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序章
序章1 消せない炎と雨ふる町
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夜を照らすは赤い光。全てを焼く浄化の炎。思い出の詰まった故郷は、正義を掲げる組織によって滅ぼされた。
「やめろ! やめてくれ!」声は届かない。近くに立つ巨大な影は、自分等の成果を……壊し、焼いた町を見下ろしている。
一つ目の故郷との別れは、あまりにも突然で、理不尽だった。家は消え、仲間とも散り散りになった。
故郷を滅ぼされた男はやがて、別の町に流れ着く。良い環境。暖かな人達。第二の故郷のおかげで、男は腐らずにいられた。
しかし、何気ない日常のちょっとした一場面や夢、ふとした拍子になどで、不意にその時を思い出してしまう。過去の傷は心の中にいつまでも居座り続け、決して消えることはなかったのだ。
相棒と出会い、力を得て、背中を押された男は故郷を出た。己の故郷と心を焼いた炎を消し去るために。
雨の振る町『イリソウ』雨音を遮るように、一発の銃声が聞こえる。
「よくねぇなぁそういうのは」
男はそう口にすると、空に向けていた銃を、尻もちをつく青年に向けた。
男の名は『シュナイル・ヨート』治安維持組織『セルティス・オーダ(Sertis Order)』通称SOの幹部だ。
青年を囲む男達はシュナイルの部下で、黄色いレインコートの下に銃を忍ばせている。
「何で俺がいるのに、通報しようと思ったんだ? ん? お?」
「あ、ああああ怪しい奴を捉えたので、SOに付き出そうと思いましててて」
昨日、この町に怪しい男を見かけた。住民達は男を捕らえ、その処分をSOに任せようとした。目の前のシュナイルにではなく、別のSO幹部に。
「俺様に直接言わなかったのはどうしてだぁ? 他の奴らでも呼んで、俺を倒させたかったかぁ?」
治安維持の名目でこの町に居座り、金品や食物を奪う盗賊、支配者まがいの男がそう口にする。
「違います! 断じてそのようなことは!」
黙らせるように、シュナイルは近くの地面を撃ち抜いた。
「あんまよくないよ。そういうの。いいの? 俺『ゼガン』だよ? 選ばれた強者なの。わかる?」
シュナイルが見せたのは、一枚のメダル。ゼガンとはメダルを持つ強者のこと。第一位から五位まで存在し、全員がSOに所属している。
「俺がSOにこの町はやばいですって言えば、この町はもれなく消し炭になる。いいのかなぁ?」
良くも悪くも、メダルは力を持つ者の証だ。例え持つ本人の心が腐っていようが、それに見合う力がなかろうが関係ない。
第五位のメダルを持つシュナイルは、前任者を闇討ちし、そのメダルを奪った。表向きは組織に忠実なふりを演じ、裏では権力を振りかざす。治安組織の汚物とも言える存在だ。
震える青年に気分を良くし、シュナイルは続ける。
「俺の機嫌を損ねて一気に消えるか、俺を気持ちよくさせて「平和」を保つか、どっちが良いか考えな」
シュナイルが青年に銃を向ける。すぐに「ごめんなさい」や「もうしません」といった言葉が聞こえてくる。シュナイルは顔を歪めながらこう続けた。
「風穴とにらめっこしながらゆっくりとな」
三度目の銃声が僅かに響いた。
「嫌な夢だ」
イリソウのある地下牢で一人の男が目を覚ます。彼の名は『カディ・ブレイム』消えぬ傷と炎を宿す男だ。
ボサボサの紺色の髪に切れ長の目。薄紅の服を身にまとう男は、牢屋のベッドから体を起こした。何度見たか分からない、生まれ故郷が焼かれる夢。遠い過去の出来事は未だ色褪せず、どの記憶よりもこびりついている。
「ようやく目が覚めたか」
看守に「誰だお前」と返し、カディは軽く伸びをする。次に辺りを見回した後、昨日ここで寝たことを思い出した。
「看守代理だ。まったく、怪しい奴を捕まえたと聞いて来てみれば、とんだ危険人物がいたもんだ」
「俺を知ってるのか?」
「知らん。大人しく捕まったのが不思議なくらいだ」
良く知らぬカディを危険と断じたのは、その持ち物が原因だった。牢屋から少し離れた場所には、カディの持ち物である赤い鞘の日本刀と、黒いマントが置かれている。
「ともかく、SOが来るまで大人しくしていろ。然るべき機関に裁いてもらう」
「……世話になったな」カディが鉄格子に触れながら、そう口にする。
「何を言って」
まるで出ていくかのような物言いに違和感を覚えた看守が、言葉を返す。その瞬間、カディが握っていた鉄格子が曲がり始めた。状況が理解できず、看守は固まってしまう。
純粋な腕力だけで鉄格子を捻じ曲げたカディは、黒のマントを身に纏い、腰に刀を差した。
「お、お前……なんで大人しく捕まってたんだ」
カディと目が合った看守が、即座に目を逸らす。牢から出た猛獣を見て、まともでいられる人間などいない。
「宿を探してたんだ。雨風さえしのげりゃどこでも良かった」
牢屋を宿と同列に扱う男は、看守の理解を越えていた。抵抗せずに捕まったのは、牢屋に泊まるため。
「やっぱり危険じゃないか。武器だけじゃない、とんでもない力も持ってる。シュナイルと同じか、それ以上に……」
カディが近づいてくるのを見て、体を丸める看守。護身用の短い棒で立ち向かう気など起きなかった。
「じゃあな」カディはそれだけ言うと、地下牢を出た。昨日から振り続けている雨を見たカディは、面倒そうに息を吐いた。
「まずはあいつを探……」
不意に腹が鳴る。カディははぐれた相棒を探すのは後回しにし、食事を取ることにした。
「今のは……」
初めて来た町故に土地勘がなく、雨で視界も悪い。それらしい店を見つけられないまましばらく歩いていると、雨音に混じって銃声が聞こえてきた。
「やめろ! やめてくれ!」声は届かない。近くに立つ巨大な影は、自分等の成果を……壊し、焼いた町を見下ろしている。
一つ目の故郷との別れは、あまりにも突然で、理不尽だった。家は消え、仲間とも散り散りになった。
故郷を滅ぼされた男はやがて、別の町に流れ着く。良い環境。暖かな人達。第二の故郷のおかげで、男は腐らずにいられた。
しかし、何気ない日常のちょっとした一場面や夢、ふとした拍子になどで、不意にその時を思い出してしまう。過去の傷は心の中にいつまでも居座り続け、決して消えることはなかったのだ。
相棒と出会い、力を得て、背中を押された男は故郷を出た。己の故郷と心を焼いた炎を消し去るために。
雨の振る町『イリソウ』雨音を遮るように、一発の銃声が聞こえる。
「よくねぇなぁそういうのは」
男はそう口にすると、空に向けていた銃を、尻もちをつく青年に向けた。
男の名は『シュナイル・ヨート』治安維持組織『セルティス・オーダ(Sertis Order)』通称SOの幹部だ。
青年を囲む男達はシュナイルの部下で、黄色いレインコートの下に銃を忍ばせている。
「何で俺がいるのに、通報しようと思ったんだ? ん? お?」
「あ、ああああ怪しい奴を捉えたので、SOに付き出そうと思いましててて」
昨日、この町に怪しい男を見かけた。住民達は男を捕らえ、その処分をSOに任せようとした。目の前のシュナイルにではなく、別のSO幹部に。
「俺様に直接言わなかったのはどうしてだぁ? 他の奴らでも呼んで、俺を倒させたかったかぁ?」
治安維持の名目でこの町に居座り、金品や食物を奪う盗賊、支配者まがいの男がそう口にする。
「違います! 断じてそのようなことは!」
黙らせるように、シュナイルは近くの地面を撃ち抜いた。
「あんまよくないよ。そういうの。いいの? 俺『ゼガン』だよ? 選ばれた強者なの。わかる?」
シュナイルが見せたのは、一枚のメダル。ゼガンとはメダルを持つ強者のこと。第一位から五位まで存在し、全員がSOに所属している。
「俺がSOにこの町はやばいですって言えば、この町はもれなく消し炭になる。いいのかなぁ?」
良くも悪くも、メダルは力を持つ者の証だ。例え持つ本人の心が腐っていようが、それに見合う力がなかろうが関係ない。
第五位のメダルを持つシュナイルは、前任者を闇討ちし、そのメダルを奪った。表向きは組織に忠実なふりを演じ、裏では権力を振りかざす。治安組織の汚物とも言える存在だ。
震える青年に気分を良くし、シュナイルは続ける。
「俺の機嫌を損ねて一気に消えるか、俺を気持ちよくさせて「平和」を保つか、どっちが良いか考えな」
シュナイルが青年に銃を向ける。すぐに「ごめんなさい」や「もうしません」といった言葉が聞こえてくる。シュナイルは顔を歪めながらこう続けた。
「風穴とにらめっこしながらゆっくりとな」
三度目の銃声が僅かに響いた。
「嫌な夢だ」
イリソウのある地下牢で一人の男が目を覚ます。彼の名は『カディ・ブレイム』消えぬ傷と炎を宿す男だ。
ボサボサの紺色の髪に切れ長の目。薄紅の服を身にまとう男は、牢屋のベッドから体を起こした。何度見たか分からない、生まれ故郷が焼かれる夢。遠い過去の出来事は未だ色褪せず、どの記憶よりもこびりついている。
「ようやく目が覚めたか」
看守に「誰だお前」と返し、カディは軽く伸びをする。次に辺りを見回した後、昨日ここで寝たことを思い出した。
「看守代理だ。まったく、怪しい奴を捕まえたと聞いて来てみれば、とんだ危険人物がいたもんだ」
「俺を知ってるのか?」
「知らん。大人しく捕まったのが不思議なくらいだ」
良く知らぬカディを危険と断じたのは、その持ち物が原因だった。牢屋から少し離れた場所には、カディの持ち物である赤い鞘の日本刀と、黒いマントが置かれている。
「ともかく、SOが来るまで大人しくしていろ。然るべき機関に裁いてもらう」
「……世話になったな」カディが鉄格子に触れながら、そう口にする。
「何を言って」
まるで出ていくかのような物言いに違和感を覚えた看守が、言葉を返す。その瞬間、カディが握っていた鉄格子が曲がり始めた。状況が理解できず、看守は固まってしまう。
純粋な腕力だけで鉄格子を捻じ曲げたカディは、黒のマントを身に纏い、腰に刀を差した。
「お、お前……なんで大人しく捕まってたんだ」
カディと目が合った看守が、即座に目を逸らす。牢から出た猛獣を見て、まともでいられる人間などいない。
「宿を探してたんだ。雨風さえしのげりゃどこでも良かった」
牢屋を宿と同列に扱う男は、看守の理解を越えていた。抵抗せずに捕まったのは、牢屋に泊まるため。
「やっぱり危険じゃないか。武器だけじゃない、とんでもない力も持ってる。シュナイルと同じか、それ以上に……」
カディが近づいてくるのを見て、体を丸める看守。護身用の短い棒で立ち向かう気など起きなかった。
「じゃあな」カディはそれだけ言うと、地下牢を出た。昨日から振り続けている雨を見たカディは、面倒そうに息を吐いた。
「まずはあいつを探……」
不意に腹が鳴る。カディははぐれた相棒を探すのは後回しにし、食事を取ることにした。
「今のは……」
初めて来た町故に土地勘がなく、雨で視界も悪い。それらしい店を見つけられないまましばらく歩いていると、雨音に混じって銃声が聞こえてきた。
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