災禍の魔女を超えるまで

kainushi

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第一章 勇神祭

第一話 邂逅

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『災禍の魔女』と呼ばれた者がいた。

約50年前、その者は禍々しい術によって殺戮の限りを尽くし、たった一夜にして大都市を壊滅させたという。

いわく、その目は猛獣のように鋭く、口は裂け、肌は赤黒く爛れ、この世のものとは思えない腐乱した臭気を漂わせている。

人の死肉を喰らうため、夜な夜な人里を襲いまわっているという噂まであった。


やがて災禍の魔女は勇ある人間の活躍によって、ある遺跡に封じられることとなった。大きな脅威は取り除かれたものの、今でも魔女への恐怖心は各地に強く根付いている。


そして、そんな災禍の魔女が封じられている遺跡に、不幸にも閉じ込められてしまった少年がいた。まともな武器も持っておらず、ほぼ丸腰の状態で。


「僕は、どうすればいい……!」


少年リヒトの問いに答える者はいない。ただ周囲には、暗闇と静寂が漂うばかりだ。

自分はこのまま外に出られずに、ゆくゆくは魔女の餌になって死ぬのだろうか。そんな暗い未来ばかり考えてしまう。

まだ歳若いリヒトは、窮地を乗り越えるための現実的な手段を見出せずにいた。



彼にこのような災いが降りかかったのは何故なのか。

その故を知るには、幾許か時をさかのぼる必要がある――



◆◆◆



少年リヒトが暮らしている帝都では、十年前に『勇神祭』という行事があった。

武勇を競う大会が開かれ、勝ち上がった一人に名誉ある『勇者』の称号が授けられる。勇者となった者は、皇帝陛下の城に招かれ、貴族などが住まう第一街での居住権を得る。格別の待遇を受けるという。

第二街の住人たちはこぞってこれに志願した。野心を燃やす者が多い中、最終的に勇者として選ばれたのはリヒトの父エイトだった。父エイトは、多くの嫉妬、憎悪の視線を受けながら、家族を引き連れ第一街へ向かった。リヒトが6歳の時であった。


しかし、父の栄誉はいとも簡単に崩れ去った。第一街に居ついて間もない頃、何がきっかけかはいまだ明らかになっていないが、父は勇者の称号を剥奪され『出来損ない』の烙印を押されることとなった。父が急死したという知らせが入ったのは、それから数日後のことだった。

突然の出来事で、リヒトには何がなんだかわからなかった。なぜ父が死んだのかすら知らされなかった。麻布にくるまれた父エイトの遺体を引き渡された時、母に「中身は見ないで」と言われたことだけは強く記憶に残っていた。


一家の長を失ったリヒトと母は、もの言わぬ父だけを渡され、第二街に送り返された。母は深く悲しんでいた。リヒトは日々弱り続けていくその姿を見ているしかなく、9歳の時に母が病で衰弱死するまで、己の無力さを呪い続けた。

身寄りをなくしたリヒトは、程なくして同世代の友人であるケインの家に養子として引き取られることとなったのだ。



まったく、リヒトの帝都での待遇といったら酷いものであった。


「見ろ、出来損ないの息子だ」

「よくもまぁ、のうのうと帰ってこれたもんだ」


リヒトに向けられる侮蔑の視線は絶えなかった。わけもわからぬまま両親の命を奪われたような気分のリヒトは、なぜ自分がこのような目に遭わなければならないのか、てんで理解できなかった。

ケインの父であるダインは、実の息子のケインには優しく接していたが、リヒトに対しては人が変わったかのように厳しい態度になった。


「お前は一生雑用だけしていればいいんだ! それ以外のことは考えるな!」

「出来損ないには家畜の飯でも食わせておけばよかろ」


リヒトの身体は、まるで奴隷のように酷使された。第一街に行く以前までは仲が良かった幼馴染のケインも、段々ときつく当たってくるようになった。


「リヒト、お前弱すぎなんだよ。本当に勇者の息子なのか」

「期待外れだ……出来損ないが」


同じく勇者を目指しているケインとは、何度も模擬戦を交わしたことがある。だが結果は敗北続きだった。剣術だけでいえば帝都の上位に匹敵する腕のあるリヒトだが、ケインにはどうしても敵わなかった。

リヒトは、一時、神を恨みかけた。不平等だ。なぜここまで苦しまなければならない。なぜ親しかった人は、皆自分に言葉の刃を差し向けるのだ。


それでも、彼は必死にあがき続けた。もはや妄信ととられてもおかしくはないが、ある考えが彼の中に息づいていたからだ。


(あとちょっとで、苦しまずに済むようになる……)


二日後に再び『勇神祭』がとり行われる。武勇を競う大会で優勝した者は勇者となり、格別の待遇を受ける。父エイトと同じように、自分も勇者になれば……


(この場所を抜けて、今よりも良い生活を掴み取れる。父さんがなぜ死んでしまったのかも、きっと明らかにしてみせる……!)


今を変えるには勇者の称号を手にするしかない。なぜだか、ここで勇者になれるのは自分しかいないと、運命的なものまで感じるようになっていた。

こうして哀れな少年リヒトは、微かな勝算に縋りながら今日まで生き続けている――。




ダイン一家が昼食を済ませた後に、リヒトは全ての食器を一人で片付ける。一通りの作業が終わった時、珍しく一家の長ダインから呼び出しがかかった。


「おい、面を貸せ。大事な用がある」


こういう呼び出しを受けた後は大抵ロクなことにならない。仕事のミスを意地悪く指摘され、飯を抜かれるか、はたまた暴力を振るわれるか。

一瞬身構えてはみたものの、どうやら今回はそれとは違う用事のようだ。


「黙ってついて来い」


ダインが先導し、リヒトは帝都の外に連れられて行く。こんなことは今までに無かった。


「あの……どこに向かってるんです?」

「しっ! 黙ってついて来いと言っただろうが!」


ダインの恫喝にリヒトは身を縮めた。言われた通りにしなければ、きついお仕置きをされてしまうことだろう。リヒトはそれ以上何も話さないようにした。


舗装された街道を抜け、近くの森を抜け、獣道を歩いて四半刻ほど経った頃、ようやくそれが見えてきた。


「ついた。ここだ」


まず視界に飛び込んできたのは、切り立った崖のような地形だった。まるで山が綺麗に切り取られたかのように、垂直な斜面がまっすぐ横に伸びている。

何より目を引くのは、視界の中央で異様な存在感を放っている鉄の大扉だ。この場に見合わない人工物の登場に、リヒトは困惑した。


「オメェ、魔女の遺跡の話は聞いたことあんだろ」

「は、はい」

「それがここだ」


ダインが鉄の大扉を指さす。遺跡というよりも、形状的には洞窟のように思える。


「俺はな、ここの監視をするように皇帝陛下から任されちゃる。中に封じられている魔女が外に出ていないかどうか、封印が解けていないかを定期的に確認しなきゃあならん」

「は、はぁ」

「万が一、封印が解けていたら大変なことになる。それくらいはわかるだろ?」


魔女とやらを実際に目にしたことはないが、それが大層危険な存在なのは理解している。リヒトは静かに頷いた。


「今日は、お前にもその仕事をやってもらう」


ダインは懐から大きな鉄製の鍵を取り出すと、おもむろに大扉の鍵穴に差し込みぐいぐいと回していく。そうすると、どんな原理か、ひとりでに扉が開き始めた。

扉の奥には先の見えない一本道が続いている。リヒトはかすかに息をのんだ。


「入れ」


本当にこの先に魔女がいるのだろうか。そう思うとすぐに身体が動かなかった。

帝都の近くに魔女の遺跡があること自体は知っていた。だが、リヒトは今まで一度だって監視の仕事に携わる機会を与えられなかったのだ。このような仕事が存在することも知らなかった。


「早くしろ!」


背中を思いっきり叩かれる。こういう時のダインはいつも容赦がない。まともな心構えができないまま、リヒトは遺跡の中へ足を踏み入れた。


「別に魔女が襲ってくるわけじゃねェ。ほら、さっさと進め」


足元がおぼつかない中、引きずられるように進んでいく。洞窟内は想像以上に肌寒い。外からの光だけでは内部の全てを窺い知ることができないので、どうしても尻込みしてしまう。


「あ、あの……僕一人で行くんですか……?」


そう言って振り返った矢先、ひやりとした暗い洞窟内の一本道を鈍い金属音が貫いた。今まさに出入口の大扉が閉じられたところだった。

明かりのない空間に一人取り残された少年リヒトは、唖然としてそれを眺めていた。


「悪く思うなよォ!」


扉の外から調子の良い中年の男の声が聞こえる。リヒトを嘲笑うかのような声だ。


「えっ……?」

「すまねぇなァ、リヒト。遺跡を監視するなんて仕事、嘘なんだわ。ま、鍵の保管を任されてるってのだけは本当なんだがよォ」

「え? じゃあ……」

「お前にはそこにいてもらうぜ。明後日の勇神祭が終わるまでな」

「どうして……? なぜこんなことをするんです!?」

「邪魔なんだわ、オメェが。勇神祭はケインに絶対勝ってもらわなきゃならねェ。周りの連中はカスばっかだし、オメェさえ出場しなければケインの優勝は確実だァ、クククッ」


最初はダインの意図が全く読めなかったが、嫌らしい笑いを聞いて、すぐにそれを理解する。

リヒトは、外にいる男に陥れられた。閉じ込められたのだ。


「正直、模擬戦でいつも負けてるオメェに勝ち目はないかとも思ったんだけどよ。まぁ、念には念をってやつだ」

「卑怯です! こんなことが許されると思ってるんですか!」

「許される? 馬鹿言ってんじゃねぇよ。オメェが尻尾巻いて逃げたんだと吹き込んでやれば、誰もが信じ込むだろうよ。誰も俺を悪いとは思わねェ。思わせねェ」

「そ、そんな……!」

「へっ、俺とオメェじゃ立ち場ってもんが違うんだ。むしろ、家に置いてもらってることに感謝して欲しいくらいだぜ」


リヒトは数歩退き、勢いをつけて扉にぶつかった。ビクともしない。

もう一度、もう一度と激突しても、道は開けそうにない。右肩に重い痛みが押し寄せてくる。


「無駄だ。魔女を封印するための扉さぁ。何したところで開きやしねぇよ」

「ひどい……どうしてこんな……!」

「まぁまぁ、安心しろや。祭が終わったら出してやるからよ。オメェは大人しく、ケインが勇者になるところを指くわえながら見ておきなァ」


今までどんな侮辱にも耐え続けてきた。しかし、今回はあまりにも度が過ぎていた。

リヒトの中で唯一の希望であった勇神祭。ただでさえ分の悪い賭けに夢を見ていたというのに、それに出場する権限すら与えられないというのか。


「もしかしたら、外に出る前に魔女の餌になっちまうかもしれねェなァ? クククッ……」


足音が遠ざかっていく。怒り、焦燥、様々な感情の奔流が、リヒトから正常な判断力を奪っていった。


「ふざけるな……! どうして……どうしてだよ、こんなの……」


叩けども叩けども扉は開かない。開くはずがない。この程度の力では――


「僕は、どうすればいい……!」


人の気配が消え去ったころ、リヒトは己が運命を悟り、床に崩れ落ちた。少年が喚こうが啜り泣こうが、辺りにはただ静寂があるばかりであった。





どれだけの時間が経ったろうか。リヒトの目はうつろだった。

寄りかかった鉄の大扉に、心にともった熱まで奪われていった。希望の灯はとうに消えた。


『外に出る前に魔女の餌になっちまうかもしれねェなァ?』


ダインの台詞を思い出す。災禍の魔女から逃れる術はないのだろうか。いや、きっとないのだろう。伝説的な厄災とも呼ばれた魔女に敵うはずがない。

異変に気づいた帝都の誰かが鍵を持って魔女の遺跡に駆けつけてくれるかもしれない、などと思えるほどリヒトは帝都の者たちを信用していなかった。リヒトにまともな居場所などないのだ。

自分は勇者に選ばれることなく、誰からも忘れ去られてここで過ごすのだろう。終いには凶悪な魔女の餌にでもなって、誰にも看取られず惨めに果てるのだろう。

最悪な未来が脳内にどんどん描かれていく。


「ははっ……」


乾いた笑いが口からもれる。もはやリヒトは正気ではなかった。


(でも……魔女の餌になる、か……そういう最期もいいかもな……)


誰からも忌み嫌われる身なのであれば、同じく嫌われ者の魔女の糧になった方が、少しは意趣返しになるか――。

そんなことを真面目に考え始めていた。


暗闇に少しずつ目が慣れてきたのか、洞窟の一本道がうっすらと見渡せるようになってくる。


(この奥に、魔女が……)


彼は幽鬼のように立ち上がり、身体をゆらゆら揺らしながら死へ向かっていく。

一歩、また一歩と、乾いた音が鳴る度に心に黒いものが湧き上がってきた。


(あいつらに、目に物を……)


脳裏に浮かぶのは、憎き帝都の面々だ。

わけもわからないままだったリヒトに、出来損ないの烙印を押した人でなし共。

自分をさんざんこき使い、ここに閉じ込めた張本人でもあるダイン。

模擬戦で幾度も自分をいたぶり、冷たくあしらったダインの息子、ケイン。

自分が酷い扱いを受けているにも関わらず、我関せずといった態度を取り続けたダインの妻。

帝都にいる全ての人が憎い。全ての人が――


(――いや、違う)


違う。一人だけ、リヒトにとっての味方がいた。彼が辛い時、誰にも受け入れられなかった時、寄り添ってくれた幼馴染の女の子が。


(アンナ)


アンナ。彼女だけは、リヒトに優しく接してくれた。他の住人に見られていない場合に限った話ではあるが、それでも彼にとってアンナと触れ合う時間はまさしく救いであったように思う。

嫌なことばかりが続いたせいで、身近な幼馴染の存在すら忘れてしまっていた。負の感情とは恐ろしいものだ。


(……でも、わからない)


だが、リヒトの中に疑念が生まれる。もしかしたら、アンナは本心では自分をバカにしていて、騙される姿を見て密かにほくそ笑んでいたのではないか。

結局、彼女もあの連中と同類で、自分を憐れんでくれる人なんて最初からいなかったのでは……と。

毎日のようにアンナと話しているわけではない。正直、大して親しいとも言えないのかもしれない。

自分はアンナの本心を知らない。彼女の見せてくれたあの笑顔が本物である保証は、どこにも――


――そうして再び負の感情が積もり始めた、その時だった。



『人を恨んではいけない』



どこからか、そんな言葉がふと頭の中に浮かんでくる。しかしそれは誰かの言葉というよりも何かしらの思念に近しいもので、身体の隅々まで温かくしみわたっていくようだった。


「……!」


リヒトの意識は一気に現実に引き戻される。視界の靄がだんだんとクリアになっていく。


(今のは……なんだ……?)


人を恨んではいけない。誰の言葉だったろうか。

父か、母か、あるいはダインか。ケインか、それともアンナか、はたまたダインの妻か。その誰でもないような気もする。


(……っと、今はそんなことを気にしている場合じゃない)


不思議と胸に詰まっていた黒いものは消え失せていて、現状を冷静に見つめ直す余裕が生まれていた。

どれだけ歩いたかはよく覚えていないが、意識が朦朧としている間にそれなりの距離を進んでいたらしい。先ほどは見えなかった洞窟の奥地が見える。

そこにあったのは、鉄の扉だ。ちょうど人一人が通れるくらいの大きさで、入り口にあった大扉に比べるとかなり小さく見える。

鍵などがかかっていなければ、リヒトの力でも開けることができるだろう。


(勢いでここまで来ちゃったけど……どうすればいいんだろう……)


魔女の遺跡から出る手段は、見当もつかない。なにせ強大な魔女を封印するための場だ。内部に出入口を開ける鍵があるとも思えない。

だが少しでも脱出の手がかりを得るためには、遺跡内を探索するしかない。たとえ手がかりが無くともだ。

魔女を恐れて出入口付近で縮こまったままでは、おそらく自分は一生勇神祭に出場できなくなる。魔女に怯えていて、何が勇者だ。


……と考えはしても、それを実行に移すことは容易ではない。


「…………ッ」


扉に手をかけようとした所で、自分の身体が震えていることに気づく。

想像がリヒトに悪さをする。もし、この扉を開けた先に魔女がいたとしたら。

獲物を待つ猛獣が如く、自分が罠に嵌る時をじっと待っているのだとしたら。


(考えていても仕方ないッ!)


元々勝ち目の薄い勝負だったのだ。たかだか扉一つで何を恐れているのか。理不尽に立ち向かうためには、これくらいやってのけなければ。

無理やり自分を鼓舞して、強引に開け放つ。乾いた金属音が響くと共に、扉の先から差した淡い光を受けながら、リヒトは部屋に押し入った。



そこは一面石造りだった。巨大な灰色の石から綺麗に四角く中身をくりぬいたような構造をしていて、天井にかかった白い光を発する装飾が部屋全体をほのかに照らしている。

部屋の随所には、見たこともない意匠の家具や雑貨が置かれていた。様々な木目の模様が入った木箱、緑色の四角形の分厚い紙が何枚も積み重なったもの、木の棒と赤い球が白い紐でつながったもの。どれもが目新しい。

そして、部屋の中央には――


「ちょっと、誰っ!」

(!?)


――人がいた。まさか声を掛けられると思っていなかったリヒトは、驚きのあまり声を失った。一瞬、魔女が出たのかとも思い逃げ出そうとしたが、どうやらそんな雰囲気でもないようだ。

騒ぐ胸を無理やり押さえつけ、しばし呼吸を整えてからその人物を視界に捉える。その瞬間、先ほど不意を突かれて驚愕した時よりも、胸が大きくざわつき始めた。


なぜなら、目の前に立っていた人物――少女――は、今まで目にしたどの女性よりも可憐で、美しい姿をしていたからだ。見た所、歳はリヒトと同じか、少し下ぐらいだろうか。

肩の下あたりまで伸びた、癖が無く、艶のある黒髪。整った顔立ちに、宝石のような青い瞳。華奢な身体に纏った黒いワンピースは、彼女の肌の白さを一層際立たせている。


「何者! 答えなさい!」


少女はリヒトを指さし何か非難しているような様子だが、彼の耳に声は届いていない。

死と隣り合わせでいる時のような緊張感から一気に解放され、間もないうちに様々な衝撃が立て続けにリヒトを襲った。目の前の出来事に思考が追い付いていないのだ。


「……ねぇ、聞いてる?」


少女がリヒトに数歩近づき、顔を覗き込んでくる。それでも彼は何も答えない。これが現実の出来事がどうかすら、今の彼には判別がついていなかった。



『見つけた』



浮つく意識の中で、そんな誰かの言葉を聞いた――ような気がした。






この時のリヒトは、予想だにもしていなかった。

目の前にいる可憐な少女こそが、長く忌み嫌われてきた災禍の魔女、本人だったとは。


かつて世界を恐怖に陥れた『災禍の魔女』。そして、後に『不殺の剣士』の異名を轟かせることになるリヒト。

この邂逅から、彼の運命は大きく動き出す。
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