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第三部

3ー25  たらふくご飯

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まおダラ  the  3rd
第25話 たらふくご飯



「あー、テストテスト。こちら魔王だが、聞こえるか?」


オレはリビングに置いた石板に話しかけている。
これは寂しがり故の独り言、なんかじゃない。
実はこれ、魔道具なのだ。
中央に水晶板が埋め込まれていて、遠く離れた相手の顔を見ながら会話できるという、未来からやってきたような超技術だった。

使用するには魔水晶を使うか、直接魔力を注入する仕組みとなっている。
オレは当然だが直接派だ。


「テストテスト、こちらレジスタリア。感度良好です」
「こっちもだ。えーっとアンタはたしか」
「ベンリーです。商工会の頭のベンリーですよ」
「そうだったな。すまんすまん」


レジスタリアには現状まとめ役が不在だった。
なので暫定的に、見た目が立派なおじさんにお願いしたのだ。
白く立派なアゴひげと禿げ上がった頭だけで判断したが、彼は商人の中でもお偉いさんだと言うじゃないか。
これはもう運命ねと確信して、自治政府を任せて今に至る。


「街のみんなの様子はどうだ。落ち着いてるか?」
「期待半分、不安半分と言うべきでしょうか。女性の方が比較的安心したようで、顔の泥を落としていました」
「グラン兵が消えたんだから汚す必要もないもんな。その変化は素直に嬉しい」
「仕事も通常通り回っています。自分の働きは無駄にならないと判断してもらえました」
「そうかそうか。意外と順調じゃねぇか」


不安に怯えて引きこもったり、他国へ流出する事は起きていないとのこと。
まぁ三等国民という、世界で最下層扱いの人が他国に行くのは不自然か。


「ですが、このままではたち行かなくなります。重大な問題が解決しておりませんので」
「おっと初耳。それは何だ?」
「食料です。特に農作物が不足しております。収穫物の大半をグランに持ち去られた後ですので」
「次の収穫まで持ちそうにないか?」
「飢えはしないかもしれません。主食はありますし、沿岸部からは定期的に魚の納品があります。数は少ないですが、乳製品も内陸部から届きます」
「それでも足りない、という結論だな?」
「はい。全員に行き渡らせるには流通が細すぎます。長期間に亘って粗食を続ければ病のもととなり、体力のない者から死んでいくでしょう」


グランには締め付けられていたが、最低限の管理だけはされていたようだ。
市場には一通りの商品が並んでいた記憶がある。
それでも孤児院の人間からしたら、無いも同然だったが。


「わかった。オレが手を打とう。必要になるのは……」
「そうですね。魔王様のお手を煩わせるのに、貢物も無いとはあんまりです。あなたは軽く見られているのですか?」
「とんでもない! 何かお礼をとは考えております。ですが、勝手が判らないものですから……」
「それでは貢物として、レジスタリア人全員の足の指を持ってきてください。小指で結構です」
「中々に厳しい……ですが、我らはすがり付くより他はありません。何とかしてご用意致します」
「ミアちゃん、ちょっといいかな?」


これは大人の会話中であると諭した。
だから割り込んで妙な話を吹き込まないでとお願いした。
『生爪が……』とか小声で言わないようにとも約束した!
つうかそもそも貢ぎ物なんか要らねぇよ!


「すまん、今の話は忘れてくれ。必要なのは金だ。どっかから食い物を買うにしても、大金が必要になる」
「それがですね、城の跡地を探しましたが、倉庫は空でした。どうやら食料だけでなく、お金も持ち去られた後のようです」
「そっか。無いもんは仕方ない。他に当てが無い訳じゃないしな」
「真ですか。私には見当もつきませんが」
「ともかくこれはオレが対応する。後日また連絡するからな」
「承知しました。成功をお祈りいたします。それから念のための確認ですが……」
「うん、何だ?」
「本当に貢ぎ物は不要ですか? 指を集めなくとも宜しいので?」
「完全に宜しいぞ。じゃあまたな」


通信が切られた。
それにしてもミアには困ったもんだ。
危うく魔王さんが、加虐趣味を持っていると誤解される所だったぞ。

その問題児だが、今リタに叱られている真っ最中だ。
頼まれなくても躾をする辺りは流石だと思う。


ーーーーーーーー
ーーーー


後日連絡を取った相手は、ヤポーネの月明(ゲツメイ)だ。
コンタクトを取るなり驚かれ、散々に泣かれて大変だったが、取引に応じてくれたのだ。
そういや『次こそは立派な付喪神(つくもがみ)になれ』とか言われたが、何の事やら。

ちなみにこちらが渡したのは、収容所にあった黒鉄の板。
その対価として保存の利く根菜や芋類を売ってもらった。
どれ程の食料が必要で、鉄板一枚あたりのレートがどんなもんが適正かは、あとでベンリーに調整してもらうとする。

月明と収容所で検分したあと、久しぶりに我が家へと招待した。
家のメンバーも珍しい客が来たとあって、続々と顔を見せた。


「あら、月明さん。ご無沙汰ね」
「こんちゃーす。なんか久しぶりですねー」
「うむ。久しいの。100年ぶりくらいじゃろうか」


流石に長寿同士の会話だ。
当たり前のように100年なんてフレーズが飛び出したぞ。


「そうそう。手ぶらでの再会もなんじゃと思うてな。今日は良き物を持ってきた」
「……なんか似たことがあったような」
「出来の良い絹の反物でのう。これを……」
「おいまさか」
「奥方様にじゃ」


その言葉が放たれた瞬間、3本の腕が伸びた。
それが誰なのかなんて確認するまでもない。


「いやいやすいませんね。気を遣わせちゃったみたいでー。とりあえず正妻の私が受けとりますね」
「あら素敵な色。こちらからもお返しを考えないとね。もちろん奥さんである私がいただくわ」
「初対面なのに、贈り物だなんて恐縮。でも名指しされたからには貰う。事実上の嫁が」
「魔王殿。お主まさか?」
「オレは絶対君主じゃない。共和制による合議を重要視してるんだ」
「ただの優柔不断ではないのか? 弱ったのう、手土産はひとつ限りで……」


その時、月明の顔が歪む。
何か良からぬ事を企んだように見えるが。


「女子(おなご)衆よ。ここは一つ余興をせぬか?」
「おい、何をする気だ」
「なぁに。他愛のない遊びじゃ。この反物を引っ張り合い、自分の手元に引き寄せたものに差し上げる、というものじゃ」
「へぇ。私は構いませんよ。こう見えて意外と力持ちなんですよ」
「そう。引っ張り寄せる、ねぇ」


月明が反物を少し開いて、みんなに生地の端を持つよう促した。
そのまま3方向に引っ張り合う形にするらしい。
立ち位置は割りと雑に決められているが、どうなる事やら。


「皆の者。心の準備はよいか?」
「いつでもオッケーです!」
「では、はじめ!」
「ギニャァァアーーッ!」


開始の合図と共にアシュリーが後ろに吹っ飛んだ。
それもそのはず、リタとエリシアが同時に手を放したからだ。
結果として、生地に絡まれたアシュリーが出来上がるという寸法だ。


「お主ら、なぜ手を放したのじゃ?」
「だって……力ずくで引っ張ったりしたら、せっかくの布が台無しになるじゃない。それは月明さんは勿論、ライルにも悪いかなって」
「私は勘。放さなきゃいけないって声が聞こえた気がした」
「なるほどのう。魔王殿はこれをどう見る?」


どう見るったって、リタが大人の発想を持ってただけの話だろ。
エリシアのは知らん。
この話の流れに納得がいかないのがアシュリーだ。
絡み付く布地をほどきつつ抗議をはじめた。


「ちょっと待ってください! どうしてルールを守った私が損してる感じなんです? 特別判定とかズルいですよ!」
「まぁまぁアシュリー殿。約束通り、それはそなたの物としよう。可愛らしい晴れ着を用意させる故に、怒りを静めてはくれぬか?」
「うう、良いですけど。どんな服になるんです?」
「そうじゃのう。振り袖、袴、浴衣なんてのも悪くない」
「ゆゆゆユカユカタ……ギャァァアーーッ!」


アシュリーが泡を吹きながら、ビタァンと倒れた。
もしかして、いつぞやの勘違いをまだ引きずってんのかよ。
200年以上昔の失敗をまだ克服できてないのか。
できてないからこそ、お手本通りの失神になったんだろうが。

結局アシュリー用にではなく、シンディとミアに浴衣が作られた。
なんとも強引な着地点だと思った。
だがヤポーネ式のオシャレ着をまとった娘たちが可愛かったので、とりあえずは良しとした。



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