73 / 83
【第2部】転生を断ったら、女神と旅をする事になった
第32話 アイリスと一晩中
しおりを挟む
あれから1日も経つと、色々と落ち着きを取り戻した。
この街も、オレ自身も。
あれだけ必死になったのに、完全なる空振りという結果は衝撃的すぎた。
すっかり心をへし折られたオレは、一晩中アイリスの献身さに慰めらるのだった。
「タクミ様、気分は落ち着きましたか?」
すぐ側でアイリスの声が聞こえる。
体温が伝わるほどに、顔もかつてない程近い。
まるで吐息がかかるような距離感だ。
彼女に膝枕をされつつ、さらにクルミを給仕されているのだから当然か。
部屋の中にはクルミの殻があちこちに転がっている。
オレのやけ食いの結果こうなってしまった。
掃除をしてくれるイリアが居ない為、散らかり放題だった。
「ああ、落ち着いたぞ。長時間すまなかった」
「お気になさらず! なんなら毎日でもいいんですよ?」
「それは流石にやめておく。この世の果てみたいな人間になっちまいそうだ」
ちなみにオレと再会した夜に、アイリスは例の「いちゃいちゃチケット」の行使を宣言した。
内容はというと、そりゃもう……大声で言えないような要求ばかり。
アレはダメ、これは無理と話しているうちにこの形に収まったのだ。
こうしてまた我が身の貞操は守られた。
特別守りたい訳ではないけども。
「さて、気分も良くなったし……。見回りでもするか」
「わかりました。私もご一緒しますね!」
アイリスは部屋の掃除を手早く済ませ、オレの外出にキッチリ合わせて付いてきた。
本当に良く動く子だと感心させられる。
外の様子はというと、既にいつもの暮らしを取り戻していた。
比較的人が多くて混雑しがちだが、大きな問題は起きていないようだ。
これは意外な事にもシスティアの手腕かもしれない。
何せ仇敵同士であった人間と魔人を同じ空間に住まわせているのだから、本来はもっとギスギスするはずだ。
「タクミさん、おかえりなさいー」
向こうからポテポテと女が歩いてくる。
手や顔をインクで汚したシスティアだった。
お前は室内でもドジッ子全開なのか?
「他の皆さんは? 一緒じゃないんですかー?」
「それはなんつうか。諸事情につきってやつだ」
「はぁ。わかりませんが、わかりました」
オレはシスティアの質問には真面目に取り合わず、街の方に目を向けた。
そこには現実の生活、というものが確かにあった。
荷物を担いで作業小屋に向かう人々。
道端ではしゃぎ回る子供たち。
井戸の回りで雑談に華を咲かせる女性陣。
そこには人間も魔人も隔てがない。
「不思議と上手く行ってるんですよね、流民の方と魔人さんたちってー」
「これが理想形かもしれないな」
「理想って……なんの話ですか?」
「この大陸の、だ」
ここまで場当たり的に突っ走ってきた自覚はある。
今後の計画や目標なんかは一切なく、単純に目の前の問題を片付けてきた。
だが幸運なことに、アシュレリタは大陸のどの都市も辿り着けなかった答えを手にしていた。
これができるのも、今のオレだからだろう。
人間時代のオレでもなく、かつての魔人王でもない。
2つの心が一体化した今だからこそ、見つけ出せた答えかもしれない。
「アイリス、システィア。外征組が戻ったら一大発表をするからな。街の人々へも通知を頼む」
「は……ハイ! わかりました!」
「ヘゥッ?! わわわかりましたー」
2人が不思議なほど慌てている。
『飛び上がらんばかり』とはこういう時に使うんだろうか。
「えへへ、もしかして婚約発表? 私なんかがとうとうお妃様に? エヘー」
「フムフム、私の叙任式でしょう、ウン。これまでの功績を考えれば財政官……内務官というセンも? フム」
彼女たちは謎の独り言を残して去っていった。
何やら盛大な勘違いをしていそうだが大丈夫か?
まぁ、その答え合わせは発表をもって各自やってくれ。
この街も、オレ自身も。
あれだけ必死になったのに、完全なる空振りという結果は衝撃的すぎた。
すっかり心をへし折られたオレは、一晩中アイリスの献身さに慰めらるのだった。
「タクミ様、気分は落ち着きましたか?」
すぐ側でアイリスの声が聞こえる。
体温が伝わるほどに、顔もかつてない程近い。
まるで吐息がかかるような距離感だ。
彼女に膝枕をされつつ、さらにクルミを給仕されているのだから当然か。
部屋の中にはクルミの殻があちこちに転がっている。
オレのやけ食いの結果こうなってしまった。
掃除をしてくれるイリアが居ない為、散らかり放題だった。
「ああ、落ち着いたぞ。長時間すまなかった」
「お気になさらず! なんなら毎日でもいいんですよ?」
「それは流石にやめておく。この世の果てみたいな人間になっちまいそうだ」
ちなみにオレと再会した夜に、アイリスは例の「いちゃいちゃチケット」の行使を宣言した。
内容はというと、そりゃもう……大声で言えないような要求ばかり。
アレはダメ、これは無理と話しているうちにこの形に収まったのだ。
こうしてまた我が身の貞操は守られた。
特別守りたい訳ではないけども。
「さて、気分も良くなったし……。見回りでもするか」
「わかりました。私もご一緒しますね!」
アイリスは部屋の掃除を手早く済ませ、オレの外出にキッチリ合わせて付いてきた。
本当に良く動く子だと感心させられる。
外の様子はというと、既にいつもの暮らしを取り戻していた。
比較的人が多くて混雑しがちだが、大きな問題は起きていないようだ。
これは意外な事にもシスティアの手腕かもしれない。
何せ仇敵同士であった人間と魔人を同じ空間に住まわせているのだから、本来はもっとギスギスするはずだ。
「タクミさん、おかえりなさいー」
向こうからポテポテと女が歩いてくる。
手や顔をインクで汚したシスティアだった。
お前は室内でもドジッ子全開なのか?
「他の皆さんは? 一緒じゃないんですかー?」
「それはなんつうか。諸事情につきってやつだ」
「はぁ。わかりませんが、わかりました」
オレはシスティアの質問には真面目に取り合わず、街の方に目を向けた。
そこには現実の生活、というものが確かにあった。
荷物を担いで作業小屋に向かう人々。
道端ではしゃぎ回る子供たち。
井戸の回りで雑談に華を咲かせる女性陣。
そこには人間も魔人も隔てがない。
「不思議と上手く行ってるんですよね、流民の方と魔人さんたちってー」
「これが理想形かもしれないな」
「理想って……なんの話ですか?」
「この大陸の、だ」
ここまで場当たり的に突っ走ってきた自覚はある。
今後の計画や目標なんかは一切なく、単純に目の前の問題を片付けてきた。
だが幸運なことに、アシュレリタは大陸のどの都市も辿り着けなかった答えを手にしていた。
これができるのも、今のオレだからだろう。
人間時代のオレでもなく、かつての魔人王でもない。
2つの心が一体化した今だからこそ、見つけ出せた答えかもしれない。
「アイリス、システィア。外征組が戻ったら一大発表をするからな。街の人々へも通知を頼む」
「は……ハイ! わかりました!」
「ヘゥッ?! わわわかりましたー」
2人が不思議なほど慌てている。
『飛び上がらんばかり』とはこういう時に使うんだろうか。
「えへへ、もしかして婚約発表? 私なんかがとうとうお妃様に? エヘー」
「フムフム、私の叙任式でしょう、ウン。これまでの功績を考えれば財政官……内務官というセンも? フム」
彼女たちは謎の独り言を残して去っていった。
何やら盛大な勘違いをしていそうだが大丈夫か?
まぁ、その答え合わせは発表をもって各自やってくれ。
0
お気に入りに追加
741
あなたにおすすめの小説
貞操逆転世界の温泉で、三助やることに成りました
峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
貞操逆転で1/100な異世界に迷い込みました
不意に迷い込んだ貞操逆転世界、男女比は1/100、色々違うけど、それなりに楽しくやらせていただきます。
カクヨムで11万文字ほど書けたので、こちらにも置かせていただきます。
ストック切れるまでは毎日投稿予定です
ジャンルは割と謎、現実では無いから異世界だけど、剣と魔法では無いし、現代と言うにも若干微妙、恋愛と言うには雑音多め? デストピア文学ぽくも見えるしと言う感じに、ラブコメっぽいという事で良いですか?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─
虹音 雪娜
ファンタジー
単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。
直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。
転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。
流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。
そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。
本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。
※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。
※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。
※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。
※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。
ガールズバンド四人組は異世界で無双する
希臘楽園
ファンタジー
女神様のミスで死んでしまった敷玄璃亜、甲斐安奈、襟倉麗羅、常呂座愛那のガールズバンド四人組。
代わりに授けられたチート能力で異世界を無双する。
まったりと更新していく予定です。チート能力を発揮していくまでに話数を要します。一話当たりは短め。
裸になる描写があるのでR15指定にしましたが、性的行為は描きません。
*文字サイズ(小)で改行調整を行ってます。PC等で読まれる場合はそのサイズで宜しくお願いします。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました
雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。
女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。
強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。
くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる