43 / 76
第四章
1
しおりを挟む今年も残すところあと一ヶ月。夜だけではなく日中も寒くなりはじめ、本格的に冬物のアウターを着るようになったころ、近野が彼女と別れた。
想像以上の早さに、俺と柴本はすぐに近野を慰める会を開くことにした。柴本とコンビニで缶ビールや酎ハイ、おつまみになりそうな軽食を買い、近野の家に突撃した。
一人でゲームをしていた近野は、目の下に大きな隈が出来ており、部屋は前に来たときよりも散らかっていた。邪魔な服やゲーム機を端に寄せて、三人でテーブルを囲い、酒を飲む。
「なあ、いくらなんでも早過ぎねえ?」
「彼女と大喧嘩でもしたのか?」
見るからに沈んでいる近野は、缶ビールをちみちみと飲み、するめいかをつまみながら涙ながらに語った。
「……俺以外に彼氏が二人もいた」
「え……」
「おお、なかなかだな」
近野の話によると、二人のうち一人はセフレでもう一人が本命らしい。
「で、お前は何なの?」
「都合のいいキープ」
さすがに可哀想になってきた。本命がいてセフレがいるというのもよくわからないが、そのうえキープとなると、恋愛感情はほぼないに等しいだろう。
「でもあんだけ可愛かったらキープでもよかったんじゃね? 俺だったらそうするわ」
柴本は缶ビールを開け一気飲みする。俺は白ワインを飲みながらサーモンのカルパッチョをつまむ。
「いや、俺、こう見えても結構純情だからな! ちゃんと両想いになって付き合いたいから!」
「お前さ、そんなガキみたいなこと言っててどうすんの。つか、キープだろうが何だろうが付き合ったんだから、せめてヤっとけよ」
「結局、童貞のままか?」
俺の言葉に近野は大きく項垂れた。近野っていいやつなのに、変な女の子に引っかかる。夏休みにナンパした女の子は度を越したメンヘラで、一ヶ月も続かなかった。
「それでさ、自分以外に彼氏がいるってわかったのってどういうタイミングなわけ?」
「……はじめて向こうの家に行ったらさ、普通に彼女以外の歯ブラシが二本あるし、男のものの下着も干してあって……」
「うわ……露骨だな」
「隠してないのかよ」
「単に男兄弟と仲が良いのかなとか思ってたんだけど、別れる前日にデートしたときに……あ、そのときはほかに彼氏がいるって知らなくて。夕方にこれから用事あるって言われて、何かと思ったら年上の男が車で迎えに来てさ。そいつとこれからデートだって言われたんだよ。そのときはびっくりしすぎてそのまま見送ったんだけど、納得できなかったから次の日に彼女呼び出したら、ほかにも付き合ってる人がいるって言われて……」
酒を飲みながら話し続ける近野を見ていると、本当に可哀想になってきた。
「あー、まじで俺も理人くらい顔が良かったらな……彼女もその二人と別れて俺一筋になってたわ、絶対」
「それは一理ある」
「あのな、俺だって浮気されたことくらいあるから」
「え、嘘?」
「まじ?」
二人が信じられないようなものを見る目を向けてくるが、そんなに不思議な話でもないと思う。
「いつ?」
「高一のとき」
「理人が浮気された話とかめっちゃ気になる」
「大した話じゃないけどな。当時付き合ってた彼女が風邪引いたって言うから、スポドリとか薬とか買ってお見舞いに行ったんだけど、部屋の中で知らない男と一緒にいたんだよ。で、その場で誰か聞いたら彼氏だって言われた」
今思い出してみても、怒りとか嫉妬とかそういった感情は湧いてこないし、その当時だってとくに何か思うことはなかった。
「きっつ……嘘つかれてるのも嫌だな。俺なら泣くわ」
「それでどうしたんだよ」
「どうしたって、その場で別れただけ。むしろなぜか俺が泣きつかれた。別れたくないって。意味わかんねえよな」
単純に自分以外の男を好きになったんだなあ、くらいにしか思わなくて、それなのに別れたくないという相手の気持ちが理解できなかった。
「理人ってさ、まじで冷めてるよな」
「高一でそれって結構ショックじゃね?」
「べつに」
つい最近深月にも同じことを言われたのを思い出した。こういうところがダメなんだよな……。
「でも理人ならすぐに彼女できるだろ。俺の場合は彼女つくるのに必死なんだよ!」
酔いはじめた近野が、今まで彼女をつくることにどれだけ苦労してきたかという話をはじめた。率先して合コンを開いているだけあって、こいつの彼女が欲しいという熱意は人並み以上だ。
「まあ、何だかんだもうすぐクリスマスだしな。頑張ればできるかもな」
「クリスマス前に付き合うやつら多いしな」
「そういや理人、お前ずっと彼女いないよな」
「入学当初、告白されまくってたのに」
それは自覚しているが、つい最近彼女をつくるのに失敗したばかりだし、そのうえ今は同性との恋愛ごとに悩んでいるとは口が裂けても言えない。
「合コンのときもあんまり乗り気じゃなかったよな」
「あれはお前が喋るなって言うから」
「でも金澤さんと連絡取ったんだろ?」
「え、マジ?」
「あー、うん。でもなんかだるくて途中で追い出した」
「はあ!?」
「いや、だるいって何だよ」
「追い出したってことは家には連れ込んだんだよな?」
「何? ヤってる最中に文句つけられたとか?」
「いや、そもそもヤッてない」
「はあ!?」
「え、何? まじでどうした? 女連れ込んでヤらずに追い出すって……」
何なら女の子を連れ込んで追い出したあと、俺は男の部屋にのこのこ行ってベッドに押し倒されたんだけどな。
「そんなにやばかったのか、あの子」
「やばいってか、合わなかったってだけだ」
「自らクリスマス前のチャンスを棒に振るとは」
「べつにクリスマスだからって彼女いなくてもいいだろ」
クリスマスにデートしなくたって死なないし。近野は死にそうな顔してるけど。
「……なあ、理人」
「何?」
「お前、もしかして本命できた?」
柴本の言葉に思わず箸を止める。
ああ、そうか。もし呉内さんに対する感情が恋愛だったとしたら、俺が生まれてはじめて本気で好きになった人は男になるのか。
「え、もしかしてガチ?」
「ちげーよ。本当に……ただ、合わなかっただけ」
酔っ払った呉内さんに抱きしめられて眠った翌朝、目を覚ますと寝室には俺以外に誰もいなかった。
隣を見ると、上布団が半分ほどめくれていて、その下のシーツはよれていた。カーテンから差し込む朝日が、静かにベッドの空白部分を照らしていた。そこに人がいたことは間違いないのに触ってみると冷たくて、その瞬間、眠る前に考えていたことを思い出した。
彼女がいる男に男が恋をするのは不毛だ。きっとここにいるのが俺じゃなくて由莉奈さんだったら、呉内さんは起きてからもずっとベッドにいただろう。
でも俺の隣には誰もいない。空っぽだ。たぶんこれが答えだ。男が男に恋したって、何も残らない。同じベッドで眠ることに何の意味もない。
シーツを握りしめながら、その冷たさに胸の奥を突き刺されていくような感覚に襲われた。
「ふうん。ま、理人が追い出すくらいだから相当だったんだな」
「そういうこと。つか、俺の話はいいだろ。それより近野に次の彼女ができるように考えようぜ」
「そうだな。とりあえず失恋を乗り越えるには次の恋だぞ!」
それから俺たちは近野イメチェン作戦や次の合コンの日程などを考え、そうしているうちに時間は経ち、気がつけば近野も柴本も床で眠っていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
身体検査が恥ずかしすぎる
Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。
しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。
※注意:エロです
R-18♡BL短編集♡
ぽんちょ♂
BL
頭をカラにして読む短編BL集(R18)です。
♡喘ぎや特殊性癖などなどバンバン出てきます。苦手な方はお気をつけくださいね。感想待ってます😊
リクエストも待ってます!
【※R-18】αXΩ 懐妊特別対策室
aika
BL
αXΩ 懐妊特別対策室
【※閲覧注意 マニアックな性的描写など多数出てくる予定です。男性しか存在しない世界。BL、複数プレイ、乱交、陵辱、治療行為など】独自設定多めです。
宇宙空間で起きた謎の大爆発の影響で、人類は滅亡の危機を迎えていた。
高度な文明を保持することに成功したコミュニティ「エピゾシティ」では、人類存続をかけて懐妊のための治療行為が日夜行われている。
大爆発の影響か人々は子孫を残すのが難しくなっていた。
人類滅亡の危機が訪れるまではひっそりと身を隠すように暮らしてきた特殊能力を持つラムダとミュー。
ラムダとは、アルファの生殖能力を高める能力を持ち、ミューはオメガの生殖能力を高める能力を持っている。
エピゾジティを運営する特別機関より、人類存続をかけて懐妊のための特別対策室が設置されることになった。
番であるαとΩを対象に、懐妊のための治療が開始される。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
僕はオモチャ
ha-na-ko
BL
◆R-18 エロしかありません。
苦手な方、お逃げください。
18歳未満の方は絶対に読まないでください。
僕には二人兄がいる。
一番上は雅春(まさはる)。
賢くて、聡明で、堅実家。
僕の憧れ。
二番目の兄は昴(すばる)。
スポーツマンで、曲がったことが大嫌い。正義感も強くて
僕の大好きな人。
そんな二人に囲まれて育った僕は、
結局平凡なただの人。
だったはずなのに……。
※青少年に対する性的虐待表現などが含まれます。
その行為を推奨するものでは一切ございません。
※こちらの作品、わたくしのただの妄想のはけ口です。
……ので稚拙な文章で表現も上手くありません。
話も辻褄が合わなかったり誤字脱字もあるかもしれません。
苦情などは一切お受けいたしませんのでご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる