夜明けのカディ

蒼社長

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第3章

3.CVの長

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「この町を出るって? まだ来たばっかりだよ?」

 牢屋を出て少し歩いたところで、ルルカが聞く。

「ここはつまらねぇ。とっととアヤリスに向かうぞ」

 支配に苦しむ者や、復讐に燃える者が居ない平和な町は、カディやレルファにとって退屈でしかない。

 力も、薬も、この町には足りている。まだ興味があるのはルルカだけだ。

「SOが知りたいんだったら、アヤリスの方がいいんじゃない? 下っ端だけじゃなくて、上の人も集まると思うし」

「残りたいなら好きにしろ。待つつもりはねぇが、止めるつもりもない」

「……ううん。行く」

 スレッドの意見ももっともだと思ったルルカは、一緒に出ることにした。

 ルルカが三人に追いつこうと足を早めたところで、またも躓く。スレッドはその体をしっかりと受け止め「決まりだね」と口にした。

「ルルカさんは、ちょっと押しに弱いですね。流されやすいと言いますか……」

「そうなのか?」

「一応同行者なんですから、もう少し興味持ちましょうよ。スレッドさんのこと笑えませんよ?」
 言われて少しルルカのことを考える。出てきた印象は一つ。よくつまづく……のみだった。

 

「まったく、いきなり武力行使とは関心しないな」

 ルービアを出ると、何人かの男達と、地面に倒れるSO隊員達が見えた。

「牢屋に居たのは副官。トップの護衛です。彼が居るならば……」

 レルファが歩きながらつぶやく。カディやスレッドはむしろ見慣れた光景だと思って通り過ぎようとするが、後ろから声が聞こえた。

「じぇ、ジュラウド様! お助けください! そいつらし、CVです!」

 応援に駆けつけた隊員が、カディに助けを求める。それに沸き立ったのはやられたSO隊員ではなく……

「ジュラウドってことは、あいつがシュナイル……最低のゼガンっ!」

「ジュラウド」の噂を知る男達の方だった。SO隊員は、カディと名前を読んだわけではない。しかし、CV達は人相の悪いカディへと向かっていく。

「おいおい、待ちなさい」

 リーダー格らしき男がやんわりと言うが、CVは止まらない。

「あの腐れ野郎が」前任者の悪評のせいで狙われたカディは、その苛つきを拳でぶつけた。

「す、すごい……」

 隊員がそうつぶやく。加勢しようと握った銃剣だったが、もう標的はいなかった。

「シュナイルじゃないと言いたかったのだが……もう終わってしまったか」

 カディの拳に倒れた三人の部下を見て、男は息を吐く。そしてカディに目を向け「粗暴なところはとんとんか」と口にした。

「部下が無礼をした。命までは勘弁してやってくれ」

 男が赤い目の片方を閉じながら、軽く手を上げた。同じく赤のオールバックで、威厳のある顔つきにしては、あまりにも軽い動作だった。

 前垂れのある緑の拳法着のような衣装に身を包み、紫色のズボンを履く男は、ゆっくりと名乗った。

「私はシーベル・リボリア。CVの総帥」

「この人が……CVのトップ」

 まじまじと見つめるルルカと、少しだけ興味が湧くカディ。

 話に聞く反SO組織の長。いつか会えれば良い程度の感じで旅をしていたが、こんなところで会えるとは思わなかった。

「捕まった部下でも助けに来たの?」

「それはもう別の部下が向かってる。私はここで帰りを待つだけだ」

「何やってるんですかジュラウド様! CVのボスですよ! 捕らえないんですか!?」

 カディの返事を待つこと無く、SOの隊員が銃剣を抱えて向かっていく。

 相手は大物。捕まえれば出世。嫌でも浮かんでくる欲望が、隊員を舞い上がらせる。

「やれやれ、会話もせずに向かってくるか」

 まっすぐ振り下ろされた銃剣をかわす。シーベルは更に文句を言いたかったが、「先に話も聞かずに突っ込んでいった部下」の姿を見て飲み込んだ。

「お互い、部下の教育がなっていないなソル」

 シーベルはそれだけ言うと、隊員の首に手刀を当て、気絶させた。
「すごい……葉っぱみたいな動きかと思ったら、急に早く動いた」
 攻撃が見えていなかったルルカが素直な感想を漏らす。カディはシーベルの動きよりも、あの程度の手刀が見えなかったルルカに少し驚いていた。

「さて、新たなジュラウド。邪魔者は消えたが、私も同じことを思っていた」

 SO隊員が邪魔にならないよう、シーベルは端に寄せる。ジュラウド……第五位のメダルを持つ者はコロコロ変わる。悪名高かったシュナイルでさえ、3ヶ月程度しかゼガンで居られなかった。

「SOの愚行を良しとしない我らCV。その長の私がここに居るのに、ゼガンである君は何もしないのか?」

「興味ねぇな」

 邪魔をしてくるのならばともかく、同じSO嫌いをどうこうする気はない。メダルを手に入れたのは、あくまでSOのトップへ近づくため。

「ほう……」面倒事を避け、とっとと進むためにそう返したのだが、シーベルは逆に興味を持ってしまった。人がコロコロ変わる階級だからこそ、どういう人間かも見極めたくなる。

「坊や。私と手合わせしないか? 拳を交えれば分かることもある」

 歩き出そうとしたカディは、ゆっくりとシーベルに目を向けた。

「……勝てば、もう行って良いんだな?」

 不機嫌さを隠すことなく、表情と言葉に乗せるカディ。

 入り口で絡まれ、期待外れの副官に出会い、シュナイルのせいで殴りかかられ、変なじいさんに絡まれる。平和で退屈なこんな町。とっとと離れたいのに、邪魔ばかり入る。

 あまり気の長くないカディは、いい加減面倒になっていた。

「いいぜ。相手してやるよ」
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