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第七章 帰還之時 -きかんのとき-
31 玄武さんの報告
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それからも白虎隊護衛役4人に守られながら滝行を続けた。朝の気温は10度に満たず、寒い日は5度以下になる。水温は低く、僕の豊満なぜい肉を通り抜けて骨まで凍えそうだ。そんな僕のワガママボディとは裏腹に、青龍さん朱雀さんは日に日にやつれていく。修行の成果はなかなか出ない。何となく掴めそうな感覚はある。だけどあと一歩、何かが足りない。
「ようやく帰ったか! 遅えじゃねえか!」
中庭から白虎さんの大声が響いてきた。何事かと思い窓から覗くと、ボロボロになった黒装束の男、玄武さんがいた。僕は窓から手を振って声を掛けた。
「お帰りなさい」
「天子様に奏上……後で話す」
「そうだな! 待ってるぜ!」
奥の院へ向かう玄武さんを見送ってから、白虎さんは「おうい!」と手招きした。それから青龍さんと朱雀さんも合流。
「おう! どんなだった!?」
報告を終えて戻った玄武さんに問う。元々存在感がなかったけど、更に消え入りそうな小声で、ぽつりぽつりと語った玄武さんの報告は、概ねこのようなものだった。
玄武隊は、玄武さんを含めた数名、全員で北方の調査に赴いた。原因不明の――今は毛人によるものと判明しているが――北方で起きている異常の原因を探るために出発したのが、およそ二ヶ月半前であった。まずは発端となった中城へ向かい、話を聞いたが、どうも要領を得ない。何やら北に住む人たちと連絡がつかない、と言っているだけで、原因は特定出来なかった。そこで、北方の町へと向かい、道中で毛人を見たのだという。
最初に遭遇したのは一匹の毛人であった。通りの真ん中でくつろいだ様子で、初めはサルかクマか、動物が道端で寝転がっていると思ったそうだ。未知の生物を数日観察していると、それなりに知能がある。別の仲間とコミュニケーションを取ったり、連携して道を封鎖している様子。北方との連絡が取れなくなった原因はこれだと、すぐに判明したが、それだけでは情報が足りない。北の町はどうなっているのか。この生物は何か。人類にとっての脅威になるか。脅威だとすれば、どの程度の脅威なのか。調べなければいけない事は多い。全員一団となって北の町へと急いだ。
北の町にはまだ人が残っていた。毛人が近くにいるので、多くの人は家の中に立て籠もり、外出は出来ない状態だった。数人に接触を図ると、ひとまず蓄えてある食料で急場をしのぎ、妙な獣たちがいなくなるのを待つ方針だという。しかし食料が尽きて外に出る必要もあり、その都度、町の男たちが一人、また一人と消えていったというのだ。どうやら、毛人たちによる人間狩りが行われているようなのだ、と。実際、毛人と戦って傷付いた仲間が、毛人に引き摺られて連れ去られる場面を目撃した者もいる。大変危険な人食いの怪物だ、という事が分かった。
更なる調査のため、玄武さんたちは北を目指した。ここより北はどうなっているのか。手分けして最北部の町の様子を見に行った。玄武さん自身が見たのは、既に滅び廃墟となった町と、付近の森で集団になって生活する毛人。玄武隊の他のメンバーは、予定の待ち合わせの日、一人しか戻って来なかった。その報告も、やはり廃墟となった町があったのみで、生き残りはただの一人もいなかったという。この時点で出発してから一ヶ月以上が経過していた。ひとまず報告のために、その玄武隊の一人を帰らせたが、戻っていないか? との問いに、そんな報告はないとの返答を得ると、「全滅したか……」感情を押し殺し、無表情で玄武さんは呟いた。
その後も、玄武さんは一人で北方の調査を行ったそうだ。戻らない玄武隊がどうなったかも確認が必要だったし、危険な人喰い獣、毛人がどの程度いるのかも調べなければいけなかった。更に一ヶ月以上の時間をかけて、沖縄の北半分を巡り判明した事実。ひとつ。北方に玄武隊含め人間は一人も生き残っていない。ふたつ。毛人は数匹から10匹ほどが群れて一つの集団を形成している。みっつ。それが北の森の中に、分かった範囲だけで10以上存在している。つまり、今の沖縄には、ざっと百匹程度の毛人がいるというのだ。
3匹だけだった最初の毛人は、やはりオスとメスがいたんだ!
何十年何百年の時をかけて、いつの間にか大繁殖していたんだ!
そして人間を喰らいながら、気付かれぬよう南下を続けているんだ!
「何日で首里城まで迫って来るでしょう?」
「分からぬ」
「中城には奴らの食料、人間がいる! それを食い尽くせば、次はここだろうな!」
「何とか助けられない?」
「毛人は白虎隊でも勝負にならないんだよ」
「術法は? 何かない?」
「昔は青龍隊にも殺傷能力の高い術法があったと聞いている。だけどね。必要な術法の継承を優先した結果、今では失われてしまった」
「離魂! 離魂の術は?」
「毛人が術法を使う間、ずっと大人しくしていてくれるなら可能だろうね」
「という事は」
「毛人の脅威に抗し得る術はない」
なんてこった!
「ようやく帰ったか! 遅えじゃねえか!」
中庭から白虎さんの大声が響いてきた。何事かと思い窓から覗くと、ボロボロになった黒装束の男、玄武さんがいた。僕は窓から手を振って声を掛けた。
「お帰りなさい」
「天子様に奏上……後で話す」
「そうだな! 待ってるぜ!」
奥の院へ向かう玄武さんを見送ってから、白虎さんは「おうい!」と手招きした。それから青龍さんと朱雀さんも合流。
「おう! どんなだった!?」
報告を終えて戻った玄武さんに問う。元々存在感がなかったけど、更に消え入りそうな小声で、ぽつりぽつりと語った玄武さんの報告は、概ねこのようなものだった。
玄武隊は、玄武さんを含めた数名、全員で北方の調査に赴いた。原因不明の――今は毛人によるものと判明しているが――北方で起きている異常の原因を探るために出発したのが、およそ二ヶ月半前であった。まずは発端となった中城へ向かい、話を聞いたが、どうも要領を得ない。何やら北に住む人たちと連絡がつかない、と言っているだけで、原因は特定出来なかった。そこで、北方の町へと向かい、道中で毛人を見たのだという。
最初に遭遇したのは一匹の毛人であった。通りの真ん中でくつろいだ様子で、初めはサルかクマか、動物が道端で寝転がっていると思ったそうだ。未知の生物を数日観察していると、それなりに知能がある。別の仲間とコミュニケーションを取ったり、連携して道を封鎖している様子。北方との連絡が取れなくなった原因はこれだと、すぐに判明したが、それだけでは情報が足りない。北の町はどうなっているのか。この生物は何か。人類にとっての脅威になるか。脅威だとすれば、どの程度の脅威なのか。調べなければいけない事は多い。全員一団となって北の町へと急いだ。
北の町にはまだ人が残っていた。毛人が近くにいるので、多くの人は家の中に立て籠もり、外出は出来ない状態だった。数人に接触を図ると、ひとまず蓄えてある食料で急場をしのぎ、妙な獣たちがいなくなるのを待つ方針だという。しかし食料が尽きて外に出る必要もあり、その都度、町の男たちが一人、また一人と消えていったというのだ。どうやら、毛人たちによる人間狩りが行われているようなのだ、と。実際、毛人と戦って傷付いた仲間が、毛人に引き摺られて連れ去られる場面を目撃した者もいる。大変危険な人食いの怪物だ、という事が分かった。
更なる調査のため、玄武さんたちは北を目指した。ここより北はどうなっているのか。手分けして最北部の町の様子を見に行った。玄武さん自身が見たのは、既に滅び廃墟となった町と、付近の森で集団になって生活する毛人。玄武隊の他のメンバーは、予定の待ち合わせの日、一人しか戻って来なかった。その報告も、やはり廃墟となった町があったのみで、生き残りはただの一人もいなかったという。この時点で出発してから一ヶ月以上が経過していた。ひとまず報告のために、その玄武隊の一人を帰らせたが、戻っていないか? との問いに、そんな報告はないとの返答を得ると、「全滅したか……」感情を押し殺し、無表情で玄武さんは呟いた。
その後も、玄武さんは一人で北方の調査を行ったそうだ。戻らない玄武隊がどうなったかも確認が必要だったし、危険な人喰い獣、毛人がどの程度いるのかも調べなければいけなかった。更に一ヶ月以上の時間をかけて、沖縄の北半分を巡り判明した事実。ひとつ。北方に玄武隊含め人間は一人も生き残っていない。ふたつ。毛人は数匹から10匹ほどが群れて一つの集団を形成している。みっつ。それが北の森の中に、分かった範囲だけで10以上存在している。つまり、今の沖縄には、ざっと百匹程度の毛人がいるというのだ。
3匹だけだった最初の毛人は、やはりオスとメスがいたんだ!
何十年何百年の時をかけて、いつの間にか大繁殖していたんだ!
そして人間を喰らいながら、気付かれぬよう南下を続けているんだ!
「何日で首里城まで迫って来るでしょう?」
「分からぬ」
「中城には奴らの食料、人間がいる! それを食い尽くせば、次はここだろうな!」
「何とか助けられない?」
「毛人は白虎隊でも勝負にならないんだよ」
「術法は? 何かない?」
「昔は青龍隊にも殺傷能力の高い術法があったと聞いている。だけどね。必要な術法の継承を優先した結果、今では失われてしまった」
「離魂! 離魂の術は?」
「毛人が術法を使う間、ずっと大人しくしていてくれるなら可能だろうね」
「という事は」
「毛人の脅威に抗し得る術はない」
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