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第十二章 棲みか
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そのまま完全に開くかと思われたが、扉は人一人通れるほどのすき間を作って止まった。
止まった時の衝撃で、また鳥たちが悲鳴を上げていた。
無数の羽ばたきの後、時が沈黙したように辺りは静寂に包まれた。
完全な開門とはいかぬか。フェニアスは下唇を噛む。歓迎されていない証拠だ。
しかし、希望が残されているとも言える。
フェニアスはオーガとオズワイルド、そしてホタルを連れて、扉の中に足を踏み入れた。
地上に降りる時はホタルの手をとり、足裏を爆発させながら降下した。
山より大きな扉を動かしたのだ。ドレイクに気付かれている可能性を考慮するならば、今重視すべきはスピードだ。
扉の中は文字通り原初の森だ。人が介在する、いや、誕生する以前の地球がそうであったのと同じく。
巨大な葉と蔓がうっそうと生い茂り、行き先どころか視界そのものを遮っている。フェニアスは古よりたどってきた道を、記憶を再現して歩く。扉から一番近い高台を目指して進む。
歴史はいつもそこで作られてきた。
最後の大葉を持ち上げた時、背後でホタルが、感嘆のため息を漏らした。
それもそのはずだ。
山の中腹に張り出した崖からは、この世の物とは思えぬ絶景が広がっていた。
フェニアスたちの世界より、なお広い。
エベレストより高い山々の合間に、アマゾン川のような巨大な川が流れている。地平線の向こうまで続いている。はるか遠くには、雲を突き抜けてそびえ立つ大樹がある。三本の巨大な蔓が互いに支え合っているように見える。世界樹だ。枝の一つだけで人が海峡にかける橋ほど長く、葉の一つは湖のように大きい。そばを飛んでいる鳥が豆粒のように小さく見えるが、あれは本来、豪華客船ほどでかいケツァルコアトルだ。
ぽかんと口を開けたまま、ホタルがふらふらと崖の縁まで歩いて行く。魅せられている。わかるとも、魅せられている。
ウミヘビのように長い体をくねらせ、山の斜面を漂っているのは薄氷色の龍だ。吹雪をまとっている。パティシエが振るう粉砂糖のように、長いヒゲや、鋭い爪の周りを白い粉がヒュンヒュン飛び回っている。鱗の一つ一つが薄い氷のように透き通っていて、きらきらと太陽の光を反射している。
左手にそびえ立つ火山が突如大噴火を起こした。地響きが膝の皿を震わし、マグマの熱波がフェニアスの左頬を熱くした。火柱とともに現れたのは、一羽の怪鳥だ。噴火口から、ドプンと溢れるマグマに乗って這い出てきた。鉤爪の一本いっぽんがクレーン車のように長く、山頂に深い溝を作っていく。ゲーッ!と鳴いたその嘴は、火箸のように尖っていて、頭には悪魔のような小さなトンガリ耳がついている。ギョロギョロと巨大な目を動かすと、身をよじって噴火口から抜け出し、フジツボの貼り付いた船底のようにゴツゴツとした羽を振り上げた。その大きさは、ジェット機を凌駕するだろう。
ギョエーッ!と言って飛び上がった火の鳥に苛立ったのは雷の鳥だ。羽の一本一本がダガーのように鋭く、目つきは猛禽類の親玉のように恐ろしい。渦巻く灰色の雲と共に急降下してきて、頭上にたちまち暗雲を溜め込んで、バリィッ!という衝撃と閃光で空気を一刀両断した。平べったいくちばしを直角になるまで開いて、ギャアギャア鳴いている。稲光を反射する黄緑の羽毛が、発光するラジウムのように美しい。
右手の山々だと思っていたものが突然動き出し、ホタルが尻もちをついた。
象ほど大きな岩が、砂粒のように空高く舞い上がり、岩盤の下から巨大な気球のような瞳が現れた。フェニアスはエクストリーマーで、自らの頭上に振ってきた岩を砕いた。人が想像できるスケールを超えている。背中から零れ落ちる土砂だけで、小さな無人島が出来上がるだろう。
あまりに大きすぎて、全容を視界に収めることができない。しかし、大陸を背負える生物は他にいない。玄武だ。眠たそうにフェニアスたちを見つめると、世界樹めがけてドシン、ドシンと歩き始めた。その一歩いっぽで、巨大な川に大津波を引き起こしていた。
立ち上がろうとするホタルに手を差し出した時、耳介の縁を、美しい旋律がなぞった。
耳を澄ませるとそれは、フルートのように透き通った高音で、ヴァイオリンのように艶めいた歌声だった。
クジラが海中で奏でるそれより何倍も美しいものだった。身をゆだねていたら、筋肉の繊維がほろほろとほぐれて、死の一時前まで聞きほれていただろう。
神が本当に存在するならば。そして天使を遣わしたのならば、きっと、同じ歌を聞くことができただろう。
ホタルがそっと手を離し、歌の方へ顔を上げる。崖の縁にそって歩いて、その先端まで進む。
それは最初、太陽の中に浮かぶ黒点のようにしか見えなかった。徐々に徐々に大きくなるにつれて、天女の羽衣のように長い尾羽を五本、持っているのが見えた。大きさはクジャクほどだ。朱い鳥だ。
全身を朱い羽が覆い、まぶたの一部分にのみ、ふかい青色の羽が一本、差し込まれている。尾羽には他に、黒と白、黄色の羽も混じっていて、見る者をうっとりとさせる配色で生えそろっている。それだけで、神が、この生き物を特別ていねいに形作ったのだとわかる。
太陽の光をさんさんと浴びて、朱い鳥は神々しいまでの存在感を放っていた。近づくにつれて、その美しさが、歌の荘厳さが、胸の奥深いところまで染み渡ってきて、涙が溢れそうになった。
愛の歌の、最後の一節を軽やかに歌い上げると、朱い鳥はしゅっ、と素早く滑空した。驚くホタルの目の前で、再び翼を広げた。羽毛の枕が弾けたように、紅い羽がぶわっと舞い上がり、ホタルは素早く二歩、下がった。
朱い鳥は朱い翼をバッサバッサと鳴らし、崖の先端へ、優雅に着地した。右の翼に嘴をうずめると、手入れするかのようについばみ始めた。頭の上についている冠のような飾り羽が、ぴょこんぴょこんと揺れていた。
見た目に騙されてはいけない。
どれだけ愛くるしくとも、どれだけ親しみ深くても、相手は紛れもない王なのだ。非礼や無礼は許されぬ。
「……鳳凰だ」
フェニアスはその名を告げる。
真名は、〝平和を司る王〟――
「ホタル、お辞儀を」
ホタルは左目だけでフェニアスを振り返ると、スカートの裾を持ち上げ、片方の膝を曲げた。
うやうやしく頭を下げる彼女を、鳳凰は小首をかしげて見上げていた。
「初めまして。浦王ホタルと言います」
「目を逸らすな」
フェニアスは筋張った声で忠告する。
機嫌を損ねれば、フェニアスとて一寸先に無傷で立っていられるかわからない状況だ。幻獣とは本来、それほどの存在だ。
ホタルは賢い子だった。慎重に慎重を重ねて言葉を選び、ダーツの最後の一投を投げるように、丁寧に言葉を紡いだ。
「あなたたちに伝えに来ました。ここに危機が迫っている。今すぐ逃げないと――あぁ!」
ホタルが突然叫び、自身の頭を両腕で覆った。
鳳凰が、なんの前触れもなく飛び立ち、ホタルの喉元にくちばしを突き立てたのだ。
流星群が降り注いだように、色とりどりの火花が散った。指先でつまめるヒトデほどの星も瞬いた。ホタルの胸から、光のシャワーのように、星の噴水のように、溢れ出していた。
鳳凰はその姿を消し、ホタルの胸の内へと潜り込んだ。
盟約とも乗っ取りともつかぬ光景を前に、フェニアスは我を忘れて叫んだ。
「ホタル!」
ドレイクはショットガン握る右手に体重をかけた。
ポリスマンの銃口は今――ワタルと言ったか――ホタルの友人の喉奥に突き立っている。
ワタルは頬から血を流し、何度も嗚咽と戦っている。
「いいか?大声を出したら殺す」
ポリスマンに弾を装填しながら、ドレイクは脅す。
「一度しか聞かない。ホタル様はどこにいる」
ワタルがもごもご口を動かし始める。弾を装填し終えてから、ドレイクはショットガンの銃口を離してやる。
勇敢か無謀か、ワタルはすかさずつばを吐いた。ドレイクは顔を背けたが、ねっとりとした臭い液体が、右の頬に着弾した。
「誰が喋るか、モハティの犬め」
苦々しい声だった。お前なんか絶対に信用しないと、絶対に許さないと、彼の声が言っていた。
頭に血が上るのを感じる。頬についたつばをぬぐう。
残念なことこの上ないが、さっそく奪わねばならないのか。ポリスマンの引き金にかけた人差し指に、ドレイクは力を込める。もう一度銃口を、ワタルの顔に向けて――
「残念だが……オレは犬じゃない。もっと高貴な――」
突然、左肩に大きな衝撃を受け、ドレイクは吹っ飛んだ。猛スピードで突っ込んできたサイに体当たりでもされたのかと思った。もう少し反応が遅ければ、肩の骨を砕かれていた。
平衡感覚が一瞬なくなる。しかし一瞬だ。蒼い視界がそれを可能にする。右の頬が芝生の上でヂリヂリとこすられた二秒後には、ドレイクは体を一回転させ、襲撃者へ銃口を向けていた。
そいつはワタルと同年代の少年だった。頭の上からライオンの毛皮を被っていた。星空をまぶしたような瞳を怒らせている。右手には、伝家の宝刀――目当ての森番だ。
「マイラーズ!」
ワタルがその名を叫んだ。
「フェニアス様を呼べぇ!」
「でも!」
「俺だけじゃ勝てない!ホタルを死なせたくない!」
「くそぉ!」
二人とも判断が早い。そして戦力差も冷静に分析できている。若いのに優秀だ。
絶対に逃がさん。
ワタルが踵を返して走り出す。ドレイクはショットガンを森番に向けて放つ。さすがは守り人、手に持った武器で、無数に飛来する散弾を全て切り弾く。その一瞬の隙をついて、ドレイクは逃げ出したワタルに追いつく。背骨の真ん中を、右足で思いっきり蹴りぬいてやる。ワタルはサッカーボールのように吹っ飛んで、積まれていた丸太の山に激突して気絶する。
とてつもない殺気が後ろから迫ってくる。立て直しが速い。ドレイクは振り向きざま、ポリスマンの銃口と銃把を左右の手で握りしめ、鋼鉄の銃身でヴァルブレイカーを受け止める。
ドゴン、ゴロン、と丸太の山が崩れる。ヴァルブレイカーをじりじりと滑らせて、森番が牙をむき出しにする。いい闘争心だ。すさまじい力だ。大の大人二十人を同時に相手しているようだ。
「知ってるか?アメリカの映画では子供を殺せない。規制が厳しいからな。残虐なシーンを見せてはいけないってことさ」
森番は眉間にしわを寄せ、ヴァルブレイカーを今一度強く押し付ける。
「アメリカ?なんだそ――」
「だがそれは結局、映画と現実の区別がつかない『バカな大人』が増えたせいだ。フィクションはフィクション。現実は現実。映画の中で何が起きようと、現実とは関係がない」
外に出たことが無い連中はこれだから嫌だ。話が通じない。
「だが、ここは幸か不幸かアメリカじゃない。幻獣の棲みかだ。そしてお前たちを殺しても、幻獣の魂は死なない。あるべきところへ還るだけだ。だからオレは、子供だろうと容赦しない」
「なんで……そのことを……!」
森番の顔が、今度は不意の衝撃でゆがむ。ドレイクは不敵に笑う。拮抗していた銃身と刀身のつばぜり合いに、徐々に勝利し始める。ヴァルブレイカーを、その切っ先を、相手の顔の方に押しやっていく。
「なんでだと思う?」
森番がキッ、と目つきを鋭くした。星空をまぶしたような瞳が黄色く変わり、瞳孔が縦に細く切れた。
来たな、ついに!
「グォァアオン!」
「ライオンの咆哮!」
森番の鼻に真っ白な毛が生え、頬は砂色の毛に包まれた。犬歯が二倍の長さに伸びた。尻の付け根からはうじゃうじゃと、たくさんの真っ黒な蛇が生え、そのうちの一匹がドレイクの左腕に噛みついた。
「蛇の尻尾!」
ドレイクはヴァルブレイカーを押し出し、森番を蹴り飛ばした。蛇はトカゲのしっぽのように森番の尻からちぎれ、ドレイクの腕に噛みついたまま残った。その頭をむんずと捕まえ、引き抜いた。蛇はドレイクの手の中で、釣られた魚のようにバタバタもがいていた。
「キマイラか!」
「リー!ルー!そいつを連れて行け!」
ライオンになりかけの顔で森番が叫ぶと、山小屋の扉がはじけ飛んだ。
転がっていく扉を追い越して、二つの翠の線が、芝生の上を駆け抜けていった。
気付いた時にはワタルの姿が無く、数百メートル先の森の中で、茂みをかき分ける音がしていた。そしてそれは、どんどん遠ざかっていっているようだった。
「なんというスピードだ!神速か!」
「ドレイク大佐!」
「近づくな!」
ドレイクは反射的に檄を飛ばした。
森の中から姿を現したのは部下たちだ。
自動小銃を構えた一個小隊が、素晴らしく整った隊列を組んで出て来た。
相手は銃を持っていない。通常の人間相手なら、それでよかったのだ。通常の人間が相手ならば。
「しかし……この距離では……!」
部下の一人が、右目をほとんど潰しそうになりながら、照準器を覗いている。ドレイクに当てたくないのだろう。気持ちは嬉しいが――
「わかってる……撃たなくていい――あらら、遅かったか」
ドレイクが振り向いたわずか数秒の間に、森番が走った。芝生の上に蹄の痕が残っている。やつの後ろ脚が、崖をも登る強靭なヤギのそれになっている。どうりで速いはずだ。
「ぎゃああああああ!」
ドレイクが見たのは、可愛いかわいい兵士たちが、ライオンの怪力によって頭を潰され、喉笛を噛みちぎられ、どてっぱらに大穴を開けて血を噴いて倒れる様だった。
「ぎゃああ!あああ!あああああ!」
パタタタタ……本来ならば勇ましいはずの機銃音が、むなしい抵抗となって空に消えていく。幻獣の力を引き出した森番は、ライオンそのものと言っても差し支えないほど巨大化していた。もはや対人殺傷兵器程度では怯みもせず、次々にその牙と、爪と、伝家の宝刀で兵士をなますのように切り刻んでいく。尻尾の代わりに生えている無数の蛇も、森番の背中側にいる兵士の顔を、穴だらけにするまでかぶり続け、手が付けられない。
部下をやられて黙ってはいられない。森番が兵士の、最後の一人に剣を突き立てたその時、ドレイクは彼の背中に銃口を突きつけ、迷いなく引き金を引いた。
「ぐっ!ぅう!」
ズドォン!という音とともに、キマイラの背中に無数の血の斑点が浮かび上がる。既に死してしまった反対側の部下にも、雨あられのように降り注いだことだろうそれよりも。
自らが人間に撃たれたこと、やすやすと背後をとられたこと、そして、死んでしまうこと。
その事実に、森番は驚愕していた。
「なん……」
「でだと思う?」
我ながら意地悪だったかな。
ドレイクはほくそ笑む。
森を駆けていた。
何度もなんども走った森を、誰よりも何よりも早く駆けていた。
ホタルのお友達を連れて、フェニアス様のところまで届けるために。
だって、ヴァルキリーがそう言ったから。
お前たちならできる。やれって、そう言ったから。
でも、でも、でも……でも!
リーは地面に踵を突き立て、土くれと、木の根の表面を、全部砕いて立ち止まった。
ニ十歩先で、妹が同じように急ブレーキをかけた。彼女は肩に、ぐったりと眠るホタルのお友達をぶら下げている。
ルーが早く行こう!と、身振り手振りで手話をする。
リーは首を振り、後ろを振り返る。過去を振り返る。
見えるのは緑の木々、蔓と葉っぱ、あの時と同じ、深いふかい森だ。
そう、あの時と同じ――――
三日目の朝だった。
大きな胸に抱かれて、わんわん泣いたのは。
『もう!どうしてついてきたの!』
お母さんがそんな風に怒るなんて、リーは思ってもいなかった。きっとルーも。
『ダメだ!止められない!』
お母さんの後ろの方から、お父さんの声がした。リーは嬉しくって、思わず顔を輝かせた。
『リー!ルー!いいこと!絶対にここから出てはいけませんよ!』
お母さんは厳しい顔をして、リーと妹を不意に抱いた。
真っ白な、狼の毛におおわれたお母さんの大きな胸が、暖かくて柔らかくて、心地の良い感覚としてリーの中に遺っている。
『何が起きても、声を上げてはいけません!何が起きてもよ!約束しなさい!』
お母さんは怖い顔をしていた。とっても、とっても怖かった。
だから頷いた。ルーと手を繋いで、これ以上怒られたくなくて、一生懸命首を縦に振った。
お母さんはリーとルーを茂みの中に押し込み、どこかへ走って行った。
ちょっとだけ待っていれば、お父さんも、お母さんも、きっと帰ってくるに違いないと、リーは思っていた。そりゃ、棲みかを勝手に抜け出したのは悪いことだけれど、お母さんはいつだって優しかった。きちんと言われた通り、ここで、じっと静かにしていれば、またあの大きなお胸で抱きしめてくれるはずだ。
そう思っていた。
夜が更けたころ、女の人の悲鳴と、男の人の怒号でリーは目を覚ました。
いつのまにかうとうとしていたらしい。隣のルーも、同じようにこっくりこっくり、舟をこいでいた。リーは妹の肩を叩いて起こした。
『逃げろ!逃げるんだ!逃げ――――――』
ドサン!と何かが落ちる音がした。すぐそばでした。
リーとルーはそろって飛び上がって、茂みの中で互いを抱きしめた。
『やめて……』
泣きそうな声で、誰かが懇願している。
『やめて……お願いやめてぇ……』
お母さんだ――リーの背中を、うすら寒い何かがなぞる。
怯えている。お母さんが。
茂みのすき間からのぞくと、大きなコートを羽織った誰かが、お母さんの上に馬乗りになっていた。ドラゴンのかぎ爪のように巨大化した右手で、お母さんの顔をむんずと掴むと、ずるずると引きずりながら、自分の顔と同じ高さまで引っ張り上げた。
『はっ……んぅうう……』
『答えろ、フェニアスが送り込んだのはお前たちだけか?他には?』
ドラゴンのかぎ爪の持ち主は男だった。
『いない……私たちだけ……ごふっ……ルオ……』
『旦那は死んだよ』
喉奥に何かが引っかかったような喋り方で、男は答えた。
『心配しなくていい。お前もすぐ追いつける』
その後は一瞬だった。
男は左手でお母さんの肩を持つと、そのまま頭を引き抜いた。
頭蓋骨に引っ張られて、ぞりゅぞりゅぞりゅっ、と、脊髄と背骨まで出てきた。ぶぅらぶぅらと揺れた後、ばたばたと血を垂らした。
そして男は、お母さんの頭を、トマトのように握りつぶした。
かわいい妹の顔が恐怖にまみれるのを、リーは見た。その口が、嗚咽とも悲鳴ともつかぬ形に変わっていくのが、見えた。
急いで彼女の口を手で覆った。
自分の口には、ルーの手がへばりついていた。
ルーは、エメラルドの瞳に涙をいっぱいに貯めて、リーを見ていた。
きっと自分も、同じ顔をしているのだろうと、そう思うだけで泣き出してしまいそうだった。
『ぅ……』
ルーの声があと少しで漏れかかろうかというとき、茂みの向こうでギュン!と音を立て、男が振り返った。
ランランと光る蒼い瞳が、間違いなくこちらに向けられている。
ルーの手に力がこもる。震えながらも、唇をちぎり取られるのではと思うほど、ぎゅううぅと握られる。ルー自身も、唇をぶるぶる震わせているのが、手の平の感触でわかる。リーは一筋の涙を流しながら、渾身の力で妹の口を押さえつける。
茂みの向こうで、どちゃ、ぐちゃ、べちゃ、と音がする。バキバキと、骨が砕かれている。その後に足音――ザッ、ザッ、ザッ――何かを探すように、男が歩き回っている。
ルーはギュッと目をつむり、いっそう強い力を手に込める。
リーも力を振り絞り、妹の口を抑え続ける。
ザッザッザッ、足音が近くで止まる。
ガサ……ガサガサ……ガサガサガサ!
茂みを揺さぶる音が、頭のすぐ後ろでする!
お母さん、お母さん、お母さん――
泣きたかった。叫びたかった。助けて欲しかった。もう一度、抱きしめて欲しかった。頭を撫でて欲しかった。そばにいて欲しかった。
生きていて欲しかった。
確認することさえ、リーにはできなかった。
ガサン!と茂みが開け、朝日が飛び込んできた。
『リー!ルー!』
蒼白い顔で覗き込んでいるのは、赤い髪の王様だった。右頬にべっちょりと血の痕をつけ、泣きそうな顔で笑っている。
『よかった!ここにいたのだな!』
リーとルーは、そろって顔を上げた。
お母さんの言いつけどおり、声はあげなかった。
二人はまだ、お互いの口を塞いだままだった。互いの手が、糊付けしたようにへばりついて、取れなくなっていた。
『もう大丈夫だぞ、もう大丈夫……』
フェニアスに引っ張り上げられたとき、リーはようやく、終わったのだとわかった。
終わってしまったのだと。
三日目の朝だった。
大きな胸に抱かれて、わんわん泣いたのは。
リーの喉からも、ルーの喉からも、一つの音も出なかった。
リーは妹を見つめた。
ルーはずり落ちそうになるホタルのお友達を抱え上げて、何度もなんども首を横に振った。
リーは黙ってうなずいて、大きく、おおきく、口を動かした。
絶対に伝わるように。
これが、最後になるかもしれないから。
ドレイクは倒れたキマイラを右足で踏んずけて、優雅に弾を装填していた。タバコを口にくわえ、火をつける余裕さえあった。
キマイラはうつぶせに倒れたまま、ピクリともしない。芝生の上にできた血だまりは、フライパンの上に流したホットケーキミックスのように、どんどんその直径を広げている。
さて、どうせ何も喋らないなら、戦力を少しでもそぐのがよかろう。ドレイク以外の人間では、守り人と戦うことそれすなわち死を意味する。心臓はぶち抜いているが、守り人の生命力は文字通り底知れない。きちんと始末するには、頭をぶち抜くしかない。
軽快なリズムでポリスマンを鳴らし、森番の頭に向けた。
しかし、引き金を引く直前、翠の光が視界を薙いだ。
カラカラと寂しい音を立てて、ポリスマンが転がって行った。
「はぁー、なんでまったく……」
ドレイクはキマイラから足をどかし、ポリスマンを蹴っ飛ばした犯人に向き直った。
「見逃してやったのに」
ドレイクを睨みつけているのは、まだ十にも満たないような小さな女の子だった。
踊り子のような衣装に身を包み、おでこには、瞳と同じ色をした、大粒のエメラルドをつけている。ナワバリを犯された狼のように、牙をむき出しにしているがどうも、鼻息にすら声が乗ってこない。
大丈夫かな?この子――そう思った次の瞬間、ドレイクは膝裏を蹴られ、その場に跪いた。
バカな、さっきまで相対して睨みつけていたはず――
「ぶぅっ!」
今度は左からだ。頬に膝蹴りをお見舞いされた。まだ吸いかけだったのに、タバコが槍投げのように飛んでいった。上の奥歯が二本、折れて口の中ででたらめに跳ねまわった。
そうか、彼女は神速の持ち主――脇腹に――目だけに頼っていては、決して追いきれない――右肩に――どこからだ――足首のベレッタに伸ばした右手に――どこから来る――反対側のベレッタに伸ばした左手に――どうやって――次々に、常人なら骨が砕けるほどの力で蹴りこまれる。
最後は顎先を天に向かって蹴り上げられ、ドレイクは脳を揺さぶられる。
あぁ、太陽が二重、三重に見える。パティシエがボウルにあけた大量の卵みたいだ。太陽そのものと、光の輪が、幾重にも重なって――
「やっかいだな……すばしこい」
ふらふらと定まらない焦点で視線を戻す。
翠の瞳の女の子は、死に絶えたはずのキマイラの下に潜り込み、ふんふん言いながら――声が出ていないので、おそらくそう言っているのだろうと――持ち上げている。
なんと諦めの悪い――――彼女の足先が、真っ白な毛で覆われていることに、ドレイクはふと気が付く。
彼女はチラリとドレイクを見ると、キマイラを担いだまま、ノーモーションで音速で走り出す。幻だったのではと疑うほど素早く、森の中へ姿を消す。
おかげで、ドレイクの目が覚める。
「なるほど……フェンリルか!」
森を駆けていた。
何度もなんども走った森を、誰よりも何よりも早く駆けていた。
お世話になった人を連れて、フェニアス様のところまで届けるために。
だって、ヴァルキリーが迎えてくれたから。
喋れなくたって大丈夫。一緒に棲もうって、言ってくれたから。
お願い、間に合って!間に合って、間に合って、間に合って――――――!
木の影からぬぅっと誰かが現れて、リーは幻獣の力を借りた。
岩盤まで轟く力で地面を蹴り砕き、走っていた方向を九十度右に変えた。
しかし、その誰かは、リーが振り向いた先で待っていた。
サファイアの光が、妹のように線を引いて近付いてくる。
フェニアス様以外に、そんなこと、絶対にありえないと思っていたのに。
リーは黒い鉄の棒のようなものでお腹を叩かれた。音を置き去りにするぐらい速く走っていたのだ、内臓が破裂するほどの衝撃に襲われた。背負っていたヴァルキリーが投石機に飛ばされたように前方にすっ飛んでいき、リーもその後に続いて地面を転げまわった。木の根のこぶに頭が当たって、額から右目、右頬にかけて激痛が走る。
全身が動かない。ぴくりとも、指先を曲げることすらできない。痛い、痛い、痛いいたい痛いいたい……う、う、う……そううめいたはずなのに、リーの口からは、やっぱり何の音もでない。
ザッ、ザッ、ザッ、あの時と同じ足音が近付いてくる。
「さすがに人を担いでだと、遅くなるんだな」
喉奥に何かが引っかかったように、男は喋る。
その声を聞いた瞬間、痺れていた手に、感覚が蘇る。
力の入らなかった脚に、血が巡る。
リーは立ち上がる。誰にも聞こえない雄叫びを上げながら。
片目が潰れて見えない。でも、間違いない。
あの男だ。
大好きなお母さんとお父さんを殺した。
あの男だ!
リーは下半身の毛をぜんぶ逆立てた。それは人間の産毛と違い、白銀の狼のそれだった。脚の筋肉が全て、走るためだけの形に盛り上がり、爆発的な加速を彼女にもたらした。
蹴りこむ。男は、今度は鉄の棒でそれを防ぐ。
不思議な棒だ。真っ黒い鉄で、一直線でなく、片方の端がベルナルグの持つ弓のようにひん曲がっている。そして反対側の先端には、ぽっかりと穴が開いている。それでは強度が保てないだろうに。
「もう一度言う。ここはアメリカじゃない。そしてオレは子供に容赦しない」
男は何か脅迫めいたことを言っている。でもリーは止まらない。木の幹を狼の足型に凹ませ、たくさんの木くずと、上空から振り落ちる木の実を伴って、男の首筋に渾身の蹴りを叩きこむ。
「速いだけだとっ!」
ダメだ――刹那の間にリーは観念した。男はあの黒い棒を巧みに操って、リーの背中を叩いた。ものすごい力だ。怒ったヴァルキリーより、何倍も強いかもしれない。パキポキと、右のあばらが折れる音がする。リーの蹴りは進行方向から逸れ、空振り、地面に突き刺さる。脇腹に激痛が走る。
起き上がれない。脇腹が焼けるように熱い。息ができない。見上げると、黒い鉄棒の先端が、リーの頭に向けられている。男が勝ち誇って笑っている。
「やめろおぉぉぉぉ!」
大好きな声だった。
リーが救いたかった。
どうやって起き上がったのだろう、全身を血で真っ赤にしたヴァルキリーが、鉄の棒とリーの間に割って入った。
リーは手を伸ばした。
助けたかった。
助けたかったのに。
ドカァン!と大砲のような音がして、ヴァルキリーの頭が吹っ飛んだ。リーの顔を、生暖かい血がびしゃりとうがった。
ヴァルキリーはそのまま、音もなく崩れ落ちた。
「あぁ、やれやれ」
男は、小さな虫をはたいた時のように、たいしてエネルギーをかけずにため息をつくと、黒い鉄の棒に、金色の小さな筒をねじ込んだ。
ヴァルキリーを踏みつけにして、リーの元へと歩いてきた。
恩人の死を目の当たりにして、リーの体は今度こそ動かなくなった。痛みに抗う気力すら、もう残っていなかった。
諦めて視線を下げた時、ふと、違和感に気付いた。
倒れているヴァルキリーの下半身だ。
お尻のあたりに生えていたたくさんの蛇の、そのうちの一匹が、焼かれたロープのようにチリチリと黒く焼け焦げていく。真っ黒になったそばからはらはらと崩れ、灰のように舞って消える。
リーは驚いて目を見張る。それを見て、男が足を止める。何かに気付いたように、黒い鉄の棒をもって振り返る。
「グオオオォォォァアアアアン!」
ヴァルキリーが今再び、立ち上がった。
被っていたライオンの毛皮と一体化したような姿になって、男の顔にヴァルブレイカーを叩きつけた。
「なるほど!キマイラの権能とは!」
何を感じとったのか、男は嬉しそうに歯を覗かせた。その瞳がキュオッと、引き締まり、蒼い色に染まった。
男はヴァルブレイカー握るヴァルキリーの右手をねじり上げ、もう片方の手で――黒い鉄の棒を持ち替え――ライオンの鼻先をしこたま殴りつけた。ヴァルキリーが元の顔に戻るまで痛めつけると、捻っていた右手を引っ張って、手近な木の幹に投げつけた。そして、ヴァルキリーが地面にずり落ちるより早く、黒い鉄の棒を構え、また大砲のような音を鳴らした。
ヴァルキリーが、血の滝を残しながらずり落ちたあと、木の幹には、キツツキがついたような穴が無数に空いていた。
ジッ、と音がして、お尻の蛇がまた一匹、灰になって消える。鼻をつぶされ、口元に、だらだらと赤黒い血が流れ続けている。舌なめずりしてそれを味わうと、ヴァルキリーは不敵に笑って立ち上がる。
「感心しないな。お前はフェニアスと違って限度がある。なのになぜ立ち上がる」
「あいつはホタルが大事にしていた友達だ!だから逃がす!」
「たわごとを言うな守り人め。その力を人間のために使うな!」
太陽が日食のように姿を消し、辺りは真っ暗になっていた。
その中で、ホタルの胸から次々にあふれ出る光のシャワーは、まるで宇宙の誕生を目の当たりにしたかのように神々しかった。一生見続けていたいほどに綺麗だった。しかしホタルの身に何が起こっているのか、フェニアスは気が気ではない。
「ホタル!ホタル!」
光の粒子は、フェニアスでも近づけぬほど高温だった。肌に当たったところだけ、隕石が落ちたクレーターのように焼け焦げた。
不思議なのは、ホタル自身や、この世界の森や木々、そしてフェニアスたちの衣服には、まるっきり影響を及ぼさないのだ。ホタルはただ、ただ、驚いて、自分の胸元からあふれ出る光を見つめ続けていた。
やがて、彼女の顔が苦しそうに歪み始めた。体の中で異物が暴れまわっているかのように、胸をかきむしり、激しく肩を上下させた。光のシャワーはどんどん勢いを増して、フェニアスたちのいる崖先からさながら、流星群が飛び立ったようだった。できることなら彼女と変わってやりたいと、フェニアスは胸を痛めた。
そして突然、その時は来る。
空気が抜けていく風船のように、飛び出す光がみるみる減っていく。最後には、ホタルの足下で小さな星が力なく跳ねるだけになる。最後に姿を現したのは、ホタルの中に消えたはずの鳳凰だ。沼地から出て来た魔物のように、ホタルの胸から身をよじって出てくると、崖先にぴょこんと着地した。
驚くフェニアスたちを一度だけ振り返ると、鳳凰は再び美しい旋律を奏でながら、飛び立ってしまった。その羽ばたきが、日食の終わりを告げる合図だった。太陽が再び姿を現し、雄大な幻獣たちの棲み家を照らしていた。鳳凰は、その光に向かって飛んで行った。
3000年生きてきて、初めて見る光景だった。何万人もの守り人が、ここで幻獣と盟約する瞬間を見てきた。ホタルの身に起こったことは、そのどれとも違った。
ドシュッ、という音に振り返ると、オーガが、自らの斧を取り落とし、フェニアスと同じ表情で固まっていた。知将と言われる彼でも、見聞きしたことのない光景だったことだろう。
「ふん」
オズワイルドだけが、強情にもホタルを見下していた。
「やはり外界の人間ではダメだ」
しかしその彼も、額にうっすらと流れる汗の粒を隠せないでいた。
鳳凰の長い尾羽が、太陽の中に消えた時、ホタルががっくりと膝をついた。
「ホタル!」
フェニアスは駆け寄って、その細い肩を抱いた。華奢な体だ。力を込めてしまえば、たちまち折れてしまいそうだ。こんなに小さな身一つで、世界を背負おうとしていたなど、いったい誰が理解してくれるだろう?
「怒ってた……!」
一粒のしずくを落とし、ホタルが声を震わせた。
「わたしたち人間がやったことを……絶対に許さないって……!」
彼女が顔を上げた時、その瞳は、涙でいっぱいになっていた。
「どうしよう!話、聞いてもらわなくちゃいけなかったのに!」
ホタルは今にも壊れてしまいそうな表情で、半狂乱になって叫ぶ。フェニアスはなんと声をかけていいやらわからない。
3000年も生きれば、少しは人生の役に立ちそうな虚言でも学べそうなところ、いったい自分はどれだけ無力なのだろうか。こんないたいけな少女に守り人の命運を託し、気付けば、その責任まで押し付けている。歯がゆくてはがゆくて、身が焼けてしまいそうだ。
ホタルはフェニアスの手を振り払い、崖の縁に沿って駆けていった。そして、今にも身を投げてしまいそうな背中で、さめざめと泣くのだった。
「あんなのは初めてです。盟約すれば普通、死ぬまで体の中に入ったままだ」
オーガが寄ってきて、ガラガラ声がホタルに届かぬよう、ささやいた。
フェニアスはホタルの背中を見つめたまま、うわ言のように呟いた。
「……ホタルは夢の中で私を見たそうだ」
「それがなにか、関係あるので……?」
「その夢は……私と会う前から見ていたと言う」
オーガはあんぐりと口を開け、ホタルの方を、並々ならぬ興味の視線で見ていた。
「あるいはそれが……ホタルには、特別な何かがあるのかもしれぬ」
鳳凰はホタルを殺さなかった。
彼女曰く、〝怒っていた〟にも関わらずだ。
それが幻獣の気まぐれなのか、それとも天の、神の思し召しなのか。神官ではないフェニアスにはわからぬ。いや、理解することができないと言った方が、正しいかもしれぬ。
それでも、今ここで抱いている希望が、捨てきれぬ何かになりつつあるのを、フェニアスは感じていた。
「フェニアスさん!」
突然、男の子の声がこだました。きっとワタルだ。自分のことを〝様〟以外で呼ぶのは、ホタル(とドレイク)以外には彼しかいない。やはりだ。茂みの中から現れたのは、ルーに担がれたワタルだ。オズワイルドもオーガも、そしてもちろんフェニアスも、一様に驚いた。ルーが汗と泥だらけになっているのが、驚きをより加速させた。
ホタルは泣くのをやめて、しずくがいっぱいに溜まった両手から顔を上げた。
「ワタル……?」
「すいません!入るなと言ったのに!無理やり!」
ナイフで蔓を切り裂きながら、リンドが遅れてやって来る。とても慌てた様子だ。柄にもなく攻撃をくらっている。右肩についた一筋のみみずばれがそれだ。ルーが介入したことで、扉の外の均衡が崩れたのだと容易に想像できる。
ワタルも同じく(というより、かなりひどい)怪我をしていることに気付き、フェニアスは桜色の炎で彼らを治癒した。ルーの肩から転げ落ちたワタルに近づき、膝をついて、顔を近づけた。
「どうした、何があった」
「ごほっ……げほっ……はあ……はあ……」
急速に回復していく痛みに顔をしかめながら、ワタルは声を絞り出した。
「バレた……!居場所が……!マイラーズが戦ってる……」
なぜ、その可能性に気付かなかったのか。
愚かな自分に、フェニアスは激しい怒りを覚えた。
扉が開いたのだぞ!無視できるわけなどどこにある!
「大佐だ!ドレイクが来た!」
続く言葉を聞く前に、フェニアスは爆音とともに飛び立った。
止まった時の衝撃で、また鳥たちが悲鳴を上げていた。
無数の羽ばたきの後、時が沈黙したように辺りは静寂に包まれた。
完全な開門とはいかぬか。フェニアスは下唇を噛む。歓迎されていない証拠だ。
しかし、希望が残されているとも言える。
フェニアスはオーガとオズワイルド、そしてホタルを連れて、扉の中に足を踏み入れた。
地上に降りる時はホタルの手をとり、足裏を爆発させながら降下した。
山より大きな扉を動かしたのだ。ドレイクに気付かれている可能性を考慮するならば、今重視すべきはスピードだ。
扉の中は文字通り原初の森だ。人が介在する、いや、誕生する以前の地球がそうであったのと同じく。
巨大な葉と蔓がうっそうと生い茂り、行き先どころか視界そのものを遮っている。フェニアスは古よりたどってきた道を、記憶を再現して歩く。扉から一番近い高台を目指して進む。
歴史はいつもそこで作られてきた。
最後の大葉を持ち上げた時、背後でホタルが、感嘆のため息を漏らした。
それもそのはずだ。
山の中腹に張り出した崖からは、この世の物とは思えぬ絶景が広がっていた。
フェニアスたちの世界より、なお広い。
エベレストより高い山々の合間に、アマゾン川のような巨大な川が流れている。地平線の向こうまで続いている。はるか遠くには、雲を突き抜けてそびえ立つ大樹がある。三本の巨大な蔓が互いに支え合っているように見える。世界樹だ。枝の一つだけで人が海峡にかける橋ほど長く、葉の一つは湖のように大きい。そばを飛んでいる鳥が豆粒のように小さく見えるが、あれは本来、豪華客船ほどでかいケツァルコアトルだ。
ぽかんと口を開けたまま、ホタルがふらふらと崖の縁まで歩いて行く。魅せられている。わかるとも、魅せられている。
ウミヘビのように長い体をくねらせ、山の斜面を漂っているのは薄氷色の龍だ。吹雪をまとっている。パティシエが振るう粉砂糖のように、長いヒゲや、鋭い爪の周りを白い粉がヒュンヒュン飛び回っている。鱗の一つ一つが薄い氷のように透き通っていて、きらきらと太陽の光を反射している。
左手にそびえ立つ火山が突如大噴火を起こした。地響きが膝の皿を震わし、マグマの熱波がフェニアスの左頬を熱くした。火柱とともに現れたのは、一羽の怪鳥だ。噴火口から、ドプンと溢れるマグマに乗って這い出てきた。鉤爪の一本いっぽんがクレーン車のように長く、山頂に深い溝を作っていく。ゲーッ!と鳴いたその嘴は、火箸のように尖っていて、頭には悪魔のような小さなトンガリ耳がついている。ギョロギョロと巨大な目を動かすと、身をよじって噴火口から抜け出し、フジツボの貼り付いた船底のようにゴツゴツとした羽を振り上げた。その大きさは、ジェット機を凌駕するだろう。
ギョエーッ!と言って飛び上がった火の鳥に苛立ったのは雷の鳥だ。羽の一本一本がダガーのように鋭く、目つきは猛禽類の親玉のように恐ろしい。渦巻く灰色の雲と共に急降下してきて、頭上にたちまち暗雲を溜め込んで、バリィッ!という衝撃と閃光で空気を一刀両断した。平べったいくちばしを直角になるまで開いて、ギャアギャア鳴いている。稲光を反射する黄緑の羽毛が、発光するラジウムのように美しい。
右手の山々だと思っていたものが突然動き出し、ホタルが尻もちをついた。
象ほど大きな岩が、砂粒のように空高く舞い上がり、岩盤の下から巨大な気球のような瞳が現れた。フェニアスはエクストリーマーで、自らの頭上に振ってきた岩を砕いた。人が想像できるスケールを超えている。背中から零れ落ちる土砂だけで、小さな無人島が出来上がるだろう。
あまりに大きすぎて、全容を視界に収めることができない。しかし、大陸を背負える生物は他にいない。玄武だ。眠たそうにフェニアスたちを見つめると、世界樹めがけてドシン、ドシンと歩き始めた。その一歩いっぽで、巨大な川に大津波を引き起こしていた。
立ち上がろうとするホタルに手を差し出した時、耳介の縁を、美しい旋律がなぞった。
耳を澄ませるとそれは、フルートのように透き通った高音で、ヴァイオリンのように艶めいた歌声だった。
クジラが海中で奏でるそれより何倍も美しいものだった。身をゆだねていたら、筋肉の繊維がほろほろとほぐれて、死の一時前まで聞きほれていただろう。
神が本当に存在するならば。そして天使を遣わしたのならば、きっと、同じ歌を聞くことができただろう。
ホタルがそっと手を離し、歌の方へ顔を上げる。崖の縁にそって歩いて、その先端まで進む。
それは最初、太陽の中に浮かぶ黒点のようにしか見えなかった。徐々に徐々に大きくなるにつれて、天女の羽衣のように長い尾羽を五本、持っているのが見えた。大きさはクジャクほどだ。朱い鳥だ。
全身を朱い羽が覆い、まぶたの一部分にのみ、ふかい青色の羽が一本、差し込まれている。尾羽には他に、黒と白、黄色の羽も混じっていて、見る者をうっとりとさせる配色で生えそろっている。それだけで、神が、この生き物を特別ていねいに形作ったのだとわかる。
太陽の光をさんさんと浴びて、朱い鳥は神々しいまでの存在感を放っていた。近づくにつれて、その美しさが、歌の荘厳さが、胸の奥深いところまで染み渡ってきて、涙が溢れそうになった。
愛の歌の、最後の一節を軽やかに歌い上げると、朱い鳥はしゅっ、と素早く滑空した。驚くホタルの目の前で、再び翼を広げた。羽毛の枕が弾けたように、紅い羽がぶわっと舞い上がり、ホタルは素早く二歩、下がった。
朱い鳥は朱い翼をバッサバッサと鳴らし、崖の先端へ、優雅に着地した。右の翼に嘴をうずめると、手入れするかのようについばみ始めた。頭の上についている冠のような飾り羽が、ぴょこんぴょこんと揺れていた。
見た目に騙されてはいけない。
どれだけ愛くるしくとも、どれだけ親しみ深くても、相手は紛れもない王なのだ。非礼や無礼は許されぬ。
「……鳳凰だ」
フェニアスはその名を告げる。
真名は、〝平和を司る王〟――
「ホタル、お辞儀を」
ホタルは左目だけでフェニアスを振り返ると、スカートの裾を持ち上げ、片方の膝を曲げた。
うやうやしく頭を下げる彼女を、鳳凰は小首をかしげて見上げていた。
「初めまして。浦王ホタルと言います」
「目を逸らすな」
フェニアスは筋張った声で忠告する。
機嫌を損ねれば、フェニアスとて一寸先に無傷で立っていられるかわからない状況だ。幻獣とは本来、それほどの存在だ。
ホタルは賢い子だった。慎重に慎重を重ねて言葉を選び、ダーツの最後の一投を投げるように、丁寧に言葉を紡いだ。
「あなたたちに伝えに来ました。ここに危機が迫っている。今すぐ逃げないと――あぁ!」
ホタルが突然叫び、自身の頭を両腕で覆った。
鳳凰が、なんの前触れもなく飛び立ち、ホタルの喉元にくちばしを突き立てたのだ。
流星群が降り注いだように、色とりどりの火花が散った。指先でつまめるヒトデほどの星も瞬いた。ホタルの胸から、光のシャワーのように、星の噴水のように、溢れ出していた。
鳳凰はその姿を消し、ホタルの胸の内へと潜り込んだ。
盟約とも乗っ取りともつかぬ光景を前に、フェニアスは我を忘れて叫んだ。
「ホタル!」
ドレイクはショットガン握る右手に体重をかけた。
ポリスマンの銃口は今――ワタルと言ったか――ホタルの友人の喉奥に突き立っている。
ワタルは頬から血を流し、何度も嗚咽と戦っている。
「いいか?大声を出したら殺す」
ポリスマンに弾を装填しながら、ドレイクは脅す。
「一度しか聞かない。ホタル様はどこにいる」
ワタルがもごもご口を動かし始める。弾を装填し終えてから、ドレイクはショットガンの銃口を離してやる。
勇敢か無謀か、ワタルはすかさずつばを吐いた。ドレイクは顔を背けたが、ねっとりとした臭い液体が、右の頬に着弾した。
「誰が喋るか、モハティの犬め」
苦々しい声だった。お前なんか絶対に信用しないと、絶対に許さないと、彼の声が言っていた。
頭に血が上るのを感じる。頬についたつばをぬぐう。
残念なことこの上ないが、さっそく奪わねばならないのか。ポリスマンの引き金にかけた人差し指に、ドレイクは力を込める。もう一度銃口を、ワタルの顔に向けて――
「残念だが……オレは犬じゃない。もっと高貴な――」
突然、左肩に大きな衝撃を受け、ドレイクは吹っ飛んだ。猛スピードで突っ込んできたサイに体当たりでもされたのかと思った。もう少し反応が遅ければ、肩の骨を砕かれていた。
平衡感覚が一瞬なくなる。しかし一瞬だ。蒼い視界がそれを可能にする。右の頬が芝生の上でヂリヂリとこすられた二秒後には、ドレイクは体を一回転させ、襲撃者へ銃口を向けていた。
そいつはワタルと同年代の少年だった。頭の上からライオンの毛皮を被っていた。星空をまぶしたような瞳を怒らせている。右手には、伝家の宝刀――目当ての森番だ。
「マイラーズ!」
ワタルがその名を叫んだ。
「フェニアス様を呼べぇ!」
「でも!」
「俺だけじゃ勝てない!ホタルを死なせたくない!」
「くそぉ!」
二人とも判断が早い。そして戦力差も冷静に分析できている。若いのに優秀だ。
絶対に逃がさん。
ワタルが踵を返して走り出す。ドレイクはショットガンを森番に向けて放つ。さすがは守り人、手に持った武器で、無数に飛来する散弾を全て切り弾く。その一瞬の隙をついて、ドレイクは逃げ出したワタルに追いつく。背骨の真ん中を、右足で思いっきり蹴りぬいてやる。ワタルはサッカーボールのように吹っ飛んで、積まれていた丸太の山に激突して気絶する。
とてつもない殺気が後ろから迫ってくる。立て直しが速い。ドレイクは振り向きざま、ポリスマンの銃口と銃把を左右の手で握りしめ、鋼鉄の銃身でヴァルブレイカーを受け止める。
ドゴン、ゴロン、と丸太の山が崩れる。ヴァルブレイカーをじりじりと滑らせて、森番が牙をむき出しにする。いい闘争心だ。すさまじい力だ。大の大人二十人を同時に相手しているようだ。
「知ってるか?アメリカの映画では子供を殺せない。規制が厳しいからな。残虐なシーンを見せてはいけないってことさ」
森番は眉間にしわを寄せ、ヴァルブレイカーを今一度強く押し付ける。
「アメリカ?なんだそ――」
「だがそれは結局、映画と現実の区別がつかない『バカな大人』が増えたせいだ。フィクションはフィクション。現実は現実。映画の中で何が起きようと、現実とは関係がない」
外に出たことが無い連中はこれだから嫌だ。話が通じない。
「だが、ここは幸か不幸かアメリカじゃない。幻獣の棲みかだ。そしてお前たちを殺しても、幻獣の魂は死なない。あるべきところへ還るだけだ。だからオレは、子供だろうと容赦しない」
「なんで……そのことを……!」
森番の顔が、今度は不意の衝撃でゆがむ。ドレイクは不敵に笑う。拮抗していた銃身と刀身のつばぜり合いに、徐々に勝利し始める。ヴァルブレイカーを、その切っ先を、相手の顔の方に押しやっていく。
「なんでだと思う?」
森番がキッ、と目つきを鋭くした。星空をまぶしたような瞳が黄色く変わり、瞳孔が縦に細く切れた。
来たな、ついに!
「グォァアオン!」
「ライオンの咆哮!」
森番の鼻に真っ白な毛が生え、頬は砂色の毛に包まれた。犬歯が二倍の長さに伸びた。尻の付け根からはうじゃうじゃと、たくさんの真っ黒な蛇が生え、そのうちの一匹がドレイクの左腕に噛みついた。
「蛇の尻尾!」
ドレイクはヴァルブレイカーを押し出し、森番を蹴り飛ばした。蛇はトカゲのしっぽのように森番の尻からちぎれ、ドレイクの腕に噛みついたまま残った。その頭をむんずと捕まえ、引き抜いた。蛇はドレイクの手の中で、釣られた魚のようにバタバタもがいていた。
「キマイラか!」
「リー!ルー!そいつを連れて行け!」
ライオンになりかけの顔で森番が叫ぶと、山小屋の扉がはじけ飛んだ。
転がっていく扉を追い越して、二つの翠の線が、芝生の上を駆け抜けていった。
気付いた時にはワタルの姿が無く、数百メートル先の森の中で、茂みをかき分ける音がしていた。そしてそれは、どんどん遠ざかっていっているようだった。
「なんというスピードだ!神速か!」
「ドレイク大佐!」
「近づくな!」
ドレイクは反射的に檄を飛ばした。
森の中から姿を現したのは部下たちだ。
自動小銃を構えた一個小隊が、素晴らしく整った隊列を組んで出て来た。
相手は銃を持っていない。通常の人間相手なら、それでよかったのだ。通常の人間が相手ならば。
「しかし……この距離では……!」
部下の一人が、右目をほとんど潰しそうになりながら、照準器を覗いている。ドレイクに当てたくないのだろう。気持ちは嬉しいが――
「わかってる……撃たなくていい――あらら、遅かったか」
ドレイクが振り向いたわずか数秒の間に、森番が走った。芝生の上に蹄の痕が残っている。やつの後ろ脚が、崖をも登る強靭なヤギのそれになっている。どうりで速いはずだ。
「ぎゃああああああ!」
ドレイクが見たのは、可愛いかわいい兵士たちが、ライオンの怪力によって頭を潰され、喉笛を噛みちぎられ、どてっぱらに大穴を開けて血を噴いて倒れる様だった。
「ぎゃああ!あああ!あああああ!」
パタタタタ……本来ならば勇ましいはずの機銃音が、むなしい抵抗となって空に消えていく。幻獣の力を引き出した森番は、ライオンそのものと言っても差し支えないほど巨大化していた。もはや対人殺傷兵器程度では怯みもせず、次々にその牙と、爪と、伝家の宝刀で兵士をなますのように切り刻んでいく。尻尾の代わりに生えている無数の蛇も、森番の背中側にいる兵士の顔を、穴だらけにするまでかぶり続け、手が付けられない。
部下をやられて黙ってはいられない。森番が兵士の、最後の一人に剣を突き立てたその時、ドレイクは彼の背中に銃口を突きつけ、迷いなく引き金を引いた。
「ぐっ!ぅう!」
ズドォン!という音とともに、キマイラの背中に無数の血の斑点が浮かび上がる。既に死してしまった反対側の部下にも、雨あられのように降り注いだことだろうそれよりも。
自らが人間に撃たれたこと、やすやすと背後をとられたこと、そして、死んでしまうこと。
その事実に、森番は驚愕していた。
「なん……」
「でだと思う?」
我ながら意地悪だったかな。
ドレイクはほくそ笑む。
森を駆けていた。
何度もなんども走った森を、誰よりも何よりも早く駆けていた。
ホタルのお友達を連れて、フェニアス様のところまで届けるために。
だって、ヴァルキリーがそう言ったから。
お前たちならできる。やれって、そう言ったから。
でも、でも、でも……でも!
リーは地面に踵を突き立て、土くれと、木の根の表面を、全部砕いて立ち止まった。
ニ十歩先で、妹が同じように急ブレーキをかけた。彼女は肩に、ぐったりと眠るホタルのお友達をぶら下げている。
ルーが早く行こう!と、身振り手振りで手話をする。
リーは首を振り、後ろを振り返る。過去を振り返る。
見えるのは緑の木々、蔓と葉っぱ、あの時と同じ、深いふかい森だ。
そう、あの時と同じ――――
三日目の朝だった。
大きな胸に抱かれて、わんわん泣いたのは。
『もう!どうしてついてきたの!』
お母さんがそんな風に怒るなんて、リーは思ってもいなかった。きっとルーも。
『ダメだ!止められない!』
お母さんの後ろの方から、お父さんの声がした。リーは嬉しくって、思わず顔を輝かせた。
『リー!ルー!いいこと!絶対にここから出てはいけませんよ!』
お母さんは厳しい顔をして、リーと妹を不意に抱いた。
真っ白な、狼の毛におおわれたお母さんの大きな胸が、暖かくて柔らかくて、心地の良い感覚としてリーの中に遺っている。
『何が起きても、声を上げてはいけません!何が起きてもよ!約束しなさい!』
お母さんは怖い顔をしていた。とっても、とっても怖かった。
だから頷いた。ルーと手を繋いで、これ以上怒られたくなくて、一生懸命首を縦に振った。
お母さんはリーとルーを茂みの中に押し込み、どこかへ走って行った。
ちょっとだけ待っていれば、お父さんも、お母さんも、きっと帰ってくるに違いないと、リーは思っていた。そりゃ、棲みかを勝手に抜け出したのは悪いことだけれど、お母さんはいつだって優しかった。きちんと言われた通り、ここで、じっと静かにしていれば、またあの大きなお胸で抱きしめてくれるはずだ。
そう思っていた。
夜が更けたころ、女の人の悲鳴と、男の人の怒号でリーは目を覚ました。
いつのまにかうとうとしていたらしい。隣のルーも、同じようにこっくりこっくり、舟をこいでいた。リーは妹の肩を叩いて起こした。
『逃げろ!逃げるんだ!逃げ――――――』
ドサン!と何かが落ちる音がした。すぐそばでした。
リーとルーはそろって飛び上がって、茂みの中で互いを抱きしめた。
『やめて……』
泣きそうな声で、誰かが懇願している。
『やめて……お願いやめてぇ……』
お母さんだ――リーの背中を、うすら寒い何かがなぞる。
怯えている。お母さんが。
茂みのすき間からのぞくと、大きなコートを羽織った誰かが、お母さんの上に馬乗りになっていた。ドラゴンのかぎ爪のように巨大化した右手で、お母さんの顔をむんずと掴むと、ずるずると引きずりながら、自分の顔と同じ高さまで引っ張り上げた。
『はっ……んぅうう……』
『答えろ、フェニアスが送り込んだのはお前たちだけか?他には?』
ドラゴンのかぎ爪の持ち主は男だった。
『いない……私たちだけ……ごふっ……ルオ……』
『旦那は死んだよ』
喉奥に何かが引っかかったような喋り方で、男は答えた。
『心配しなくていい。お前もすぐ追いつける』
その後は一瞬だった。
男は左手でお母さんの肩を持つと、そのまま頭を引き抜いた。
頭蓋骨に引っ張られて、ぞりゅぞりゅぞりゅっ、と、脊髄と背骨まで出てきた。ぶぅらぶぅらと揺れた後、ばたばたと血を垂らした。
そして男は、お母さんの頭を、トマトのように握りつぶした。
かわいい妹の顔が恐怖にまみれるのを、リーは見た。その口が、嗚咽とも悲鳴ともつかぬ形に変わっていくのが、見えた。
急いで彼女の口を手で覆った。
自分の口には、ルーの手がへばりついていた。
ルーは、エメラルドの瞳に涙をいっぱいに貯めて、リーを見ていた。
きっと自分も、同じ顔をしているのだろうと、そう思うだけで泣き出してしまいそうだった。
『ぅ……』
ルーの声があと少しで漏れかかろうかというとき、茂みの向こうでギュン!と音を立て、男が振り返った。
ランランと光る蒼い瞳が、間違いなくこちらに向けられている。
ルーの手に力がこもる。震えながらも、唇をちぎり取られるのではと思うほど、ぎゅううぅと握られる。ルー自身も、唇をぶるぶる震わせているのが、手の平の感触でわかる。リーは一筋の涙を流しながら、渾身の力で妹の口を押さえつける。
茂みの向こうで、どちゃ、ぐちゃ、べちゃ、と音がする。バキバキと、骨が砕かれている。その後に足音――ザッ、ザッ、ザッ――何かを探すように、男が歩き回っている。
ルーはギュッと目をつむり、いっそう強い力を手に込める。
リーも力を振り絞り、妹の口を抑え続ける。
ザッザッザッ、足音が近くで止まる。
ガサ……ガサガサ……ガサガサガサ!
茂みを揺さぶる音が、頭のすぐ後ろでする!
お母さん、お母さん、お母さん――
泣きたかった。叫びたかった。助けて欲しかった。もう一度、抱きしめて欲しかった。頭を撫でて欲しかった。そばにいて欲しかった。
生きていて欲しかった。
確認することさえ、リーにはできなかった。
ガサン!と茂みが開け、朝日が飛び込んできた。
『リー!ルー!』
蒼白い顔で覗き込んでいるのは、赤い髪の王様だった。右頬にべっちょりと血の痕をつけ、泣きそうな顔で笑っている。
『よかった!ここにいたのだな!』
リーとルーは、そろって顔を上げた。
お母さんの言いつけどおり、声はあげなかった。
二人はまだ、お互いの口を塞いだままだった。互いの手が、糊付けしたようにへばりついて、取れなくなっていた。
『もう大丈夫だぞ、もう大丈夫……』
フェニアスに引っ張り上げられたとき、リーはようやく、終わったのだとわかった。
終わってしまったのだと。
三日目の朝だった。
大きな胸に抱かれて、わんわん泣いたのは。
リーの喉からも、ルーの喉からも、一つの音も出なかった。
リーは妹を見つめた。
ルーはずり落ちそうになるホタルのお友達を抱え上げて、何度もなんども首を横に振った。
リーは黙ってうなずいて、大きく、おおきく、口を動かした。
絶対に伝わるように。
これが、最後になるかもしれないから。
ドレイクは倒れたキマイラを右足で踏んずけて、優雅に弾を装填していた。タバコを口にくわえ、火をつける余裕さえあった。
キマイラはうつぶせに倒れたまま、ピクリともしない。芝生の上にできた血だまりは、フライパンの上に流したホットケーキミックスのように、どんどんその直径を広げている。
さて、どうせ何も喋らないなら、戦力を少しでもそぐのがよかろう。ドレイク以外の人間では、守り人と戦うことそれすなわち死を意味する。心臓はぶち抜いているが、守り人の生命力は文字通り底知れない。きちんと始末するには、頭をぶち抜くしかない。
軽快なリズムでポリスマンを鳴らし、森番の頭に向けた。
しかし、引き金を引く直前、翠の光が視界を薙いだ。
カラカラと寂しい音を立てて、ポリスマンが転がって行った。
「はぁー、なんでまったく……」
ドレイクはキマイラから足をどかし、ポリスマンを蹴っ飛ばした犯人に向き直った。
「見逃してやったのに」
ドレイクを睨みつけているのは、まだ十にも満たないような小さな女の子だった。
踊り子のような衣装に身を包み、おでこには、瞳と同じ色をした、大粒のエメラルドをつけている。ナワバリを犯された狼のように、牙をむき出しにしているがどうも、鼻息にすら声が乗ってこない。
大丈夫かな?この子――そう思った次の瞬間、ドレイクは膝裏を蹴られ、その場に跪いた。
バカな、さっきまで相対して睨みつけていたはず――
「ぶぅっ!」
今度は左からだ。頬に膝蹴りをお見舞いされた。まだ吸いかけだったのに、タバコが槍投げのように飛んでいった。上の奥歯が二本、折れて口の中ででたらめに跳ねまわった。
そうか、彼女は神速の持ち主――脇腹に――目だけに頼っていては、決して追いきれない――右肩に――どこからだ――足首のベレッタに伸ばした右手に――どこから来る――反対側のベレッタに伸ばした左手に――どうやって――次々に、常人なら骨が砕けるほどの力で蹴りこまれる。
最後は顎先を天に向かって蹴り上げられ、ドレイクは脳を揺さぶられる。
あぁ、太陽が二重、三重に見える。パティシエがボウルにあけた大量の卵みたいだ。太陽そのものと、光の輪が、幾重にも重なって――
「やっかいだな……すばしこい」
ふらふらと定まらない焦点で視線を戻す。
翠の瞳の女の子は、死に絶えたはずのキマイラの下に潜り込み、ふんふん言いながら――声が出ていないので、おそらくそう言っているのだろうと――持ち上げている。
なんと諦めの悪い――――彼女の足先が、真っ白な毛で覆われていることに、ドレイクはふと気が付く。
彼女はチラリとドレイクを見ると、キマイラを担いだまま、ノーモーションで音速で走り出す。幻だったのではと疑うほど素早く、森の中へ姿を消す。
おかげで、ドレイクの目が覚める。
「なるほど……フェンリルか!」
森を駆けていた。
何度もなんども走った森を、誰よりも何よりも早く駆けていた。
お世話になった人を連れて、フェニアス様のところまで届けるために。
だって、ヴァルキリーが迎えてくれたから。
喋れなくたって大丈夫。一緒に棲もうって、言ってくれたから。
お願い、間に合って!間に合って、間に合って、間に合って――――――!
木の影からぬぅっと誰かが現れて、リーは幻獣の力を借りた。
岩盤まで轟く力で地面を蹴り砕き、走っていた方向を九十度右に変えた。
しかし、その誰かは、リーが振り向いた先で待っていた。
サファイアの光が、妹のように線を引いて近付いてくる。
フェニアス様以外に、そんなこと、絶対にありえないと思っていたのに。
リーは黒い鉄の棒のようなものでお腹を叩かれた。音を置き去りにするぐらい速く走っていたのだ、内臓が破裂するほどの衝撃に襲われた。背負っていたヴァルキリーが投石機に飛ばされたように前方にすっ飛んでいき、リーもその後に続いて地面を転げまわった。木の根のこぶに頭が当たって、額から右目、右頬にかけて激痛が走る。
全身が動かない。ぴくりとも、指先を曲げることすらできない。痛い、痛い、痛いいたい痛いいたい……う、う、う……そううめいたはずなのに、リーの口からは、やっぱり何の音もでない。
ザッ、ザッ、ザッ、あの時と同じ足音が近付いてくる。
「さすがに人を担いでだと、遅くなるんだな」
喉奥に何かが引っかかったように、男は喋る。
その声を聞いた瞬間、痺れていた手に、感覚が蘇る。
力の入らなかった脚に、血が巡る。
リーは立ち上がる。誰にも聞こえない雄叫びを上げながら。
片目が潰れて見えない。でも、間違いない。
あの男だ。
大好きなお母さんとお父さんを殺した。
あの男だ!
リーは下半身の毛をぜんぶ逆立てた。それは人間の産毛と違い、白銀の狼のそれだった。脚の筋肉が全て、走るためだけの形に盛り上がり、爆発的な加速を彼女にもたらした。
蹴りこむ。男は、今度は鉄の棒でそれを防ぐ。
不思議な棒だ。真っ黒い鉄で、一直線でなく、片方の端がベルナルグの持つ弓のようにひん曲がっている。そして反対側の先端には、ぽっかりと穴が開いている。それでは強度が保てないだろうに。
「もう一度言う。ここはアメリカじゃない。そしてオレは子供に容赦しない」
男は何か脅迫めいたことを言っている。でもリーは止まらない。木の幹を狼の足型に凹ませ、たくさんの木くずと、上空から振り落ちる木の実を伴って、男の首筋に渾身の蹴りを叩きこむ。
「速いだけだとっ!」
ダメだ――刹那の間にリーは観念した。男はあの黒い棒を巧みに操って、リーの背中を叩いた。ものすごい力だ。怒ったヴァルキリーより、何倍も強いかもしれない。パキポキと、右のあばらが折れる音がする。リーの蹴りは進行方向から逸れ、空振り、地面に突き刺さる。脇腹に激痛が走る。
起き上がれない。脇腹が焼けるように熱い。息ができない。見上げると、黒い鉄棒の先端が、リーの頭に向けられている。男が勝ち誇って笑っている。
「やめろおぉぉぉぉ!」
大好きな声だった。
リーが救いたかった。
どうやって起き上がったのだろう、全身を血で真っ赤にしたヴァルキリーが、鉄の棒とリーの間に割って入った。
リーは手を伸ばした。
助けたかった。
助けたかったのに。
ドカァン!と大砲のような音がして、ヴァルキリーの頭が吹っ飛んだ。リーの顔を、生暖かい血がびしゃりとうがった。
ヴァルキリーはそのまま、音もなく崩れ落ちた。
「あぁ、やれやれ」
男は、小さな虫をはたいた時のように、たいしてエネルギーをかけずにため息をつくと、黒い鉄の棒に、金色の小さな筒をねじ込んだ。
ヴァルキリーを踏みつけにして、リーの元へと歩いてきた。
恩人の死を目の当たりにして、リーの体は今度こそ動かなくなった。痛みに抗う気力すら、もう残っていなかった。
諦めて視線を下げた時、ふと、違和感に気付いた。
倒れているヴァルキリーの下半身だ。
お尻のあたりに生えていたたくさんの蛇の、そのうちの一匹が、焼かれたロープのようにチリチリと黒く焼け焦げていく。真っ黒になったそばからはらはらと崩れ、灰のように舞って消える。
リーは驚いて目を見張る。それを見て、男が足を止める。何かに気付いたように、黒い鉄の棒をもって振り返る。
「グオオオォォォァアアアアン!」
ヴァルキリーが今再び、立ち上がった。
被っていたライオンの毛皮と一体化したような姿になって、男の顔にヴァルブレイカーを叩きつけた。
「なるほど!キマイラの権能とは!」
何を感じとったのか、男は嬉しそうに歯を覗かせた。その瞳がキュオッと、引き締まり、蒼い色に染まった。
男はヴァルブレイカー握るヴァルキリーの右手をねじり上げ、もう片方の手で――黒い鉄の棒を持ち替え――ライオンの鼻先をしこたま殴りつけた。ヴァルキリーが元の顔に戻るまで痛めつけると、捻っていた右手を引っ張って、手近な木の幹に投げつけた。そして、ヴァルキリーが地面にずり落ちるより早く、黒い鉄の棒を構え、また大砲のような音を鳴らした。
ヴァルキリーが、血の滝を残しながらずり落ちたあと、木の幹には、キツツキがついたような穴が無数に空いていた。
ジッ、と音がして、お尻の蛇がまた一匹、灰になって消える。鼻をつぶされ、口元に、だらだらと赤黒い血が流れ続けている。舌なめずりしてそれを味わうと、ヴァルキリーは不敵に笑って立ち上がる。
「感心しないな。お前はフェニアスと違って限度がある。なのになぜ立ち上がる」
「あいつはホタルが大事にしていた友達だ!だから逃がす!」
「たわごとを言うな守り人め。その力を人間のために使うな!」
太陽が日食のように姿を消し、辺りは真っ暗になっていた。
その中で、ホタルの胸から次々にあふれ出る光のシャワーは、まるで宇宙の誕生を目の当たりにしたかのように神々しかった。一生見続けていたいほどに綺麗だった。しかしホタルの身に何が起こっているのか、フェニアスは気が気ではない。
「ホタル!ホタル!」
光の粒子は、フェニアスでも近づけぬほど高温だった。肌に当たったところだけ、隕石が落ちたクレーターのように焼け焦げた。
不思議なのは、ホタル自身や、この世界の森や木々、そしてフェニアスたちの衣服には、まるっきり影響を及ぼさないのだ。ホタルはただ、ただ、驚いて、自分の胸元からあふれ出る光を見つめ続けていた。
やがて、彼女の顔が苦しそうに歪み始めた。体の中で異物が暴れまわっているかのように、胸をかきむしり、激しく肩を上下させた。光のシャワーはどんどん勢いを増して、フェニアスたちのいる崖先からさながら、流星群が飛び立ったようだった。できることなら彼女と変わってやりたいと、フェニアスは胸を痛めた。
そして突然、その時は来る。
空気が抜けていく風船のように、飛び出す光がみるみる減っていく。最後には、ホタルの足下で小さな星が力なく跳ねるだけになる。最後に姿を現したのは、ホタルの中に消えたはずの鳳凰だ。沼地から出て来た魔物のように、ホタルの胸から身をよじって出てくると、崖先にぴょこんと着地した。
驚くフェニアスたちを一度だけ振り返ると、鳳凰は再び美しい旋律を奏でながら、飛び立ってしまった。その羽ばたきが、日食の終わりを告げる合図だった。太陽が再び姿を現し、雄大な幻獣たちの棲み家を照らしていた。鳳凰は、その光に向かって飛んで行った。
3000年生きてきて、初めて見る光景だった。何万人もの守り人が、ここで幻獣と盟約する瞬間を見てきた。ホタルの身に起こったことは、そのどれとも違った。
ドシュッ、という音に振り返ると、オーガが、自らの斧を取り落とし、フェニアスと同じ表情で固まっていた。知将と言われる彼でも、見聞きしたことのない光景だったことだろう。
「ふん」
オズワイルドだけが、強情にもホタルを見下していた。
「やはり外界の人間ではダメだ」
しかしその彼も、額にうっすらと流れる汗の粒を隠せないでいた。
鳳凰の長い尾羽が、太陽の中に消えた時、ホタルががっくりと膝をついた。
「ホタル!」
フェニアスは駆け寄って、その細い肩を抱いた。華奢な体だ。力を込めてしまえば、たちまち折れてしまいそうだ。こんなに小さな身一つで、世界を背負おうとしていたなど、いったい誰が理解してくれるだろう?
「怒ってた……!」
一粒のしずくを落とし、ホタルが声を震わせた。
「わたしたち人間がやったことを……絶対に許さないって……!」
彼女が顔を上げた時、その瞳は、涙でいっぱいになっていた。
「どうしよう!話、聞いてもらわなくちゃいけなかったのに!」
ホタルは今にも壊れてしまいそうな表情で、半狂乱になって叫ぶ。フェニアスはなんと声をかけていいやらわからない。
3000年も生きれば、少しは人生の役に立ちそうな虚言でも学べそうなところ、いったい自分はどれだけ無力なのだろうか。こんないたいけな少女に守り人の命運を託し、気付けば、その責任まで押し付けている。歯がゆくてはがゆくて、身が焼けてしまいそうだ。
ホタルはフェニアスの手を振り払い、崖の縁に沿って駆けていった。そして、今にも身を投げてしまいそうな背中で、さめざめと泣くのだった。
「あんなのは初めてです。盟約すれば普通、死ぬまで体の中に入ったままだ」
オーガが寄ってきて、ガラガラ声がホタルに届かぬよう、ささやいた。
フェニアスはホタルの背中を見つめたまま、うわ言のように呟いた。
「……ホタルは夢の中で私を見たそうだ」
「それがなにか、関係あるので……?」
「その夢は……私と会う前から見ていたと言う」
オーガはあんぐりと口を開け、ホタルの方を、並々ならぬ興味の視線で見ていた。
「あるいはそれが……ホタルには、特別な何かがあるのかもしれぬ」
鳳凰はホタルを殺さなかった。
彼女曰く、〝怒っていた〟にも関わらずだ。
それが幻獣の気まぐれなのか、それとも天の、神の思し召しなのか。神官ではないフェニアスにはわからぬ。いや、理解することができないと言った方が、正しいかもしれぬ。
それでも、今ここで抱いている希望が、捨てきれぬ何かになりつつあるのを、フェニアスは感じていた。
「フェニアスさん!」
突然、男の子の声がこだました。きっとワタルだ。自分のことを〝様〟以外で呼ぶのは、ホタル(とドレイク)以外には彼しかいない。やはりだ。茂みの中から現れたのは、ルーに担がれたワタルだ。オズワイルドもオーガも、そしてもちろんフェニアスも、一様に驚いた。ルーが汗と泥だらけになっているのが、驚きをより加速させた。
ホタルは泣くのをやめて、しずくがいっぱいに溜まった両手から顔を上げた。
「ワタル……?」
「すいません!入るなと言ったのに!無理やり!」
ナイフで蔓を切り裂きながら、リンドが遅れてやって来る。とても慌てた様子だ。柄にもなく攻撃をくらっている。右肩についた一筋のみみずばれがそれだ。ルーが介入したことで、扉の外の均衡が崩れたのだと容易に想像できる。
ワタルも同じく(というより、かなりひどい)怪我をしていることに気付き、フェニアスは桜色の炎で彼らを治癒した。ルーの肩から転げ落ちたワタルに近づき、膝をついて、顔を近づけた。
「どうした、何があった」
「ごほっ……げほっ……はあ……はあ……」
急速に回復していく痛みに顔をしかめながら、ワタルは声を絞り出した。
「バレた……!居場所が……!マイラーズが戦ってる……」
なぜ、その可能性に気付かなかったのか。
愚かな自分に、フェニアスは激しい怒りを覚えた。
扉が開いたのだぞ!無視できるわけなどどこにある!
「大佐だ!ドレイクが来た!」
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