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第二部
2ー44 龍の知恵
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まおダラ the 2nd
第44話 龍の知恵
「ある屋敷に盗人が入った。その手際は非常に良く、数々の貴重な財が盗まれてしまった。だが運良く目撃者がおり、容疑者を3人にまで絞る事ができた。背格好に容姿、そして愛用の杖。それが3人の共通点であった。事件の担当者は杖に着目し、そして見事解決した。それは何故か?」
すっごく芝居かかった口調で、ナゾナゾが始められた。
最初は威圧感のあった龍王だけど、今はちょっと親近感が湧いている。
……おっと、答えを考えなきゃね。
「杖に何かがあるのよね? うーん、うぅーん」
「クックック。悩むが良い、迷うが良い。その時間が我が愉悦となり……」
「それって『泥がついてたから』ッスか?」
「なぁッ!?」
龍王が絶叫して目を見開いた。
もしかして、テレジアのが正解なの?
「ねぇ、どういう事か教えてよ」
「いや盗人ってことは、泥棒っすよね。だから杖、つまり棒に泥がついてたらーって考えたら」
「あーー、なるほどねぇ」
「グゥゥ。見事! だが我はまだ負けてはおらぬ! 次はそなたらが問うのだ!」
「そんなの急に言われても用意してないよ!」
よほど悔しかったらしく、龍王は足踏みを繰り返した。
その度に部屋が揺れ、上からは砂ぼこりが落ちてきた。
早く考えないと埃まみれになりそうだ。
「あー、じゃあ私からいいッスか?」
「よかろう。いや、正答を述べたそなたこそが問うべきだ」
「じゃあ失礼して。あるところに2人の真面目な兄弟がいたッス。平民ながらも兄は努力の甲斐あって騎士となり、弟は食に興味を抱いてパン職人になったッス。互いに根っからの仕事人間で、趣味も女ッ気も無い暮らしが続いたッス。そんなある日、片方が言ったッス。『最近寝ることが楽しくて仕方ない』と。さぁ、それはどっち?」
スラスラとテレジアが言った。
ひょっとして貴女もナゾナゾが好きだったりするの?
問われた龍王はその長い首を何度も捻り、延々唸っている。
首を折り返す度に威厳は無くなり、代わりに愛らしさが増していった。
「ヌゥゥ……。あ、兄!」
「あー、理由もお願いするッス」
「ムムム。騎士であれば体を大切にするであろう」
「はいハズレー」
「ヌァァァアーーッ!」
噂に聞いた龍の咆哮。
まさかこんな流れで体験するなんて思わなかった。
幸いケビンは気に入ったようで笑ってるからいいけど、コロちゃんはすっかり腰が砕けてしまった。
これは早めに切り上げた方が良さそうだ。
「テレジア、答えはなんなの?」
「あぁ、これはッスね。『ねるのが楽しい』訳なんで、弟ッスよ」
「もしかして『ねる』って生地の事?」
「その通りッスー」
「く、クフフ。フワーッハッハ! 度胸も知恵も充分! よかろう、龍の知恵を授けようではないか!」
凄く上機嫌な声色だ。
どうやら気に入って貰えたらしい。
なにも活躍できなかった自分が、少し情けなかった。
「何でも聞くが良い。知り得る事であれば答えよう」
「だそうッスよ。お嬢様、どうぞー」
「えっと、悪者について知りたいの。それもすっごい悪いやつ。何か知らない?」
「ふむ……。悪、か」
それまでの穏和な空気は、少しずつ冷えていった。
龍王が真面目に対応してくれている証だろう。
少し間を空けてから答えが返ってきた。
「我もそれを探らせておった。地上に不穏な気が漂っていたのでな」
「そうなんだ。何か悪いことが起きようとしているの?」
「元来、我は狐と狼の争いを監視する役目があった。どちらもやり過ぎないようにな。それがいつの頃からか、地上の安定までも見るようになったのだが……、これまで感じたことの無い寒気がする」
ここまでの力を持ってても寒気がするって、どれだけの事が起きようとしてるんだろう。
もしかすると、お父さんでも手に負えないレベルかもしれない。
「元凶は恐らく大陸の東側、そこに住まうニンゲンであろう。極めて狡猾に身を隠しながら、その日が来るのを待っておるようだ」
「大陸の、東……」
東というと、国で言えばゴルディナ、グラン、グランニアがある。
次はプリニシアじゃなく、グランニアに行った方が良さそうだ。
「客人よ。もし悪を追うというのなら、フランを同行させてはくれぬか? 足手まといにはなるまい」
「うーん。別にいいけど、ちょっと嫌だけど良いよ」
「癖のある者ではあるが、目的は近しい。共に手を携えた方が良いであろう」
「うん、そうかもね。気は進まないけど、良いよ」
「フランよ、客人を仮の主とし、よく励め」
「承知しました。絶食のフランはただ今より、この小娘を主とします」
今気づいたけど、サラッと毒吐くよね。
透明感のある声でさらに丁寧語で言うから、つい聞き流しそうになるけども。
「小娘様、しばらくの間ご厄介になります」
「シルヴィアだから。宜しくねフラン」
「わかりました。ちんちくりんのシルヴィア様」
「あなた仲良くなる気はあるの?」
良い声だなクッソゥ。
それがかえって腹が立つよ。
それは置いといて、気を取り直してから龍王に向き直った。
いつまでもここでノンビリする訳にもいかないもんね。
「じゃあ、私たちは行くね」
「そうか。このまま送り出すのも忍びない。これを受けとるが良い」
その言葉の後に私の頭上が赤く光り、小さな珠が現れた。
それはゆっくりと降りてきて、私の手に収まった。
拳大の赤い石だ。
「邪魔にはならぬだろう。それを持っていけ」
「綺麗な石ね。これは何なの?」
「そなたが必要としたときに、その真価を発揮するものだ。手元においておくと良い」
「ありがとう、いただくわね」
「名誉な事です。我ら魔人でさえ、滅多に授かることの無い宝珠なのですから。地上に戻ったら祭壇を築き、永劫に祀るべきかと」
「手元に置いとけって言われたばかりじゃない」
必要としたとき、ねぇ。
今後危険な場面もあるだろうから、その時に役立ってくれたら嬉しいな。
「では皆さん、集まってください。地上に戻ります」
「わかったわ、皆集まって」
「転移!」
ここへやってきた時と同じように、眩い光に包まれた。
地上と言うけど、どこへ戻されるんだろう?
グランニアの近くだったら助かるけど。
光が徐々に収まっていく。
どこかの森の中らしい。
そんな風に視力が戻った頃だ。
ーーザブン!
水だ!
気がついたら腰まで水に浸かっていた。
「フラン! ここはどこなの?!」
「どこと問われれば、奇跡の湖と答えるしかありません」
「ええ……、唐突にどうしたの?」
「さきほど埃まみれになりましたので、水浴びがしたかったのです」
「それは良いけどさ、一声かけてからにしてよね!」
「事前に声掛しての水浴びだと、服を脱ぐ必要があります。そうするとシルヴィア様が恥をかくと思いまして」
気遣い下手くそかッ!
そんな嫌み混じりの思いやりなんか嬉しくないよ!
新しい仲間は頼りになるかどうか以前の、扱いにくい問題児だった。
第44話 龍の知恵
「ある屋敷に盗人が入った。その手際は非常に良く、数々の貴重な財が盗まれてしまった。だが運良く目撃者がおり、容疑者を3人にまで絞る事ができた。背格好に容姿、そして愛用の杖。それが3人の共通点であった。事件の担当者は杖に着目し、そして見事解決した。それは何故か?」
すっごく芝居かかった口調で、ナゾナゾが始められた。
最初は威圧感のあった龍王だけど、今はちょっと親近感が湧いている。
……おっと、答えを考えなきゃね。
「杖に何かがあるのよね? うーん、うぅーん」
「クックック。悩むが良い、迷うが良い。その時間が我が愉悦となり……」
「それって『泥がついてたから』ッスか?」
「なぁッ!?」
龍王が絶叫して目を見開いた。
もしかして、テレジアのが正解なの?
「ねぇ、どういう事か教えてよ」
「いや盗人ってことは、泥棒っすよね。だから杖、つまり棒に泥がついてたらーって考えたら」
「あーー、なるほどねぇ」
「グゥゥ。見事! だが我はまだ負けてはおらぬ! 次はそなたらが問うのだ!」
「そんなの急に言われても用意してないよ!」
よほど悔しかったらしく、龍王は足踏みを繰り返した。
その度に部屋が揺れ、上からは砂ぼこりが落ちてきた。
早く考えないと埃まみれになりそうだ。
「あー、じゃあ私からいいッスか?」
「よかろう。いや、正答を述べたそなたこそが問うべきだ」
「じゃあ失礼して。あるところに2人の真面目な兄弟がいたッス。平民ながらも兄は努力の甲斐あって騎士となり、弟は食に興味を抱いてパン職人になったッス。互いに根っからの仕事人間で、趣味も女ッ気も無い暮らしが続いたッス。そんなある日、片方が言ったッス。『最近寝ることが楽しくて仕方ない』と。さぁ、それはどっち?」
スラスラとテレジアが言った。
ひょっとして貴女もナゾナゾが好きだったりするの?
問われた龍王はその長い首を何度も捻り、延々唸っている。
首を折り返す度に威厳は無くなり、代わりに愛らしさが増していった。
「ヌゥゥ……。あ、兄!」
「あー、理由もお願いするッス」
「ムムム。騎士であれば体を大切にするであろう」
「はいハズレー」
「ヌァァァアーーッ!」
噂に聞いた龍の咆哮。
まさかこんな流れで体験するなんて思わなかった。
幸いケビンは気に入ったようで笑ってるからいいけど、コロちゃんはすっかり腰が砕けてしまった。
これは早めに切り上げた方が良さそうだ。
「テレジア、答えはなんなの?」
「あぁ、これはッスね。『ねるのが楽しい』訳なんで、弟ッスよ」
「もしかして『ねる』って生地の事?」
「その通りッスー」
「く、クフフ。フワーッハッハ! 度胸も知恵も充分! よかろう、龍の知恵を授けようではないか!」
凄く上機嫌な声色だ。
どうやら気に入って貰えたらしい。
なにも活躍できなかった自分が、少し情けなかった。
「何でも聞くが良い。知り得る事であれば答えよう」
「だそうッスよ。お嬢様、どうぞー」
「えっと、悪者について知りたいの。それもすっごい悪いやつ。何か知らない?」
「ふむ……。悪、か」
それまでの穏和な空気は、少しずつ冷えていった。
龍王が真面目に対応してくれている証だろう。
少し間を空けてから答えが返ってきた。
「我もそれを探らせておった。地上に不穏な気が漂っていたのでな」
「そうなんだ。何か悪いことが起きようとしているの?」
「元来、我は狐と狼の争いを監視する役目があった。どちらもやり過ぎないようにな。それがいつの頃からか、地上の安定までも見るようになったのだが……、これまで感じたことの無い寒気がする」
ここまでの力を持ってても寒気がするって、どれだけの事が起きようとしてるんだろう。
もしかすると、お父さんでも手に負えないレベルかもしれない。
「元凶は恐らく大陸の東側、そこに住まうニンゲンであろう。極めて狡猾に身を隠しながら、その日が来るのを待っておるようだ」
「大陸の、東……」
東というと、国で言えばゴルディナ、グラン、グランニアがある。
次はプリニシアじゃなく、グランニアに行った方が良さそうだ。
「客人よ。もし悪を追うというのなら、フランを同行させてはくれぬか? 足手まといにはなるまい」
「うーん。別にいいけど、ちょっと嫌だけど良いよ」
「癖のある者ではあるが、目的は近しい。共に手を携えた方が良いであろう」
「うん、そうかもね。気は進まないけど、良いよ」
「フランよ、客人を仮の主とし、よく励め」
「承知しました。絶食のフランはただ今より、この小娘を主とします」
今気づいたけど、サラッと毒吐くよね。
透明感のある声でさらに丁寧語で言うから、つい聞き流しそうになるけども。
「小娘様、しばらくの間ご厄介になります」
「シルヴィアだから。宜しくねフラン」
「わかりました。ちんちくりんのシルヴィア様」
「あなた仲良くなる気はあるの?」
良い声だなクッソゥ。
それがかえって腹が立つよ。
それは置いといて、気を取り直してから龍王に向き直った。
いつまでもここでノンビリする訳にもいかないもんね。
「じゃあ、私たちは行くね」
「そうか。このまま送り出すのも忍びない。これを受けとるが良い」
その言葉の後に私の頭上が赤く光り、小さな珠が現れた。
それはゆっくりと降りてきて、私の手に収まった。
拳大の赤い石だ。
「邪魔にはならぬだろう。それを持っていけ」
「綺麗な石ね。これは何なの?」
「そなたが必要としたときに、その真価を発揮するものだ。手元においておくと良い」
「ありがとう、いただくわね」
「名誉な事です。我ら魔人でさえ、滅多に授かることの無い宝珠なのですから。地上に戻ったら祭壇を築き、永劫に祀るべきかと」
「手元に置いとけって言われたばかりじゃない」
必要としたとき、ねぇ。
今後危険な場面もあるだろうから、その時に役立ってくれたら嬉しいな。
「では皆さん、集まってください。地上に戻ります」
「わかったわ、皆集まって」
「転移!」
ここへやってきた時と同じように、眩い光に包まれた。
地上と言うけど、どこへ戻されるんだろう?
グランニアの近くだったら助かるけど。
光が徐々に収まっていく。
どこかの森の中らしい。
そんな風に視力が戻った頃だ。
ーーザブン!
水だ!
気がついたら腰まで水に浸かっていた。
「フラン! ここはどこなの?!」
「どこと問われれば、奇跡の湖と答えるしかありません」
「ええ……、唐突にどうしたの?」
「さきほど埃まみれになりましたので、水浴びがしたかったのです」
「それは良いけどさ、一声かけてからにしてよね!」
「事前に声掛しての水浴びだと、服を脱ぐ必要があります。そうするとシルヴィア様が恥をかくと思いまして」
気遣い下手くそかッ!
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