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「内緒です。オーリーはまだ、お昼ご飯を食べてないんでしょう。ちゃんと休憩取ってきた方がいいよ。」

 ご飯は大事だ。
 ランチの煮豚を思い出して、アプルの糸目がへにょんと下がる。

「アプルは何食べたの?」

 美味しいものを食べた時の顔になったのが気になる。いつもの食堂にはいなかったし、他には女性が一人で食事できるようなところはあまりない。

「すごーく美味しい煮豚を食べたの。
 あ、でも昼は営業していないって言っていたから、オーリーが行っても食べられるかどうかわからないけど。」

「煮豚・・・」

「しかも万頭って言うふわふわの蒸しパンがあってね、挟んで食べるともう!美味しいって言葉じゃ表せないよう!!」

 頬に手を当ててうっとりするアプルの頭の中は、煮豚のバーガーでいっぱいだ。
 ウキウキと話すアプルと対照的にオーリーの背後に暗雲が垂れ込める。

「あー・・・人に不審者の対応させておいて、自分はアプルとランチだと・・・」
 
 アプルの話だけで店が特定できるほど仲間うちでは有名な居酒屋。蕩けるような煮豚や香ばしいスペアリブなど肉料理が充実している、その名も『走る豚亭』。ただし、ランチ営業はしてなかったとオーリーは記憶している。
 だが懇意のダリルならランチ営業するかもしれない。そこにアプルを連れて行ったのか?

 返す返すもダリルにアプルを認識させたことに後悔が募る。


「アプル、アプル。」

「?何?」

 煮豚の世界に行っていたアプルの意識を引き戻すように、笑顔のオーリーがアプルの手を取る。

「今度、俺とランチしよう。美味い店は色々知ってるし。」

「うーん。でも私そんなに外食できるほど余裕がないから。」

 アプルはそれとなく手を離して、蔵書リストを手に取る。

「大丈夫ご馳走する。」

「えーいいよ。奢られると楽しめないし。」

「だって隊長と行ったんだろう?ランチ。」

 オーリーの勢いに、ジリっとアプルが後ろに下がる。

「行ったけど、なんとなく流れで行っただけだし、オーリーとだって行った事あるでしょ。」

 こうやって詰め寄られるのは苦手だ。だから目線を外して相対する。
 なんでこんなに詰め寄られているのか、アプルの頭の中は混乱して、言わなくていい事まで口に出してしまう。

「もう押し込み強盗の件は終わったんだし、無理に私に関わることないよ。
 ランチだって私とじゃなくても、オーリーと一緒にランチしたいはたくさんいるじゃない。」

「確かに押し込み強盗の件は終わったけど、そんなの関係なく俺はアプルと一緒に行きたいんだけど。」

「だってになる必要ないし、オーリーが何かの事件で必要なら手伝うけど・・・」

「ちょっと待った!!隠れ蓑って、なんでアプルが知って・・」

 そう言ったオーリーは片手で顔を覆って俯いてしまった。
 アプルはそっとオーリーの前から離れようとして、オーリーの空いた手で肩を掴まれた。

「アプル待って言い訳させて!」

「え、別に言い訳いらないよ。今、仕事中だし。
 オーリーも仕事に戻った方がいいと思うけど。」

「いや、仕事より・・・大丈夫!俺は今、休憩中だから。」

 挙動不審なオーリーにちょっと引いてしまう。できれば帰って欲しいアプルに対して、オーリーは絶対に話すまでは帰らないと決意を固めているようだ。
 仕方がないので仕事しながらなら、とアプルが折れた。
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