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第4章 列強時代

第60話  良いことある日

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オレ達は鎧の神の先導のもと、高原エリアに向かっていた。
街からそれほど遠くなく、散策気分で楽しめるという、お手軽な場所にあるらしい。
そこにいる花の神と会うことになっている。
シルヴィアは期待満面だが、正直なところオレは不安だ。
口には出さないがみんなも同じだろう。


しばらく歩くと、見渡す限り遮るもののない大平原に辿り着き、そこは至るところに花が咲き乱れている。
そこに紛れるようにして、花の束を持って居る女が居た。
金色に輝くウェーブがかった髪に、清楚な薄緑のロングドレスを着ている。
口元は歌っているような、ささやいるかのように動き、花の束に話しかけているように見えた。


「おぅい、花の神よ。客人を連れてきたぞー!」
「今日はいいことある、ない、ある、ない、・・・ある・・・ない!あらーぁ、ないんですかー。」
「おぅい、花の神!聞いておるか、客じゃ。」
「ひぅっ!」


花の神が驚いて、持っていた花の束を盛大にばら蒔いた。
辺りに花びらが散ってしまい、それは甘い薫りを振り撒きながら空を舞った。


「あらー、占い用のお花でしたのにー。」
「むぅ、すまん。何度呼んでも反応せんかったからのう。」
「あーそうでしたかー、すみませんー。お客様ですかー。」


軽い足取りで花の神が近づいてくる。
敵意を一切感じさせない、周りを安心させるような笑顔で。
何というか、フワリフワリなんて擬音が聞こえてきそうだ。


「お客様がたー、ヤポーネにようこそー。美しいこの島を是非、楽しんでぇぇえぇーーーーー・・・。」
「は、花の神ぃ!?」


おい、挨拶途中に消えたぞ?!
まさか瞬間移動じゃないよな?
どうやら地面の穴に落ちたようだが、かなり深そうだ。
鎧の神が慌てながら引き上げた。


「よいしょっと、すみませんー。助かりましたー。」
「突然こんな穴に落ちるとは、ツイてないのう。」
「あー、さっき占いで【今日は良いことない】って出ちゃったからですねー。」
「ん? 良いこと【ない】なのに悪いことが起きるのか?」
「そうですけどー、どこか変ですかー?」


物凄く不思議そうな顔された。
あれ、オレはそんな変なこと言ったか?


「お姉ちゃん、花のカミサマなの?」
「そうですよー、可愛いお嬢ちゃんー。ここの花を守ってる神なんですよー。」
「わぁあ、すごいすごい!ねぇねぇ、お花みてきてもいい?」
「うふふー、どうぞどうぞー。花たちも喜ぶから見ていってくださいねー。」


たしかに一面色とりどりの花が咲き乱れている。
野放図な感じはなく、ある程度ルールでもあるのか規則性が感じられる。
細かくブロック分けしたようにグループが作られており、それぞれの場所で違う種類が植わっているようだ。
そして南側に向かって、背の低いものは前、高いものは後ろというように配置されている。
見映え以外にも理由がありそうだが、何のためなんだろうな。


「へぇー、ここの管理は随分と細やかなんですねー。種類の相性やら生育期間やらで配置が計算されつくしてますよ。」
「あらー、それに気づくなんてー。もしかして翼のお姉さんも管理者なんですかー?」
「あ、私は森の方なんですよ。ほんとキッツイんですよねー。」
「あー、森ねぇー。森だと生物の種類が多くてー、外敵もたくさんだから、ここみたいにはちょっとー。」
「そうですそうです!もう木々から虫に魔獣にニンゲン!ほんっとに煩雑でー。」


おい、職業あるあるは後にしろ。
大平原で多数派を難民にすんな。
お前ら以外にその話題、誰が理解できんだよ。


「お姉ちゃーん、このお花はなんて名前なのー?」
「あ、それはですねぇー、スィートリーフぅぅぅぅーーーーーー・・・・・・」
「お姉ちゃん?!」


シルヴィアに歩み寄ろうとした花の神がまた消えた!
マジで落ちすぎだろ。
何回穴にダイブする気だ?


「アイタタ、やっぱり今日は【良いことない日】なんですねー。」
「お前は毎日のように穴に落ちてんのか?」
「そんなことないですよー、【良いことある日】は落ちない事だってあるんですよー?」


え、なにそれ。
大体毎日落ちてるってことならないか。
占いがどうこうって話じゃなくて、唯のドジだろ。


「お姉ちゃん、大丈夫?どろんこになっちゃったね。」
「大丈夫ですー、もう慣れっこなんですよー。」


いや、慣れんな学べ。
落ちなくて済むような努力をしろよ。


「ねぇお姉ちゃん、お花ちょっとだけ持ってかえってもいい?」
「いいですよ、両手に持てる量ならー。みなさんも良かったらどうぞー?」


それを聞いた女性陣はちょっと賑やかになった。
エレナだけは今一つピンと来てない顔をしているが。
シルヴィアとミレイアはキャアキャアはしゃいでいる。
オレとグレンは・・・まぁここで待ってますか。


「あらぁー、お二人はお花いらないですー?」
「まぁオレ達は別に。特別好きな訳じゃないからな。」
「自分達用じゃなくても良いんですよぅー、【意中の人】へのプレゼントにも最適ですからー。」


おいやめろ!
お気軽に我が家の地雷を踏むな。
それを聞いた三人娘が超高速で振り向いた。
お前らせめて体ごと振り向けよ、顔だけ向けんなおっかねぇ。


「アルフー?そのお花私にくれますよね?よねよね?今ならオサワリ自由ですよーお得ですよー?」
「わ、私に花など似合わんかもしれんが、その・・・絶対大切にするから、私にくれないか?」
「ねぇ、私たちはそろそろ・・・次のステージに進んで良い頃だと思うのよ。」
「お前らとりあえず離れろ、すり寄んな押し付けんな。」


ワラワラと集まる三人。
数歩離れて避難したグレンと花の神に鎧の神。
隔離やめろ、オレもそっち側にいれてくれ。


「この方がたはーいつもこうですー?」
「そうだね、だいたい毎日かな。」
「まぁ賑やかですねー。お客様の今日の運勢は、良いことある日でしょうかねー?」
「客人もやりますなぁ。両手どころか頭にも花とは。しかも全員が美人ときておる。」


クソッ、悪気はないと思うが煽り文句にしか聞こえんぞ。
オレはその辺りの花を数本拝借して、囲みを突破した。
アシュリーの脇を抜け、エレナの股下をスライディングし、リタの頭を踏み台にして逃げることに成功した。


「シルヴィア、ミレイア。この花とかもキレイかな?良かったらこれも持っていって。」
「ほんとーこれもキレイ!おとさん、ありがとう!」
「魔王様感激です、このお花はずっと大事にします!」


よし、これで何とか誤魔化せたな。
ブーイングが喧しいが、全部無視だ。
プンスカなんて擬音が聞こえてもだ。


「アルフは子供に逃げすぎですよーヘタレー、ムッツリヘタレー、ヘタレオブザイヤー!!」
「これはぁトーーフってぇ言うんですよぉ。独特の文化があるようでぇー」
「キィヤァァアァァー!やめてぇぇえーー!」


あ、なんか泡吹いて倒れた。
悪は滅びた。
この旅行中はアシュリーのコントロールが簡単で助かる。


それからしばらくして、みんな思い思いに花を貰えたようだ。
シルヴィアは跳び跳ねんばかりに喜んでいる。


「お姉ちゃん、キレイなお花ありがとうー!」
「いえいえー、花達もとても喜んでますよー。あ、そうだ。」


そういって花の神はちょっと変わった花を取り出した。


「せっかくだからお嬢ちゃんも占いやりますー?」
「いいの?やりたいやりたい!」


え、それ大丈夫か?
落とし穴にハマったりしないよな?
まぁ、所詮は占いだろうが・・・。


「今日はいいことがある、ない、ある、ない、ある・・・ない、・・・あるー!」
「やったぁ!いいことあるー!」


ちょっとだけホッとしたオレ。
いや、そんな占いを信じてる方じゃないけどさ。
今までの流れをみてるとなぁ。


一部を除き上機嫌で宿に戻ったオレ達。
すると「百万人の来館者ー!」とかでシルヴィアが盛大に祝われた。
記念として顔のイラストが入り口に飾られ、特別なデザートも晩飯に付けてもらえた。
ご満悦なシルヴィアを余所に、オレはさっきの占いについて考え込んでしまう。


・・・偶然だよな?
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