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第2章
8.鎮まった炎
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「どんな気分だ?」
「わからねぇ。スッとしたかもしれねぇし、なんか重いもんがのしかかってる気もする。でもよ、ずっとくすぶっていた黒いもんは消えた。それだけは確かだ」
そうかと剣を拾うカディ。聞きたかった答えはひどく曖昧で、一番聞き慣れたものだった。
すぐに気分が晴れるものでもない。より悲しくなる人間や、怒りが治まらない人間だって居た。
「その……報酬は?」
「復讐した奴の気持ちを聞く。それが報酬だ」
「マイトさん!!」
そう言った直後、ルルカの声が聞こえた。
動かないマイトに駆け寄り、その体を揺する。一番マイトを知らない者が、誰よりも心配していた。
「どうして……ここまでしなきゃ駄目だったの……?」
「そうだ」
「こんなの間違って……おかしいよ……マイトさんはこの町を……」
「何をしようが、過去の罪は消えない」
追い打ちのようなカディの言葉に、ルルカは怒りを向ける。
「……消えないなら殺していいの? 償う機会を……この町を救うって目的を踏みにじってまで」
ルルカがカディに目をやる。怒りと失望が混ざった顔だ。
「そうしなければ、生きれないやつも居る」
「マイトさんは! 死ぬような人間じゃ――」
「本当にそう思いますか?」
ルルカの言葉を遮ったのは、レルファだった。
「大声で喋っているものですから、外まで聞こえてきちゃいました」
「でっかい穴も空いてるしね」
カディが開けた穴から入ってきたのは、レルファとスレッドだった。
「スレッドさん、その人をこちらに。投げようとしないでください。一応怪我人ですので」
スレッドは引きずってきた部下を持ち上げたが、レルファに言われてゆっくりと床に置いた。
「傷が痛むところ申し訳ございません。もう一度だけでいいので、お話してくれませんか? あなたの隊長が、本当はどんな人間だったのか」
目にハートが浮かんでいても不思議ではないほど魅了されていた部下は、「喜んで!」と口にし、マイトの本性を暴露した。
マイトは過去の罪を一切悔いていないこと。この町を立て直すのは自分のためで、住人の事なんか何も考えていないこと。普段の話し方はただの演技で、早く偉くなるためにやっていたことを。
「嘘……」
真実を知ったルルカが、力なくへたり込む。良いSOもちゃんと居ると信じかけたところでの、この本性。すぐに飲み込めるものではない。
「カディは知ってたの? なら、教えてくれたって……」
思考もまとまらないまま、ルルカは言葉を吐き出す。
「悪い人だったら、復讐を許した?」
聞き返したのはスレッドだった。ルルカは言葉に詰まり、なぜそんなことを言ったのかとさえ考えた。
「俺は気に入らねぇ奴に力は貸さねぇ。だが、力を貸した奴の標的がどんな奴だろうと関係ねぇ。善人だろうが悪人だろうが、必ず火を消させる」
スレッドの問いにも、カディの言葉にも、ルルカは何も言い返せなかった。
「変わったやつだな」シャコウのつぶやきを聞き、またもスレッドが答える。
「ははは、よく言われるよ」それを聞いたシャコウは「お前じゃなくて」と返した。
「世話になったな。カディさん」
町の出口にて、シャコウが言う。眉間の皺が消え去った顔は、どこか穏やかだった。
「最後に聞いていいか? 何で復讐の気持ちを聞いたんだ?」
「知りたかったんだ。「先に」復讐や反逆した奴の気持ちを」
薄々わかっていた答えを聞いたシャコウは、特に表情を変えることなく、そうかと返した。
「元気でな」
最後にシャコウはそう言い、カディ達と別れた。復讐の成功を願うようなことは、あえて言わなかった。
「カディも……誰かに復讐するつもりなの?」
目を見ずに聞くルルカと「そうだ」と返すカディ。
「その人の命を奪うの?」「そうだ」
「そんなの……良くないよ。どんな理由があったって……人の命を奪うなんて」
カディは答えなかった。良くないと理解することと、それを行うことは矛盾しない。
自分でもわかり切っている上、何度か言われてきたことだ。今更反論する気も起きない。
「綺麗事を言っても無駄ですよ。そんな言葉で止まるなら、ここにカディさんは居ません」
無視を決め込んだカディの代わりに答えたのは、レルファだった。
少し納得の行かないルルカは「でも……」と口にする。
「よく知りもせず、自分が思いつき、たどり着いた答えではなく、教科書通りの善悪でしかものを語れないあなたでは、ここに居る誰をも説き伏せることはできません」
レルファはしばらく返事を待ったあと、ゆっくりそう口にした。
自分の心に染み込んでいない、ただの一般論を展開するルルカは、カディを知り、自分の意見を口にするレルファには勝てなかった。
「ところで、何でお前がいるんだ」
「同じ道なだけですよ。せっかくなんで守ってください」
「お前に護衛がいるかよ」
「落ち込んでるねルルカ」
俯いているルルカを見たスレッドが、隣を歩く。ルルカはスレッドに目を向けることはなかったが、こう話しかけた。
「……やっぱり、復讐なんて」
「君は、復讐が悪いことだって言うんだね?」
「スレッドはそう思わないの?」
「別に。それに、僕やルルカが悪いって思っていても、カディや本人には関係ないよ。良いか悪いかの問題じゃないもの」
ルルカのように下を向きながら、スレッドは続ける。
「そうしなきゃ前に進めないから、その方法を取るんだって。カディは言ってたよ」
「前に……進めない?」
「歩けるし、生活もできるんだけど、前に進めないんだってさ」
スレッドはカディの傍らで、復讐できない痛みに苦しむ者や、理不尽へ抗おうとした者達を見てきた。目的を成し遂げた者の顔は、それぞれ違っていた。笑う者、泣く者、より怒る者。
行為や目的はほぼ同じなのに、終わった後の表情が全然違う。それがスレッドには理解できなかった。
「でも、ルルカならきっと理解できると思う。だから、色々見て、知って、自分の答えを見つけて、もう一度ぶつかってみればいい」
スレッドはカディからの受け売りではなく、自分の意見を口にした。
「スレッド……」
「そうすればレルファも負けを認めて、心変わりして、泣きながら薬を出してくれるよ」
それを聞いて、ルルカは少しだけ笑った。
「その日が楽しみですね」
「お前が心変わりを?」
「カディさんが誰かを頼るよりかは、あり得ると思いますけど」
「わからねぇ。スッとしたかもしれねぇし、なんか重いもんがのしかかってる気もする。でもよ、ずっとくすぶっていた黒いもんは消えた。それだけは確かだ」
そうかと剣を拾うカディ。聞きたかった答えはひどく曖昧で、一番聞き慣れたものだった。
すぐに気分が晴れるものでもない。より悲しくなる人間や、怒りが治まらない人間だって居た。
「その……報酬は?」
「復讐した奴の気持ちを聞く。それが報酬だ」
「マイトさん!!」
そう言った直後、ルルカの声が聞こえた。
動かないマイトに駆け寄り、その体を揺する。一番マイトを知らない者が、誰よりも心配していた。
「どうして……ここまでしなきゃ駄目だったの……?」
「そうだ」
「こんなの間違って……おかしいよ……マイトさんはこの町を……」
「何をしようが、過去の罪は消えない」
追い打ちのようなカディの言葉に、ルルカは怒りを向ける。
「……消えないなら殺していいの? 償う機会を……この町を救うって目的を踏みにじってまで」
ルルカがカディに目をやる。怒りと失望が混ざった顔だ。
「そうしなければ、生きれないやつも居る」
「マイトさんは! 死ぬような人間じゃ――」
「本当にそう思いますか?」
ルルカの言葉を遮ったのは、レルファだった。
「大声で喋っているものですから、外まで聞こえてきちゃいました」
「でっかい穴も空いてるしね」
カディが開けた穴から入ってきたのは、レルファとスレッドだった。
「スレッドさん、その人をこちらに。投げようとしないでください。一応怪我人ですので」
スレッドは引きずってきた部下を持ち上げたが、レルファに言われてゆっくりと床に置いた。
「傷が痛むところ申し訳ございません。もう一度だけでいいので、お話してくれませんか? あなたの隊長が、本当はどんな人間だったのか」
目にハートが浮かんでいても不思議ではないほど魅了されていた部下は、「喜んで!」と口にし、マイトの本性を暴露した。
マイトは過去の罪を一切悔いていないこと。この町を立て直すのは自分のためで、住人の事なんか何も考えていないこと。普段の話し方はただの演技で、早く偉くなるためにやっていたことを。
「嘘……」
真実を知ったルルカが、力なくへたり込む。良いSOもちゃんと居ると信じかけたところでの、この本性。すぐに飲み込めるものではない。
「カディは知ってたの? なら、教えてくれたって……」
思考もまとまらないまま、ルルカは言葉を吐き出す。
「悪い人だったら、復讐を許した?」
聞き返したのはスレッドだった。ルルカは言葉に詰まり、なぜそんなことを言ったのかとさえ考えた。
「俺は気に入らねぇ奴に力は貸さねぇ。だが、力を貸した奴の標的がどんな奴だろうと関係ねぇ。善人だろうが悪人だろうが、必ず火を消させる」
スレッドの問いにも、カディの言葉にも、ルルカは何も言い返せなかった。
「変わったやつだな」シャコウのつぶやきを聞き、またもスレッドが答える。
「ははは、よく言われるよ」それを聞いたシャコウは「お前じゃなくて」と返した。
「世話になったな。カディさん」
町の出口にて、シャコウが言う。眉間の皺が消え去った顔は、どこか穏やかだった。
「最後に聞いていいか? 何で復讐の気持ちを聞いたんだ?」
「知りたかったんだ。「先に」復讐や反逆した奴の気持ちを」
薄々わかっていた答えを聞いたシャコウは、特に表情を変えることなく、そうかと返した。
「元気でな」
最後にシャコウはそう言い、カディ達と別れた。復讐の成功を願うようなことは、あえて言わなかった。
「カディも……誰かに復讐するつもりなの?」
目を見ずに聞くルルカと「そうだ」と返すカディ。
「その人の命を奪うの?」「そうだ」
「そんなの……良くないよ。どんな理由があったって……人の命を奪うなんて」
カディは答えなかった。良くないと理解することと、それを行うことは矛盾しない。
自分でもわかり切っている上、何度か言われてきたことだ。今更反論する気も起きない。
「綺麗事を言っても無駄ですよ。そんな言葉で止まるなら、ここにカディさんは居ません」
無視を決め込んだカディの代わりに答えたのは、レルファだった。
少し納得の行かないルルカは「でも……」と口にする。
「よく知りもせず、自分が思いつき、たどり着いた答えではなく、教科書通りの善悪でしかものを語れないあなたでは、ここに居る誰をも説き伏せることはできません」
レルファはしばらく返事を待ったあと、ゆっくりそう口にした。
自分の心に染み込んでいない、ただの一般論を展開するルルカは、カディを知り、自分の意見を口にするレルファには勝てなかった。
「ところで、何でお前がいるんだ」
「同じ道なだけですよ。せっかくなんで守ってください」
「お前に護衛がいるかよ」
「落ち込んでるねルルカ」
俯いているルルカを見たスレッドが、隣を歩く。ルルカはスレッドに目を向けることはなかったが、こう話しかけた。
「……やっぱり、復讐なんて」
「君は、復讐が悪いことだって言うんだね?」
「スレッドはそう思わないの?」
「別に。それに、僕やルルカが悪いって思っていても、カディや本人には関係ないよ。良いか悪いかの問題じゃないもの」
ルルカのように下を向きながら、スレッドは続ける。
「そうしなきゃ前に進めないから、その方法を取るんだって。カディは言ってたよ」
「前に……進めない?」
「歩けるし、生活もできるんだけど、前に進めないんだってさ」
スレッドはカディの傍らで、復讐できない痛みに苦しむ者や、理不尽へ抗おうとした者達を見てきた。目的を成し遂げた者の顔は、それぞれ違っていた。笑う者、泣く者、より怒る者。
行為や目的はほぼ同じなのに、終わった後の表情が全然違う。それがスレッドには理解できなかった。
「でも、ルルカならきっと理解できると思う。だから、色々見て、知って、自分の答えを見つけて、もう一度ぶつかってみればいい」
スレッドはカディからの受け売りではなく、自分の意見を口にした。
「スレッド……」
「そうすればレルファも負けを認めて、心変わりして、泣きながら薬を出してくれるよ」
それを聞いて、ルルカは少しだけ笑った。
「その日が楽しみですね」
「お前が心変わりを?」
「カディさんが誰かを頼るよりかは、あり得ると思いますけど」
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