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第1章
3.タタルドの依頼
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連れてこられたのは、一番大きな屋敷の応接間。明るさよりも見た目を重視したようなゴテゴテのシャンデリアに、きらびやかなソファ。
「ほほう、あなたがウェルの言っていた……。なるほど。確かに力はありそうだ」
求愛行動をする孔雀のように背もたれが広く、金の手すりが日光で反射する豪華な椅子に腰掛けた男が、ゆっくりと振り向く。
『タタルド・ゴーイ』この町の長にして、一番の金持ちだ。
恰幅の良い体を纏う紫色の衣装に、サラサラとした茶色の髪。漂う香水の匂いは、カディの顔を僅かに歪ませた。
「この町は一見平和で安全に見えますが、それでも賊はゼロではありません。特に狙われるのが、この私。金持ちというのはいつの時代も妬まれるものでしてね。私のお金を目当てに、賊が来ることも多い。この間なんか六万シェルもする椅子を狙われましたよ」
シェルとはこの世界『マナヘリア』で流通している貨幣のこと。1シェルは約10円ほど。
「ま、そこはこの優秀な警備隊……主にウェルが処理してくれたので助かりましたよ」
警備隊の形を取っているが、ウェル以外は寄せ集めのならず者だ。多くの問題はウェルが強引に片付けている。
「しかし……金持ちはいつでも狙われるもの。災いが消えれば、新たな災いがまたやってくるものです!」座ったまま体をくねらせながら、タタルドは言う。
「憎むべしはレジオン・ラテス! あいつが私の愛しいプレちゃんに暴行を加えたのでっす!」
「プレちゃんを!」と手を叩くタタルド。言われて運ばれてきたのは、包帯を巻かれたオオトカゲだった。
「この子はプレちゅあん! 私の! 私のたった一人の家族!」
「プレ・チュアン?」「プレちゃん。プレが名前」
スレッドの囁きに、ルルカが返す。タタルドは耳が良いらしく、呼び捨て禁止!とルルカを指さした。
「あのレジオンは人の家に入り込み金品を盗んだだけでは飽き足らず、私の!私のプレちゃんの愛らしいバウディーンを! 蹴り上げたのです!」
またも体をくねらせ、タタルドは天井に向かって叫ぶ。バウディーンとはボディ。つまり、レジオンはオオトカゲの腹を蹴ったのだ。
「なにやってるの?」
不意にルルカがスレッドに目をやる。体をくねらせているのを見て、聞かずにはいられなかった。
「あのお金持ちの人の真似」「なんで?」
「こんなの絶対許せません! プレちゃんは私の家族! 息子なんです! あなたも捕まえるのに協力してくれませんか! 報酬は弾みます! 何ならプレちゃんを一分見る権利と三回撫でる権利もおつけいたします! やっぱ撫でるのはなしです! 変な病気を移されても困りますしな!」
タタルドは椅子から立ち上がり、ドスドスとカディに近づいていく。
ボロクソに言われ、槍を振り回してきたレジオンの印象は最悪だ。次も挑んでくるようなら、背中の槍もへし折ってやろうと思うくらいに。しかし――
「断る」
それでもカディは断った。目の前の金持ちに「力」のあるこいつに、協力したくなかったからだ。
「ぬわぁんですとぉ!?」 意外な返事を聞き、何故か飛び退くタタルド。見た目の割に、なかなかの跳躍力だった。
「断るってさ」「聞こえてたわ!」
レジオンの言葉に、凄まじい剣幕で答えるタタルド。
「じゃあな」
「待ちなさい! まだ話しは終わってません!」
「馬鹿な奴だ。タタルドさんの誘いを蹴るなんてな。俺と戦うって言ってるのと同じだぞ」
背を向けたカディに、タタルドとウェルが声をかける。
「嬉しそうだな」
雇い主とは真逆の感情のウェルが少しだけ気になった。ウェルは慌てて口角を直すと、カディを睨んだ。
「今は見逃してやるが、次会った時は覚えておけ」
ここで暴れて弁償をさせられてもまずいと考えた上での言葉だった。カディは何も言わなかったが、代わりにスレッドが口を開いた。
「君って強いの?」
状況に合わない質問をされながらも、しっかり「当然だ。俺より強い奴はいねぇ」と返すウェル。
「だったら、君が居れば充分なんじゃないの? そのレジオン?って人を探すのなら、人数は充分だし、倒すのなら君がいる。カディを雇う必要なんてないんじゃないかな?」
予想外かつ、意外と的を射た言葉を口にするスレッド。それを止めようとするものはいない。
「君という立派な力があるのに、新しい人を雇おうとした人じゃなくて、何でカディに怒るの? カディは君を見下したわけじゃない。君達じゃ不安で、力不足だと判断したのは、そっちの飼い主じゃないの?」
スレッドの言葉は、この部屋の空気と、タタルド達の間に大きな亀裂を刻み込んだ。空気が代わり、室温が下がったような気がしたルルカは、スレッドの腕を引っ張った。
「じゃあね」
重苦しくなった部屋を後にし、カディ達は屋敷を出た。
「どうしてあんなこと言ったの?」
スレッドの物言いに慣れていないが故に、ルルカが聞く。一方、相棒のカディは辺りを見回していた。入った頃はまるで興味がなかったが、今は何かを探している。
「気になったからさ。カディはなんでさっきメダルを見せなかったの? あれならオオトカゲ達全員黙らせられたんじゃない」
「オオトカゲは一番静かにしてたでしょ」
「あぁ、どこにしまったか忘れてたんだ」
カディは懐にあったメダルをすぐに取り出すと、また同じ場所にしまった。黙らせるのには便利だが、メダルを見て態度を変える人間を見るのは、少し気分が悪かった。
「色々持ち過ぎなんだから、ちゃんとした場所にしまった方が良いよ」
冗談が通じなかったスレッドに対し、カディはそうすると返した。
「ほほう、あなたがウェルの言っていた……。なるほど。確かに力はありそうだ」
求愛行動をする孔雀のように背もたれが広く、金の手すりが日光で反射する豪華な椅子に腰掛けた男が、ゆっくりと振り向く。
『タタルド・ゴーイ』この町の長にして、一番の金持ちだ。
恰幅の良い体を纏う紫色の衣装に、サラサラとした茶色の髪。漂う香水の匂いは、カディの顔を僅かに歪ませた。
「この町は一見平和で安全に見えますが、それでも賊はゼロではありません。特に狙われるのが、この私。金持ちというのはいつの時代も妬まれるものでしてね。私のお金を目当てに、賊が来ることも多い。この間なんか六万シェルもする椅子を狙われましたよ」
シェルとはこの世界『マナヘリア』で流通している貨幣のこと。1シェルは約10円ほど。
「ま、そこはこの優秀な警備隊……主にウェルが処理してくれたので助かりましたよ」
警備隊の形を取っているが、ウェル以外は寄せ集めのならず者だ。多くの問題はウェルが強引に片付けている。
「しかし……金持ちはいつでも狙われるもの。災いが消えれば、新たな災いがまたやってくるものです!」座ったまま体をくねらせながら、タタルドは言う。
「憎むべしはレジオン・ラテス! あいつが私の愛しいプレちゃんに暴行を加えたのでっす!」
「プレちゃんを!」と手を叩くタタルド。言われて運ばれてきたのは、包帯を巻かれたオオトカゲだった。
「この子はプレちゅあん! 私の! 私のたった一人の家族!」
「プレ・チュアン?」「プレちゃん。プレが名前」
スレッドの囁きに、ルルカが返す。タタルドは耳が良いらしく、呼び捨て禁止!とルルカを指さした。
「あのレジオンは人の家に入り込み金品を盗んだだけでは飽き足らず、私の!私のプレちゃんの愛らしいバウディーンを! 蹴り上げたのです!」
またも体をくねらせ、タタルドは天井に向かって叫ぶ。バウディーンとはボディ。つまり、レジオンはオオトカゲの腹を蹴ったのだ。
「なにやってるの?」
不意にルルカがスレッドに目をやる。体をくねらせているのを見て、聞かずにはいられなかった。
「あのお金持ちの人の真似」「なんで?」
「こんなの絶対許せません! プレちゃんは私の家族! 息子なんです! あなたも捕まえるのに協力してくれませんか! 報酬は弾みます! 何ならプレちゃんを一分見る権利と三回撫でる権利もおつけいたします! やっぱ撫でるのはなしです! 変な病気を移されても困りますしな!」
タタルドは椅子から立ち上がり、ドスドスとカディに近づいていく。
ボロクソに言われ、槍を振り回してきたレジオンの印象は最悪だ。次も挑んでくるようなら、背中の槍もへし折ってやろうと思うくらいに。しかし――
「断る」
それでもカディは断った。目の前の金持ちに「力」のあるこいつに、協力したくなかったからだ。
「ぬわぁんですとぉ!?」 意外な返事を聞き、何故か飛び退くタタルド。見た目の割に、なかなかの跳躍力だった。
「断るってさ」「聞こえてたわ!」
レジオンの言葉に、凄まじい剣幕で答えるタタルド。
「じゃあな」
「待ちなさい! まだ話しは終わってません!」
「馬鹿な奴だ。タタルドさんの誘いを蹴るなんてな。俺と戦うって言ってるのと同じだぞ」
背を向けたカディに、タタルドとウェルが声をかける。
「嬉しそうだな」
雇い主とは真逆の感情のウェルが少しだけ気になった。ウェルは慌てて口角を直すと、カディを睨んだ。
「今は見逃してやるが、次会った時は覚えておけ」
ここで暴れて弁償をさせられてもまずいと考えた上での言葉だった。カディは何も言わなかったが、代わりにスレッドが口を開いた。
「君って強いの?」
状況に合わない質問をされながらも、しっかり「当然だ。俺より強い奴はいねぇ」と返すウェル。
「だったら、君が居れば充分なんじゃないの? そのレジオン?って人を探すのなら、人数は充分だし、倒すのなら君がいる。カディを雇う必要なんてないんじゃないかな?」
予想外かつ、意外と的を射た言葉を口にするスレッド。それを止めようとするものはいない。
「君という立派な力があるのに、新しい人を雇おうとした人じゃなくて、何でカディに怒るの? カディは君を見下したわけじゃない。君達じゃ不安で、力不足だと判断したのは、そっちの飼い主じゃないの?」
スレッドの言葉は、この部屋の空気と、タタルド達の間に大きな亀裂を刻み込んだ。空気が代わり、室温が下がったような気がしたルルカは、スレッドの腕を引っ張った。
「じゃあね」
重苦しくなった部屋を後にし、カディ達は屋敷を出た。
「どうしてあんなこと言ったの?」
スレッドの物言いに慣れていないが故に、ルルカが聞く。一方、相棒のカディは辺りを見回していた。入った頃はまるで興味がなかったが、今は何かを探している。
「気になったからさ。カディはなんでさっきメダルを見せなかったの? あれならオオトカゲ達全員黙らせられたんじゃない」
「オオトカゲは一番静かにしてたでしょ」
「あぁ、どこにしまったか忘れてたんだ」
カディは懐にあったメダルをすぐに取り出すと、また同じ場所にしまった。黙らせるのには便利だが、メダルを見て態度を変える人間を見るのは、少し気分が悪かった。
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