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第三章 ~不信~
3-2.農村チェロク
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修達がたどり着いたのは『チェロク』という村。人通りや民家は少なく、活気もない。簡単に言えば田舎の農村のような雰囲気だったが、修は妙な感じがした。
外を歩く村人は農民らしい格好をしているのに、整備されている畑はなく、土壌は荒れている。それに、家も気になった。
どの家も窓の部分に黒い仕切りがあって、中が見えないようになっている。あれでは太陽もまともに当たらない。
「おい、また誰か来たぞ」
「お前が連れてきたんだ。この村に良からぬことを持ち込むために」
二人の村人が修達を一瞥し、魔物に襲われていた女性を責め立てる。
「あんたらが仕込んだんじゃないの? 柄が悪いの一人じゃ怪しまれるから、弱そうな少年少女でも引っ張ってきたんでしょ? 見苦しい」
完全な言いがかりにも負けず、女性も言い返す。聞き込みどころか、まだ近づいてもいない。それなのに、ここまでの拒まれよう。
会話にならないことはあったが、ここまで拒絶されたのは初めてだった。
修は不安をかき消すようにお守りを握ると、三人の村人の方へ向かっていった。話さなければ、何も始まらない。
「何の用だ! 私達を笑いに来たのか!」
口を開いたのは、女性を責めていた男性。修が気に入らないのか、険しい顔をしている。
「すいません。この村に仮面を持っている人が居るはずです、何か知っていれば――」
「仮面だと? 嘘をつくな! 狙いは俺達の金や命だろ!? お前もあいつの仲間に違いない!」
もう一人の男が修を遮り、言いがかりをぶつけてくる。責められていた女性の方は……
「本当に潔白なら、わざわざ尾行なんて真似はしない!! 怪しいことがあるからこそこそと入ってきたんだ!」
二人に加担していた。見える場所にあった村へ、同じ入口から入っただけなのに、女性は尾行だと受け取ったのだ。
宥めて話しをしたい修は考える。ここまで怒っているのなら、否定したら逆効果になるかもしれない。
「尾行をしたのは謝ります。ですが――」
だが燃え盛る炎に、グラス一杯の水をかけたところで、鎮まるはずもなかった。
「うるさい!」「寄るな!」「触るな!」「口を開くな!」「こっちを見るな!」「今すぐここから出ていけぇ!」
三人は思い思いの暴言をぶつけると、家へと入っていった。暴風が駆け抜けていったような感覚を覚え、呆気にとられる修。誰が何を言ったのかさえも、修はわからなかった。
「強烈……」遠目に見ていたコルオが言う。
修は近くに別の村人を見つけ、情報を聞き出そうとしたが「来るな、災いめ! お前には何一つ渡さん!」と返され、家に入られてしまった。
「こりゃ確定だね。むしろ、仮面であって欲しいくらい」
コルオの言う通り、この村にエモ・コーブルがあると見ていいだろう。閉鎖的な田舎の特徴と片付けるには、あまりにも……
情報収集どころじゃないと思っていると、奥で誰かが話しているのが見えた。修が男の後ろ姿を見て、目を細める。
「番犬のように住民が吠えていると思ったら、お前達か」
聞き覚えのある声とともに、背中に大剣を差した男が振り向く。
コルオが「げっ」と嫌な顔をし、修は静かにリオン・サーガを出す。
「ロイク……」
「知り合いですか?」
ロイクと話していた男性が、修達に目を向ける。
土で汚れた灰色のシャツと、短く切り揃えられた黒い髪と無精髭。農業で培われたであろう筋肉は、服の上からでもわかるほどだった。
「そんなところだ。仲良くもないがな」
「フレットと申します」
彼の名は『フレット・シーゲル』この町に住む青年だ。頭を下げて名乗る姿を見て、自己紹介を返す修達。ロイクはともかく、フレットからは悪い感じがしなかった。
「ひどい村でしょう? 少し前はこんなんじゃなかった。同じ村人同士力を合わせ、農業に勤しんできた」
フレットが見つめる先には、荒れ果てた土壌。
「今じゃ作業をするどころか、互いに疑い合い、言いがかりをつけ、人のせいにするばかり」
「その原因はおそらく……」
答えを知っているフレットが、修の語尾に言葉を重ねる。
「仮面、ですよね。こちらの方から聞きました。仮面の持ち主を見つけて止めなければ、いずれは私もおかしくなってしまうと」
「他にまだまともな人とかいる?」
「はい。といってもあと一人だけですが……」
フレットがコルオの問に答えた後、修がこう重ねた。
「仮面は必ず見つけ出します。俺達に任せてください」
直後、修の頭に水滴が垂れる。空を見上げると、わずかに雨が降り出していた。
「シューさんに、コルオさんでしたよね。もし良かったら、今日は私の家に泊まっていってください。決して広くはありませんが、お二人程度ならなんとか……」
二人? ここに居るのは修とコルオ、ロイクの三人のはず。そう思っていると、ロイクがその答えを口にした。
「俺は空き家を使わせてもらう。いつ人間不信になるか分からぬ奴とは、一緒に寝られん」
ロイクはそう言い残して去っていった。
「感じ悪っ」
実にロイクらしい態度に毒づくコルオ。修も相変わらずだと思いながら、少しだけ眉間に皺を寄せた。
「お気遣いありがとうございます。早速調査してきます」
修はもう一度だけ空を見ると、手がかりを探し始めた。
小さい村のおかげで簡単に一周こそできたが、有力な情報は無し。
外を歩く住民には、目が合っただけで散々言われた。家を尋ねれば、扉を叩いただけで罵倒された。誰が来たか見えていなのにも関わらずにだ。
修達だけを罵倒しているのではない。この村の住民は、自分以外の人間全てに強い言葉を浴びせているのだ。
これ以上はどうしようもないと思った修は、本降りになった雨に打たれないよう、フレットの家へ戻った。
「どうぞごゆっくり」
ツルツルした石の壁が特徴の二階建ての家。一通りの家具は揃っていて、窓に黒い仕切りもない。
部屋の一角に置いてある農具一式は埃を被っておらず、最近使ったような形跡もある。
本人は広くないと謙遜していたが、修やコルオ、ロイクが泊まっても余裕があるくらい広かった。
フレットはとても優しく、コルオのためにわざわざ二階を開けてくれた。
その上美味しい料理に、温かい風呂。住民に散々言われた反動もあり、フレットの優しさは修の心に染みた。
まともに会話ができる。それがメオルブたる証拠。ゴーダンに否定された考え方は、まだ修の中に微かに残っている。
修はフレットを怪しいと思いながら、メオルブであって欲しくないとも願った。
外を歩く村人は農民らしい格好をしているのに、整備されている畑はなく、土壌は荒れている。それに、家も気になった。
どの家も窓の部分に黒い仕切りがあって、中が見えないようになっている。あれでは太陽もまともに当たらない。
「おい、また誰か来たぞ」
「お前が連れてきたんだ。この村に良からぬことを持ち込むために」
二人の村人が修達を一瞥し、魔物に襲われていた女性を責め立てる。
「あんたらが仕込んだんじゃないの? 柄が悪いの一人じゃ怪しまれるから、弱そうな少年少女でも引っ張ってきたんでしょ? 見苦しい」
完全な言いがかりにも負けず、女性も言い返す。聞き込みどころか、まだ近づいてもいない。それなのに、ここまでの拒まれよう。
会話にならないことはあったが、ここまで拒絶されたのは初めてだった。
修は不安をかき消すようにお守りを握ると、三人の村人の方へ向かっていった。話さなければ、何も始まらない。
「何の用だ! 私達を笑いに来たのか!」
口を開いたのは、女性を責めていた男性。修が気に入らないのか、険しい顔をしている。
「すいません。この村に仮面を持っている人が居るはずです、何か知っていれば――」
「仮面だと? 嘘をつくな! 狙いは俺達の金や命だろ!? お前もあいつの仲間に違いない!」
もう一人の男が修を遮り、言いがかりをぶつけてくる。責められていた女性の方は……
「本当に潔白なら、わざわざ尾行なんて真似はしない!! 怪しいことがあるからこそこそと入ってきたんだ!」
二人に加担していた。見える場所にあった村へ、同じ入口から入っただけなのに、女性は尾行だと受け取ったのだ。
宥めて話しをしたい修は考える。ここまで怒っているのなら、否定したら逆効果になるかもしれない。
「尾行をしたのは謝ります。ですが――」
だが燃え盛る炎に、グラス一杯の水をかけたところで、鎮まるはずもなかった。
「うるさい!」「寄るな!」「触るな!」「口を開くな!」「こっちを見るな!」「今すぐここから出ていけぇ!」
三人は思い思いの暴言をぶつけると、家へと入っていった。暴風が駆け抜けていったような感覚を覚え、呆気にとられる修。誰が何を言ったのかさえも、修はわからなかった。
「強烈……」遠目に見ていたコルオが言う。
修は近くに別の村人を見つけ、情報を聞き出そうとしたが「来るな、災いめ! お前には何一つ渡さん!」と返され、家に入られてしまった。
「こりゃ確定だね。むしろ、仮面であって欲しいくらい」
コルオの言う通り、この村にエモ・コーブルがあると見ていいだろう。閉鎖的な田舎の特徴と片付けるには、あまりにも……
情報収集どころじゃないと思っていると、奥で誰かが話しているのが見えた。修が男の後ろ姿を見て、目を細める。
「番犬のように住民が吠えていると思ったら、お前達か」
聞き覚えのある声とともに、背中に大剣を差した男が振り向く。
コルオが「げっ」と嫌な顔をし、修は静かにリオン・サーガを出す。
「ロイク……」
「知り合いですか?」
ロイクと話していた男性が、修達に目を向ける。
土で汚れた灰色のシャツと、短く切り揃えられた黒い髪と無精髭。農業で培われたであろう筋肉は、服の上からでもわかるほどだった。
「そんなところだ。仲良くもないがな」
「フレットと申します」
彼の名は『フレット・シーゲル』この町に住む青年だ。頭を下げて名乗る姿を見て、自己紹介を返す修達。ロイクはともかく、フレットからは悪い感じがしなかった。
「ひどい村でしょう? 少し前はこんなんじゃなかった。同じ村人同士力を合わせ、農業に勤しんできた」
フレットが見つめる先には、荒れ果てた土壌。
「今じゃ作業をするどころか、互いに疑い合い、言いがかりをつけ、人のせいにするばかり」
「その原因はおそらく……」
答えを知っているフレットが、修の語尾に言葉を重ねる。
「仮面、ですよね。こちらの方から聞きました。仮面の持ち主を見つけて止めなければ、いずれは私もおかしくなってしまうと」
「他にまだまともな人とかいる?」
「はい。といってもあと一人だけですが……」
フレットがコルオの問に答えた後、修がこう重ねた。
「仮面は必ず見つけ出します。俺達に任せてください」
直後、修の頭に水滴が垂れる。空を見上げると、わずかに雨が降り出していた。
「シューさんに、コルオさんでしたよね。もし良かったら、今日は私の家に泊まっていってください。決して広くはありませんが、お二人程度ならなんとか……」
二人? ここに居るのは修とコルオ、ロイクの三人のはず。そう思っていると、ロイクがその答えを口にした。
「俺は空き家を使わせてもらう。いつ人間不信になるか分からぬ奴とは、一緒に寝られん」
ロイクはそう言い残して去っていった。
「感じ悪っ」
実にロイクらしい態度に毒づくコルオ。修も相変わらずだと思いながら、少しだけ眉間に皺を寄せた。
「お気遣いありがとうございます。早速調査してきます」
修はもう一度だけ空を見ると、手がかりを探し始めた。
小さい村のおかげで簡単に一周こそできたが、有力な情報は無し。
外を歩く住民には、目が合っただけで散々言われた。家を尋ねれば、扉を叩いただけで罵倒された。誰が来たか見えていなのにも関わらずにだ。
修達だけを罵倒しているのではない。この村の住民は、自分以外の人間全てに強い言葉を浴びせているのだ。
これ以上はどうしようもないと思った修は、本降りになった雨に打たれないよう、フレットの家へ戻った。
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まともに会話ができる。それがメオルブたる証拠。ゴーダンに否定された考え方は、まだ修の中に微かに残っている。
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