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第1章 平民時代
第11話 飯三杯
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オレ達は遠くから魔王らしき男を観察した。
何はともあれ情報だ。
戦うにしても、交渉するにしても、何も知らないままでは話にならない。
幸いまだ気づかれていないようだから、慎重に動こう。
「案内は終わりました、では私はここで」
「行く末を見届けないのか?」
「まだ死にたくありませんので、では!」
とんでもない早さで逃げ帰った案内人。
さながら脱兎、いや早馬のようだった。
「そもそも戦力じゃなかったから、放っておくか」
「リーダー、どうすんだよ。戦わないのか?」
「まずは調査だ。いいか、決して気取られずに。じっくり相手を」
「あれは、獣人?! 狼系の獣人!」
「クゥス、どうした?」
「よっしゃぁぁあー! 獣耳少女じゃーーい!」
「ま、待て! クゥス!」
さっきの案内人と勝るとも劣らないスピードで駆けていくクゥス。
あんのバカ……、これじゃ調査なんかできねぇだろうが!
魔王相手になんで無防備になれるんだか。
オレはフェチ道の業の深さを痛感した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
シルヴィアと一緒になって『アリさん貴族ごっこ』に興じていると、突然叫び声が聞こえた。
あれは、人間の女か?
ちょっとあり得ないスピードでこっちに駆け寄るソイツは、やはりちょっと異常な目をしていた。
シルヴィアを守るように一歩前に立ち、女に向かって小石を放った。
「獣耳ぃー! 獣耳しょうじょ……グヘッ!」
女は半回転して頭から地面に倒れた。
今のは大丈夫なヤツか?
症状が酷ければリタに治してもらおう。
オレは遠巻きにしている二人組に声をかけた。
「そこのお前ら! コイツの連れだろう? なんとかしろ!」
少し間があってから返事が返ってきた。
「わかった、すぐ回収するから。落ち着いて話し合おう!」
そう言って両手を挙げながら近付いてきた。
落ち着くも何も、オレ達はいつも通りだってのに。
重装備の男がさっきの女を抱き起こした。
目を覚ますとすぐに立ち上がれたから、大事はなさそうだ。
「うちのモンが迷惑をかけたな。オレ達は只の冒険者だ」
「ほぅ……で、オレを殺しにでも来たのか?」
「……! どうしてそう思う?」
「遠巻きに見てたろ、探るように。闘気も剥き出しでな」
「そこまでバレてたか、敵わねぁな」
闘気は感じたが、敵意は見られなかった。
それは目の前に現れた今も変わらない。
達人にもなると、気配の全てを消して攻撃できるらしいが。
コイツらにそんな芸当はできそうもなかった。
話し声を聞いてか、家からリタが顔を見せた。
「あら、アルフ。お客様?」
「客と言えば客、刺客といえば刺客かな」
「んーー、随分と幅のある方々なのね」
「待ってくれ、できれば穏便に事を運びたい。オレらに害意の無いことだけはわかってくれ!」
「確かに、あんな絶叫をあげながら突貫ってのは……有り得ねぇか」
「理解してもらえたようで何よりだ」
ホッとした空気が流れ、全員が警戒を解いた。
さっきの絶叫女がモジモジしている。
何か言いたいことでもあるんだろうか。
「どうした、そんなにソワソワして」
「アヒッ! えっと、その女の子の耳をさわりたくってですね」
「シルヴィアだ。本人が許せばオレは構わん」
「シルヴィアちゃんって言うの、素敵な名前ね! ねぇ、あなたの耳を触らせてくれない?」
「ちょっとだけなら、いいの。たくさんはヤなの」
「ありがとぉー! うわツルッスベやん、たまんねぇ。これで飯三杯はイケらぁ!」
なんかコイツ気持ち悪ぃ。
仲間に目を移すと、同じような顔をしていた。
変なヤツに手を焼いているという感じか。
何となくリーダーの男に親近感を覚えたのだった。
何はともあれ情報だ。
戦うにしても、交渉するにしても、何も知らないままでは話にならない。
幸いまだ気づかれていないようだから、慎重に動こう。
「案内は終わりました、では私はここで」
「行く末を見届けないのか?」
「まだ死にたくありませんので、では!」
とんでもない早さで逃げ帰った案内人。
さながら脱兎、いや早馬のようだった。
「そもそも戦力じゃなかったから、放っておくか」
「リーダー、どうすんだよ。戦わないのか?」
「まずは調査だ。いいか、決して気取られずに。じっくり相手を」
「あれは、獣人?! 狼系の獣人!」
「クゥス、どうした?」
「よっしゃぁぁあー! 獣耳少女じゃーーい!」
「ま、待て! クゥス!」
さっきの案内人と勝るとも劣らないスピードで駆けていくクゥス。
あんのバカ……、これじゃ調査なんかできねぇだろうが!
魔王相手になんで無防備になれるんだか。
オレはフェチ道の業の深さを痛感した。
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シルヴィアと一緒になって『アリさん貴族ごっこ』に興じていると、突然叫び声が聞こえた。
あれは、人間の女か?
ちょっとあり得ないスピードでこっちに駆け寄るソイツは、やはりちょっと異常な目をしていた。
シルヴィアを守るように一歩前に立ち、女に向かって小石を放った。
「獣耳ぃー! 獣耳しょうじょ……グヘッ!」
女は半回転して頭から地面に倒れた。
今のは大丈夫なヤツか?
症状が酷ければリタに治してもらおう。
オレは遠巻きにしている二人組に声をかけた。
「そこのお前ら! コイツの連れだろう? なんとかしろ!」
少し間があってから返事が返ってきた。
「わかった、すぐ回収するから。落ち着いて話し合おう!」
そう言って両手を挙げながら近付いてきた。
落ち着くも何も、オレ達はいつも通りだってのに。
重装備の男がさっきの女を抱き起こした。
目を覚ますとすぐに立ち上がれたから、大事はなさそうだ。
「うちのモンが迷惑をかけたな。オレ達は只の冒険者だ」
「ほぅ……で、オレを殺しにでも来たのか?」
「……! どうしてそう思う?」
「遠巻きに見てたろ、探るように。闘気も剥き出しでな」
「そこまでバレてたか、敵わねぁな」
闘気は感じたが、敵意は見られなかった。
それは目の前に現れた今も変わらない。
達人にもなると、気配の全てを消して攻撃できるらしいが。
コイツらにそんな芸当はできそうもなかった。
話し声を聞いてか、家からリタが顔を見せた。
「あら、アルフ。お客様?」
「客と言えば客、刺客といえば刺客かな」
「んーー、随分と幅のある方々なのね」
「待ってくれ、できれば穏便に事を運びたい。オレらに害意の無いことだけはわかってくれ!」
「確かに、あんな絶叫をあげながら突貫ってのは……有り得ねぇか」
「理解してもらえたようで何よりだ」
ホッとした空気が流れ、全員が警戒を解いた。
さっきの絶叫女がモジモジしている。
何か言いたいことでもあるんだろうか。
「どうした、そんなにソワソワして」
「アヒッ! えっと、その女の子の耳をさわりたくってですね」
「シルヴィアだ。本人が許せばオレは構わん」
「シルヴィアちゃんって言うの、素敵な名前ね! ねぇ、あなたの耳を触らせてくれない?」
「ちょっとだけなら、いいの。たくさんはヤなの」
「ありがとぉー! うわツルッスベやん、たまんねぇ。これで飯三杯はイケらぁ!」
なんかコイツ気持ち悪ぃ。
仲間に目を移すと、同じような顔をしていた。
変なヤツに手を焼いているという感じか。
何となくリーダーの男に親近感を覚えたのだった。
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