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1章
『女神の加護』のせい?
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「いつもそんな感じだったら、怖くないのに」
穏やかに食事をするジョゼに、少し口を尖らせて訴える。
それに彼はゆったりと口角を上げた。
「そうですねえ、善処しましょうか。とても私らしくないと思うのですが、久しぶりにこうして普通に会話をして、あなたの食事を味わってしまうと、これを手放すのはやはり惜しい。……昔は、これを手元に置くためには捕まえて支配するしかないと思っていたのですが」
「捕まえて支配って……奴隷じゃないんだから」
俺の突っ込みに何故かジョゼが苦笑する。
「そう、奴隷にしても手に入らないんですよねえ」
シチューを食べ終えた彼はコーヒーカップを持ち上げ、背もたれに身体を預けた。そして、正面から俺を見る。
それだけでついビクついてしまうのは、身体に染みついた恐怖のせいだ。
「あなたを泣かせたい気持ちは多大にあるのですが、それ以上に嫌われて距離を取られるのはつらい。だから、あなたが私に慣れてくれるまでは、おとなしくすることにしましょう」
「な、何で期間限定なんだよ。ずっとおとなしくしろよ。ていうか、そもそも何で俺を泣かせたいんだよ」
「そんなの、怯えて涙を浮かべるあなたが可愛いからに決まっています」
「可愛っ……?」
ジョゼの答えに俺は一瞬耳を疑った。
ギースや美由はともかく、まさか彼からそんな単語が出てくるとは思いもしなかったのだ。
「こ、こんなおっさんの泣き顔が、可愛いわけないだろ。あんたよりちょっと年下とはいえ……」
「これは主観ですから、あなたにとやかく言われる筋合いはありません。私にとって、あなたの泣き顔は可愛い。それだけです」
ジョゼはそう言うと、空になったコーヒーカップをトレイに戻して、「ごちそうさま」と手を合わせた。
「どうも巧斗の作る食事以外は、わざわざ時間を取って食べる気にならないんですよね。……久しぶりに満足できる人間の食事をした気がします」
「……王宮なら俺よりずっと腕の良い料理人が美味しい食事を作ってくれるだろ」
「あなたの作る料理以外はみんな大して変わりません。……だから、理屈じゃないんですよね。ここに踏み込むのは、私としても大変苦手な領域なんですけども……」
わずかに視線を逸らして口ごもる。どうもいつもの彼らしくない。
理屈で生きているような人間が、理屈じゃないとのたまっていること自体がもう普通じゃないんだけど。
その違和感に妙に落ち着かない気持ちでいると、不意にジョゼの視線が強い意志を込めて俺に戻ってきた。
「単刀直入に言わないと通じないようなのではっきり言いますが、私はあなたが好きなんです」
「はあ!? ジョゼが、俺を好っ……!?」
そんな感情なんか本来鼻で笑い飛ばしそうな男の言葉に目を瞠る。
さっきの可愛い発言もそうだが、一体どうしたんだ彼は。
……いや、彼だけではない。考えてみれば、イオリスもギースもそのようなアプローチをしてきた。
これって、もしかして。
「……もしかして、『女神の加護』のせい?」
そういえば3人とも能力が高スペックの男性。だとすると、効くわけがないと思っていた俺のフェロモンとやらが、引き寄せてしまったのだろうか。
「だったら俺なんかやめた方がいい。この能力のせいで惑わされているだけだろ? 俺じゃあ『女神の加護』の恩恵なんて幸運とヒーリングくらいしか役に立たないし、だとしたらわざわざ一緒になる必要もないし……。どう考えたって他の若くて可愛い女の子の方がずっといいだろ」
正直、彼らは俺にはもったいなすぎて申し訳ない。ギースはもちろん、イオリスもジョゼも、女性からの人気は高いのだ。
そう思って告げると、目の前のジョゼに盛大なため息を吐かれた。
「はあ……。そういうことに疎いのは分かっていましたが、またずいぶんと萎えることを言ってくれますね……。ギース様や殿下に言ったら、おそらくすごい反撃が来るところですよ。……まあ、それを考えたら、言われたのが私で良かった」
「いや、でも、『女神の加護』のせいで引き寄せられたのは事実じゃないか」
「そうですね。ただ、あなたは何か誤解しているようですが、『女神の加護』は引き寄せるだけです」
「……ん?」
その意味をはかりかねて首を傾げる。そんな俺にジョゼはしわの寄った眉間をもみながら、もう一つため息を吐いた。
「つまりですね、『女神の加護』は高スペ男を引き寄せるだけで、惚れるのとはまた別だということです。……たとえば、すごく良い薫香の匂いのする女性に惹かれて近付いていっても、嫌な女だったらすぐ離れていくでしょう。それと全く同じことです」
「俺の匂いはただのきっかけだってこと?」
「そうです。逆に言えば、私たちはあなたの人となりに惹かれて離れられない、男でも構わないという猛者なわけですよ。まあ、ギース様はガチホモですけど」
彼らが俺自身に惹かれている? そんなこと俄には信じられない。
「……俺なんか好かれる要素がないのに、何で?」
「そう思っているのはあなただけですけどね。……本当に、あなたには自己肯定感と自覚が足りないようだ。ミュリカ殿が心配するのも分かる」
「でも真面目な話さ、恋愛欲求もなくて性欲も枯れかけた俺なんか相手にしてたらもったいないよ」
「枯れかけ、ねえ……」
そう独りごちると、ジョゼはしばし逡巡した。
そしてちらりとこちらを見、それから視線を落として自身が着けている紫の腕輪を見る。
「あなたがその気になれないのは、これのせいもあるのかもしれません。……外してみましょうか、リミッター」
「……リミッター?」
「あなたの『女神の加護』、実は私がこの契約輪で若干制御しているんです」
穏やかに食事をするジョゼに、少し口を尖らせて訴える。
それに彼はゆったりと口角を上げた。
「そうですねえ、善処しましょうか。とても私らしくないと思うのですが、久しぶりにこうして普通に会話をして、あなたの食事を味わってしまうと、これを手放すのはやはり惜しい。……昔は、これを手元に置くためには捕まえて支配するしかないと思っていたのですが」
「捕まえて支配って……奴隷じゃないんだから」
俺の突っ込みに何故かジョゼが苦笑する。
「そう、奴隷にしても手に入らないんですよねえ」
シチューを食べ終えた彼はコーヒーカップを持ち上げ、背もたれに身体を預けた。そして、正面から俺を見る。
それだけでついビクついてしまうのは、身体に染みついた恐怖のせいだ。
「あなたを泣かせたい気持ちは多大にあるのですが、それ以上に嫌われて距離を取られるのはつらい。だから、あなたが私に慣れてくれるまでは、おとなしくすることにしましょう」
「な、何で期間限定なんだよ。ずっとおとなしくしろよ。ていうか、そもそも何で俺を泣かせたいんだよ」
「そんなの、怯えて涙を浮かべるあなたが可愛いからに決まっています」
「可愛っ……?」
ジョゼの答えに俺は一瞬耳を疑った。
ギースや美由はともかく、まさか彼からそんな単語が出てくるとは思いもしなかったのだ。
「こ、こんなおっさんの泣き顔が、可愛いわけないだろ。あんたよりちょっと年下とはいえ……」
「これは主観ですから、あなたにとやかく言われる筋合いはありません。私にとって、あなたの泣き顔は可愛い。それだけです」
ジョゼはそう言うと、空になったコーヒーカップをトレイに戻して、「ごちそうさま」と手を合わせた。
「どうも巧斗の作る食事以外は、わざわざ時間を取って食べる気にならないんですよね。……久しぶりに満足できる人間の食事をした気がします」
「……王宮なら俺よりずっと腕の良い料理人が美味しい食事を作ってくれるだろ」
「あなたの作る料理以外はみんな大して変わりません。……だから、理屈じゃないんですよね。ここに踏み込むのは、私としても大変苦手な領域なんですけども……」
わずかに視線を逸らして口ごもる。どうもいつもの彼らしくない。
理屈で生きているような人間が、理屈じゃないとのたまっていること自体がもう普通じゃないんだけど。
その違和感に妙に落ち着かない気持ちでいると、不意にジョゼの視線が強い意志を込めて俺に戻ってきた。
「単刀直入に言わないと通じないようなのではっきり言いますが、私はあなたが好きなんです」
「はあ!? ジョゼが、俺を好っ……!?」
そんな感情なんか本来鼻で笑い飛ばしそうな男の言葉に目を瞠る。
さっきの可愛い発言もそうだが、一体どうしたんだ彼は。
……いや、彼だけではない。考えてみれば、イオリスもギースもそのようなアプローチをしてきた。
これって、もしかして。
「……もしかして、『女神の加護』のせい?」
そういえば3人とも能力が高スペックの男性。だとすると、効くわけがないと思っていた俺のフェロモンとやらが、引き寄せてしまったのだろうか。
「だったら俺なんかやめた方がいい。この能力のせいで惑わされているだけだろ? 俺じゃあ『女神の加護』の恩恵なんて幸運とヒーリングくらいしか役に立たないし、だとしたらわざわざ一緒になる必要もないし……。どう考えたって他の若くて可愛い女の子の方がずっといいだろ」
正直、彼らは俺にはもったいなすぎて申し訳ない。ギースはもちろん、イオリスもジョゼも、女性からの人気は高いのだ。
そう思って告げると、目の前のジョゼに盛大なため息を吐かれた。
「はあ……。そういうことに疎いのは分かっていましたが、またずいぶんと萎えることを言ってくれますね……。ギース様や殿下に言ったら、おそらくすごい反撃が来るところですよ。……まあ、それを考えたら、言われたのが私で良かった」
「いや、でも、『女神の加護』のせいで引き寄せられたのは事実じゃないか」
「そうですね。ただ、あなたは何か誤解しているようですが、『女神の加護』は引き寄せるだけです」
「……ん?」
その意味をはかりかねて首を傾げる。そんな俺にジョゼはしわの寄った眉間をもみながら、もう一つため息を吐いた。
「つまりですね、『女神の加護』は高スペ男を引き寄せるだけで、惚れるのとはまた別だということです。……たとえば、すごく良い薫香の匂いのする女性に惹かれて近付いていっても、嫌な女だったらすぐ離れていくでしょう。それと全く同じことです」
「俺の匂いはただのきっかけだってこと?」
「そうです。逆に言えば、私たちはあなたの人となりに惹かれて離れられない、男でも構わないという猛者なわけですよ。まあ、ギース様はガチホモですけど」
彼らが俺自身に惹かれている? そんなこと俄には信じられない。
「……俺なんか好かれる要素がないのに、何で?」
「そう思っているのはあなただけですけどね。……本当に、あなたには自己肯定感と自覚が足りないようだ。ミュリカ殿が心配するのも分かる」
「でも真面目な話さ、恋愛欲求もなくて性欲も枯れかけた俺なんか相手にしてたらもったいないよ」
「枯れかけ、ねえ……」
そう独りごちると、ジョゼはしばし逡巡した。
そしてちらりとこちらを見、それから視線を落として自身が着けている紫の腕輪を見る。
「あなたがその気になれないのは、これのせいもあるのかもしれません。……外してみましょうか、リミッター」
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