夜明けのカディ

蒼セツ

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第2章

4.俺が力を貸してやる

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「お前、あいつに恨みがあるんだろ」

「なんで分かる?」シャコウはカディに促され、話し始めた。

「あいつは昔、兄貴のロニーと、その幼馴染ファイの三人でいつも仲良くしていた。どんな時も一緒で、俺はそんな三人を見るのは羨ましくて、楽しかった」

 下を向くシャコウの目に浮かぶのは、地面ではなく、はるか昔の淡い思い出。色褪せず、綺麗なままで、胸が苦しくなる過去。

「永遠に友情は続いていくと思っていた。だが、ある時にあいつは崖から落ちて、意識不明の重体になった。会えない時間が続いて不安になっていた頃、あいつは頭に包帯を巻いて現れた。あいつは助かり、また穏やかに過ごせると思った。だけど、あいつは見る影もないくらい別人になっちまった」

 わずかに歯を食いしばり、眉間の皺が寄る。言わば、ここからが本番だ。

「犯罪なんてやらなかったのに、盗みに入って多くの金品を集めだした。今のあいつが成敗している賊どもとおんなじことをしていた。盗み、放火。喧嘩。親友の……それも弟である俺が白い目で見られるくらいには、あいつは悪だった」

 今の姿からは想像もできない過去を聞き、ルルカがわずかに驚く。

「ロニーとファイは諦めずに説得を続けたが、ただの罪人になったあいつにまともな言葉は通じない。堕ちたマイトにとって、二人は親友ではなく、目の前をしつこく飛び回る鬱陶しい虫になっていた」

 シャコウの体が震える。その後に吐き出されたのは、ほとんどが予想していた言葉。

「あいつは自分を信じ、止めようとしてくれた二人の命を奪った。親友と幼馴染をためらいなく殺したんだ」

 一番嫌な思い出を口にしたシャコウの顔は、怒りと哀しみに満ちていた。

「そんなことが……あのマイトさんがそんなこと……」

 唯一マイトを良く思っていたルルカが、そう口にする。

「あいつはその後金品全てを手放し、SOに入った。更生し、今はまっとうに生きているなんて言ったやつも居る」

「ふざけんじゃねぇ!」シャコウの握りしめた拳から血が垂れる。

「あいつは自分の罪を悔い改めてSOに入ったんじゃねぇ! 自分のした罪を隠して尻尾を振って、SOに守ってもらおうとしてるだけだ!」

「SOってのは過去の経歴は問わないのか?」

「言わなければバレないんじゃない?」

 カディの疑問に答えたのはスレッド。微妙に答えになっていないが、妙に納得してしまった。

「俺は復讐を決意した。周りはやめろと言ってきたよ。マイトは過去のことを悔いているはずだ。正義に目覚めたんだから許してあげてとな。SOってだけでみんな止めてきやがった。いいところに入ったからって、今までのことがなくなるはずねぇのによ」

「カディのメダルじゃなくてイヴォルブを欲しがったのも、復讐のため?」

「そうだ。縄を解いてみろ。すぐにでもお前をぶっ飛ばしてやる」

 シャコウは今度は目を逸らさず、しっかりとカディを睨んだ。それを虫の威嚇程度にしか感じていないカディは「いつの話だ?」と気にせず聞いた。シャコウは答えるのを渋っていたが……

「三年前。あいつがSOに入ったのは二年前だ」

 自分の使っていた鉄棒を捻じ曲げているカディを見て、素直に答えた。

「お前はその間、ずっと恨んでいたのか?」

「忘れて生きようとしたが駄目だった。俺がどんなに幸せでも、あいつの今を……正義の味方面してるあいつの活躍を聞いた瞬間、うまい飯も、きれいな光景、穏やかな日々も全部ゴミに見えた」

 同じだ。耐えようと忘れようとしてもそれが出来ず、復讐することを選んだ。

 不規則に、何度でも心を焦がす炎。それを消し去る方法は――おそらく一つ。

「てめぇがあいつの上で、ゼガンだろうと関係ねぇ。俺はあいつを殺す…………邪魔をするならお前だって……」

「そうか」

 カディは剣刀を抜くと、驚くシャコウ目掛け、まっすぐ振り下ろした。

 シャコウは思わず目を瞑ったが、痛みは感じなかった。恐る恐る目を開けると、自分を縛っていた縄が斬られていた。

「お前、何を……」

「あいつに復讐したいなら、協力してやる」

「は? なんでお前……が……」

 カディのマントの中を見たシャコウは、驚いて言葉を止めた。そこにあったのは、自分が使っていた棒が霞むほどの、無数の武器。

「好きなのを選べ」

 仇の上司とも言える存在が、部外者である自分を手伝うという状況は、シャコウの頭を混乱させた。

「どういうことだ?」

「カディさんは、復讐したくても出来ない人の味方なんです。消せない憎しみや傷がある人の過去を聞き出し、気に入ったら力を貸す。そういう人なんです」

 レルファの言葉を疑えるはずもない。心から信じているからこそ、シャコウは声を荒らげた。

「SOのゼガンが! 部下を殺そうとしてる奴に力を貸すのかよ!」
「そうだ」

 聞いたシャコウが驚くほど、カディはあっさりと答えた。質の低い第五位とはいえ、目の前に居るのはゼガンだ。自分の組織に痛手を与えるような真似をするなんておかしい。

「お前の気持ちは少し分かる。復讐の炎ってのは、どれだけ甘い時を過ごしても、消えやしねぇ。か弱い火に見えても、ある時、ふとしたことで激しく燃え上がり、今あるものすべてをさえぎって、心を荒らす」

 カディが話したのはあくまで経験談。しかしシャコウは、自分のことを言われたように感じていた。

「だから、武器を渡すって?」

「俺が代わりに行って、お前にそいつの首だけ渡しても満足しねぇだろ。お前の恨みや怒りは、お前だけのもんだ」

「知った風な口を……」武器を眺めるシャコウの言葉に、さっきまでの棘はなかった。

「本当に……武器を貸してくれるんだな?」

「あぁ、俺が力を貸してやる」

「報酬は?」

「終わったら教えてやる。俺も金は取らねぇから安心しろ」

 気分良く二人のやり取りを見ていたれルファは、クスクスと笑った。
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