下りるようにしておけ。」

 私が何も言わないからだろう、イライラしながら陛下は部屋を出て行ってしまった。

 元々直情的なところのある陛下だったが、ますます我慢が効かなくなって、執務にも公務にも身が入っていない。
 マリアベルがいなくなってからは諫める者がいないのだから仕方がないだろう。最近は誰も何もいわないのをいいことに、昼間から女を侍らせ酒を煽っているようだ。


 それにしても新しい城か……。
 場所は南側の貧民街を全て取り壊してしまえは問題はないだろう。住民の抗議が起こるかも知れんが……。

 まあいい。確かにこんな辛気臭い城にこだわる事はないだろう。新しい支配者には新しい城が必要だ。



 今、リアムは公爵家の一室に閉じこもり、一日中ぶつぶつと呟いている。
「……兄さんに…言われたようにしたのに……僕は…言われたとおり………」
 単純で愚かしい最愛の弟は私のためにとても良く動いてくれた。そう、言われたとおり。

 リアムアレがマリアベル妃に惚れていなければこんなに上手くはいかなかっただろう。
 ロンバルトからマリアベルを奪いたいが、遠くから見ていることしかできないリアム意気地なし。ロンバルトから婚約破棄されるよう、リリーへの嫌がらせがマリアベルの仕業だと見せかけさせた。
 婚約破棄されれば、次の婚約者に推してやると。
 婚約破棄は前国王とトリージャ公爵に阻まれてしまったが、毒殺未遂が思いの外上手くいった。

 マリアベル王の盾は汚名に塗れて亡くなり、トリージャの跡取りベルクが毒の瓶をマリアベルの部屋に置いた証拠もある。まさか義姉を陥れるとはな。
 この証拠がある限り、トリージャは私の意のままだが、たいして使い道はないかも知れんな。自分が特別だと思っているだけの凡人だからな。
 トリージャ公爵を排除することができたのは僥倖だった。領地に逃げられてしまった事は痛いが、もう王都で盛り返す事はできまい。あのベルクぼんくらでは、公爵家の権力ちからを使いこなすことなどできんだろう。

 王妃はすでに執務も公務も放棄している。
 毎日、ドレスだの宝飾品だの散財しているようだ。財務官から苦情が上がっているが、。そのことを徹底させるにはいいだろう。
 ショーン殿下を忌み嫌い、離宮に追いやったらしいが、ろくな世話係などつけてはいないはずだ。
 くくっ!この女も頭がおかしくなっているのだろう。ショーン殿下の抱えたぬいぐるみがマリアベル妃に見えるらしい。


 王と王妃は来るべき私の御代の為の礎となってもらおう。愚かしければ愚かしいほど、私が王となる正当性が増すに違いない。
 
 
 私こそが王には相応しいのだ!
 私が偉大なる王として後世に名を残すのだ。

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