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第三部
3ー23 独立記念日
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まおダラ the 3rd
第23話 独立記念日
人、人、人。
レジスタリア城前は街の人で埋め尽くされていた。
まぁ無理もないか。
何せ忽然と駐留軍が消えたのだから。
さらにはエリシアに頼んで、街の掲示板に『城の前で魔王と握手』なんて告知を出させたのだから。
事態の把握と見物を兼ねたような、何ともソワソワした人たちが集まったのだ。
「相当数いるな。これ、街中のヤツら全員が来てないか?」
「そりゃそうですよ。魔王と言えばレジスタリアの守り神ですからね。注目度バッチリですもん」
「うぅん。反響が大きすぎるかしら。この場面で失敗すると、後々の信頼に関わりそうね」
オレたちは城の辺りを滞空しながら様子を見ていた。
街中をテクテク歩いて登場するよりも、空からブワァッと現れた方が魔王っぽいからだ。
装いだって暗めのカーテンを即席のマントにして、普段着の親しみやすさを覆っている。
後は力を示したなら、国民の信頼も得られるはずだ。
「良いなぁリタ。私も抱っこされたいですよぉ。うっかり呪いでもかけたくなりますよぉ」
「お前は自前の羽で飛べるだろ。リタは飛べねぇんだから当然だ」
「ていうか、アルフ! ちょっとケツ揉んでませんか? ケツ祭りですか!?」
「ごめんなさいねアシュリー。私のお尻が魅力的なばっかりに」
「揉んでねぇ! リタも分かってんだろうが!」
「んーー。先手打って口に出しちゃえば、触りやすいかなって」
「ったく。大事な場面を控えてんだ、行くぞ」
城壁の上に舞い降りると、みんながどよめいた。
所々から『ライルに似てるような』とか『ライルそっくりだな』という声が聞こえるが、ややこしくなるので無視。
ともかく初っぱなが肝心、尻尾丸めた方が負けなのだ。
遠くまで聞こえるように極力声を張り上げて伝えた。
「みんな、魔王だ。待たせて悪かったな。これからはグランもプリニシアも怖がらなくていい。かつてのような平和をオレが約束する!」
「魔王さま!?」
「復活間近の噂を聞いてはいたが、まさか本当だったとは!」
「声もライルに似てね?」
驚き、喜び、疑いと反応はそれぞれだが、ひとつだけ共通している点がある。
全員が痩せこけている事。
どれほど暮らしぶりが酷かったかは、想像するに難くない。
更に痛々しいのは若い女性だ。
みんなが顔を泥やススで汚し、髪も乱雑に切り落としている。
こうでもしないと、グラン兵に目をつけられてしまうからだろう。
着飾りたい年頃の姿としては憐れだった。
ここはひとつ、景気良く打ち上げてやろう。
清龍さんによる大破壊ショウだ。
「グランの横暴も本日までだ! その象徴をこれからブッ壊してやる!」
レジスタリア城に向けて両手を構えた。
そして魔力を存分に充填し、気迫を籠める。
後は発動を待つばかりだ。
固唾を飲んで見守っている気配が、背中越しに伝わってきた。
ーーみんな見ていろ。変革の瞬間だ。
振り向くことなく、彼らの期待に行動でこたえた。
「暴れろ、清龍!」
ーーぽすん。
微かな煙が舞い上がるだけで、逞しい魔力の龍は発現しなかった。
いつだって助けてくれた清龍さん。
どんな時も見捨てなかった清龍兄貴が出てこない。
なんで、どうして、拗ねてんの!?
中々呼び出さなかったから機嫌損ねちゃったの?
「……どうかされたんだろうか」
「破壊するんだよな、今のは不発?」
「本当に魔王様なのかね。偽物かも」
「つうかライルじゃね?」
ヤバイな、不信感を持たれたかもしれない。
期待を持たせた分だけ反動が大きい。
恐らく次はない。
もはや失敗は許されないので、安定の魔力砲で代用した。
「ヨイショオーッ!」
「おお、なんという破壊力! 城の一部が消し飛んだぞ!」
「凄まじい。これが魔王様のお力か」
「ヨイショオーーィ!」
「また崩れたぞ! すげぇや!」
反応は上々だ。
みんな納得してくれたようでひと安心。
オレとしちゃあ清龍でドカンと一発で終わらせたかったが、無い裾は捲れない。
結局は魔力砲でチマチマ取り壊し、都合4発も必要になった。
何ともピリッとしねぇが解体は完了。
「みんな、これで分かったか。もう一度オレがレジスタリアを守ってやる!」
「魔王様!」
「魔王様万歳!」
「すげぇ、ライルが魔王様だったなんてー!」
街はオレへの称賛の声で活気づいた。
住民のみんなが生き生きしてる顔を見るのは初めてかもしれない。
そしてさっきからオレの名前を連呼してるヤツは要注意だな。
何だかしつこいし、トラブルを引き起こしそうな予感がした。
「良かった! もうグランだって怖くないぞ!」
「これでようやく人らしい暮らしが出来るねぇ、有り難いねぇ」
集まった人のほとんどが泣いて喜び、抱き合って今日という日を祝う。
この涙は決して軽くない。
翌日は収容所の連中も帰宅させ、街は歓喜の渦に飲み込まれた。
親子、友人、恋人が無事の再会を喜び、まるでお祭りのような騒ぎだった。
当たり前の幸福と言うにはまだまだ程遠いが、確かな前進が感じられた。
第23話 独立記念日
人、人、人。
レジスタリア城前は街の人で埋め尽くされていた。
まぁ無理もないか。
何せ忽然と駐留軍が消えたのだから。
さらにはエリシアに頼んで、街の掲示板に『城の前で魔王と握手』なんて告知を出させたのだから。
事態の把握と見物を兼ねたような、何ともソワソワした人たちが集まったのだ。
「相当数いるな。これ、街中のヤツら全員が来てないか?」
「そりゃそうですよ。魔王と言えばレジスタリアの守り神ですからね。注目度バッチリですもん」
「うぅん。反響が大きすぎるかしら。この場面で失敗すると、後々の信頼に関わりそうね」
オレたちは城の辺りを滞空しながら様子を見ていた。
街中をテクテク歩いて登場するよりも、空からブワァッと現れた方が魔王っぽいからだ。
装いだって暗めのカーテンを即席のマントにして、普段着の親しみやすさを覆っている。
後は力を示したなら、国民の信頼も得られるはずだ。
「良いなぁリタ。私も抱っこされたいですよぉ。うっかり呪いでもかけたくなりますよぉ」
「お前は自前の羽で飛べるだろ。リタは飛べねぇんだから当然だ」
「ていうか、アルフ! ちょっとケツ揉んでませんか? ケツ祭りですか!?」
「ごめんなさいねアシュリー。私のお尻が魅力的なばっかりに」
「揉んでねぇ! リタも分かってんだろうが!」
「んーー。先手打って口に出しちゃえば、触りやすいかなって」
「ったく。大事な場面を控えてんだ、行くぞ」
城壁の上に舞い降りると、みんながどよめいた。
所々から『ライルに似てるような』とか『ライルそっくりだな』という声が聞こえるが、ややこしくなるので無視。
ともかく初っぱなが肝心、尻尾丸めた方が負けなのだ。
遠くまで聞こえるように極力声を張り上げて伝えた。
「みんな、魔王だ。待たせて悪かったな。これからはグランもプリニシアも怖がらなくていい。かつてのような平和をオレが約束する!」
「魔王さま!?」
「復活間近の噂を聞いてはいたが、まさか本当だったとは!」
「声もライルに似てね?」
驚き、喜び、疑いと反応はそれぞれだが、ひとつだけ共通している点がある。
全員が痩せこけている事。
どれほど暮らしぶりが酷かったかは、想像するに難くない。
更に痛々しいのは若い女性だ。
みんなが顔を泥やススで汚し、髪も乱雑に切り落としている。
こうでもしないと、グラン兵に目をつけられてしまうからだろう。
着飾りたい年頃の姿としては憐れだった。
ここはひとつ、景気良く打ち上げてやろう。
清龍さんによる大破壊ショウだ。
「グランの横暴も本日までだ! その象徴をこれからブッ壊してやる!」
レジスタリア城に向けて両手を構えた。
そして魔力を存分に充填し、気迫を籠める。
後は発動を待つばかりだ。
固唾を飲んで見守っている気配が、背中越しに伝わってきた。
ーーみんな見ていろ。変革の瞬間だ。
振り向くことなく、彼らの期待に行動でこたえた。
「暴れろ、清龍!」
ーーぽすん。
微かな煙が舞い上がるだけで、逞しい魔力の龍は発現しなかった。
いつだって助けてくれた清龍さん。
どんな時も見捨てなかった清龍兄貴が出てこない。
なんで、どうして、拗ねてんの!?
中々呼び出さなかったから機嫌損ねちゃったの?
「……どうかされたんだろうか」
「破壊するんだよな、今のは不発?」
「本当に魔王様なのかね。偽物かも」
「つうかライルじゃね?」
ヤバイな、不信感を持たれたかもしれない。
期待を持たせた分だけ反動が大きい。
恐らく次はない。
もはや失敗は許されないので、安定の魔力砲で代用した。
「ヨイショオーッ!」
「おお、なんという破壊力! 城の一部が消し飛んだぞ!」
「凄まじい。これが魔王様のお力か」
「ヨイショオーーィ!」
「また崩れたぞ! すげぇや!」
反応は上々だ。
みんな納得してくれたようでひと安心。
オレとしちゃあ清龍でドカンと一発で終わらせたかったが、無い裾は捲れない。
結局は魔力砲でチマチマ取り壊し、都合4発も必要になった。
何ともピリッとしねぇが解体は完了。
「みんな、これで分かったか。もう一度オレがレジスタリアを守ってやる!」
「魔王様!」
「魔王様万歳!」
「すげぇ、ライルが魔王様だったなんてー!」
街はオレへの称賛の声で活気づいた。
住民のみんなが生き生きしてる顔を見るのは初めてかもしれない。
そしてさっきからオレの名前を連呼してるヤツは要注意だな。
何だかしつこいし、トラブルを引き起こしそうな予感がした。
「良かった! もうグランだって怖くないぞ!」
「これでようやく人らしい暮らしが出来るねぇ、有り難いねぇ」
集まった人のほとんどが泣いて喜び、抱き合って今日という日を祝う。
この涙は決して軽くない。
翌日は収容所の連中も帰宅させ、街は歓喜の渦に飲み込まれた。
親子、友人、恋人が無事の再会を喜び、まるでお祭りのような騒ぎだった。
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