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第三部

3ー22  オレの槍

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まおダラ the   3rd
第22話 オレの槍



裏路地。
そこには黒鉄兵が2匹と若い女1人がいた。
白昼堂々悪さをする気らしい。
なんとも好都合だ。


「抵抗すんじゃねぇ女! オレたちは一等国民だぞ!」
「大人しくしろよオウ、言うこと聞けよオウ」
「誰かっ。誰か助けてーッ」


おっしゃお手本の様なクズ。
殺しても心痛まないパターンだ。
助走をつけて思いっきり振りかぶって……。


「死ねやオラァ!」
「ぎゃぁぁあー!」


オッサン2匹が仲良く天に召された。
あの世で結ばれるよう祈ってやる。

鉄棒はというと、実に頼もしい強度を誇っていた。
間合いも期待通りで、退魔とやらの範囲の外から攻撃を繰り出せた。
勢いつけてペシリと叩くと、返事をするようにバイィンと震える。
この使用感には魔王さんもホッコリ笑顔。


「あの、ありがとうございました!」
「うんうん、なるほどね」
「その、私には大したお礼はできませんが、ええと……」
「いいじゃない、いいじゃない」
「あなた様の槍を磨かせて……」
「よっし、このまま乗り込んだらぁーッ!」
「ああっ。お待ちになって!」


オレは脇目もふらずに城へ駆けた。
背筋にいわゆる『アシュリー悪寒』が走ったからだ。
ちなみにそれは、何らかの『性的な危機を感じたとき』を指す、どうでもいいが。

街の一角にはそこそこ立派な城がそびえ立っている。
3階建てくらいの中規模なものだ。
つうか城なんかいつの間に建てたんだろ。
200年前は無かったのにな。

見慣れない城門に差し掛かると、グランの兵が敵意を向けてきた。
当然のように門番が誰何(すいか)する。


「何者だ、止まれ!」
「止まらんと取り押さえ……」
「邪魔だオラァ!」
「ぎゃぁぁあー!」


警備は見飽きた黒鉄兵。
あるものは吹き飛び、あるものは地に埋まった。
10年にも亘ってレジスタリアを虐げ続けた対価にしては、随分と軽い気がする。
それでも一人一人可愛がる暇もないので、良しとする。
つうか個別対応が面倒。


「賊が出た! 城門を閉めろ!」


ーーガッション。

分厚い鉄扉が閉められた。
これで行く手を阻んで対抗しようというのだろう。
確かに頼り甲斐のある守りではある。
相手がオレじゃなけりゃな。


「ワッショォオイ!」
「も、門が一撃で!?」
「化け物だ、化け物が出たぞー!」


蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う黒鉄兵。
普段は居丈高にふんぞり返ってた連中が、いざ難敵が現れるとこのザマだ。
『貴様はそれでも軍人か!』なんて罵りたくなる。

立ちはだかる敵をひとまずワッショイワッショイ。
抵抗する兵の数がみるみる減っていく。
そうして快進撃を続けるオレだが、いつまでも続かなかった。

ーードシンッ!

妙に巨体な兵士が行く手を遮ったのだ。
巨大な刃のグレイブを軽々と扱っている。
色味からして、武器から防具に至るまで全てが黒鉄装備だ。

軍内での信頼が厚いのか、この男の登場で敵の士気がうなぎ登りになる。


「やった兵長だ! 兵長が来てくれたぞ!」
「クマ殺しの兵長だぞ。これで賊もお終いだぁ!」
「侵入者め、我らグランに歯向かうなどと不届きにも程が……」
「邪魔だオラァン!」
「ぎゃぁぁあー!」


前言撤回、快進撃はまだまだ続く。
ちょっと強いくらいじゃ魔王さんを止められないぜ。

階段を昇り、奥へと向かう。
遮る兵士も増えていくが、全員が及び腰だ。
苦もなくモッチリモッチリ撃破していく。

最後に行き着いたのは長官室。
グランから派遣されたデップリ長官が下衆な命令を下すだけの部屋だ。
ここは若者らしく、元気よく足で蹴り開く。


「こんちゃーす! 魔王さんがブッ殺しにきた……んん?」


室内はもぬけの殻だった。
バカ高そうな机や椅子に座るデップリは席外しか。
大きな窓からは裏手が見え、どうやら逃げるつもりらしい。
すぐ近くには厩舎(きゅうしゃ)まである。
自分の保身だけはちゃっかり守るのな。


「魔王さんからは、逃げられませんよっと」


重量感バツグンの机を窓から投げ落としてやった。
けたたましい音とともに降り注ぐ遮蔽物。
遠めに聞こえたブタの叫ぶ声が、仕事の終わりを予感させた。

間髪入れず飛び降りると、小集団の前に着地した。
10人程の兵と、3人分の服に身を包んだオッサンで構成されている。
よくもまぁそんなに育っちゃってさ。
レジスタリア民なんかその日食うものにすら困ってんのに。


「かかれ! 何としても血路を開くのだ!」
「トルガネ閣下をお守りしろ!」


トルガネってのもまた凄ぇ名前だな、良いけどさ。
槍の先を揃えて攻撃されたが、もちろん打たせはしない。
一振りで槍を吹き飛ばし、二振りで前衛を薙ぎ払い、三・四・五で後衛を突き飛ばした。
こうして残るはトルガネのみ。


「さて、言い残したい事はあるか?」
「この大罪人め! 我らグラン王国に逆らって、生きていけると思うなよ!」
「それで良いのか? じゃあ殺しまーす」
「待て! 私はグランの上級貴ぞ……」


オレは最後まで聞かず、トルガネの人生に幕を下ろした。
次こそは善き心を持って生まれて来いよ、と内心呟きつつ。


「さぁて。腹も減ったし、ひとまず帰るか」


カラスが夕焼けに向かって飛んでいる。
オレもみんなが待つ家に戻るとしよう。
ここらの後始末は、後日気が向いた時でいいか。
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