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帰宅した時
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「おかえり、モニカ。」
マーブル子爵家に到着すると、ジャレッドお兄様が両手を広げて歓迎してくれました。
「ただいま帰りました。」
思ったより気が張っていたのでしょうか。お兄様に抱きしめられて、力が抜けてソファに座り込んでしまいました。
3年ぶりの帰宅に使用人もみんな暖かく迎えてくれて、ほんの少し涙が滲んでしまいました。お父様とお母様の姿がないことが寂しいですが、それでも見知った人々に囲まれてホッとします。
「番が見つかったって聞いたけど。なんの前触れもなく離婚だなんて!しかもその日にモニカを放り出すなんて!!」
私の隣に座ったお兄様が、私の出した先触れの手紙を見て怒っています。うん、手紙の到着とあまり時間差がなかったわね。
「ごめんなさい、お兄様。急に帰ってきてしまって。
でも離婚だと言って、キャンベル伯は追い出したわけじゃないのよ。ただ、どうしてもあの家にはいたくなかったの。」
「そんなのは当たり前だよ。モニカがいるというのに新しい妻を連れて来るなんて、何を考えているんだ!」
「仕方ないわ。番なんですもの。」
番が見つかったら、離婚されるというのは想定内ですわ。
「僕の大切なモニカを奪っておきながら、番ごときで離婚することが許せない。」
「番ごときなんて言ったら、獣人族に怒られるわ。」
お兄様と私は結婚してマーブル子爵家を継ぐ予定でした。
私たちは父同士が兄弟の従兄弟同士です。女性は爵位を継ぐことができないので、一人娘だった私とリアーテ伯爵家の次男のジャレッドお兄様の結婚は、お母様が次の子を望めないとわかった時に決められました。
小さな頃から一緒にいたせいか、大好きな兄という以上の感情はありませんでしたが、小さな頃からとても可愛がって貰っていたので、それなりに幸せな家庭を築くものだと思っていました。
けど4年前、マーブル領は酷い災害に襲われました。その復興のために走り回っていた私の両親が、馬車の事故で亡くなりました。
間の悪いことにリアーテ領は虫の被害が起こり、マーブル領を援助する事ができませんでした。
私はマーブル領を叔父様とジャレッドお兄様にお願いして、結婚を申し込んできたキャンベル伯爵家へと嫁ぎました。
キャンベル伯爵は番を探し続けていることは有名でしたので、結婚相手がなかなか見つからなかったといいます。まあ、そうですよね。番が見つかったら捨てられると分かっていて結婚するなんて、よっぽどの理由がなければ受け入れるわけありません。
でもそれを受け入れなければならないほど、多額の援助がマーブル子爵領には必要だったのです。
「連絡したから、近いうちに父さんと母さんが来ると思う。」
「叔父様と叔母様が?」
「ああ、離婚に対して法的な手続きもあるだろう。その手伝いに来てもらおうと思ってね。」
「…そうですわね。私、番様が見つかったと聞いて、離婚届だけ書いて出てきてしまったわ。」
どれだけ舞いあがっていたのかしら。
お二人に会うのも3年ぶりで楽しみです。
3年間、私はほとんどキャンベル伯爵邸から出ることはなかったからです。伯爵夫人としての社交も必要なかったのは、いつか見つかる番の為だったのでしょうね。
「今度こそ僕たちがモニカを守るから。」
辛そうなお顔をされますが、あの時は仕方がなかったのです。
「私がキャンベル伯爵家に嫁いだのは、お兄様のせいではありせんわ。」
「それでも、僕にもう少し力があれば、みすみす不幸になる結婚をすることはなかったんだ。」
「大丈夫ですわ、私不幸だと思ったことは無いもの。」
そう言って笑えば、お兄様の憂い顔はより深くなります。
「そんな顔なさらないで。私、お兄様の笑顔が好きですわ。」
「モニカ。」
泣き笑いのようなお顔をしたジャレッドお兄様が私を抱きしめ、額にキスを落とします。
ジャレッドお兄様の腕の中はとても安心します。
4年前、父と母が亡くなってから、12歳も年上の人に嫁いでからも、ずっと安心することはなかったかもしれません。
「モニカ。僕と結婚しよう。」
「え?」
お兄様の声が耳の側で響きます。掠れたような声で囁かれた言葉は、初めて聞くような熱を帯びた声に体が震えます。
「お兄様、私、離婚したばかりで…」
「全てが終わってから言おうと思ってた。
モニカが傷ついている時に言うなんて、我ながら卑怯だと思うけど。
もう、誰かに横から攫われるのは嫌なんだ。」
お兄様の声が、息が耳を掠めるたびに、ゾクゾクする何かが体を駆け抜けます。
「お兄様は…私のことを妹のようなものだと思っているのかと………」
「そうだね。だからこの手から無くなった時、初めて失いたく無いと思った。」
お兄様は体を起こし、私の目を見つめてきます。
こんな熱を帯びた目で見つめるお兄様を見たのは初めてです。
いいのでしょうか?
私は今日、離婚したばかりなのです。
重ねられる唇を拒む心は全くおきず、私の手はお兄様にすがりついてしまいました。
「絶対に離さないよ。」
唇と唇の間で囁かれた言葉に、私は泣いてしまいそうでした。
マーブル子爵家に到着すると、ジャレッドお兄様が両手を広げて歓迎してくれました。
「ただいま帰りました。」
思ったより気が張っていたのでしょうか。お兄様に抱きしめられて、力が抜けてソファに座り込んでしまいました。
3年ぶりの帰宅に使用人もみんな暖かく迎えてくれて、ほんの少し涙が滲んでしまいました。お父様とお母様の姿がないことが寂しいですが、それでも見知った人々に囲まれてホッとします。
「番が見つかったって聞いたけど。なんの前触れもなく離婚だなんて!しかもその日にモニカを放り出すなんて!!」
私の隣に座ったお兄様が、私の出した先触れの手紙を見て怒っています。うん、手紙の到着とあまり時間差がなかったわね。
「ごめんなさい、お兄様。急に帰ってきてしまって。
でも離婚だと言って、キャンベル伯は追い出したわけじゃないのよ。ただ、どうしてもあの家にはいたくなかったの。」
「そんなのは当たり前だよ。モニカがいるというのに新しい妻を連れて来るなんて、何を考えているんだ!」
「仕方ないわ。番なんですもの。」
番が見つかったら、離婚されるというのは想定内ですわ。
「僕の大切なモニカを奪っておきながら、番ごときで離婚することが許せない。」
「番ごときなんて言ったら、獣人族に怒られるわ。」
お兄様と私は結婚してマーブル子爵家を継ぐ予定でした。
私たちは父同士が兄弟の従兄弟同士です。女性は爵位を継ぐことができないので、一人娘だった私とリアーテ伯爵家の次男のジャレッドお兄様の結婚は、お母様が次の子を望めないとわかった時に決められました。
小さな頃から一緒にいたせいか、大好きな兄という以上の感情はありませんでしたが、小さな頃からとても可愛がって貰っていたので、それなりに幸せな家庭を築くものだと思っていました。
けど4年前、マーブル領は酷い災害に襲われました。その復興のために走り回っていた私の両親が、馬車の事故で亡くなりました。
間の悪いことにリアーテ領は虫の被害が起こり、マーブル領を援助する事ができませんでした。
私はマーブル領を叔父様とジャレッドお兄様にお願いして、結婚を申し込んできたキャンベル伯爵家へと嫁ぎました。
キャンベル伯爵は番を探し続けていることは有名でしたので、結婚相手がなかなか見つからなかったといいます。まあ、そうですよね。番が見つかったら捨てられると分かっていて結婚するなんて、よっぽどの理由がなければ受け入れるわけありません。
でもそれを受け入れなければならないほど、多額の援助がマーブル子爵領には必要だったのです。
「連絡したから、近いうちに父さんと母さんが来ると思う。」
「叔父様と叔母様が?」
「ああ、離婚に対して法的な手続きもあるだろう。その手伝いに来てもらおうと思ってね。」
「…そうですわね。私、番様が見つかったと聞いて、離婚届だけ書いて出てきてしまったわ。」
どれだけ舞いあがっていたのかしら。
お二人に会うのも3年ぶりで楽しみです。
3年間、私はほとんどキャンベル伯爵邸から出ることはなかったからです。伯爵夫人としての社交も必要なかったのは、いつか見つかる番の為だったのでしょうね。
「今度こそ僕たちがモニカを守るから。」
辛そうなお顔をされますが、あの時は仕方がなかったのです。
「私がキャンベル伯爵家に嫁いだのは、お兄様のせいではありせんわ。」
「それでも、僕にもう少し力があれば、みすみす不幸になる結婚をすることはなかったんだ。」
「大丈夫ですわ、私不幸だと思ったことは無いもの。」
そう言って笑えば、お兄様の憂い顔はより深くなります。
「そんな顔なさらないで。私、お兄様の笑顔が好きですわ。」
「モニカ。」
泣き笑いのようなお顔をしたジャレッドお兄様が私を抱きしめ、額にキスを落とします。
ジャレッドお兄様の腕の中はとても安心します。
4年前、父と母が亡くなってから、12歳も年上の人に嫁いでからも、ずっと安心することはなかったかもしれません。
「モニカ。僕と結婚しよう。」
「え?」
お兄様の声が耳の側で響きます。掠れたような声で囁かれた言葉は、初めて聞くような熱を帯びた声に体が震えます。
「お兄様、私、離婚したばかりで…」
「全てが終わってから言おうと思ってた。
モニカが傷ついている時に言うなんて、我ながら卑怯だと思うけど。
もう、誰かに横から攫われるのは嫌なんだ。」
お兄様の声が、息が耳を掠めるたびに、ゾクゾクする何かが体を駆け抜けます。
「お兄様は…私のことを妹のようなものだと思っているのかと………」
「そうだね。だからこの手から無くなった時、初めて失いたく無いと思った。」
お兄様は体を起こし、私の目を見つめてきます。
こんな熱を帯びた目で見つめるお兄様を見たのは初めてです。
いいのでしょうか?
私は今日、離婚したばかりなのです。
重ねられる唇を拒む心は全くおきず、私の手はお兄様にすがりついてしまいました。
「絶対に離さないよ。」
唇と唇の間で囁かれた言葉に、私は泣いてしまいそうでした。
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