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番が現れた時
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「旦那様が番様をお連れになりました!」
いつも物静かな家令が、アタフタと興奮を隠さず玄関ホールで待つ私たちの所に戻ってきました。
二週間に及ぶ視察から戻った私の旦那様、グレアム・キャンベル伯爵は、美しい牛の獣人を連れて帰ってきたというのです。
私、モニカ・キャンベルは旦那様の番ではありません。人族なので番を認識することはとても難しいのですが、狐の獣人である旦那様からは、初めてお会いした時にはっきりと番ではないと言われました。
それでも家のためにと、結婚相手を探していた旦那様と3年前に結婚しました。
獣人が人族と結婚することはよくあることです。
人族は獣人族に比べて「番でなければ!」という認識がうすく、また、繁殖力も獣人の種族に左右されにくいため、結婚相手として人気があります。
ただし結婚した獣人に番が現れた時は、大きなトラブルになることも多々あります。
番の認識の薄い人族にとって「番が現れたから」というのは離婚の原因にはなり得ないからです。
それでも獣人族にとって番に巡り合うと言うことは、人生の中で最も幸せな、奇跡のようなものだと言われています。
獣人の多いこの屋敷の使用人たちをみてもわかります。
我が主人に番が現れたと聞いた途端、まるで自分のことのようにソワソワと興奮しているのが伝わってきます。
「今帰った。」
玄関の扉が大きく開かれ、旦那様と旦那様に腰を抱かれた、とても美しい女性が入ってきました。
柔らかそうな淡い栗色の髪は、旦那様の褐色の髪と対を成しているかのようにも見えます。
歩くだけでたゆんと揺れる大きな胸ときゅっとしまった腰。色気がこぼれ落ちるような煌めく青い目で屋敷や使用人を見渡していたのですが、ふと私の所で視線が止まりました。
「え?貴女は?」
使用人のなかに簡易といえどもドレスを着ている女がいれば気になりますよね。戸惑ったような顔で、旦那様を見上げます。
「彼女はモニカ・キャンベル。今の私の妻だ。
モニカ、彼女が私の番のナタリーだ。」
笑顔で紹介されますが、控えめに言っても最低ではないでしょうか?
ナタリーと紹介された彼女はジロジロと私の頭から足まで値踏みするように見ています。まあ、妻と言っても、獣人は番が最上。その上女性らしい色気たっぷりの貴女からすると敵ではございませんね。
ぽってりとした唇が、少し意地悪げに微笑みを浮かべます。
「随分お若いので、びっくりしましたわ。」
そうでしょうとも。私がキャンベル伯爵家に嫁いできたのは15歳の時ですもの。しかも背が低いうえ細い手足も相まって、旦那様と並ぶと大人と子どものようです。
ナタリーさんの年齢はわかりませんがもうすぐ30に手が届く旦那様と並んでも、不釣り合いな感じはしませんわ。
「ここではなんだから、落ち着いて、座って話そう。」
旦那様と微笑むナタリーさんを応接室に案内しますと、家令や侍従たちが室内に留まり、侍女長自らお茶の用意を始めました。
多分、使用人たちは私がナタリーさんに何かするかもしれないと警戒しているのです。
私は使用人の大半…獣人族の使用人とあまり良い関係ではありません。というのも番の見つからない旦那様が仕方なく娶った妻だからです。
表立って嫌がらせなどはされませんでしたが、3年経った今もお客様扱いのままです。
その彼らは今はナタリーさんを見つめ、感動に打ち震えていますわ。そんなに嬉しいものなんですね。
「では旦那様、離婚の手続きをいたしましょう。」
「離婚?どうしてだ?」
一口お茶を飲んだ私がそう切り出すと、旦那様は慌てたようにおっしゃいます。
え?番が見つかったのですよね?
妻にするつもりでお連れになったのですよね?
周りの使用人たちも不思議そうな顔で旦那様を見てますよ。
「旦那様は番様を妻になさるのですよね。」
「あ、ああ。そうだな。」
「ですので離婚届が整いましたら、私はこのまま実家に帰らせていただきますわ。」
「いや、このまま?そんな慌てなくても…」
「まあ!旦那様。ずっとお探しになっていた番様ではありませんか。」
番の方が現れたら、私が出て行くのは当たり前のこと。その為に結婚してからもずっと番を探していたのではないですか?
それに、いつまでも屋敷に止まっていたら、使用人たちにどう思われるのか…。
家令の手には既に離縁届が用意されていますわ。
用意のいい事。
なぜかサインを渋る旦那様にサインをいただき、私の欄にサインをすると、家令に渡しました。
旦那様に渡すとなんだか提出されないような気がしたので、満面の笑みを浮かべている家令に任せることにしたら、まだ私がいるのに出かけていきましたわ。
こうして私の結婚生活は終了したわけです。
いつも物静かな家令が、アタフタと興奮を隠さず玄関ホールで待つ私たちの所に戻ってきました。
二週間に及ぶ視察から戻った私の旦那様、グレアム・キャンベル伯爵は、美しい牛の獣人を連れて帰ってきたというのです。
私、モニカ・キャンベルは旦那様の番ではありません。人族なので番を認識することはとても難しいのですが、狐の獣人である旦那様からは、初めてお会いした時にはっきりと番ではないと言われました。
それでも家のためにと、結婚相手を探していた旦那様と3年前に結婚しました。
獣人が人族と結婚することはよくあることです。
人族は獣人族に比べて「番でなければ!」という認識がうすく、また、繁殖力も獣人の種族に左右されにくいため、結婚相手として人気があります。
ただし結婚した獣人に番が現れた時は、大きなトラブルになることも多々あります。
番の認識の薄い人族にとって「番が現れたから」というのは離婚の原因にはなり得ないからです。
それでも獣人族にとって番に巡り合うと言うことは、人生の中で最も幸せな、奇跡のようなものだと言われています。
獣人の多いこの屋敷の使用人たちをみてもわかります。
我が主人に番が現れたと聞いた途端、まるで自分のことのようにソワソワと興奮しているのが伝わってきます。
「今帰った。」
玄関の扉が大きく開かれ、旦那様と旦那様に腰を抱かれた、とても美しい女性が入ってきました。
柔らかそうな淡い栗色の髪は、旦那様の褐色の髪と対を成しているかのようにも見えます。
歩くだけでたゆんと揺れる大きな胸ときゅっとしまった腰。色気がこぼれ落ちるような煌めく青い目で屋敷や使用人を見渡していたのですが、ふと私の所で視線が止まりました。
「え?貴女は?」
使用人のなかに簡易といえどもドレスを着ている女がいれば気になりますよね。戸惑ったような顔で、旦那様を見上げます。
「彼女はモニカ・キャンベル。今の私の妻だ。
モニカ、彼女が私の番のナタリーだ。」
笑顔で紹介されますが、控えめに言っても最低ではないでしょうか?
ナタリーと紹介された彼女はジロジロと私の頭から足まで値踏みするように見ています。まあ、妻と言っても、獣人は番が最上。その上女性らしい色気たっぷりの貴女からすると敵ではございませんね。
ぽってりとした唇が、少し意地悪げに微笑みを浮かべます。
「随分お若いので、びっくりしましたわ。」
そうでしょうとも。私がキャンベル伯爵家に嫁いできたのは15歳の時ですもの。しかも背が低いうえ細い手足も相まって、旦那様と並ぶと大人と子どものようです。
ナタリーさんの年齢はわかりませんがもうすぐ30に手が届く旦那様と並んでも、不釣り合いな感じはしませんわ。
「ここではなんだから、落ち着いて、座って話そう。」
旦那様と微笑むナタリーさんを応接室に案内しますと、家令や侍従たちが室内に留まり、侍女長自らお茶の用意を始めました。
多分、使用人たちは私がナタリーさんに何かするかもしれないと警戒しているのです。
私は使用人の大半…獣人族の使用人とあまり良い関係ではありません。というのも番の見つからない旦那様が仕方なく娶った妻だからです。
表立って嫌がらせなどはされませんでしたが、3年経った今もお客様扱いのままです。
その彼らは今はナタリーさんを見つめ、感動に打ち震えていますわ。そんなに嬉しいものなんですね。
「では旦那様、離婚の手続きをいたしましょう。」
「離婚?どうしてだ?」
一口お茶を飲んだ私がそう切り出すと、旦那様は慌てたようにおっしゃいます。
え?番が見つかったのですよね?
妻にするつもりでお連れになったのですよね?
周りの使用人たちも不思議そうな顔で旦那様を見てますよ。
「旦那様は番様を妻になさるのですよね。」
「あ、ああ。そうだな。」
「ですので離婚届が整いましたら、私はこのまま実家に帰らせていただきますわ。」
「いや、このまま?そんな慌てなくても…」
「まあ!旦那様。ずっとお探しになっていた番様ではありませんか。」
番の方が現れたら、私が出て行くのは当たり前のこと。その為に結婚してからもずっと番を探していたのではないですか?
それに、いつまでも屋敷に止まっていたら、使用人たちにどう思われるのか…。
家令の手には既に離縁届が用意されていますわ。
用意のいい事。
なぜかサインを渋る旦那様にサインをいただき、私の欄にサインをすると、家令に渡しました。
旦那様に渡すとなんだか提出されないような気がしたので、満面の笑みを浮かべている家令に任せることにしたら、まだ私がいるのに出かけていきましたわ。
こうして私の結婚生活は終了したわけです。
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