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第21話  僕と彼女の決定的な違い

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僕たちはもう一晩宿をとった。
黒狼団の残党に備える為だったけど、その心配はなかった。
突然押し寄せてきた漁師の集団に恐れをなして逃げたらしい。
その後、逃げたうちのほとんどが捕まり、わずかに逃げおおせた連中も四方八方へと散り散りになったんだとか。


焚き付けた側としてはヒヤヒヤしたけども、結果的には上手くいったようだ。
勝利の報せを聞いたときは心から胸を撫で下ろしたもんだよ。


「これで街が変わってくれると良いね」
「そうだな。まぁ、間違いなく住みやすくなるだろうさ」


大通りの様子も昨日とは打って変わって活気に満ち溢れている。
道々で喜びを分かち合い、肩を叩き、笑い声をあげる。
まるでお祭りみたいだ。


「じゃあ出発の前に、あの神父さんに挨拶していこうよ」
「わかった。向こうもオレたちが気になってるだろうしな」
「それは構いませんが、こんな変な髪型で失礼にはなりませんか?」


オリヴィエが自分の髪を触りながら言った。
確かに昨日の一件でオリヴィエは前髪を切られてしまったんだ。
言うほど変ではないけど、年頃の女の子は気になってしまうらしい。


「大丈夫だよ。別におかしくはないし」
「そうですか。では参りましょう」


教会の近くまで来ると、マークスは門の前で掃除、リリィが敷地内を走り回っているのが見えた。
僕たちの来訪に気づいたのはリリィの方だった。


「あー! お姉ちゃんたちだー!」


リリィは走り寄り、オリヴィエに飛び付いた。
まだ出会って間もないのに随分と懐かれてるんだなぁ。
こうしていると、年の離れた姉妹のようにさえ見える。

遅れてマークスも傍へとやってきた。


「皆さま方、おはようございます」
「おはようございます、マークスさん」
「街の者から昨日のお話を聴きましたよ。大変なご活躍をされたそうで。改めて私からも感謝を申し上げます」
「すいません。お節介だったかもしれませんが、どうにも堪えきれなくて……」
「とんでもない。感謝の念こそあれど、苦言を申し上げる積もりは全くありません。街の者たちもこの恩義を決して忘れぬでしょう」


マークスは静かに微笑みながら言った。
表情の変化に乏しい人だけど、仕草と声色から本当に喜んでくれているようだ。


「して、本日はいかがされましたか?」
「僕たちはこれから街を出るので、そのご挨拶に。まだ旅の途中ですので」
「そうですか。それは寂しくなります」
「お姉ちゃんたち、いっちゃうの……?」

リリィが今にも泣き出しそうになる。
ここまで誰かに引き留められる経験は、僕にとっては珍しいものだ。


「またここへも遊びに来ますから、それまで良い子にしていてくださいね」
「ほんとう? ほんとうにきてくれる?」
「ええ、約束しましょう」
「私からもお願いします。リリィはあなた方に出会ってからというもの、とても嬉しそうにするのです」


僕たちはリリィと再会の約束をし、街をあとにした。
マークスとリリィはいつまでも見送ってくれていたらしく、豆粒のように小さくなった今も教会の前に立っていた。


「リリィは、もう大丈夫そうだね」
「悪漢どもを追い払ったからな。後はあの神父のもとで立派に育つだろうさ」
「そうですね。強く、優しく、おおらかに。レインさんのような立派な大人になって欲しいです」
「僕かい?」


急に褒められて慌ててしまった。
こういう時はオリヴィエが目標になるんじゃないのかなぁ。
彼女は僕の問いかけには答えず、ただ微笑むだけだった。


さて、僕たちの今後の進路だけど、次の目的地は山間部の村に決まった。
大陸の西部に行くには、このルートが最短らしいからだ。
僕がかつて住んでいた村は西端にあるので、代案が出ることもなく話は終わった。


「山道での戦闘は平地と勝手が違う。みんな十分気を付けてくれ」


グスタフの言う通り、斜面での戦いには苦労をさせられた。
目測は狂うし、足元が安定しないのだ。
現れる敵が鉄トカゲやとげとげネズミ等の、対策の終わっている相手なのは幸いだった。
大きく苦戦することなく、先へ進むことが出来た。

そして数度の戦闘が終わると、オリヴィエがポツリと洩らした。


「レベルが上がりました。15です」


へぇ、もう15になったんだ。
僕はまだ14になったばかりなのだ。
今まで通り、彼女の方が1つ分先行しているみたいだ。


「これで役職と、技能が変わりました」
「へぇ、どんな感じ?」
「役職は伝道師、新技能に歌う、とありますね」
「聖職者ってそんな役職もあるの?」
「すいません、私も詳しくは知らないのです」
「グスタフさんは何か知らない?」
「うーん。魔法職の事となると知らんなぁ。レベル15を境に別の体系の役職にシフトすることがある、とは聞くが……」


そうなんだ、グスタフも知らないんだね。

……ん、待てよ。
今別の体系にシフトするって言ったよね?
と言うことは、僕も『変態』から抜け出して別の役職になれるかもしれないって事?!
そういう話なら早く15にならなきゃ!


それからの僕は戦闘中、積極的に前へ出た。
少しでも多くを倒し、ちょっとでも早くレベルを上げるために。


「なんだよリーダー。随分とやる気だな?」
「レインさんはたまにあんな顔になるんですよね。どんな心境なのでしょうか」


不安混じりの声には答えず、ひたすら戦いに没頭した。
腕も足も疲れきっているけど、今はそれどころじゃない。
慣れ親しんだ短槍を振るい続けた。
そしてとうとう、その時は訪れた。


「やった! レベル15になったぞー!」
「そうか、おめでとう」
「おめでとうございます。何か変化はありましたか?」


そう、役職だ。
もう変態じゃなかったらなんでもいい。
どうか変わっていますように!

心の中で祈りつつ、ステータスを確認した。
役職の部分に目をやるとそこには……。




役職:そんなどうしようもない変態で、周りに申し訳ないと思わないの?


「あああぁーーッ!」
「急にどうしたんだ!?」
「思ってるよ! 迷惑かけて悪いと思ってるよぉーーッ!」
「レインさん! 落ち着いてください!」


ハァ、ハァ……。
相変わらず役職は変態のままで、別のものが割り当てられる事はなかった。
まさか心を抉りにくるとは思わず……つい喚いてしまったよ。
そもそも名称じゃなくて質問文になってるじゃないか!


「ごめんね、取り乱しちゃって。もう大丈夫だよ」
「辛かったら言ってくださいね? 話ならいくらでも聞きますから」
「うん、ありがとうね」
「ところでリーダー。見た目が少し変わったようだが?」


そうだった。
前回役職が変わったときに、僕の見た目はより際どくなったんだった。
今度はどんな姿に見えてるんだろう?


「オリヴィエさん。僕の姿はどう見えてる?」
「あの、その。ちょっと恥ずかしいですね」
「ええっ?! どういうこと?」
「すいません。すぐに慣れると思いますから……」
「えええええーッ?!」


オリヴィエは顔を赤くしてうつむいてしまった。
僕の異様な姿に慣れきった彼女がこの反応だ。
どんな風に変わり果ててしまったのか聞きたいけど、知るのが怖くて仕方ないよ!


「安心しろリーダー。まだセーフだ」
「まだ……セーフ?」
「そうだな。街を歩いても許される、ギリギリのラインだろうな」
「なんだよもぉぉおッ!」


みんなはレベルが上がると強くなり、生き抜くことが楽になっていく。
僕はレベルが上がると際どくなり、生き抜くことが難しくなる。
なんという理不尽だろうか。

神様に祈りたい気分になってしまうけど、僕は思い出した。
自分の知っている神様は、あまり頼りにならないという事を。
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