上 下
16 / 39

15

しおりを挟む
 うんうんと唸ってもいい考えは浮かばない。
 このまま諦めて帰るか!
 初めてのカフェをなんの前情報も無しに、突撃するか!ちなみに今、アプルの持っている情報はプリンだけだ。


 動きが止まってしまったアプルを見かねて、ナーラとリアノはお互いに顔を見合わせ小さく頷く。

「アプルさん。もし良かったらなんですけど。」

「私たちもお付き合いしていいですか?」

「ほ、ほんと?いいの?」 

「ただし、その服・・っ痛!」

 リアノの言葉を遮って、ナーラが肘鉄をくらわせる。

「ちょっと、何をいうつもりよ!!」

「だって!一緒に行くのなら言いたい!ていうかナーラだって気になるでしょ!」

 ナーラもリアノも二人ともチラチラとアプルを、正確には服を見ている。リアノを止めたナーラも結局気になるのか、促すように目配せをした。

「えっと、そのワンピースってアプルさんが選んだんですか?結構古くさ・・いやいや、レ、レトロ?みたいな?」

「レトロっていうのかなぁ?母のお下がりなの。妹のお下がりだとちょっときつくて。」

「母って、お母さんのワンピース?それにしても・・・」

 プリーツのワンピースは少し前にレトロブームで流行った。しかしアプルの着ている首まで詰まった総プリーツのワンピース、しかもローウエストでは非常に太って見える。レトロとも言える小花柄は、このデザインではおばさ・・・かなり年上に見える。つまり・・・

「ダセぇです。はっきり言って!」

「リアノ、はっきり言い過ぎ!せめて、せめて・・・。なんて言えばいい?」

「ダサい・・・」

 自分の持っている服で、まだマシな方と思っていたアプルはスカートをそっと持ち上げてみる。ほつれはないし、汚れてもいない。

「清潔な服だしダメかな?あとは図書館の制服しかないし・・・。」

 誰も私のことなんか見てないよ。というと、お洒落なカフェに一緒に行くのにありえない!と捲し立てられ、アプルはだんだん気分が落ち込んでくる。
 カフェとはアプルにとってハードルが高いようだ。


「ごめん、二人とも。今日はやめとくよ。色々教えてくれてありがとう。」

 やっぱり私がカフェに行くなんて無理だよね。いつもの休日通り、パン屋にでも行って帰ろう。図書館から借りてきた本もある。
 この後の休日の過ごし方を考えながら歩き出そうとすると、ナーラとリアノにガっシッと手を掴まれた。


「まって、待って!違います。」

「諦めないで下さい!アプルさん!!」

 二人の剣幕にアプルは身を縮こませる。

「カフェってそんなにお洒落じゃなくてもいいんです。別に貴族の行くお店みたいにドレスコードがあるわけじゃないし。」

「ただ、アプルさんの服サイズも合ってないし、それしか服がないとか言われたらなんか、頭に来ちゃって!」

「ごめんなさい。服には興味が無くて。サイズって、着られればいいって思っていたから。」

「!!!ちょっとだけ、アプルさん。ちょっとだけ待っていてください!」


 二人は俯いてしまったアプルから離れると小さな声で話し合う!!

「やっぱり!あの性悪ジョナールの言うことなんてあてにならないわ!何がお姉様はなんでも人のもの奪っていく、よ!」

「そんなの図書館で話した時からわかってたじゃない。でも、あの服はないわぁ。っていうかあの服以外碌な服がないって!!」

 半年前の卒業式の時、ジョナール・リンゴニア侯爵令嬢とマックス第二王子殿下の婚約破棄という大スクープがあった。
 だがナーラやリアノなど大半の女生徒にとって、それは予想した展開だった。ジョナールは第二王子殿下の婚約者だということを差し引いても傲慢で我儘な令嬢でいつかそうなるのではないかと思っていたのだ。
 その上、最近になって学園ではジョナールがマックス第二王子の婚約者ではなかったと、衝撃的な話題が駆け抜けた。
 元々ジョナールの姉が婚約者であったが、傲慢で我儘で、妹のジョナールのものをなんでも奪い取っていくなど酷い嫌がらせをするため、それを嫌ったマックスが、ジョナールを婚約者と望んだのだと。しかし姉の策略でジョナールの悪評を信じたマックスがジョナールに婚約破棄を叩きつけてしまった。ジョナールとマックスは真実の愛で結ばれるはずの恋人同士で、今は二人の愛が試されているのである、と。

 こんな顎が外れるような話を本気で聞いている人間は多分いないだろう。
 だが、性悪ジョナールが性悪だという姉は多分碌な人間ではないだろうというのが学園内での共通認識だ。

 ナーラとリアノは、近衛騎士団のオーリーを目当てに図書館に通い始めてしばらく経ってからアプルが、アプル・リンゴニア元侯爵令嬢だと知った。
 いつもぼんやりとした笑顔を見せるアプルはジョナールの妹にも、性悪にも見えなかったからだ。


 そして今日、二人は確信した。
 あんな流行遅れの母親のお古を押し付けられて、それを清潔だから良いと言って着る人間が、妹のものを奪うなんてありえない。
 だいたいそれしかないってなんなんだ!!
 二人はこれ見よがしにジョナールが来てくる、派手で豪華な衣装の数々を思い出して義憤に駆られたのだ。

 
 ナーラとリアノは力強く頷き合うと、アプルの小柄な体を挟み込むように腕を取ると、朗らかに宣言した。

「アプルさん、服を買いに行きましょ!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

【完結】種馬の分際で愛人を家に連れて来るなんて一体何様なのかしら?

夢見 歩
恋愛
頭を空っぽにしてお読み下さい。

(完)愛人を作るのは当たり前でしょう?僕は家庭を壊したいわけじゃない。

青空一夏
恋愛
私は、デラックス公爵の次男だ。隣国の王家の血筋もこの国の王家の血筋も、入ったサラブレッドだ。 今は豪商の娘と結婚し、とても大事にされていた。 妻がめでたく懐妊したので、私は妻に言った。 「夜伽女を3人でいいから、用意してくれ!」妻は驚いて言った。「離婚したいのですね・・・・・・わかりました・・・」 え? なぜ、そうなる? そんな重い話じゃないよね?

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...