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第七章 ~欺瞞~
7-7.邪の最上級魔法
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メタリィが変形する。これまでとは比べ物にならない、三人ごと薙ぎ払うかのような巨大な剣が現れた。
「見た目に惑わされる必要はない。相手の個体には武器を、液体には魔法をぶつければいい」
振り下ろされる剣から目を逸らさず、ゴーダンが一歩前に出る。そして振り下ろされる剣を、自分の剣で受け止めた。
「そうすれば……」
ゴーダンが力を込める。紫の巨大な剣は、ゴーダンを押し込むどころか、徐々に亀裂が入っていき――
「やりようはある」
やがて割れた。本気のメタリィを前にしても、ゴーダンは動じない。
「速度や力が上がったところで、強度は変わらない。相手の動きに合わせて武器を選ぶのをやめれば、それだけ君の危険も大きくなる」
「知っている」
折れた破片は宙を舞い、ゴーダンの横を通り過ぎる。その瞬間、破片は繋がり、二本の槍となった。
「芸がない」
振り向いて対応しようとするが、槍が狙っていたのはサフィア。修が前に立ち、棒で叩き落とす。
砕けた槍は地面に落ちて集まり、泥となる。それを見ていたサフィアと修はエルフィを放ち、メタリィの一部を蒸発させた。
「サフィアは泥、私は武器や盾の時に攻撃する。修はどっちも」
ゴーダンの指示に力強く返事をする二人。
液状化し、地面を這うメタリィ。散開した三人の中央に移動し、無数の刃物を形成する。
無造作に振り回されるおびただしい数の武器。大小様々な傷をゴーダンと修の体に刻んでいく。
鎧や棒にぶつかり、削れようともメタリィは止まらない。
「無茶なことをする!」
メタリィの戦術は、ほぼ捨て身のようなもの。文字通り生命を削るような攻撃にも関わらず、決定打は与えられない。むしろ受ける痛みの方が大きく、はっきり言って非効率だった。
「この形態でいくら消耗しようが、死ぬことはない……」
荒い息とともに、メタリィは言う。中心に形成された人形も一回り小さい。
メタリィを見ながら、修は考える。
欠点は分かった。なんとか攻撃の対処もできるし、ダメージも与えられている。勝てる相手……のはずだ。
修の考えは間違っていない。このままメタリィの形態に合った攻撃を当てていれば、いずれは勝てる。
頭では分かっているのに、どこか不安が残る。その理由が、修にはわからなかった。
メタリィがまたも槍を作り、ゴーダンを狙う。
ゴーダンは少しだけ辟易した顔を見せると、剣を突き出し、逆に槍を貫いて見せた。
「強情だ。まだ向かってくるか」
メタリィは答えない。剣に変身し、修とゴーダンへ斬りかかる。しかし、単純なメタリィへの慣れや、破損による速度の低下が重なり、攻撃が届くことはなかった。
棒と剣に砕かれた残骸が、地面に転がる。
「力の差はもう分かっているだろう」
それでも攻撃を……武器への変化を止めないメタリィを見て、ゴーダンは思わずそう言った。
「それが……どうした」
「負けを認めて、仮面を渡すんだ。その能力は、もう私達に通じない」
引かないメタリィに、負けを促すゴーダン。
「若造がほざくかぁ!!」
激昂とともに剣を飛ばすが、今度は手甲で砕かれてしまう。
「砕かれ続ければ、ただでさえ脆い強度も更に劣化していく。続けていても勝ち目はない」
ゴーダンが説明しているのは、負けを認めさせるため。彼女なりに、メタリィに何かを感じているのだ。
「それがどうしたと言ったぁ!」
なおも攻撃を止めないメタリィ。更に破片が散らばっていく。
「弱点を知られていようが、貴様らが私より強かろうが! 私は戦う!」
「どうしてそこまでするの!?」
「貴様らが仮面を奪わんとするからだ! 欺瞞の「呪い」はあの子を守る「加護」なんだ! 消させてなるものかぁ!」
散っていた破片が集まっていく。いくら武器や拳に変形したところで、じりじりと消耗していくだけ。それはメタリィ自身が、一番良く分かっていた。
「一度果てた命に未練などない。だが、私にはやらねばならぬことがある……」
言いながらメタリィの右腕が崩れ、泥へ沈む。
「引けぬのだ。無茶がなんだ。脆かろうがなんだ。その程度で……怯むと思うなぁ!!」
広がった泥から、無数の人形が飛び出す。同時に、泥を含むメタリィの全身が、わずかに赤く光りだした。体を変形させるだけでは足りない。心を燃やし、全てを出し尽くさなければ……こいつらには勝てない。
真っ先に気付いたのはサフィアだった。
「魔法だ!最上級が来る!」
「紅蓮の翼開きし時――」
修とゴーダンが人形を倒していくが、倒した傍から人形が再生される。
「ドゥ・エルフィ! 焼き尽くせ! ディア・エルフィ!」
大きさの違う火球を飛ばし、人形を消し飛ばしても結果は同じ。詠唱は止まらない。
「数多の豪炎の羽が焼滅へと導かん――」
「離れて! 遠くに!」
詠唱でどんな魔法か察したサフィアが、逃げるように促す。だが、それをメタリィが許すはずもない。
すぐさま泥から無数の手が伸び、三人の足を掴んだ。斬ろうとも、焼こうとも、腕はすぐに伸びてくる。
曇天の空に浮かぶのは、巨大な赤の魔法陣。
放たれるのは炎の最上級魔法。邪の性印が持つ者がたどり着ける、エルフィの極致。
「――ジオーロ・エルフィ」
上空の魔法陣から、無数の火球が飛び出した。『ジオーロ・エルフィ』邪の性印を持つ者のみが習得できる、炎の最上級魔法。聖の最上級魔法『ガーベナ・エルフィ』の様に大きくはないが、数が多い。
降り注ぐ火球は、さながら深紅の豪雨。三人相手に撃つにはあまりにも過剰で、規模も大きい。
火球は標的だけではなく、近くの民家や地面、外壁にも降り注いでいく。
修がリオン・サーガを開いて火球を吸引するが、数が多い上、満足に動けない。サフィアとゴーダンまでは庇いきれなかった。
泥の中心が盛り上がり、人の顔へと変わる。その瞬間、メタリィの声が聞こえてきた。
「仮面は渡さない。呪いを解かせるわけにはいかんのだぁ!」
それは心からの叫びだった。いくら伸ばした腕を斬られようが、サフィアの魔法を受けようが、メタリィは拘束を解かなかった。
「呪いが解ければどうなる! 元に戻るんだ! 身に起こる災難や不幸を、全て忌み子と呼ぶ偶像に擦り付け、幼子を迫害する町に!」
修が棒を伸ばし、巨大な顔を狙う。だが顔を形づくっているのは泥。何の効果もない。
火球は周りだけではなく、泥にも降り注ぐ。メタリィは身を焼かれながらも、更に続けた。
「そうすればどうなる! 嘘つきになっていたあいつらは、またあの子を迫害するだろう。心ない本音をあの子にぶつけ! 傷つける!」
「カダムの……ことか!」
「奴らは今! 自分の身に起きていることと、私の存在に怯えている! あの子のことが気にならなくなるくらいにな! それが「平和」なんだよ!」
火球の雨が止む。動けぬまま火球を受け続けた三人は、それぞれ深い傷を負っていた。
「見た目に惑わされる必要はない。相手の個体には武器を、液体には魔法をぶつければいい」
振り下ろされる剣から目を逸らさず、ゴーダンが一歩前に出る。そして振り下ろされる剣を、自分の剣で受け止めた。
「そうすれば……」
ゴーダンが力を込める。紫の巨大な剣は、ゴーダンを押し込むどころか、徐々に亀裂が入っていき――
「やりようはある」
やがて割れた。本気のメタリィを前にしても、ゴーダンは動じない。
「速度や力が上がったところで、強度は変わらない。相手の動きに合わせて武器を選ぶのをやめれば、それだけ君の危険も大きくなる」
「知っている」
折れた破片は宙を舞い、ゴーダンの横を通り過ぎる。その瞬間、破片は繋がり、二本の槍となった。
「芸がない」
振り向いて対応しようとするが、槍が狙っていたのはサフィア。修が前に立ち、棒で叩き落とす。
砕けた槍は地面に落ちて集まり、泥となる。それを見ていたサフィアと修はエルフィを放ち、メタリィの一部を蒸発させた。
「サフィアは泥、私は武器や盾の時に攻撃する。修はどっちも」
ゴーダンの指示に力強く返事をする二人。
液状化し、地面を這うメタリィ。散開した三人の中央に移動し、無数の刃物を形成する。
無造作に振り回されるおびただしい数の武器。大小様々な傷をゴーダンと修の体に刻んでいく。
鎧や棒にぶつかり、削れようともメタリィは止まらない。
「無茶なことをする!」
メタリィの戦術は、ほぼ捨て身のようなもの。文字通り生命を削るような攻撃にも関わらず、決定打は与えられない。むしろ受ける痛みの方が大きく、はっきり言って非効率だった。
「この形態でいくら消耗しようが、死ぬことはない……」
荒い息とともに、メタリィは言う。中心に形成された人形も一回り小さい。
メタリィを見ながら、修は考える。
欠点は分かった。なんとか攻撃の対処もできるし、ダメージも与えられている。勝てる相手……のはずだ。
修の考えは間違っていない。このままメタリィの形態に合った攻撃を当てていれば、いずれは勝てる。
頭では分かっているのに、どこか不安が残る。その理由が、修にはわからなかった。
メタリィがまたも槍を作り、ゴーダンを狙う。
ゴーダンは少しだけ辟易した顔を見せると、剣を突き出し、逆に槍を貫いて見せた。
「強情だ。まだ向かってくるか」
メタリィは答えない。剣に変身し、修とゴーダンへ斬りかかる。しかし、単純なメタリィへの慣れや、破損による速度の低下が重なり、攻撃が届くことはなかった。
棒と剣に砕かれた残骸が、地面に転がる。
「力の差はもう分かっているだろう」
それでも攻撃を……武器への変化を止めないメタリィを見て、ゴーダンは思わずそう言った。
「それが……どうした」
「負けを認めて、仮面を渡すんだ。その能力は、もう私達に通じない」
引かないメタリィに、負けを促すゴーダン。
「若造がほざくかぁ!!」
激昂とともに剣を飛ばすが、今度は手甲で砕かれてしまう。
「砕かれ続ければ、ただでさえ脆い強度も更に劣化していく。続けていても勝ち目はない」
ゴーダンが説明しているのは、負けを認めさせるため。彼女なりに、メタリィに何かを感じているのだ。
「それがどうしたと言ったぁ!」
なおも攻撃を止めないメタリィ。更に破片が散らばっていく。
「弱点を知られていようが、貴様らが私より強かろうが! 私は戦う!」
「どうしてそこまでするの!?」
「貴様らが仮面を奪わんとするからだ! 欺瞞の「呪い」はあの子を守る「加護」なんだ! 消させてなるものかぁ!」
散っていた破片が集まっていく。いくら武器や拳に変形したところで、じりじりと消耗していくだけ。それはメタリィ自身が、一番良く分かっていた。
「一度果てた命に未練などない。だが、私にはやらねばならぬことがある……」
言いながらメタリィの右腕が崩れ、泥へ沈む。
「引けぬのだ。無茶がなんだ。脆かろうがなんだ。その程度で……怯むと思うなぁ!!」
広がった泥から、無数の人形が飛び出す。同時に、泥を含むメタリィの全身が、わずかに赤く光りだした。体を変形させるだけでは足りない。心を燃やし、全てを出し尽くさなければ……こいつらには勝てない。
真っ先に気付いたのはサフィアだった。
「魔法だ!最上級が来る!」
「紅蓮の翼開きし時――」
修とゴーダンが人形を倒していくが、倒した傍から人形が再生される。
「ドゥ・エルフィ! 焼き尽くせ! ディア・エルフィ!」
大きさの違う火球を飛ばし、人形を消し飛ばしても結果は同じ。詠唱は止まらない。
「数多の豪炎の羽が焼滅へと導かん――」
「離れて! 遠くに!」
詠唱でどんな魔法か察したサフィアが、逃げるように促す。だが、それをメタリィが許すはずもない。
すぐさま泥から無数の手が伸び、三人の足を掴んだ。斬ろうとも、焼こうとも、腕はすぐに伸びてくる。
曇天の空に浮かぶのは、巨大な赤の魔法陣。
放たれるのは炎の最上級魔法。邪の性印が持つ者がたどり着ける、エルフィの極致。
「――ジオーロ・エルフィ」
上空の魔法陣から、無数の火球が飛び出した。『ジオーロ・エルフィ』邪の性印を持つ者のみが習得できる、炎の最上級魔法。聖の最上級魔法『ガーベナ・エルフィ』の様に大きくはないが、数が多い。
降り注ぐ火球は、さながら深紅の豪雨。三人相手に撃つにはあまりにも過剰で、規模も大きい。
火球は標的だけではなく、近くの民家や地面、外壁にも降り注いでいく。
修がリオン・サーガを開いて火球を吸引するが、数が多い上、満足に動けない。サフィアとゴーダンまでは庇いきれなかった。
泥の中心が盛り上がり、人の顔へと変わる。その瞬間、メタリィの声が聞こえてきた。
「仮面は渡さない。呪いを解かせるわけにはいかんのだぁ!」
それは心からの叫びだった。いくら伸ばした腕を斬られようが、サフィアの魔法を受けようが、メタリィは拘束を解かなかった。
「呪いが解ければどうなる! 元に戻るんだ! 身に起こる災難や不幸を、全て忌み子と呼ぶ偶像に擦り付け、幼子を迫害する町に!」
修が棒を伸ばし、巨大な顔を狙う。だが顔を形づくっているのは泥。何の効果もない。
火球は周りだけではなく、泥にも降り注ぐ。メタリィは身を焼かれながらも、更に続けた。
「そうすればどうなる! 嘘つきになっていたあいつらは、またあの子を迫害するだろう。心ない本音をあの子にぶつけ! 傷つける!」
「カダムの……ことか!」
「奴らは今! 自分の身に起きていることと、私の存在に怯えている! あの子のことが気にならなくなるくらいにな! それが「平和」なんだよ!」
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