豆を奪え、転生者!

おもちさん

文字の大きさ
上 下
12 / 35

第12話 小さな小さな開拓村

しおりを挟む
お味噌さん
お味噌さん
あなたは今、どこにいる。
壺の中、袋の中、棚の奥に机の下。
無いと分かっていても探してしまう。

ポタージュ見ては思い出す。
パンを見るたび涙する。
今ここにあなたが居たならば、塩気で脳が痺れるほど、あなたの色に染まるのに。
遠く離れた私には、記憶の中でしか会う事はない。

お味噌さん
お味噌さん
異なる世界であなたの事を、いつまでも待つ。
心揺らすこともなく、いつまでも、いつまでも。


詩が浮かんできたから書いてはみたものの、実際文字に起こすとチープなものだった。
頭の中にあるうちは名作だと思ったんだが。
羊皮紙一杯に書いた文字は達筆だが、肝心の中身がお粗末なせいで、そのアンバランスさが一層寒々しかった。

ーー詩を書かれるとは、繊細な趣味をお持ちですね。

よりによってアリアにバレてしまう。
まぁコイツに隠し事そのものが無理なんだが、大人の配慮でスルーして欲しかったと思う。


「ちょっと書いたみただけだ。別に普段から嗜(たしな)んでるわけじゃないぞ」

ーー初めてでこの出来栄えですか。なるほど。その事実も加味しつつ、この詩を10段階で評価したならば……。

「したならば?」

ーー脇汗レベル、でしょうか。

「10段階で表せよ」


そんな揶揄(やゆ)を聞き流しつつ、小棚の奥に羊皮紙をしまった。
別に捨てても良かったんだが、もしかすると後世の人間が有難がって大切にしてくれるかもしれない。
オレが大人物になったとしたら、それも有り得ない話じゃないだろう。
博物館に寄贈されるようになったら嬉しい……とか絵空事を夢想してみたり。

それはさておき、拠点の様子だ。
あれからオレとトガリの頑張りにより、開拓は極めて順調に進んだ。
住居は新たに4軒建ち、その中心には井戸まで作られている。
生まれて初めて井戸水なんか飲んだが、程よく冷たくて心地良いものだった。


「この世界は空気も水も美味いな。元の暮らしじゃ味わった事ないぞ」

ーーお褒めいただいて恐縮ですが、どれほど感銘を受けるものであっても、水では能力が伸びません。

「良いんだよ別に。成長するだけが人生じゃないだろ。もう少し大らかに生きようぜ」

ーー大らか、ですか。それは貞操や性生活についても同様ですか?

「それは別もんだよ。そういうのは慎ましくあるべきだ」

ーー男心というのは難しいものです。メスに興味はお有りなのに、一向に手を出そうと為さりません。

「興味はお有りって、何を根拠に言うのだね。こう見えて私は紳士なのだよ?」

ーーミノル様は昨日だけでもメスどもの胸の膨らみを24回、尻の丸みを36回、胸元から見える谷間を6回盗み見ております。故に興味がお有りだと判断を……。

「うーん本当に開拓は順調だなぁ良いことだ!」


新しく出来た住居は、それぞれが個人宅として運用されている。
オレ、レジーヌ、シンシアは独りで1軒を占有。
残りの1軒はオッサンとトガリが同居となった。
どうやら書見やら薫陶(くんとう)の為にも2人は同居の方が都合良いらしい。
あんな暑苦しいのと暮らすだなんて、新手の拷問のように思えるが、トガリは嬉しそうだった。

居住区の端には大きめの倉庫を建てた。
そこには燃料として蓄えた薪、収穫した果物や魚の干物、他にもシンシアがコツコツと製作した布が備蓄されている。
外界と交易できるようになったら、それなりの金になるかもしれない。
もちろん自分たちで消費するのも良いだろう。

食事を摂る時は、当初からあった猟師小屋が使われている。
住居が建っていないうちは全員で入れないほど手狭なものだったが、新しい建物が出来るなり猟師小屋の中の物がそちらに移された。
それにより小屋に十分な広さを確保する事が出来たので、食堂として利用する事となったのだ。
今そこにはシンシアだけが居る。
食事は終わったので、彼女だけで後片付けが為されていた。


「住環境は整ってきたな。狭っ苦しい共同生活なんて息が詰まるもんな」

ーー生産施設、防衛施設が不十分です。特に防衛力は皆無に等しいので、早急に建造されるべきでしょう。

「それも近々やるよ。最後に畑の様子も見ておくか」


食堂裏手の畑もそれなりに広がっていた。
オレが片っ端から木々をなぎ倒すので、農地候補となるスペースに困ることはない。
そこをレジーヌが農作物を植えてくれている。
彼女には特別な『豊穣の加護』という力があるので、育ちや実りが異様に早い。
食糧難になる事が無いからとても助かるんだが……。


「何やってんだお前?」

「えっと、ミノル……、ちょっと助けて」


新しくカブを育ててたんだが、レジーヌは今日も失敗したらしい。
急速に生長した葉っぱが体に巻きついてしまい、身動きが取れないようだ。
その姿を見て古い洋館を思い出した。
外壁にツタが絡まって、良い雰囲気だしてるヤツを。
高貴な身分にもなると自身にツタを巻きつけたりする……事は有り得ないか。
そんな文化が根付かれても困る。


「まったく、世話の焼ける姫さんですね」

ーー提言致します。この葉や茎をうまく活用すれば、ミノル様好みである触手もののエロスが現実のものと……。

「はーいパパッと助けちゃうよミノルさんは紳士だからね何処に出しても恥ずかしくない紳士だからねー」

「あ、ありがとう。どうして急に早口になったの?」

「うーん何でだろうちょっと耳障りな幻聴が聞こえるからかなぁHAHAHA」


止めてくださいアリアさん、完全に言いがかりですから。
茎が服に食い込んでシルエットが強調されてるーなんて思ってないから。


「ところでレジーヌ。ここでの生活はどうだ?」

「うん、おかげで快適よ。あなたには本当に助けられてるわ」

「そりゃ何よりだ。実は次に何を建てるか迷っててな。防壁や見張り櫓(やぐら)を考えてるが、他に要望はあるか?」

「そうねぇ、お風呂が欲しいかな。今は布で体を拭いてるけど、湯船に入れたら嬉しいわね」

「あー、そうだよな。お風呂は欲しいよなぁ」


それを聞いてイメージしたのは、賃貸のバスルームでも、ホテルのシャワールームでもなかった。
箱根旅行で行った温泉宿のヒノキ風呂だ。
毎日温泉に入れる暮らしとか、良いよね。


「温泉……温泉宿とかつくっちまうか」

「オンセンヤドって、なぁに?」

「あれだよ。超でかい風呂があってさ、景色が良いところで昼寝できたり、美味い飯が食えんの」

「何それ、最高じゃない! ご飯ってどういうの? ポトフとかローストビーフ?」

「いやいや、そこは味噌おでんだよ。味噌田楽とか、味噌ラーメン……とか」

「ミノル?」

「味噌焼おにぎりとか、味噌こんにゃく、鯖の味噌煮味噌パン味噌カツ味噌カレー味噌煮込み甘辛ダンゴ味噌からあげ納豆ぅぅうーーッ!」

「ちょっと、シンシア大変! ミノルがアッチに行っちゃったよぉお!」


味噌はダメだ。
味噌の事を思い出すと、あらゆる思考を奪われてしまう。
オレが味噌を見るとき、味噌もこちら側を見ている、という事なのか。

全身が痙攣し、意識は薄れゆく。
わずかに残された時間に、心の中でそっと呟いた。

それでもオレはあなたを愛し続ける……と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

処理中です...