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プロローグ
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しおりを挟むこの時間帯は客が少なく、今は一人もいない。カルラの客層は主婦かサラリーマンがほとんどなので、日によって違いはあるが、だいたいは朝と昼の三時前後と、夕方以降に混み合うことが多い。
平日ともなれば、一時間や二時間客がいないのはよくあることだ。それでも経営が成り立っているのは、毎日といってもいいほど来る常連客と、彼らの紹介でやって来る金に余裕のある客のおかげだ。
カルラの従業員は、店長の氷坂さんとパートタイマーの主婦さんが二人、そして俺ともう一人のバイトの井坂くんの計五人しかいないので、閑散としている時間帯は氷坂さんが一人で働いていることもある。
氷坂さんのあとに続いて、カウンターの奥にある更衣室に入った。カウンター奥の右側には、あまり広いとは言えない従業員用の更衣室があり、人数分の鍵付きロッカーと折りたたみの椅子が二脚置かれている。
自分のロッカーに荷物を入れ、バイト用に持ってきた白いシャツを着て黒いズボンを履く。ハンガーラックから黒いエプロンを取って腰に巻き、肩にかかりそうなくらいまで伸びた髪の毛を一つに束ね、最後に名札を付ければ完成。
三時五十五分。タイムカードの代わりである出勤表に出勤時間を記入し、手を洗ってからアルコール消毒をする。
氷坂さんは二階の自室で休憩を取るため、ここから一時間ほどは一人で店を回す。
出勤してすぐに、カランコロンとアンティークなデザインのドアベルが鳴った。この音が鳴った瞬間、常連客の誰が来たのかを想像する。
「いらっしゃいませ」
夕方に来る客はだいたい決まっているので、ある程度予想できる。しかし今店のドアを開けたのは、双子を連れてやってくる社長夫人でも、一流企業に勤めているラフな服装の男でもなく、ついさっきまで一緒にいた幼馴染みだった。
「深月、お前来るの早すぎ……って京斗さん?」
深月の隣には黒いスーツを着た二人の背の高い男性が立っていた。二人のうちの一人には見覚えがあったが、自分で名前を呼んでおいてそれが合っているのかどうか不安になる。最後にこの人の顔を見たのは何年前だっけ。
爽やかなイケメンという言葉が似合う顔つきで、まだ暑さの残るこの時期に、長袖のジャケットを羽織っていても暑苦しさを感じさせない、清潔感のある男性だ。
昔は一緒にいることが当たり前だったのに、今ではこうして顔を合わせること自体、新鮮な気がしてならない。
もう一人は顔も知らない、京斗さんとはまた違う雰囲気のかっこいい男性だった。見たこともないほど整った顔立ちに、思わず見入ってしまう。
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