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第3章
1.対極の混沌
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目的地である『アヤリス』に最も近い街『ルービア』に立ち寄ったカディ達。誰にも支配されていない町は人通りもあり、活気に満ちていた。
「いい街だね」スレッドが口にする。
往来を通るのはSOの兵隊。彼らが日夜目を光らせているおかげで、ここの秩序は保たれている。
ルルカは初めて見る平和な町を見て、わずかに心を踊らせていた。SO隊員を見て少しだけ顔を曇らせているのは、数日前に会ったマイトがちらつくため。
その隣を歩くのは、またも上機嫌なレルファ。カディは真顔のまま、ほんの少しだけ早く歩いている。
「今日のレルファはいつもより笑顔だね」
「だって、良いものが見れましたから」
それはこの町を入る際、入り口のSOにカディが絡まれた時のこと。
「怪しい」「マントの中を見せろ」と散々言われたカディは、通行証のようにメダルを見せ、誤解を解いた。
さっきまで強気だった隊員達は急に謝り、敬語を使い始めた。
威嚇してきた狼を、安らいだ飼い犬のように大人しくさせたメダル。力の象徴を見たレルファは、気分が高揚していたのだ。
「いった!」不意に、誰かが苦痛の声を漏らした。どうやら女性が転倒したらしく、買い物袋の中身が地面へと転がった。
「大丈夫ですか?」
すかさず声をかけたのは、SOの隊員三人。治安組織らしく、その行動は迅速だった。
二人は転がった果物や野菜を回収し、最後の一人は怪我の具合を確認し、応急処置を済ませた。
「あ、ありがとうございます」
拍手が起こるほどの素晴らしい対応。それはSOという組織とこの町、両方の特徴を表していた。
「これが……本当のSO」
自分が信じたかったものを見れたルルカは、少しだけ揺らいでいた。完全に信じきれないのは、マイトという前例があったため。
でも……もしあれが本当の姿なら……
平和な町と理想の組織がここにある。この場所こそが自分がたどり着きたかった場所……
ルルカと違い、多くの人間を見てきたカディやレルファは、特に何も思わなかった。組織の評価など、たかが数人の隊員程度では変わらない。
清水の中にも汚れは生まれる。汚水の中でも、清く育つ魚も居る。
「あ、レルファさん。こんなところで奇遇ですね」
隊員が頭を下げたのを見て、笑顔で手を振るレルファ。次に怪訝そうな顔をするSO隊員に、カディを紹介した。
「ジュラウド様。お耳に入れていただきたい報せが」
無礼を詫び、早速手のひらを返した隊員が、カディに声をかける。
「なんて言った?」
聞き慣れない言い回しが分からず、質問を返すカディ。それを聞いたレルファが「伝えたいことがあるそうです」と噛み砕いた。
「ルービア付近にて、憎きCVの副官を確保いたしました。つきましてはゼガンであるジュラウド様のご判断を仰ぎたいと」
「CVの幹部を捕まえたからなんとかしてほしいってさ」
興味を持ったのか、今度はスレッドが翻訳する。
セルティス・オーダは治安組織として認知されているが、一部では行き過ぎた裁きや理不尽な逮捕なども問題になっている。当然、それを嫌う者も多く、それらが集まって出来たのが反SO組織『Chaos Vail(ケイオス ヴァイル)』。通称CVだ。
「噂には聞いてたけど、本当に居たなんて……」
ルルカからすれば、SOを邪魔する存在。あまり良い感情は湧かない。
「僕達は何回か会ったことあるよ。でも、SOよりは絡まれなかったかな」
「案内しろ」その副官とやらに興味を持ったカディは、SO隊員についていった。
数日前、別の町で寝床に使っていた地下牢。当時と違うのは、自分の立場。かつてのそれとは真逆で、捕まえた人間を裁く側に立っていた。
「綺麗だね」
スレッドが口にしたのは、牢屋に向けるものとしては、少しズレた感想だった。普通なら指摘するカディも、今回は同じことを思っている。
人を閉じ込めておく場所にしてはあまりにも綺麗すぎる上、使われた形跡もない。
牢屋が長らく使われていないのは、治安が良いからか。それとも……
「こちらです」
案内された牢屋に立っていたのは、構えを取る青年。金色のツンツンした髪型に、黒い服に黄色い線が入った服を身にまとっていた。
「また詰問ですか!? 何を言われようが俺は答えねぇって再三申し上げたはずですがねぇ!」
牢屋越しであるのにも関わらず、男は構えを解かない。それは、例え牢屋の中にいようとも、徹底的に抵抗するという覚悟の現れだった。
男は隊員からカディへ目を向けると、拳を向けた。
「強面マントマンを連れてきたって、俺は喋らねぇですぜ! 男『テリーラ・アム』仲間とボスの居場所は絶対に教えねぇ!」
ヘッドギアをつけた頭を左右に揺らしながら、男はそう口にする、カディはまだ何も言ってなかったが、男はいきなり名乗ってきた。
「我々では手に余ると判断し、ゼガンの指示を仰ぎたく……」
「レルファ。あの人はなんで空気を殴ってるの?」
テリーラはシャドウボクシングのように、左右に揺れながら拳を振るっている。同じ構えを取るスレッドに、レルファはこう答えた。
「運動……もしくは威嚇でしょう」
「さぁどうするSOの方達! 俺は何をされても喋る気はない! 尋問なら何を聞かれても好きな食べ物しか言いませんし、拷問なら情報の代わりに血反吐を吐いておっ死んでやりますわ!」
「好きな食べ物は?」
気になったことをそのままぶつけるスレッド。テリーラは構えを続けながらも答えてくれた。
「ワーガシです! どっかで食べたモミジマンジュウを食べて以来すっかり虜ですわ! 食通のリーダーを持って俺は幸せです!」
「仲間の居場所は?」
隊員がすかさず質問を挟んだが、テリーラは「言えん」と返した。
「いい街だね」スレッドが口にする。
往来を通るのはSOの兵隊。彼らが日夜目を光らせているおかげで、ここの秩序は保たれている。
ルルカは初めて見る平和な町を見て、わずかに心を踊らせていた。SO隊員を見て少しだけ顔を曇らせているのは、数日前に会ったマイトがちらつくため。
その隣を歩くのは、またも上機嫌なレルファ。カディは真顔のまま、ほんの少しだけ早く歩いている。
「今日のレルファはいつもより笑顔だね」
「だって、良いものが見れましたから」
それはこの町を入る際、入り口のSOにカディが絡まれた時のこと。
「怪しい」「マントの中を見せろ」と散々言われたカディは、通行証のようにメダルを見せ、誤解を解いた。
さっきまで強気だった隊員達は急に謝り、敬語を使い始めた。
威嚇してきた狼を、安らいだ飼い犬のように大人しくさせたメダル。力の象徴を見たレルファは、気分が高揚していたのだ。
「いった!」不意に、誰かが苦痛の声を漏らした。どうやら女性が転倒したらしく、買い物袋の中身が地面へと転がった。
「大丈夫ですか?」
すかさず声をかけたのは、SOの隊員三人。治安組織らしく、その行動は迅速だった。
二人は転がった果物や野菜を回収し、最後の一人は怪我の具合を確認し、応急処置を済ませた。
「あ、ありがとうございます」
拍手が起こるほどの素晴らしい対応。それはSOという組織とこの町、両方の特徴を表していた。
「これが……本当のSO」
自分が信じたかったものを見れたルルカは、少しだけ揺らいでいた。完全に信じきれないのは、マイトという前例があったため。
でも……もしあれが本当の姿なら……
平和な町と理想の組織がここにある。この場所こそが自分がたどり着きたかった場所……
ルルカと違い、多くの人間を見てきたカディやレルファは、特に何も思わなかった。組織の評価など、たかが数人の隊員程度では変わらない。
清水の中にも汚れは生まれる。汚水の中でも、清く育つ魚も居る。
「あ、レルファさん。こんなところで奇遇ですね」
隊員が頭を下げたのを見て、笑顔で手を振るレルファ。次に怪訝そうな顔をするSO隊員に、カディを紹介した。
「ジュラウド様。お耳に入れていただきたい報せが」
無礼を詫び、早速手のひらを返した隊員が、カディに声をかける。
「なんて言った?」
聞き慣れない言い回しが分からず、質問を返すカディ。それを聞いたレルファが「伝えたいことがあるそうです」と噛み砕いた。
「ルービア付近にて、憎きCVの副官を確保いたしました。つきましてはゼガンであるジュラウド様のご判断を仰ぎたいと」
「CVの幹部を捕まえたからなんとかしてほしいってさ」
興味を持ったのか、今度はスレッドが翻訳する。
セルティス・オーダは治安組織として認知されているが、一部では行き過ぎた裁きや理不尽な逮捕なども問題になっている。当然、それを嫌う者も多く、それらが集まって出来たのが反SO組織『Chaos Vail(ケイオス ヴァイル)』。通称CVだ。
「噂には聞いてたけど、本当に居たなんて……」
ルルカからすれば、SOを邪魔する存在。あまり良い感情は湧かない。
「僕達は何回か会ったことあるよ。でも、SOよりは絡まれなかったかな」
「案内しろ」その副官とやらに興味を持ったカディは、SO隊員についていった。
数日前、別の町で寝床に使っていた地下牢。当時と違うのは、自分の立場。かつてのそれとは真逆で、捕まえた人間を裁く側に立っていた。
「綺麗だね」
スレッドが口にしたのは、牢屋に向けるものとしては、少しズレた感想だった。普通なら指摘するカディも、今回は同じことを思っている。
人を閉じ込めておく場所にしてはあまりにも綺麗すぎる上、使われた形跡もない。
牢屋が長らく使われていないのは、治安が良いからか。それとも……
「こちらです」
案内された牢屋に立っていたのは、構えを取る青年。金色のツンツンした髪型に、黒い服に黄色い線が入った服を身にまとっていた。
「また詰問ですか!? 何を言われようが俺は答えねぇって再三申し上げたはずですがねぇ!」
牢屋越しであるのにも関わらず、男は構えを解かない。それは、例え牢屋の中にいようとも、徹底的に抵抗するという覚悟の現れだった。
男は隊員からカディへ目を向けると、拳を向けた。
「強面マントマンを連れてきたって、俺は喋らねぇですぜ! 男『テリーラ・アム』仲間とボスの居場所は絶対に教えねぇ!」
ヘッドギアをつけた頭を左右に揺らしながら、男はそう口にする、カディはまだ何も言ってなかったが、男はいきなり名乗ってきた。
「我々では手に余ると判断し、ゼガンの指示を仰ぎたく……」
「レルファ。あの人はなんで空気を殴ってるの?」
テリーラはシャドウボクシングのように、左右に揺れながら拳を振るっている。同じ構えを取るスレッドに、レルファはこう答えた。
「運動……もしくは威嚇でしょう」
「さぁどうするSOの方達! 俺は何をされても喋る気はない! 尋問なら何を聞かれても好きな食べ物しか言いませんし、拷問なら情報の代わりに血反吐を吐いておっ死んでやりますわ!」
「好きな食べ物は?」
気になったことをそのままぶつけるスレッド。テリーラは構えを続けながらも答えてくれた。
「ワーガシです! どっかで食べたモミジマンジュウを食べて以来すっかり虜ですわ! 食通のリーダーを持って俺は幸せです!」
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