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 デートをしようと言ったオーリーとは、それからなかなかゆっくり会うことができなくなった。
 どうやらオーリーの所属している近衛騎士団が、何か大きな案件を扱っているみたいだ。
 オーリーが仕事の合間を縫って図書館に来ては、忙しい、忙しいと愚痴をこぼして行く。もちろんアプルは部外者なので、詳しいことは言わないが、大きな事件になのだろう。



「はい。あーん。」

 アプルの目の前には笑顔のオーリーが、フォークに刺したガレットを口元にまで寄せて待っている。
 いつもより近い距離に、人前でこんな恥ずかしい真似をさせられるなんて、そう思ってアプルはチラリと周りを見渡す。

 シュブヤント通りの一画、お洒落なスタンディングカフェの前。歩道に並べられた丸テーブルにはラブラブなカップルが何組かいるので、名物のガレットを食べさせ合っていてもそれほど目立つわけではない。が、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

「あーん。」

 オーリーの笑顔の圧に負けて、口を開けるとふわりとチーズとバターの香りがして、柔らかなガレットが口の中に入ってくる。
 
(ああ、ハムとチーズの塩味とたまごのトロトロが絡み合って!!こんなの初めて!!)

 安価でお腹に溜まるガレットは庶民には比較的馴染み深く、日常的に食べられるものだ。
 アプルも侯爵家にいる時、使用人の賄いでよく食べていた。
 だが、こんなにチーズやハム、卵が乗せられたものを食べたのは初めてだ。

「美味しい・・。」

 トロトロの黄身とチーズが口の端から垂れそうになって、慌てて右手で口を押さえる。垂れた黄身を親指で押し戻して誤魔化したつもりだが、もちろん一部始終余す所なく見ていたオーリーは「癒し・・・ありがとう。」とフォークを掲げている。

「ガレットってこうやって色々載せて食べると美味しいね。」

「アプルは卵が好きだから、気にいると思ったんだ。」

「卵?」

 特別好きなわけではないと思う。
 というより、食べ物の好き嫌いをあまり意識したことはない。

「アプルが特に好きなメニューは、親子丼に、プリンに、タマゴサンド。この間は屋台で売ってたゆで卵を5個も買って帰っただろう。」

「言われてみればそうなのかも・・・」

「え?自覚なかった?」

「うん。オーリーはすごく人のこと見てるんだね。」

 一瞬ストーカー扱いされたのかと思って、オーリーの顔が引き攣る。

「だからオーリーがしてくれる事って、いつも嬉しいことばっかりなんだ。ありがとう。」

 へにょんと笑うアプル。
 可愛いかよ!オーリーは悶えたいのを抑える。
 そう、ここは王都でも1、2を争う繁華なシュブヤント通りだ。近衛騎士団の制服を着たまま奇行を晒すわけにはいかない。
 オーリーはガレットをもの凄い勢いで一口大に切る事に集中する。

「オーリーが好きなのは何?」

 何度も一緒に食事をしているのに、オーリーの好きなものを知らないのは申し訳ない、とついつい前のめりになってしまう。
 小さな丸テーブルではちょっと乗り出すだけで、距離が縮まる。

「アプ、と・・いや・・・肉かな。」

「あは。私もお肉好き。美味しいよね。」

「知ってる。」

「あとは、結構甘いもの好き。」

「お、正解。何で気がついた?」

「オーリーのくれるお菓子が美味しかったから。自分でも食べてるのかなって。」

 くすぐったいような会話を交わす二人は、どこから見ても仲の良い恋人同士だ。
 時折オーリーを知っている娘が、目を剥いて二人の様子を見ているが、流石に割り込むような者はいない。
 いや、いなかった。


「まあ、クレメンタイン卿。ご機嫌よう。」

 そんなオーリーに声をかける剛の者。
 その声にアプルが全身を硬直させる。


庶民の店こんなところで立ったままお食事なんて、近衛騎士団ともあろう者が侘しすぎますわ。相応しいお店へご一緒いたしましょう。」

 ジョナールが現れた。
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