上 下
36 / 83

第36話  唯一の手段

しおりを挟む
オレたちの構えは単純だった。
イリアが陽動して、生まれた隙をオレが叩く。
今残された戦力ではこれが限界だった。
手負いのリョーガは出せないし、レイラは町の防衛に不可欠だからだ。


イリアはやはりただ者ではなかった。
武芸百般との噂が高いが、偽りはないらしい。
柳のようにしなやかに動き、避ける仕草は風を泳ぐ綿毛のようだ。
間合いを見切っているのか回避行動も最小限に収めている。
イリアは避けている間も小刻みに短剣で斬りつけるのだが、目立った効果は無いようだ。
せめてもう少しまともな武器を持たせてやりたかった。



その隙にオレは装甲の薄い関節部分に攻撃を見舞う。
可動部分は多少の隙間が開いている。
鋼鉄を砕く手段がない以上、防御の弱そうな所を攻めるしかない。
気紛れのようにオレにも攻撃が飛んでくるので、気を抜いたら一撃もらってしまいそうだ。
集中しなくては。


攻撃の手を休めて跳躍し、一度距離をとった。
機鉱兵に変化は見られない。
何度もオレの鉄拳を受け、イリアの短剣による斬撃を食らっているのにだ。
こうも平然とされると自信を失いそうになる。


「陛下、作戦に滞りはありませんか?」
「大丈夫だ。イリアこそどうだ?」
「脅威的な力と速さですが、それだけです。回避を重視している限りは問題ありません」
「わかった。こっちはまだ時間かかかりそうだ。そう少し粘ってくれ」


オレの言葉を聞き終わるなり、イリアは特攻していった。
伸ばされる鉄の腕を駆けながらかわし、腕関節に一刀を浴びせてから離脱した。
キンッと乾いた音が響いただけで、ダメージは無いようだ。


その間にオレは機鉱兵の背中を襲った。
時間をかける程こちらが不利になるかもしれない。
作戦の為にも速攻を選ぶことにした。


左右の腕、両足の関節を狙いもつけずに乱打。
もちろん損傷を与えるどころか、揺るがせる事すらできない。
怒りに任せて渾身の右もくれてやったが、結果は同じだった。


『化け物』なんて言葉も生易しい。
そんな陳腐な言い方で表せる存在ではなかった。
絶望に膝を折りそうになるが、それには耐えた。
オレがしっかりしなくては何も始まらない。


「陛下、敵の動きが」
「あれは不味い! 止めさせるぞ!」
「ハイ、ただ今!」


機鉱兵は突然アシュレリタに片手を挙げた。
その手には魔力が集約され始めている。
今あの攻撃をさせるわけにはいかなかった。
レイラと手負いのリョーガに防げるはずがない。


「全力で行くぞ! 真上から腕に叩き込め!」
「承知しました!」


二人の全体重を乗せた攻撃が機鉱兵の左腕に向けられた。
手首に狙いを定めて。
オレは両手を組んで叩きつけ、イリアも左手を柄の底に手を添えて降り下ろした。
さすがの巨体も耐えきれなかったのか、腕が大きく下がる。
光の波動は地面に向けられ、大きな溝を作っただけだった。

だが、それは誘いだった。
すぐさま逆の手で払われ、オレたちは吹き飛ばされてしまう。
受け身を取れたオレとは違い、イリアは地面に引きずられるようにして転がった。
オレよりも遥かにダメージが大きかったらしい。


「イリア、大丈夫か! 今助けてやる!」
「陛下、申し訳ありません。私の事は気になさらずお逃げください」
「うるせぇ! ふん縛ってでも連れていくからな!」


オレの行動を見透かしたように、機鉱兵が魔法攻撃の姿勢に入った。
オレとイリアをまとめて吹き飛ばす気だろう。
オレは見よう見真似で魔法防壁を張った。
頼りなく、そして歪(いびつ)な壁。
これがオレたちの最後の生命線だった。
イリアも震える手を伸ばして魔力を送ってくれるが、果たしてこれで凌げるのか。


機鉱兵の腕には十分な程の力が集まりかけている。
間もなく無情に放たれるだろう。
どうやらオレの作戦は失敗に終わったようだ。


「陛下。短い間でしたが、お仕えできて幸せでした。魂だけになってもお側に居ります」
「あと一歩、いや半歩だな。魔人のやつらに平穏な暮らしを与えてやりたかった……」


暴力的な光が集約を終えた。
眩い光の波動がオレたちの元へ。



向かうことなく、光は暴走して鋼鉄の両腕を吹き飛ばした。
腕は肩の部分からダラリと下がり、両足は砕けたように崩れ、バランスを保てなくなり、巨大な鉄の塊は地に伏した。


「これは、いったい……?」
「そうか、ようやくか。やっとオレの『毒』が効いたようだな!」
「陛下、毒とは何を指しているのでしょう?」
「そうか、お前にはまだ細かく話してなかったな。これだよ」


オレは腰の袋から取り出した。
魔力が空になった使用済みの魔緑石だ。

「攻撃の最中にコイツを大量に放り込んだ。関節部分に重点的にな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜
ファンタジー
 単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。  直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。  転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。  流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。  そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。  本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。 ※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。 ※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。 ※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。 ※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...