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今日は待ちに待った給料日!
スペシャルランチの日!!
だけどその前にお仕事お仕事!
図書館から見て、王宮の反対側に位置する医療研究所には独自の書庫がある。この書庫は専門性が高く、一般の司書は置いていない。
だから一年に一度くらいの頻度で、図書館の司書たちが書庫整理の応援に行くのだ。
「スラシア卿。こちらの本はすべて廃棄でよろしいでしょうか?」
大体の整理を終えて、書庫に入りきらない本は同僚たちが図書館に移動していった。残ったアプルは本を括る紐を持って、医療研究所のスラシアに声をかけた。
白衣を身に纏った痩身を、折り曲げるように机の前に座った男がこちらを見ずに手をあげる。
書庫に司書はいないが責任者はいる。
だが責任者であるスラシアは書庫整理の最中に見つけた本を読み耽っている。
スラシアは医療研究所の研究員で図書館館長のレモニードと同い年なのだという。だが、貴族とは思えないほどくたびれた見た目のスラシアは、随分年上に見える。
上げた手を了承の合図と解釈して、アプルは廃棄予定の本を紐で括って廊下に出しておく。廊下に置いておけば、別の部署の人間が処理しておいてくれるのだ。
「廃棄本は外に出しておきましたので、これで失礼します。」
一応スラシアに声をかけたが、本に没頭しているのか返事はない。
レモニードからは、集中したら何にも聞こえないから、そのまま帰っておいでと言われていたので、なんとなく会釈だけして部屋を出る。
(もうすぐお昼なのに、ずっとあのままなのかしら?)
先程の様子から、寝食忘れて研究に没頭するタイプなのだろう。
アプルも本は好きだが、ご飯を忘れるほど集中はできない。
だから、スラシア卿はあんなに痩せているのだろうけど、絶対に真似できないよね。と医療研究所を後にした。
「・・・王宮を通ると会いたくない人に会うかもしれない。」
図書館に戻るには本来であれば、王宮の中を通って行くのが近道だ。
王宮の政務棟はコの字型になっていて、一階部分と建物に囲まれた前庭は一般の人間も入れるが、二階以上は官吏や貴族など許可があるものしか入れない。その二階部分は回廊のようになっているので、図書館までちょうどいい近道になるのだ。
ちなみに政務棟の後ろには広大な庭園がありのその向こうに王族が公務を行ったり住まう宮殿がある。これが狭義の王宮だ。
だが一般には政務棟や貴族議会堂のほか、近衛騎士団の詰所や広大な庭を含めて王宮と呼ばれているのだ。
この前、マックス第二王子殿下に会ってしまったのは、政務棟の廊下だった。
一応学園を卒業した王族なので、何かしかの公務についているのだろう。政務棟を通るとまた顔を合わせてしまうかもしれない。
学園に通っていた頃は没交渉だったのに、どうして貴族籍から抜けた後に煩わされるのか。
少々イラッとしながら、王宮の前庭を突っ切って行こうと進路を変えた。
天気も良く、そぞろ歩きにも良い気候だ。
官吏や兵士だけでなく一般の人や、少数だが貴族らしき人などいろんな人が歩いたり、木陰のベンチで休んだりしている。
前庭は貴族でも馬車の乗り入れはできない。
(前庭は歩いたことはなかったけど、ここでお弁当とか食べたら、気持ちよさそう。)
ウキウキとしながら歩いていたアプルだったが、前方に見たくないものを見てしまった。
それは、オーリーとその腕にしなだれ掛かるジョナールの姿だった。
スペシャルランチの日!!
だけどその前にお仕事お仕事!
図書館から見て、王宮の反対側に位置する医療研究所には独自の書庫がある。この書庫は専門性が高く、一般の司書は置いていない。
だから一年に一度くらいの頻度で、図書館の司書たちが書庫整理の応援に行くのだ。
「スラシア卿。こちらの本はすべて廃棄でよろしいでしょうか?」
大体の整理を終えて、書庫に入りきらない本は同僚たちが図書館に移動していった。残ったアプルは本を括る紐を持って、医療研究所のスラシアに声をかけた。
白衣を身に纏った痩身を、折り曲げるように机の前に座った男がこちらを見ずに手をあげる。
書庫に司書はいないが責任者はいる。
だが責任者であるスラシアは書庫整理の最中に見つけた本を読み耽っている。
スラシアは医療研究所の研究員で図書館館長のレモニードと同い年なのだという。だが、貴族とは思えないほどくたびれた見た目のスラシアは、随分年上に見える。
上げた手を了承の合図と解釈して、アプルは廃棄予定の本を紐で括って廊下に出しておく。廊下に置いておけば、別の部署の人間が処理しておいてくれるのだ。
「廃棄本は外に出しておきましたので、これで失礼します。」
一応スラシアに声をかけたが、本に没頭しているのか返事はない。
レモニードからは、集中したら何にも聞こえないから、そのまま帰っておいでと言われていたので、なんとなく会釈だけして部屋を出る。
(もうすぐお昼なのに、ずっとあのままなのかしら?)
先程の様子から、寝食忘れて研究に没頭するタイプなのだろう。
アプルも本は好きだが、ご飯を忘れるほど集中はできない。
だから、スラシア卿はあんなに痩せているのだろうけど、絶対に真似できないよね。と医療研究所を後にした。
「・・・王宮を通ると会いたくない人に会うかもしれない。」
図書館に戻るには本来であれば、王宮の中を通って行くのが近道だ。
王宮の政務棟はコの字型になっていて、一階部分と建物に囲まれた前庭は一般の人間も入れるが、二階以上は官吏や貴族など許可があるものしか入れない。その二階部分は回廊のようになっているので、図書館までちょうどいい近道になるのだ。
ちなみに政務棟の後ろには広大な庭園がありのその向こうに王族が公務を行ったり住まう宮殿がある。これが狭義の王宮だ。
だが一般には政務棟や貴族議会堂のほか、近衛騎士団の詰所や広大な庭を含めて王宮と呼ばれているのだ。
この前、マックス第二王子殿下に会ってしまったのは、政務棟の廊下だった。
一応学園を卒業した王族なので、何かしかの公務についているのだろう。政務棟を通るとまた顔を合わせてしまうかもしれない。
学園に通っていた頃は没交渉だったのに、どうして貴族籍から抜けた後に煩わされるのか。
少々イラッとしながら、王宮の前庭を突っ切って行こうと進路を変えた。
天気も良く、そぞろ歩きにも良い気候だ。
官吏や兵士だけでなく一般の人や、少数だが貴族らしき人などいろんな人が歩いたり、木陰のベンチで休んだりしている。
前庭は貴族でも馬車の乗り入れはできない。
(前庭は歩いたことはなかったけど、ここでお弁当とか食べたら、気持ちよさそう。)
ウキウキとしながら歩いていたアプルだったが、前方に見たくないものを見てしまった。
それは、オーリーとその腕にしなだれ掛かるジョナールの姿だった。
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